生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
417 / 722

第417話 異種族故の疎外感

しおりを挟む
 塔までの道案内は、ローゼスと3台の犬ぞりが先行。その後ろから深く積もった雪の中を追いかけるのは、巨大な馬車。

「流石は九条の従魔ね。凄いを通り越して最早キモチワルイくらいだわ……」

 温かいお茶を溢さないようバランスを取りながらも、ほっと一息ついたのはケシュア。
『天空の階段』と呼ばれる塔までの道のりは、豪雪により馬車では到達不可能とのことだったのだが、カイエンとワダツミのコンビにはそんなもの関係ないようだ。
 速さが必要な平地はワダツミが。パワーが必要な場所はカイエンが馬車を引くという連係プレイで進み続け、雪を掻き分け新たな轍を作りながらも怒涛の勢いで邁進していくその様子は、まさにラッセル車。
 それ故車内の揺れは凄まじいが、彼等のおかげで快適に過ごせていると思うと、感謝以外に贈る言葉が見当たらない。
 ワダツミ曰く運動不足には丁度いいらしいが、ボーナスを視野に褒美の検討もせねばなるまい。

「それで、おにーちゃんはザジさんから封印の方法を聞けたの?」

「いや……。残念ながら聞けなかった」

 というより、その段階まで持っていけなかったのだ。
 俺とザジ。2人きりの状況を作り出すだけで良かったのだが、そもそもそれが難しかった。
 当たり前だが、そこは他国の城にある地下牢だ。自由行動が許される訳もなく、常にローゼスが付いて回る。
 ケシュアも同様に金魚のフンと化しているので、どう頑張っても2人きりになるのは絶望的。
 しかも、その地下牢にはなんとメリルまで捕らえられていたのである。
 相手にしたくはなかったのだが、決闘しろと言われるのは最早デフォルトで、ケシュアには裏切者だと罵っていた。
 恐らくは俺と一緒にいるのを見て勘違いをしているのだろうが、別に俺がケシュアの誤解を解いてやる義理もないので、牢から出れないのをいい事にメリルを煽り散らしておいた。
 ひとまずはストレスが発散出来たので、良しとしよう。

「それよりケシュアは、エドワードにちゃんと謝罪したのか?」

「黒き厄災の鱗を暖炉に投げ入れた件でしょ? ちゃんとしたわよ。アンタにしろって言われたし……」

「不満そうだな」

「当たり前でしょ? 私は九条を守ってあげたのよ? あれが全くの偽物で、黒き厄災と交渉できなかったらどうするつもりだったの? 確かにいきなりだったけど、どちらにしろ真偽の確認は必須だった。知らない所でこっそり試して割れちゃいました――じゃシャレにならないでしょ?」

 黒き厄災の鱗が入った箱は、網棚の上。話の流れから借りざるを得なかったが、使うことのない置物だ。
 確かにケシュアの言う事も一理ある。俺は黒き厄災が襲ってこない事を知っているので、そこまで気が回っていなかった。
 見知らぬ場所で破損させれば、俺達が責任を問われる可能性もある。ケシュアのやり方は褒められたものではないが、エドワードの前での確認は必須だった。
 俺を守るその真意は、結果的にネクロガルドの為――なのだろうが、ひとまずは感謝しておくべきか……。

「それに、エドワードは全てを知らされていないんじゃないかしら……」

「それはもしかして、エドワードに何か言おうとして止めたのと関係があるのか?」

「あら、気付いていた? 目敏いのね。まぁ隠すつもりはなかったんだけど、エドワードが可哀想になってね」

「可哀想? ……あぁ、そう言う事か……」

 ケシュアは知っているのだろう。獣人が黒き竜を崇めていた理由を。
 ケシュアが古代学に精通しているなら、別段おかしなことではない。……だが、エドワードはそれを知らなかった。教えてもらっていないのだろう。
 獣人全てが知っている訳ではないのだろうが、王家に近しい者であれば知っていてもおかしくはない知識。

「私達の調査に関係あるかは置いておくとしても、依頼主のエドワードがそれを知らないのはおかしいでしょ? そんな話しなくても、黒き厄災の鱗があれば簡単だとでも思っているのかしら」

「いや、それはないな。この鱗で黒き厄災とコミュニケーションが取れるのなら、別に俺達が調査に赴く必要はない。より国の事情を知っている者に任せた方が、交渉には向いている」

「あっ……。もしかして、ローゼスが交渉役だったり?」

 ケシュアが声をひそめてしまう理由もわかるが、エドワードがそれを俺達に伝えない理由がわからない。

「それならカガリの前でローゼスに聞いてみるだけだが、恐らくはザジの言っていた事のほうが正しいんだろう……」

 地下牢でザジ相手に質疑応答はしていた。どうにか2人きりになれる状況を作りだそうと何気ない会話を続けていただけだが、そのおかげでこの国の内情が知れたと言ってもいいだろう。
 ザジ曰く、エドワードを歓迎していない勢力も一定数はいるらしい。勿論ザジの種族である土竜鼠種グラットンは、その筆頭。
 それ自体は仕方のないことだろう。獣人の王族に仲間入りを果たした初めての人族ともなれば、表向きはどうあれ内心警戒している者もいるはずだ。
 その評価をひっくり返せるのかはエドワードの腕次第といったところだが、俺達が口を出す問題ではないとその時は気にも留めてはいなかった。

 そんな状況とケシュアの話を照らし合わせれば、見えなかったものも見えてくる。
 黒き厄災に関する調査。そんなもの誰もやりたがらないだろう。責任を押し付け合い、結果エドワードが貧乏くじを引いたのではないだろうか?
 王家に伝わる黒き厄災の鱗を預けるからどうにかしろ――と言われれば、エドワードの立場では断りにくいはず。
 再封印に成功すればそれでよし。失敗すれば、エドワードを糾弾すればいいだけだ。
 必要な情報は与えられず、一方的に任された大仕事。国内に信頼できる味方はおらず、断腸の思いでリリーを頼った……。
 まだ憶測の域を出ないが、こう考えれば辻褄は合う。

「ケシュアは、この鱗のルーツは知ってるんだろ?」

「もちろん。……知りたいなら教えましょうか?」

「いいのか?」

「構わないわ。だって九条の頼みだもの」

 取ってつけたような雑なウィンクを披露するケシュアに辟易としながらも、ひとまずは感情を押し殺しケシュアの話に耳を傾ける。

「いい? 大昔に獣人達が世話していたドラゴンの卵が孵化して、黒き竜が産まれたの。それを成熟するまで育てた恩返しとして貰ったのが、あの鱗なわけ」

「ちょっと待て! ざっくりしすぎだ。その卵の中身が黒き厄災ってことか? それは何処から手に入れた!?」

「ドラゴンの卵は親のドラゴンから託された物よ。それが黒き厄災なのかはわからない。黒き竜としか伝わってないからね」

「何故、ドラゴンの親は卵を獣人に託したんだ?」

「いやいや、九条は何処まで知りたいのよ……。獣人に卵を託した理由を話したら終わり? それとも今度は、その経緯まで話さなくちゃいけないの?」

 舌を出し顔を歪めたケシュアの反応は、隠していたいというよりも面倒臭いといった雰囲気。

「どうせだから、全部教えてくれよ。減るもんじゃないし……。ミアも聞きたいよな?」

「うん! 聞きたい!」

 笑顔で頷くミアの力強さに、少々引き気味のケシュア。
 別にミアをダシに使おうとしたわけじゃない。
 エルザの昔話に始まり、オルクスの海賊団、ゲオルグの黒翼騎士団と、自分の知らない話には関心度が高いらしく、その兆候が表れるとミアはソワソワと落ち着かない様子を見せるのだ。
 カガリに抱き着いていたのをやめ、むくっと起き上がり、ケシュアに期待の眼差しを向けている。
 好奇心か知識欲か……。勿論、馬車の旅が暇すぎるという単純な理由も含んではいるのだろう。

「別に隠してる訳じゃないんだろ?」

「まぁ、そうだけど、あまり広めてほしくはないって言うか――。長くなるわよ?」

「構わん。到着までまだ時間はある」

 ホントに話すの? と最終確認のような視線を俺に向け、それに無言で頷いて見せると、ケシュアは諦めたかのように大きな溜息をついた。

「はぁ、しょうがないか。これも九条をネクロガルドに入れる為だと思えばね!」

 なんというか、露骨すぎるにもほどがある。

「わかってはいるが、せめて口には出すんじゃねぇよ……」
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月中旬出棺です!! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...