生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第420話 開かずの扉と塔の秘密

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「最北方塔駐屯地へようこそ。調査隊の来訪を心より歓迎致します」

 天空への階段と呼ばれる塔の足元に辿り着いたのは、日暮れに近い時間帯。
 馬車から降りると俺達を出迎えてくれたのは、筋肉ムキムキの獣人男性。最北方塔駐屯地は、天空への階段内部の魔物の掃討と侵入を防ぐ為に設けられた部隊だ。
 その隊長から出された手を取り握手を交わすと、その背後にそびえる塔を全員で見上げる。

「どうです? 大きいでしょう?」

「はぇぇ」

 それは、見上げたミアがよろよろと後退しカガリに寄りかかってしまうほどの高さを誇る巨塔。
 スカイツリーの周りをコンクリートで覆ってしまったかのような飾りっ気のない外観は、圧迫感を覚えるほど。
 窓や取っ掛かりもなく、外側から登るのはベテランのロッククライマーでも無理だろう。
 それ自体が吹雪除けになっているのか、駐屯地にはそれほど雪は積もっていない。
 辺りには大きな天幕が5つほど。その周りを木製の柵で覆っていて、ちょっとした遊牧民の集落といった雰囲気だ。
 中央で燃え盛る大きな焚き火は井形に組まれた丸太が連なり、キャンプファイヤーを思い起こさせるほど大きな物。
 それは暖かいというより、熱すぎる。その勢いたるや、瞬きでは追い付かないと思わせるほど目が乾く。

「すぐに夕飯に致しましょう。それまでゆっくりしていてください。出来上がったらお呼びしますので」

 軽い挨拶を済ませた後、そう言って姿を消す隊長の男。
 5つある天幕の内の1つが、キッチンと食堂を兼ね備えているらしい。
 ローゼスは備え付けの天幕での寝泊まりのようだが、俺達はそれを遠慮して馬車で寝泊まりをすることに。
 荷物を降ろす手間が省けるのも、理由の1つだ。

「飯まで暇だし、ちょっと散歩でもしてこようかな」

「この寒い中、出歩くの? 私はパス」

 何を勘違いしているのか……。ケシュアには聞いていない。

「ミアはどうする?」

「いくぅ!」

 手早く防寒着を羽織り、ミアと共に馬車を降りる。
 駐屯地に滞在している兵は全部で6人。交代で見張りを続けているらしい。
 そんな彼等の寝床であろう天幕に、勝手に入るわけにもいかないので、その隣にある人気のない天幕に手を掛けた。

「失礼しまーす」

 そっと顔を覗かせると、そこに立っていたのは6人の重騎士――を、思わせるだけの白いプレートメイル。勿論中身は入っていない。
 樽の中にまとめて立て掛けられてる武器類に加え、埃の被った多数の木箱は暫く使ってなさそうだ。

「物置……かなぁ?」

 プレートメイル1つ1つに毛布が掛けられているのは、緊急時を見越しての事に違いない。
 この寒さで金属製の鎧を着用するとなると、保温しておかなければ凍傷は免れないはず。それでも十分ではない気もするが、ないよりはマシといったところか……。
 それに触れれば冷気が伝わってくるだろう事は考えずともわかること。最悪手が濡れていれば、くっついて離れなくなってしまうかもしれない。
 そう思いながらもそれに触れたのは、ミアのような純粋な好奇心から来るものでも、怖いもの見たさの度胸試しでもなく、万が一の為である。

「九条様! 夕飯の準備が整いました! ……九条様?」

 暫くすると、バチバチとうるさい焚き火に混じって聞こえてきたローゼスの声。

「今行きます!」

 天幕の外に聞こえるよう大声で返事をすると、俺とミアは鎧の毛布を掛け直し、その場をそっと後にした。

 ――――――――――

 翌日、ローゼスを駐屯地へと残し塔内部に足を踏み入れると、いよいよ調査の開始である。
 天空への階段。その正確な高さはわからないが、外からの目測では1000メートル前後といったところか……。
 天候状況にもよるのだろうが、黒き厄災が飛び立つ姿を目視で確認したという事から、精々それくらいだろうという予測も込みだ。
 先陣を切ったのは、メナブレアからの調査報告書を持つケシュア。勿論その中に内部の地図も含まれている。
 塔内部の形状は、巨大な煙突と言って良い。その外壁の中をグルグルと螺旋状に登っていく構造となっているようだ。
 中央は空洞らしいとの記載があるが、詳細は不明。構造上、部屋の類は一切見当たらないのだが、途中巨大な扉に阻まれそれ以上は進めないとの事だった。

「あら? 中は暗いと思ってたけど案外明るいのね」

「ああ。そうだな」

 手元の資料を見ながらも、無警戒でズカズカと歩みを進めるケシュア。
 内側の壁に等間隔で並ぶランタンから発せられる魔法の光は、揺らぎの地下迷宮にある物と瓜二つ。
 塔内部に蔓延っていた魔物の類などは掃討されていて、基本的にはメナブレアが管理している為、安全は保たれているらしい。

「外と違ってそんなに寒くもないし……」

「ああ。そうだな」

 どちらかと言えば寒いのだが、外よりは全然マシである。

「通路もそれほど狭くないわね」

「ああ。そうだな」

 幅は5メートルほどだろうか……。Uターンは無理だが、それでも普通サイズの馬車であれば、通れる程度の横幅はある。

「この傷跡は、何時のものかしら……。歴史的に見ても珍しい建造物なんだから、もうちょっと綺麗に使ってもいいと思わない?」

「ああ。そうだな」

 壁は容赦なく傷だらけ。恐らくは内部で激しい戦闘があったからなのだろうが、切り傷にひっかき傷は当たり前。黒焦げな所もあれば、崩れていたりと散々だ。

「ちょっと九条! 聞いてるの!?」

「ああ。そうだな」

 足を止め、振り向くケシュアに睨まれる。
 バニーガールの付け耳が目に刺さりそうで戦慄するが、そんな格好で凄まれても怖くはない。

「ちゃんと鱗は持って来てるんでしょうね? 一応は命を預けるんだから真面目にやって!」

「わかってるって……」

 ちょっとくらい不真面目な方が俺らしいと思ったのだが、ケシュアの言い分も理解出来る。
 俺の仕事はケシュアの邪魔をしない事だ。黒き厄災が襲ってきたら無力化を図るのも仕事の内ではあるのだが、黒き厄災のサイズを考えるとこの通路は狭すぎる。最悪、壁を破壊してくる可能性も無きにしも非ずだが、俺は襲われないことを知っているのだ。
 故に無知を装わなければならないのだが、真面目過ぎればそれはそれで違和感が拭えず、その匙加減が難しい……。

「じゃぁ、何か手伝えることはあるか?」

「ないわよ。九条は、何時襲われてもいいように気を張ってて頂戴」

「あぁ。わかった」

 それは、暇を持て余せと言われているのと同義である。


「これね……」

 しばらく歩いていると、エドワードの言っていた壁画が姿を現した。
 灰色の壁に薄っすらと残る薄い曲線。時折擦れては消えているところを見ると、相当古いものに違いない。
 ケシュアがポケットから取り出したのは手のひらサイズの小さなハケ。
 それを使い、慎重に埃を落としていくその姿は、正に考古学者といった雰囲気。

「うーん。こっちが竜で、こっちは……獣人……かな?」

 辛うじて竜はわかるが、獣人に至っては棒人間のような表現で描かれている為、言われなければわからないレベル。
 まぁ、現代アートと称した意味も解らない絵画よりは分かり易いが、正直子供の落書きそっくりだ。
 そんな壁画が延々と連なっているのだが、その意味がミアにも理解出来たのは、ケシュアのおかげだろう。

「これ……ケシュアさんから聞いたお話かも……」

「ええ。十中八九そうでしょうね」

 壁画から視線を逸らさず答えるケシュア。
 白い蛇に黒い竜。太陽に身体が生えた四足歩行の動物らしき物体は、恐らく獅子。
 それは、ケシュアから聞いた三大厄災の話をなぞらえていて、まるで壁画の紙芝居でも見ているかのよう。

「ここから先は知らないな……。続きか?」

 大勢の獣人が大きな丸い物体を取り囲む様子を表した壁画。恐らくそれが竜の卵なのだろう。
 次の壁画には半分に割れた卵から小さな竜が顔を出していて、その隣には1人の獣人が描かれている。その手には赤いシンボルマークのようなもの。
 そこから先は竜と獣人の子供が描かれているだけで、法則性は皆無。俺には解読不可能だ。

「こッ……これはッ!?」

 目を見開き、壁画の1点を凝視するケシュア。

「何か、わかったのか!?」

 ケシュアに集まる視線は、皆の期待の表れなのだが……。

「……いいえ。さっぱりわかんないわ……」

「……じゃぁ、最初からそう言えよ……」

 無駄に溜めるので、何か重要な手がかりでも見つけたのかと期待したのにコレである……。

 そんな壁画調査も終盤。その行く手には調査報告書に記されていた開かずの扉。ダンジョンにある封印の扉とは別物だ。

「どうにかして開けられないかしら……」

 当然そう考える。そこから先は未知の領域。もしも開けることが出来れば、封印の方法もわかるかもしれない。

「カイエン。頼む」

「まかされろ!」

 俺達の前へと躍り出たカイエンは鼻息も荒く立ち上がると、両前足で扉に触れる。

「フンガーッ!!」

 どれだけの力が込められたのかはミシミシと唸りを上げる扉からも明らかだが、それでも開く気配は見せない。
 それならばと助走をつけてのタックルに切り替えるも、ドシンという重量感のある音が辺りに響いただけであった。

「ダメだ……」

「そうか。なら仕方ないな……」

 恐らくは一番の力持ちであるカイエンでも歯が立たないのだ。これ以上はやっても無意味。

「ちょっと待ってよ! もう諦めるの!?」

「カイエンがダメだったんだ。どうしようもないだろ?」

「まだよ。まだ何かあるはず……」

 扉に張り付き、どんな小さな仕掛けも見逃さないと舐めるように視線を走らせるケシュア。
 流石は学者気質と言うべきか、既に目の前の扉しか見えていない様は諦めの悪い子供のよう。

 とは言え、俺が早々に諦めたのも訳がある。
 実を言うと、その扉は開かないからこそ『開かずの扉』と呼ばれているのだ。
 何を当たり前の事を――と思うかもしれないが、それは獣人達がそう呼んでいるだけではなく、元々『開かずの扉』として作られている。
 108番曰く、それは侵入者を欺く為のただの飾り。扉の後ろには分厚い壁があるだけで、正真正銘の行き止まりなのである。
 そもそも黒き厄災は、塔の頂上にいるのではなく地下のダンジョンに住んでいるのだ。
 ドラゴンを地下に住まわせるのだ。それなりの広さが必要なのは言わずもがな。その出入口も巨大なものになるだろう。
 しかし、地上にそんな大きな出入口を作ってしまえば、ダンジョンはすぐに見つかってしまう。そうならない為に、黒き厄災専用の出入口として造られたのが、この巨塔なのである。
 これだけの高さがあれば、外側からの侵入は不可能。黒き厄災は、この塔に見せかけた砲身を通って上空へと飛翔する。下から見上げれば、塔の頂上から飛び上がっているよう見えてもおかしくはないだろう。
 ぶっちゃけてしまえば、調査する場所が全くの見当違いであり、ダンジョンの入口は別の場所にちゃんとあるのだ。

 所謂、灯台下暗し。ケシュアの為に普段はついていない明かりを灯し、空調を操作して少しだけ寒さを和らげたのも、俺がコッソリ108番に指示を出したから。
 ――そんな事とは露知らず、ケシュアは必死になって開かずの扉と睨めっこをしていた。
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