生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
334 / 722

第334話 世界樹と管理者

しおりを挟む
「バカな!? 何なんだこのエーテルの量は!!」

 玉座の間を抜け長い階段を降りていくと、俺達の前に姿を現したのはダンジョンハート。それはダンジョンの核とも呼べる物だ。
 フードルはそれを一目見ると、驚きの声を上げ駆け寄っていく。
 その中で怪しく光る液体は、フードルに飲ませた物と同じ物。

「これがマナポーションの原料なの? 周りに置いてある容器は何?」

「余剰分が詰まってる。そこから好きなだけ飲んでいいぞ――と言いたいところだが、アニタは飲むなよ? 人間が飲んだら魔力中毒で死ぬほど濃い物だ」

「へぇ……。これだけあれば、ひと財産築けるんじゃないの? ギルドが喜んで買うでしょ?」

 考えることは同じかと、苦笑する。

「まぁそう考えるだろうが、俺はこれを商売の道具にするつもりはない。ギルドも既にこのダンジョンは枯れ果てていると思っているはずなんだ。俺はそれを貫き通す。ここの秘密を知っているのは真の仲間だと認めた者だけだ」

「真の仲間……。私もその中に入ってるってこと?」

「もちろんだ」

「ふぅん……」

 アニタの表情は判断に困る微妙なもの。嬉しそうにも見えるのだが、どこか怪しげな笑みを浮かべていた。

「じゃぁ、私もお父さんと一緒にここを守っててあげようか?」

 俺にとっては悪い提案ではないが、アニタには人間らしい生活を送ってもらいたい――というフードルの気持ちは裏切れない。

「いらん。防衛戦力は十分だ」

「防衛って……。ゴブリンだけで守り切れると思ってるの?」

「デュラハンもいるから安心しろ」

「え? デュラハン!? あの伝説の!?」

 デュラハンの伝説。恐らくそれは、武王と呼ばれていた者のことだろう。だが、俺のは違う。

「いや、そっちじゃないな。普通のやつだ」

「……どゆこと? 普通のデュラハンって何? 普通じゃないデュラハンもいるの?」

 微妙に話が噛み合っていない気がする。間違いを正すのも面倒だ。直接見せた方が早い。

「ああ。地下3階に封印された扉があるんだが、実はそっちの方が正規の入口なんだ。今はそこの門番を任せてる。よければ……」

「九条殿! 教えてくれ!」

 俺の話を遮ったのはフードルだ。
 その様子は、まるでありえない物でも見ているような表情で焦燥感を拭えない。
 一瞬たりとも視線を動かさず、ジッとダンジョンハートの一点を睨みつけていた。

「なぜ、エーテルが減らないんじゃ!?」

 当たり前の疑問に首を傾げる。

「使ってないからだが……」

「そうじゃない! 使わずとも減るだろう?」

「維持費……ということですか?」

「違う! 世界樹の影響は受けないのかと聞いているんだ!」

「世界樹の影響でエーテルが減るんですか?」

「それも知らぬのか!? いや、知らないからこそ疑問に思わぬのか……」

 そしてフードルはその原因を教えてくれた。
 握り締めた拳からは、根深き怨嗟を感じるほどだ。

「世界樹は、神がワシ等魔族を衰退させんが為に人間共に与えた物。それは地下のエーテルを吸い上げ、地上へと放出する。もちろんその影響は龍脈にもおよび、ダンジョンはエーテルを維持できなくなったのじゃ。……だが、なぜかこのダンジョンはその影響を受けてはいないように見える……」

 俺の視線が、自然と108番の方に向くのは当然のこと。
 そんな108番の表情は神妙な面持ち。俺とチラリと目が合うと、諦めたかのように肩を落とした。

「世界樹の影響は絶大で、どのダンジョンのエーテルも枯渇寸前でした。その対応策を施されているのがこのダンジョンです。故に世界樹の影響を受けない……いや、厳密には受けているのですが、それを唯一防ぐ事が可能なのです」

「108番の話によると、どうやらこのダンジョンだけが世界樹の影響を防ぐことが出来るらしい」

「それは他のダンジョンには出来ぬことなのか!? もし転用が可能ならば、他のダンジョンも……」

「残念ながら出来ません。そもそもダンジョンを作り出すことが魔王様以外には出来ぬこと。仮にここと同じダンジョンがあったとしても、世界樹の影響からダンジョンを保護するためには、エーテルの流量を調節するバルブの役割を担う者が必要なのです。それは24時間365日、食事も睡眠も必要とせず、絶えずそれを見守り続けなければいけない生贄……」

「それって……」

「はい。それが管理者であり、私のお役目です……」

 その悲しそうな笑顔は、俺の言葉を詰まらせるには十分だった。

「九条殿。管理者はなんと?」

「他のダンジョンは諦めろフードル」

 フードルはそれ以上聞いては来なかった。恐らくは俺の表情から察してくれたのだろう。
 しかし、滑稽である。魔族を衰退させる為の世界樹が、エーテルを吸い上げているのだ。それを知ってか知らずか、人間達は血眼になってエーテルを探している。
 世界樹の枝が魔力を帯びているのも、周囲の魔素が濃いと言われるのも納得だ。

「ぎゃぁぁぁぁ!!」

 突然、悲鳴を上げたのはアニタ。
 その視線の先にいたのはノルディックの成れの果て。伝説じゃない普通のデュラハンが立っていた。
 漆黒の鎧に身を包む首なしの騎士。切り落とされた首は左手に大事そうに抱えられ、右手には両手でようやく振れるであろう大剣を易々と担いでいた。
 それが突然現れれば驚くのも無理はないが、アニタのおかげで辛気臭い雰囲気が何処かへ吹き飛んでしまった。

「来たな。これが門番のノルディック君だ」

「急に出てこないでよ! ビックリした……って、今なんて言ったの!?」

「ノルディックだ。俺が殺してデュラハン化させた。1回ドルトンで見せただろ?」

「あぁ、あれってデュラハンを作る為だったのね……。アンタ……結構エグイことするわね……」

「そうか? 当然の報いだ。俺がこうしなきゃ殺されてたのはミアだったんだよ。ただ殺したんじゃ勿体ない。だから再利用しただけだ。エコロジーだろ?」

「死体はどうしたのよ。さすがにプラチナ相手じゃ、プレートだけ提出してもギルドは納得しないでしょ?」

「死体は適当な骨格に肉を付けて、それっぽく作った偽物を提出した」

「アンタ、よくそんな危ない橋渡れるわね……。教会にバレたらとか考えなかったの?」

「教会? ヴィルザール教の?」

「そうよ。古い死霊術は禁止されてるでしょ? 程度にもよるだろうけど、アンタの場合そのラインは余裕で超えてると思うわよ?」

「それなんだが、使っちゃいけない死霊術がリスト化されたりしてんのか? 基準がわからないんだが……」

「さぁ? 教会の気分次第じゃない?」

「そんな曖昧な基準で裁かれるのかよ……。死霊術師ネクロマンサーには世知辛い世の中だな」

 わざとらしく肩を竦め、呆れて見せた俺に、アニタはほんの少しだけ眉をひそめ声を荒げた。

「ヴィルザール神なんてクソ喰らえよ……」

「その気持ちはわからなくもないが、あまり汚い言葉を使うのはどうかと思うぞ?」

「ヴィルザール神様は、おクソお召し上がりあそばせ?」

「そういう事じゃなくて……。いや……もういい……」

 俺は額に手を当て、諦めの境地とばかりに溜息をついた。不覚にもクスリとしてしまったのは内緒である。
 アニタだって幼い頃は神を信じていたはず。しかし、そんなアニタに救いの手を差し伸べたのは、神でも教会でもない、魔族であるフードルだ。
 それは、百年の恋も冷めてしまうほどの衝撃であっただろう。今まで信じていたものに裏切られたのだ。
 人は何かに依存しなければ生きてはいけない。
 不安、恐怖、苦悩、困難。無条件でその全てを受け入れてくれるのが宗教だ。
 だが、それだけ。拠り所にはなってくれるが、助けてはくれない。
 しかし、この世界の神は現存しているから厄介だ。しかも、勇者や世界樹を授けたという伝承まで残っているなら、いつかは助けてくれるだろうと信じて疑わない者も多い。
 他力本願も甚だしいが、だからこそ教会の威光は絶大であり、その地位も盤石なのであろう。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ
ファンタジー
小説家になろうで先行投稿してます。 異世界から飛ばされてきた美しいエルフのセレナ=ミッフィール。彼女がその先で出会った人物は、石の力を見分けることが出来る宝石職人。 宝石職人でありながら法具店の店主の役職に就いている彼の力を借りて、一緒に故郷へ帰還できた彼女は彼と一緒に自分の店を思いつく。 セレナや冒険者である客達に振り回されながらも、その力を大いに発揮して宝石職人として活躍していく物語。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

処理中です...