生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第375話 二度目の敗北

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 緊急時と判断した騎士団長達がニールセン公の元へと集まる。今はいいが、次は自分達かもしれないと思うと気が気ではない。
 ドラゴンを狩る専門のチームであるならまだしも、人間相手の戦争に集まった兵達に対抗策なぞあるわけがない。とは言え、それは相手も同じ事だ。

「ニールセン公! あのドラゴンは……」

「恐らくは、そうなのだろう……」

「これが占いの結果であるとするなら、既に占いの域を超え予言なのでは?」

「確かにそうかもしれん。だが、油断はするな。まだそうと決まった訳ではない。兎に角目立った動きは控えるようにと全軍に通達! 決してこちらから手を出そうなどとは思うな! 特に冒険者達には周知させろ!」

「「はっ!」」

 ドラゴン族と人族は、魔族とは違い完全な敵対関係ではない。
 生息域が被る事はなく個体数は少ない為、他種族とぶつかり合うことは稀だが、気難しくプライドが高いとされていて、人に慣れることはなく基本的には干渉しない方が良いとされる種族。
 とは言え、その数と強さ故に素材は高額で取引されていて、一攫千金を狙う者達も一定数存在するのが現状だ。

「伝令ッ! でんれぇぇい!!」

 騎士団長達が踵を返そうとしたその時。大声を上げ脱兎の如く騎馬を走らせ向かってくる1人の騎兵。
 その背中に背負っているのはシルトフリューゲル軍の伝令旗。そこには白い布が雑に巻き付けられていた。

「止まれぇぇッ!」

 すぐに騎士団長達に囲まれる伝令の男。武器は所持しておらず、男が騎馬から飛び降りると地面に片膝を突き首を垂れる。

「総大将にお目通りを!」

 それが通るわけがない。……ないのだが、今が緊急時なのは明らか。その内容があのドラゴンに関する事なのだろうと予測できたからこそ、ニールセン公は自ら前へと名乗り出た。

「我が名はブライン・ディ・ニールセン。貴様の発言を許可する」

「ニールセン公!?」

 騎士団長達がそれを止めようとする中、ニールセン公は敵軍の伝令である男を馬上から強い視線で見下ろした。

「ありがたき幸せに御座います! 我が軍は現在、謎のドラゴンの介入により被害甚大! よって会戦を一時停戦とし、共にドラゴンの討滅を……」

「よかろう」

「で……では!」

 喜びのあまり顔を上げた伝令の男。しかし、それはすぐに焦りの色を滲ませる結果に。

「停戦は受け入れよう。無益な争いを避けるのには賛成だ。……しかし、ドラゴンの討伐は受け入れられない」

「お待ちくださいニールセン公! 何故です!? このままではそちらにも被害が及ぶやも……」

「確かにそうかもしれんが、案ずるな。その時はその時だ。我々だけでなんとかしてみせよう」

「そんな悠長なことを言っている場合ではないでしょう!? 意地など張らずにお互いの力を合わせれば、必ずや討伐を果たし……」

「貴様! 誰にそのような口を利いているッ!?」

 騎士団長の1人が腰の直剣に手を掛けるも、それを諫めたのはニールセン公だ。

「よい」

 礼節を重んじるニールセン公らしい振る舞いではあるが、その目元がピクピクと痙攣しているのは沸き上がる怒りを抑えているからに他ならない。
 自ら戦争を仕掛けておいて、今更助けてくれとは虫の良すぎる話。それにあの漆黒のドラゴンが九条の言う恐怖なのだとしたら、討伐なぞもっての外である。

「違う。我々は北の大地、グランスロード王国を刺激したくないのだ」

 スタッグ王国の最北領ノースウェッジ。更にその北に位置する国がグランスロード王国だ。
 そこは獣人の王が治める国。ヴィルザール教とは別に魔獣の頂点たるドラゴンを神聖視している者達も多く、その内情は複雑である。
 冒険者がドラゴン討伐をするならまだしも、国の軍事介入が認められれば、外交問題に発展しかねない。
 ドラゴンは群れない種族であるとされてはいるが、報復の可能性がないとも限らないのだ。ならば手を引いた方が利口なのは明白。
 それは一国家として討伐を断る理由としては十分であり、ニールセン公の咄嗟の機転には周りの騎士団長達も内心舌を巻いていた。

「……ですが……」

「どれだけ議論しようとも無駄だ。お引き取り願おう」

 跪きながらも、後ろを確認する伝令の男。そこには空を飛び回り、シルトフリューゲル軍を蹂躙するドラゴンの姿。
 天文衛星落下アストローギアサテライトフォールのおかげで視界を遮る障害物は何もなく、3つに分かれていた陣営の全てで炎が上がっているのが良く見える。
 それを見れば、男の顔も真っ青になること請け合いだ。今からそこに戻らなければならないのだから。

「対話は終わりだ! それともこの場で首を刎ねられたいかッ!!」

「くッ……」

 今回は流石のニールセン公も止めなかった。
 騎士団長が抜いた直剣の切っ先が伝令の男へ向けられると、悔しそうな表情を浮かべながらも急ぎ騎乗し自軍へと走り去っていった。

 それからすぐにシルトフリューゲル軍は撤退を余儀なくされ、奇しくもニールセン公率いるアップグルント騎士団は、全く被害を出すことなく再建中のフェルス砦防衛に成功したのである。
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