生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第434話 ゆるふわドナドナ

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 ローゼス率いる犬ぞりを先頭に、俺達を乗せた馬車は最北方塔駐屯地へと向かっていた。
 そこは天空の階段と呼ばれる塔の足元にあり、前回の調査で滞在した野営地でもある。
 供物の祭壇は、そこから数時間ほどでたどり着く場所にある為、今回もお世話になる予定だ。

「それで? エルフの女王様って綺麗だった?」

「すっごく綺麗だったよ? でも偉そうでちょっと怖かったかな」

 カガリに体重を預けながらも、暖炉の前で談笑しているのはミアとキャロ。
 グランスロードはおろか、メナブレアからも出たことがないキャロからすれば、どんな話でも興味津々。
 既に生贄であったことを忘れたかのような明るい表情こそが、本来のキャロなのだろう。

 そんな冒険譚に耳を傾けながらも、思慮深げに溜息をついたのはケシュアである。

「まるでピクニックね……」

「まぁいいじゃないか。ずっと緊張してても疲れるだけだ」

 口には出さないが、激しく同意である。
 結局、八氏族評議会はミアを生贄の替玉とすることで合意した。だが、それが黒き厄災に見破られる可能性を考慮し、キャロも一緒に連れていけ――という話になったのだ。
 一応は生贄となるのだから、悲壮感を漂わせるくらいには辛気臭い旅になってもいいはずだが、馬車内の空気感はまるで小旅行である。
 ドナドナでも歌えば、少しは感傷的になれるだろうか?

「ホントどうするのよ……。ミアが生贄になる前に黒き厄災を封印するって……そんなこと出来ると思う!?」

 顔面蒼白で頭を抱えるケシュア。身も蓋もないが、俺は勿論出来ないと思っている。
 本来は、供物の祭壇に生贄であるキャロを閉じ込め、数週間後にどうなっているかを確認するだけという簡単な任務だったのだが、生贄をミアに挿げ替えたことで制限時間が追加されてしまったのだ。
 ケシュアから見れば、依頼達成の難易度が跳ね上がっただけである。

「お前だってキャロを助けたいだろ?」

「そりゃそうだけどさぁ……」

「大丈夫だケシュア。根拠はないがお前なら出来る! ……因みに、ミアが死んだらお前も殺すからな?」

「なんでそうなるのよ……。理不尽だわ……」

 勿論冗談だが、ケシュアにはそれだけ俺が本気だという事を自覚してもらう為、バニーガールの衣装は一時お預け。ウサギの耳飾りだけをミアが受け継いでいる状態だ。
 そもそも最初からケシュアが封印方法を見つける必要はなく、最悪は俺が勝手に封印したことにすればいいだけの話。
 最大の問題は、俺と黒き厄災との関係を知られてしまう事なのだが、ミアを供物の祭壇に待機させておけば、俺がその様子を見に行くのもなんら不自然ではなく、ケシュアとローゼスから一時的に離れることが出来るので問題はない。
 証拠として鱗の1枚でも引っぺがして持ち帰れば、言いくるめることは容易い。

 それよりも気になる事は、有翼種ハルピュイアの長であるセシリアのこと。
 決議投票で生贄不要派が2票しか獲得できなかったことについて巨猪種オークのバモスが激怒した際、嘘をついていたのはセシリアだった。
 後からカガリから聞いたのだ。間違いはない。

「キャロが生贄を決意した時、セシリアさんに何か言われたんだろう?」

「え? うん……。私が生贄になれば、街の皆が助かるって。それはとってもいい事で、いい事をすると天国でパパとママに会えるからって。やっぱり嘘だったの?」

 嘘ではないが、肯定も出来ない微妙なところ……。
 赤ちゃんは何処から来るの? と聞かれて、悩んでしまうのと同じような感覚だ。

「いや……。全部が嘘という訳じゃない。良い行いをすれば、それは自分に返って来る。生贄になろうとするキャロの気持ちを汲んだ神様が、ルイーダとの再会を許してくれたんだ。しかし、自らの命を絶つ行為は決して良い行いではない。ルイーダもそう言ってただろう?」

「うん!」

 上手く誤魔化せただろうか?
 浴場での事を思い出したのか、満面の笑みで頷くキャロ。そこには何の後悔も見当たらない。

「他には、何か言われてないか?」

「うーんと……。私がいなくなればメリルさんが楽になるって」

「そうか……」

 何と返せばいいのやら……。生贄になってほしいという獣人達の気持ちはわかる。
 トロッコ問題と考えた方は同じ。1人を犠牲に多数を助けるか、その逆かだ。
 八氏族評議会では功利主義に基づき、キャロを犠牲にすることを選択した。しかし、メリルが口減らしを理由にキャロを犠牲にするわけがない。
 年端も行かぬ子供の情に訴えかける卑劣な手法。キャロを騙してまで生贄にしようとするそのやり口には、苛立ちを覚える。
 だが、何故キャロを説得したのが生贄賛成派ではなく、否定派のセシリアなのか……。

「ケシュアはセシリアさんの事、どう思う?」

「うーん……。単純に考えるならお金かしら? 後は生贄賛成派に弱みを握られているとか……」

「それなら別に隠す必要はないだろう? 堂々と賛成派に考えを改めたと公言してもいいはずだ」

「報復が怖いからじゃない? ほら、バモスって結構肉体派でしょ?」

 確かに巨猪種オークというだけあって、バモスは八氏族評議会の中でもトップクラスのガタイの良さ。
 そんな筋骨隆々の腕で殴られようものなら、空の彼方に吹っ飛んでしまいそうである。

「そんなことより自分達の事でしょ? 私達が襲われた時の対策は考えてるんでしょうね?」

「ん? ああ、勿論だ」

 まだ推測の域を出ないが、その可能性は最初から考えていた。
 有翼種ハルピュイアのセシリアが何を考えているのかは不明だが、黒き厄災なんかより土竜鼠種グラットンの方が、俺達には脅威となりうる存在である。
 ザジは黒き厄災の復活が一族の悲願だと断言し、その長であるリックは軍事力としての運用をほのめかしていた。
 彼等からすれば再封印なぞもっての外であり、千載一遇のチャンスを潰してしまう俺達は、目の上のたんこぶと言って差し支えない。

「まずは、逃げる事からだな……」

「いやいや、なんで及び腰なのよ……」

「従魔達でなんとか出来ればいいが、油断はしない。相手だってプラチナとゴールドの冒険者を相手にするとわかっているなら、それなりの数とそれ相応の実力者を用意しているはずだ。こっちはミアとキャロを守りながらの戦闘を強いられ、更に言うならローゼスさんに死霊術を見られる訳にもいかない」

「ローゼスから見られなければいいんでしょ? だったら混沌樹カオスツリーフォームで、対象の視界を奪う事も可能だけど?」

「そんな魔法があるのか?」

 仲間の視界を奪うのだ。それ相応の言い訳を用意しなければならないが、いざという時には頼りになるかもしれない。

「それだと、ローゼスさん死んじゃいませんか?」

 キャロとの会話を中断し、話に割って入って来たのはミア。
 その怪訝そうな顔が何を言いたいのかは、すぐに理解出来た。
 視界を奪うという話だったはずなのだが、いつの間にか物騒な話に……。

「ちょっと待て。もしかして、失敗したら死ぬのか!?」

「違うよ、おにーちゃん。樹術の混沌樹カオスツリーフォームは、元々そういう魔法なの。相手を木に変身させて、生命力を吸い取るんだよ?」

「正確には、変身というより木の中に閉じ込めるだけよ? 最初は若木。大きくなって葉が生い茂り、それが枯れ落ちると中の人も逝っちゃうけど、その前に解除すればいいだけだし平気よ」

 肩を竦めながらも、淡々と答えるケシュア。
 ケシュアとは言えゴールドプレート。それだけの自信があるのだろうが、それを聞いて、はいそうですか――とはならないだろう。

「却下だ」

「なんでよ!?」

 寧ろ、何故それで通ると思ったのか……。
 混沌樹カオスツリーフォームは、生命力を吸うのが本来の使い方であり、視界を奪うというのは副次的効果でしかないらしい。
 どう考えても危険な魔法。それを味方に誤射しておいて、ケシュアはローゼスになんと弁解するつもりなのか……。
 俺の秘密は守られるかもしれないが、どうせなら俺の立場も少しは考えてほしいものである。
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