生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
440 / 722

第440話 キャロの選択

しおりを挟む
 それからどれほどの時が経っただろうか……。地下故に時間の感覚は乏しいが、恐らくは就寝に近い時間帯だ。
 ふと空を見上げると、巨大な縦穴から降りて来たのはお使いを頼んでいたファフナー。

「どうだった?」

「白い鎧を着た残党は全て蹴散らしてやった。マスター殿の連れだろう熊とエルフ種の女も、大事はなさそうだったぞ?」

「そうか。助かるよ」

 そこへトコトコと駆け寄って来たのは、怖いもの知らずのミア。その顔は不自然なほどに笑顔である。

「おかえりなさい! ファフナーさん」

「あ……ああ……」

 子供の順応性といったら恐ろしいもので、ファフナーに危険がないとわかるや否や、ベタ慣れ状態。
 巷では、希少種であり決して人とは相容れないとされるドラゴン種にお触りし放題だ。テンションが上がらないわけがない。
 この場にシャロンが居ようものなら、大歓喜は間違いなしだっただろう。
 最初は遠慮気味であったキャロも、ミアのはしゃぎっぷりを見てしまえば、感化されるのも時間の問題。既にそれほど怖がってはいない様子だ。

「あまり我の周りで動き回るな。踏みつぶしても知らんぞ……」

 困った様子のファフナーも、子供2人に成すがまま。それも、恐らくは巫女と共に暮らして来たおかげなのだろう。
 別種族の子供に理解のあるドラゴンというのも、なかなかに微笑ましい光景である。

「ファフナーさんにお願いがあるんだけど……」

「申してみよ」

「これを炙ってください!」

 ニコニコ笑顔でミアが指差したそれは、主のいない石棺。蓋は外れ、中にはたっぷりの水が張っている。
 先程ワダツミを呼びつけていたのはこの為かと、苦笑する。ミアが何をしたいのか、ピンときたのだ。
 ファフナーの口から吐き出された灼熱の炎が石棺を炙ると、大量の湯気が辺りに立ち込め、あっという間に即席のお風呂が完成した。
 この状況でその発想。逞しいというか何と言うか……。正直俺なんかよりミアの方が、よっぽど肝が据わっている。
 得意気に袖を捲り、片腕を突っ込んだミアは一人満足そうに頷くと、一気に服を脱ぎ捨て人目を憚ることなく石棺へとダイブする。

「キャロちゃんもおいでよ!」

 薄暗いダンジョンの奥深くで湯船に浸かる人間と獣人の子供。それを呆れ顔で見つめる伝説級のドラゴンと2匹の魔獣。
 その絵面の情報量の多さときたら、何処からツッコんでいいのか迷ってしまうほどである。
 風呂から上がれば、ファフナーの翼で扇いでもらい身体を乾かそうとするものの、予想外の強風に地面をゴロゴロと転がる2人。
 そして立ち上がれないほどの大爆笑。最早コントを見せられている気分だ。
 その光景は、世の中で起きているであろう異種族同士の対立が嘘であるかのよう。
 これが世界の縮図であったのなら、どれほど平和な世の中になるのかと思い耽るも、それが机上の空論であることは承知している。

「はい。おにーちゃん」

 ミアをファフナーに取られ、不貞腐れてしまったカガリを撫でながらも、駆け寄って来たミアに手渡されたのは1本の櫛。それは従魔用ではなく人間用。
 ミアは当たり前のように俺の膝に腰を下ろし。俺はその艶やかな御髪に優しく櫛を通していく。
 俺達にとっては当たり前の日常だ。

「ありがとー、おにーちゃん」

 その場でクルクルと周り、サラサラになった髪を自慢げに披露するミア。
 それを物欲しそうに見ていたキャロが何を考えているのかは、想像に難くない。

「キャロもおいで。そのままにしておくと明日起きた時、酷いことになるぞ?」

 嬉しさが溢れるような表情と共にピンと立ったウサギ耳。ミアと同じように、それでいて少々遠慮がちに俺の膝に座る。
 ミアよりも少しだけ軽い体重。髪質が透き通るほど細いのは、獣人故だろうか……。ついミアとの違いに目が行ってしまう。

「キャロは、これからどうしたい?」

「どうって?」

「生贄になる必要はなくなっただろう? キャロは自由になったんだ。これからは好きに生きていい。元の生活……メリルのところに戻るのも選択肢の1つだが、俺がキャロを引き取ることも考えている。勿論キャロさえよければだが……」

 気の迷いなどではない。進むべき道はキャロが自分自身で決める事だと、メリルも了承した上での提案である。
 子供を引き取ることがどれだけ大変な事かは、理解しているつもりだ。従魔が1体増えるのとは訳が違う。
 面倒くさいと突っぱねるのは簡単。しかし、黒き厄災復活の所為で生贄問題が表面化してしまったのは、俺の責任でもある。

「俺達はコット村という所に住んでいるんだ。メナブレアと比べると人口は少なく、超が付くほどのド田舎だが、皆あたたかくていい村だ。きっとキャロも受け入れてもらえる」

 メリルに迷惑を掛けたくないと考えているなら、キャロにとっては悪くない選択肢の1つだろう。だが、無理強いはしない。

「……」

 深く考え込むように視線を落とすキャロ。俺はその髪をとかしながらも、急かさぬようにジッと待つ。
 突如提示された人生においての分岐点。本来であればゆっくりと考える時間を作ってやるべきなのだが、悠長に構えているほど時間は残されていない。
 俺達と共に来ると言うなら、それも1つの正解だ。キャロを匿った上で、八氏族評議会には生贄としての責務を果たしたと報告すればいいだけ。
 メナブレアには帰れなくなるが、メリルがキャロに会いに来ることは可能である。
 しかし、キャロがメリルを選びメナブレアに残ると言うならば、アフターフォローは考えなければならないだろう。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ
ファンタジー
小説家になろうで先行投稿してます。 異世界から飛ばされてきた美しいエルフのセレナ=ミッフィール。彼女がその先で出会った人物は、石の力を見分けることが出来る宝石職人。 宝石職人でありながら法具店の店主の役職に就いている彼の力を借りて、一緒に故郷へ帰還できた彼女は彼と一緒に自分の店を思いつく。 セレナや冒険者である客達に振り回されながらも、その力を大いに発揮して宝石職人として活躍していく物語。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

処理中です...