生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第402話 オリエンテーション

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「「九条様。御生誕おめでとうございますッ!」」

 次の日。ギルドの応接室に呼ばれ、その扉を開けると盛大な拍手で迎え入れられる俺。
 その者達がグランスロード王国の迎えであろうことはすぐにわかった。
 所謂獣人と呼ばれる種族の者達。人間のようでありながらも、耳や尾といった獣であった時の名残を残しているのがその特徴だ。

「おい九条。誕生日なら教えといてくれよ」

 そう言い放ったのは、バイス。何故ここにいるのかという疑問は置いておくとして、何処からツッコんでいいものやら……。
 まさかのサプライズに、どうしていいのかわからず棒立ちしている俺を見て、ミアは隣で爆笑中。
 恐らく彼等の勘違いは昨夜の事が原因。ひとまずは非礼を詫びておこう。

「昨日は不躾な対応をしてしまい申し訳ない……」

「いえいえ! こちらこそ突然の御訪問、申し訳ございませんでした。まさか誕生日であったとは露知らず……。御無礼をお許しください」

 そう言って礼儀正しく会釈して見せたのは、獣人の男性。
 スーツの似合う細身の体。オールバックの白髪から覗く尖った耳は、犬のようでもあり狼のようでもある。

「いや、謝らなければならないのはこちらの方。実は俺ではなく、ミアの誕生日だったんですよ」

 自然とミアに集まる視線。当の本人は、なんとか笑いを堪えようとカガリに顔を埋めているが、暫く収まりそうにない。

「ま……まことに失礼しました。九条様!」

 一斉に頭を下げる特使の面々に、溜息をつきながらも肩を竦めたのはバイスだ。

「どうりで噛み合わねぇと思ったよ……。この後、下の食堂で懇親を兼ねての食事会を予定してるんだが、給仕との打ち合わせで齟齬があってよ。やたら甘味を推してくるから、九条がそんなに甘党だったのかと勘繰っちまった」

「あぁ……なるほど」

 そのやり取りを想像し、不謹慎ながらも少々笑ってしまった。
 レベッカはミアの誕生日を知っているのだろう。昨日の今日で誕生日のお祝いにと注文を受ければ、ミアのものであると考えるのも仕方ない。

「では九条様。懇親会は、このままミア様の生誕を祝う会に変更ということで……」

 少々腰を引きながらも、俺の顔色を窺うような素振りを見せるスーツの男。
 これから仕事を頼むのだから、機嫌を損ねたくないと言う気持ちもわかるが、それは最適解とも言える選択だ。

「ええ。是非お願いします」

 あからさまにホッとするスーツの男に、目を丸くするミア。

「おにーちゃん!? そんな……」

 その焦り具合から、断るだろうことは一目瞭然。そんなミアの口を物理的に塞ぐと、片目を閉じて笑って見せる。

「いいじゃないか。これも仕事上の付き合いだ」

 少々困惑気味だが、仕事と言われればぐうの音も出ないのだろう。
 ミアもまんざらではなさそうだ。

「では、話もまとまったところで本題へと入りましょう。九条様、ミア様もどうぞこちらにお掛けください」

 不自然なほどトントン拍子に進んでいく話の流れは、バイスの入れ知恵に違いない。
 将を射んとする者はまず馬を射よ――とは、良く言ったものである。
 ミアを落とせば俺も落ちることは道理。この者達とは、美味い酒が飲めそうである。


 グランスロード王国からのお迎えは、全部で5人。スーツの男と2名の騎士。残りは下で懇親会の準備中といったところか。

「今回、九条様の従者を務めさせていただきます。氷狼族のローゼスと申します。わからぬことがあればなんでもお聞きください」

 まずは自己紹介からと深く頭を下げたスーツの男ことローゼス。綺麗に整えられた口髭は如何にも出来る執事といった印象を受ける。
 プレートの鎧を着た騎士達は護衛。こちらもローゼスと同じ氷狼族のようではあるが、流石は騎士と言うべきか、体格は段違いだ。
 目つきは鋭く、荒ぶる髪型はワイルド。ただ礼儀正しく立っているだけなのに、野性味を感じさせるほどの気迫は何故か俺へと向けられていた。
 それも相まって嫌悪感すら抱いてしまうのは、彼等の着ている白い鎧がある人物を思い起こさせたから。

「獣人種は強い奴に惹かれるんだよ。俺達人間より優れた感覚を持ってるからな。九条に興味があるんだろ?」

 顔には出していないつもりだったのだが、バイスは俺の僅かな変化を感じ取ったのだろう。

「あぁ、そういう……」

「手合わせでもしてみたらどうだ? 喜んで受けてくれると思うぞ?」

 それを聞いて、2人の騎士からはあからさまな期待の目を向けられる。

「結構です」

 途端にがっかりする2人。直接は見ていないが、雰囲気でわかるこの感じ……。
 血気盛んと言うべきか、血の気が多いのは獣人種の性なのだろう。
 ひとまずは、ヘイトを買っている訳ではないと知れただけで十分である。

「申し訳ございません九条様。私共の所為で気を悪くしたのであれば、その都度言っていただければ……」

「いえ。大丈夫です。ただ、彼等の鎧が少し気になっただけなので……」

 それにピンときたのか、口髭を撫でながらも得意気に話すローゼス。

「なるほど。確かにこの辺りで塗装されている鎧は珍しいかもしれませんね。我々の国土はその殆どが雪に覆われている為、わざと白く塗装しているのです」

「あぁ、カモフラージュ的な……」

「御明察で御座います」

 ノルディックを意識しているのかと勘繰ってしまったが、どうやらそうではないらしい。
 一面の雪景色。それに紛れる為の迷彩塗装であるなら納得である。

 ――――――――――

 一通りの誤解は解け、円満な雰囲気で続けられた話し合いだが、それはどちらかというと俺への最終確認と言った方が近かった。
 本当に協力してくれるのか――。俺の噂を聞いていれば、半信半疑も仕方ない。
 バイスは俺が土壇場で断ったりしないようにとネストに言われ、見張りに来たのだろう。
 信用がないのは自業自得。身から出た錆なのは十分理解しているのでそれくらいで機嫌を損ねたりはしないが、彼等は彼等で遠征の準備があるはずなのに、こんな所で油を売っていていいのだろうか?

「今回の依頼については全面的に協力させていただきます。それよりもお聞きしたいことがあるのですが、協力者としてケシュアさんを同行させると言うのは本当ですか?」

「はい。既に本人からも了承を得ています。王都スタッグにて合流の手筈となっていますが……」

「ケシュアさんは、俺が同行することを知っているのですか?」

「いえ。お知らせしておりません。ケシュア様には、他にも協力者を募る可能性があるとだけ……。何分不確定でしたので……」

「そうですか……」

 ならば、逃げられる心配はなさそうである。
 無意識に上がってしまう口角に、不安の色が滲み出るローゼス。

「ケシュア様とは面識があるとお伺いしていたのですが、九条様のお気に召さなければ……」

「いえいえ。大丈夫ですよ。ただ、俺が同行することはギリギリまで内緒にしておいてください。なにせ久しぶりに会うもんでね。ちょっとしたサプライスですよ」

「はぁ……わかりました……」

 笑顔でそう答えると、ローゼスから返って来たのは空返事。
 その真意が読めず、迷いながらも機嫌を損ねない為に頷かざるを得なかったといった印象だ。
 俺的には邪魔さえされなければそれで十分。ケシュアが約束を反故にしたとは言え、何も取って食おうって訳じゃない。
 今回の依頼達成にはケシュアの協力も必要だ。魔獣使いである俺の意見より、古代学に精通しているケシュアの知識の方が信用度は高いはず。

「それでは確認事項も終わりましたので、懇親……」

「失礼。最後に1つだけいいですか?」

 立ち上がろうとした皆を引き留めると、ローゼスはゆっくりとソファに座り直す。

「ええ、構いません。何なりと」

「では、ケシュアさんに関して、知っている事を全て教えていただけませんか?」

「……それはどういったお考えで……? 私より九条様の方がお詳しいかと存じますが……」

「人は成長しますからね。俺の知らないところでケシュアが名を上げているかも知れない」

 目を細めるローゼス。その真意が何処にあるのかを探っているのだろう。
 言葉通り捉えてくれればいいのだが、理由としては少々弱い。
 逆に全てを知りつつも、そのとぼけた表情を作れるのなら、相当なタヌキである。

「はぁ……。知っている事は少ないですが、ケシュア様はエルフ種の女性でゴールドプレートの冒険者であること……。そして森の賢者と呼ばれるほどの樹術師ドルイドであり、古代学にお詳しい――と……。後は、九条様と共に金の鬣を討ったという実績くらいでしょうか……」

「それだけですか?」

「浅薄で申し訳ありませんが、それ以上の事は何も……」

「いえいえ。それで十分です。お時間を取らせて申し訳ない。後は下でゆっくりと食事でもしながらにしましょう」

 思った通りの答えに満面の笑みを浮かべると、起立を促す。
 皆ほっとした様子で応接室を出て行く中、俺とカガリは最後まで残っていた。

「ローゼスとか言う男、嘘はついていません。信用してよいかと……」

「そうか……。ありがとうカガリ」

 俺が憂慮していたのは、ローゼスの身辺。ネクロガルドが送り込んできた密偵である可能性だ。
 そもそもネクロガルドの関係者であればケシュアと俺との邂逅は避けるはずだが、それが不可避であるならば、最悪仲介役を派遣するくらいはしてきてもおかしくはない。
 フェルヴェフルールの二の舞いは御免である。故にケシュアとの関係を聴取したのだが、どうやら杞憂だったらしい。
 これで、ひとまずは何の心配もなくミアの誕生日を祝えると、俺は胸を撫でおろした。
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