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第417話 異種族故の疎外感
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塔までの道案内は、ローゼスと3台の犬ぞりが先行。その後ろから深く積もった雪の中を追いかけるのは、巨大な馬車。
「流石は九条の従魔ね。凄いを通り越して最早キモチワルイくらいだわ……」
温かいお茶を溢さないようバランスを取りながらも、ほっと一息ついたのはケシュア。
『天空の階段』と呼ばれる塔までの道のりは、豪雪により馬車では到達不可能とのことだったのだが、カイエンとワダツミのコンビにはそんなもの関係ないようだ。
速さが必要な平地はワダツミが。パワーが必要な場所はカイエンが馬車を引くという連係プレイで進み続け、雪を掻き分け新たな轍を作りながらも怒涛の勢いで邁進していくその様子は、まさにラッセル車。
それ故車内の揺れは凄まじいが、彼等のおかげで快適に過ごせていると思うと、感謝以外に贈る言葉が見当たらない。
ワダツミ曰く運動不足には丁度いいらしいが、ボーナスを視野に褒美の検討もせねばなるまい。
「それで、おにーちゃんはザジさんから封印の方法を聞けたの?」
「いや……。残念ながら聞けなかった」
というより、その段階まで持っていけなかったのだ。
俺とザジ。2人きりの状況を作り出すだけで良かったのだが、そもそもそれが難しかった。
当たり前だが、そこは他国の城にある地下牢だ。自由行動が許される訳もなく、常にローゼスが付いて回る。
ケシュアも同様に金魚のフンと化しているので、どう頑張っても2人きりになるのは絶望的。
しかも、その地下牢にはなんとメリルまで捕らえられていたのである。
相手にしたくはなかったのだが、決闘しろと言われるのは最早デフォルトで、ケシュアには裏切者だと罵っていた。
恐らくは俺と一緒にいるのを見て勘違いをしているのだろうが、別に俺がケシュアの誤解を解いてやる義理もないので、牢から出れないのをいい事にメリルを煽り散らしておいた。
ひとまずはストレスが発散出来たので、良しとしよう。
「それよりケシュアは、エドワードにちゃんと謝罪したのか?」
「黒き厄災の鱗を暖炉に投げ入れた件でしょ? ちゃんとしたわよ。アンタにしろって言われたし……」
「不満そうだな」
「当たり前でしょ? 私は九条を守ってあげたのよ? あれが全くの偽物で、黒き厄災と交渉できなかったらどうするつもりだったの? 確かにいきなりだったけど、どちらにしろ真偽の確認は必須だった。知らない所でこっそり試して割れちゃいました――じゃシャレにならないでしょ?」
黒き厄災の鱗が入った箱は、網棚の上。話の流れから借りざるを得なかったが、使うことのない置物だ。
確かにケシュアの言う事も一理ある。俺は黒き厄災が襲ってこない事を知っているので、そこまで気が回っていなかった。
見知らぬ場所で破損させれば、俺達が責任を問われる可能性もある。ケシュアのやり方は褒められたものではないが、エドワードの前での確認は必須だった。
俺を守るその真意は、結果的にネクロガルドの為――なのだろうが、ひとまずは感謝しておくべきか……。
「それに、エドワードは全てを知らされていないんじゃないかしら……」
「それはもしかして、エドワードに何か言おうとして止めたのと関係があるのか?」
「あら、気付いていた? 目敏いのね。まぁ隠すつもりはなかったんだけど、エドワードが可哀想になってね」
「可哀想? ……あぁ、そう言う事か……」
ケシュアは知っているのだろう。獣人が黒き竜を崇めていた理由を。
ケシュアが古代学に精通しているなら、別段おかしなことではない。……だが、エドワードはそれを知らなかった。教えてもらっていないのだろう。
獣人全てが知っている訳ではないのだろうが、王家に近しい者であれば知っていてもおかしくはない知識。
「私達の調査に関係あるかは置いておくとしても、依頼主のエドワードがそれを知らないのはおかしいでしょ? そんな話しなくても、黒き厄災の鱗があれば簡単だとでも思っているのかしら」
「いや、それはないな。この鱗で黒き厄災とコミュニケーションが取れるのなら、別に俺達が調査に赴く必要はない。より国の事情を知っている者に任せた方が、交渉には向いている」
「あっ……。もしかして、ローゼスが交渉役だったり?」
ケシュアが声をひそめてしまう理由もわかるが、エドワードがそれを俺達に伝えない理由がわからない。
「それならカガリの前でローゼスに聞いてみるだけだが、恐らくはザジの言っていた事のほうが正しいんだろう……」
地下牢でザジ相手に質疑応答はしていた。どうにか2人きりになれる状況を作りだそうと何気ない会話を続けていただけだが、そのおかげでこの国の内情が知れたと言ってもいいだろう。
ザジ曰く、エドワードを歓迎していない勢力も一定数はいるらしい。勿論ザジの種族である土竜鼠種は、その筆頭。
それ自体は仕方のないことだろう。獣人の王族に仲間入りを果たした初めての人族ともなれば、表向きはどうあれ内心警戒している者もいるはずだ。
その評価をひっくり返せるのかはエドワードの腕次第といったところだが、俺達が口を出す問題ではないとその時は気にも留めてはいなかった。
そんな状況とケシュアの話を照らし合わせれば、見えなかったものも見えてくる。
黒き厄災に関する調査。そんなもの誰もやりたがらないだろう。責任を押し付け合い、結果エドワードが貧乏くじを引いたのではないだろうか?
王家に伝わる黒き厄災の鱗を預けるからどうにかしろ――と言われれば、エドワードの立場では断りにくいはず。
再封印に成功すればそれでよし。失敗すれば、エドワードを糾弾すればいいだけだ。
必要な情報は与えられず、一方的に任された大仕事。国内に信頼できる味方はおらず、断腸の思いでリリーを頼った……。
まだ憶測の域を出ないが、こう考えれば辻褄は合う。
「ケシュアは、この鱗のルーツは知ってるんだろ?」
「もちろん。……知りたいなら教えましょうか?」
「いいのか?」
「構わないわ。だって九条の頼みだもの」
取ってつけたような雑なウィンクを披露するケシュアに辟易としながらも、ひとまずは感情を押し殺しケシュアの話に耳を傾ける。
「いい? 大昔に獣人達が世話していたドラゴンの卵が孵化して、黒き竜が産まれたの。それを成熟するまで育てた恩返しとして貰ったのが、あの鱗なわけ」
「ちょっと待て! ざっくりしすぎだ。その卵の中身が黒き厄災ってことか? それは何処から手に入れた!?」
「ドラゴンの卵は親のドラゴンから託された物よ。それが黒き厄災なのかはわからない。黒き竜としか伝わってないからね」
「何故、ドラゴンの親は卵を獣人に託したんだ?」
「いやいや、九条は何処まで知りたいのよ……。獣人に卵を託した理由を話したら終わり? それとも今度は、その経緯まで話さなくちゃいけないの?」
舌を出し顔を歪めたケシュアの反応は、隠していたいというよりも面倒臭いといった雰囲気。
「どうせだから、全部教えてくれよ。減るもんじゃないし……。ミアも聞きたいよな?」
「うん! 聞きたい!」
笑顔で頷くミアの力強さに、少々引き気味のケシュア。
別にミアをダシに使おうとしたわけじゃない。
エルザの昔話に始まり、オルクスの海賊団、ゲオルグの黒翼騎士団と、自分の知らない話には関心度が高いらしく、その兆候が表れるとミアはソワソワと落ち着かない様子を見せるのだ。
カガリに抱き着いていたのをやめ、むくっと起き上がり、ケシュアに期待の眼差しを向けている。
好奇心か知識欲か……。勿論、馬車の旅が暇すぎるという単純な理由も含んではいるのだろう。
「別に隠してる訳じゃないんだろ?」
「まぁ、そうだけど、あまり広めてほしくはないって言うか――。長くなるわよ?」
「構わん。到着までまだ時間はある」
ホントに話すの? と最終確認のような視線を俺に向け、それに無言で頷いて見せると、ケシュアは諦めたかのように大きな溜息をついた。
「はぁ、しょうがないか。これも九条をネクロガルドに入れる為だと思えばね!」
なんというか、露骨すぎるにもほどがある。
「わかってはいるが、せめて口には出すんじゃねぇよ……」
「流石は九条の従魔ね。凄いを通り越して最早キモチワルイくらいだわ……」
温かいお茶を溢さないようバランスを取りながらも、ほっと一息ついたのはケシュア。
『天空の階段』と呼ばれる塔までの道のりは、豪雪により馬車では到達不可能とのことだったのだが、カイエンとワダツミのコンビにはそんなもの関係ないようだ。
速さが必要な平地はワダツミが。パワーが必要な場所はカイエンが馬車を引くという連係プレイで進み続け、雪を掻き分け新たな轍を作りながらも怒涛の勢いで邁進していくその様子は、まさにラッセル車。
それ故車内の揺れは凄まじいが、彼等のおかげで快適に過ごせていると思うと、感謝以外に贈る言葉が見当たらない。
ワダツミ曰く運動不足には丁度いいらしいが、ボーナスを視野に褒美の検討もせねばなるまい。
「それで、おにーちゃんはザジさんから封印の方法を聞けたの?」
「いや……。残念ながら聞けなかった」
というより、その段階まで持っていけなかったのだ。
俺とザジ。2人きりの状況を作り出すだけで良かったのだが、そもそもそれが難しかった。
当たり前だが、そこは他国の城にある地下牢だ。自由行動が許される訳もなく、常にローゼスが付いて回る。
ケシュアも同様に金魚のフンと化しているので、どう頑張っても2人きりになるのは絶望的。
しかも、その地下牢にはなんとメリルまで捕らえられていたのである。
相手にしたくはなかったのだが、決闘しろと言われるのは最早デフォルトで、ケシュアには裏切者だと罵っていた。
恐らくは俺と一緒にいるのを見て勘違いをしているのだろうが、別に俺がケシュアの誤解を解いてやる義理もないので、牢から出れないのをいい事にメリルを煽り散らしておいた。
ひとまずはストレスが発散出来たので、良しとしよう。
「それよりケシュアは、エドワードにちゃんと謝罪したのか?」
「黒き厄災の鱗を暖炉に投げ入れた件でしょ? ちゃんとしたわよ。アンタにしろって言われたし……」
「不満そうだな」
「当たり前でしょ? 私は九条を守ってあげたのよ? あれが全くの偽物で、黒き厄災と交渉できなかったらどうするつもりだったの? 確かにいきなりだったけど、どちらにしろ真偽の確認は必須だった。知らない所でこっそり試して割れちゃいました――じゃシャレにならないでしょ?」
黒き厄災の鱗が入った箱は、網棚の上。話の流れから借りざるを得なかったが、使うことのない置物だ。
確かにケシュアの言う事も一理ある。俺は黒き厄災が襲ってこない事を知っているので、そこまで気が回っていなかった。
見知らぬ場所で破損させれば、俺達が責任を問われる可能性もある。ケシュアのやり方は褒められたものではないが、エドワードの前での確認は必須だった。
俺を守るその真意は、結果的にネクロガルドの為――なのだろうが、ひとまずは感謝しておくべきか……。
「それに、エドワードは全てを知らされていないんじゃないかしら……」
「それはもしかして、エドワードに何か言おうとして止めたのと関係があるのか?」
「あら、気付いていた? 目敏いのね。まぁ隠すつもりはなかったんだけど、エドワードが可哀想になってね」
「可哀想? ……あぁ、そう言う事か……」
ケシュアは知っているのだろう。獣人が黒き竜を崇めていた理由を。
ケシュアが古代学に精通しているなら、別段おかしなことではない。……だが、エドワードはそれを知らなかった。教えてもらっていないのだろう。
獣人全てが知っている訳ではないのだろうが、王家に近しい者であれば知っていてもおかしくはない知識。
「私達の調査に関係あるかは置いておくとしても、依頼主のエドワードがそれを知らないのはおかしいでしょ? そんな話しなくても、黒き厄災の鱗があれば簡単だとでも思っているのかしら」
「いや、それはないな。この鱗で黒き厄災とコミュニケーションが取れるのなら、別に俺達が調査に赴く必要はない。より国の事情を知っている者に任せた方が、交渉には向いている」
「あっ……。もしかして、ローゼスが交渉役だったり?」
ケシュアが声をひそめてしまう理由もわかるが、エドワードがそれを俺達に伝えない理由がわからない。
「それならカガリの前でローゼスに聞いてみるだけだが、恐らくはザジの言っていた事のほうが正しいんだろう……」
地下牢でザジ相手に質疑応答はしていた。どうにか2人きりになれる状況を作りだそうと何気ない会話を続けていただけだが、そのおかげでこの国の内情が知れたと言ってもいいだろう。
ザジ曰く、エドワードを歓迎していない勢力も一定数はいるらしい。勿論ザジの種族である土竜鼠種は、その筆頭。
それ自体は仕方のないことだろう。獣人の王族に仲間入りを果たした初めての人族ともなれば、表向きはどうあれ内心警戒している者もいるはずだ。
その評価をひっくり返せるのかはエドワードの腕次第といったところだが、俺達が口を出す問題ではないとその時は気にも留めてはいなかった。
そんな状況とケシュアの話を照らし合わせれば、見えなかったものも見えてくる。
黒き厄災に関する調査。そんなもの誰もやりたがらないだろう。責任を押し付け合い、結果エドワードが貧乏くじを引いたのではないだろうか?
王家に伝わる黒き厄災の鱗を預けるからどうにかしろ――と言われれば、エドワードの立場では断りにくいはず。
再封印に成功すればそれでよし。失敗すれば、エドワードを糾弾すればいいだけだ。
必要な情報は与えられず、一方的に任された大仕事。国内に信頼できる味方はおらず、断腸の思いでリリーを頼った……。
まだ憶測の域を出ないが、こう考えれば辻褄は合う。
「ケシュアは、この鱗のルーツは知ってるんだろ?」
「もちろん。……知りたいなら教えましょうか?」
「いいのか?」
「構わないわ。だって九条の頼みだもの」
取ってつけたような雑なウィンクを披露するケシュアに辟易としながらも、ひとまずは感情を押し殺しケシュアの話に耳を傾ける。
「いい? 大昔に獣人達が世話していたドラゴンの卵が孵化して、黒き竜が産まれたの。それを成熟するまで育てた恩返しとして貰ったのが、あの鱗なわけ」
「ちょっと待て! ざっくりしすぎだ。その卵の中身が黒き厄災ってことか? それは何処から手に入れた!?」
「ドラゴンの卵は親のドラゴンから託された物よ。それが黒き厄災なのかはわからない。黒き竜としか伝わってないからね」
「何故、ドラゴンの親は卵を獣人に託したんだ?」
「いやいや、九条は何処まで知りたいのよ……。獣人に卵を託した理由を話したら終わり? それとも今度は、その経緯まで話さなくちゃいけないの?」
舌を出し顔を歪めたケシュアの反応は、隠していたいというよりも面倒臭いといった雰囲気。
「どうせだから、全部教えてくれよ。減るもんじゃないし……。ミアも聞きたいよな?」
「うん! 聞きたい!」
笑顔で頷くミアの力強さに、少々引き気味のケシュア。
別にミアをダシに使おうとしたわけじゃない。
エルザの昔話に始まり、オルクスの海賊団、ゲオルグの黒翼騎士団と、自分の知らない話には関心度が高いらしく、その兆候が表れるとミアはソワソワと落ち着かない様子を見せるのだ。
カガリに抱き着いていたのをやめ、むくっと起き上がり、ケシュアに期待の眼差しを向けている。
好奇心か知識欲か……。勿論、馬車の旅が暇すぎるという単純な理由も含んではいるのだろう。
「別に隠してる訳じゃないんだろ?」
「まぁ、そうだけど、あまり広めてほしくはないって言うか――。長くなるわよ?」
「構わん。到着までまだ時間はある」
ホントに話すの? と最終確認のような視線を俺に向け、それに無言で頷いて見せると、ケシュアは諦めたかのように大きな溜息をついた。
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【作者より、感謝を込めて】
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そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
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