生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
444 / 722

第444話 巫女の力

しおりを挟む
 原点が故の盲点。封印方法はわからず仕舞い。九条だってミアを生贄にはしたくない。それを回避する方法を考えた末に思いついた策が、巫女であったとしたら……。
 九条達が巫女をでっち上げただけで、最初から黒き厄災を怒らせてなぞいない。八氏族評議会は騙された――。そう考えれば気が楽だ。都合のいい現実逃避である。
 とは言え、皆がそれに触れなかったのは、仕事を頼んでいる立場であったからだ。
 そもそも最初から信用していないなら、別の人に頼め――と言われるのがオチである。

「へぇ。それは私達を疑ってるって事よね? いい度胸じゃない。ならローゼスが目撃した黒き厄災はどう説明をつけるわけ? 私達がローゼスを買収したとでも?」

 面と向かって嘘つきだと言われているのだ。ケシュアが機嫌を損ねるのは当然であり異を唱えて当たり前。

「別のドラゴンと見間違えた――ということも考えられませんか? そもそもローゼスはエドワードの従者。考え方も人族に寄っているのかもしれません」

 現場を直接見ていないからこそ言える台詞。セシリアのやっていることは、望み通りの報告を得られず難癖をつけているだけのクレーマーと同じである。
 たとえ再封印に成功したとしても、実際に見ていないからと言われればそれまで。そういったトラブルを回避する為、冒険者はギルドを通さない仕事には良い顔をしない。

「このクソアマッ……!」

 セシリアの澄ました顔に苛立ちを覚え、胸の前で握り拳を作りながらも歯を食いしばるケシュア。

「じゃぁ、キャロの持つ竜鱗は? あんたらが大事に保管してたゴミみたいな竜鱗の欠片とは雲泥の差よ?」

「さぁ? 何処かで拾ったのでは? キャロが本当の巫女であると言うのなら、黒き厄災を呼び出すくらい出来るでしょう? 簡単な証明方法ではありませんか」

 流石のケシュアも堪忍袋の緒が切れた。ケシュアは九条とは違い背負っている物なぞ何もない。売られた喧嘩は買うタイプだ。

「【混沌樹カオスツリーフォーム】!」

 予備動作を悟られないほどの速度で構えた杖を突き出すケシュア。セシリアの胸下が一瞬にして樹木に覆われると、それは固い床板を物ともせず根を下ろす。
 ケシュアにしては健闘した方。殺すつもりなら、もっと攻撃性の高い魔法を使えばいいだけなのだから。

「――ッ!?」

「自分が安全な所にいるとでも思ったの? それとも、私が九条の言いなりだから弱いとでも思った? 何を勘違いしているのか知らないけど、私は九条ほど甘くはないの」

 静かな口調に乗せられた憎悪。冷静であるが故にそれが一時的な苛立ちではないことを窺わせる。
 視線で人が殺せるならば、セシリアは既に死んでいるだろう。

「ケシュアおねぇちゃんッ!?」

 それを止めたのは他でもないキャロである。
 2人の間に割って入るカガリ。もちろんセシリアが悪い事は誰が見ても明らかだが、ケシュアがそこまでする必要はない。

「そんなに怒らないで? 大丈夫。ディメンションウィング様が来てくれるって言ってるから」

 その一言が、場の空気を一変させた。キャロの視線はケシュアではなく、八氏族の代表達に向けられていたのだ。
 カガリの上から見下ろされるそれは、酷く冷たいものであった。

 部屋が静まり返った事で気付いた外の騒がしさ。
 次の瞬間、襲い来る悪寒と共に大地が揺らぎ、屋根に積もっていた雪が全て滑り落ちてしまうほどの衝撃は、立っているのも困難を極める。
 急に夜になったのかと錯覚するのほどの闇が窓を覆うと、ケシュアは天空の階段と呼ばれる塔の中で覚えた恐怖を思い出した。
 ゴールドプレート冒険者としての経験から感じ取った相手との力量差は天と地。既に頭の中は逃走の事でいっぱいだ。
 窓の外から部屋内部を睨みつけるコバルトブルーの巨大な眼球。爬虫類独特の縦に細長い瞳を焦点を合わせるかのように収縮させ、獲物を物色するかのようにギョロリと動いたその先でキャロを見つけると、今度は屋根がバキバキと悲鳴を上げながら引き剥がされた。
 ただ茫然と立ち尽くす者、危機感を覚え円卓に潜り込む者、樹木に擬態する者と様々だが、落下物で死傷者が出なかったのは不幸中の幸いか。屋根と同時に壁までもが剥がれ落ち、評議員室だけが風通しの良いテラスへと早変わり。
 見通しが良くなったからこそ露になった全体像。その姿はまさしく黒き厄災そのものであった。
 あまりのことで声すら出せず、見上げるだけの面々。そんな中、キャロだけがトコトコと無警戒に近寄り笑顔を見せたのである。

「ディメンションウィング様、いらっしゃい!」

 黒き厄災を見上げ、嬉しそうに微笑みながらもその場でぴょんぴょんと跳ねるキャロ。それは、仕事から返って来た伴侶を出迎える新婚夫婦のよう。
 他の者から見れば、距離感がバグっているとしか思えない。それを見ても尚、巫女の存在を認めないというのなら、その目は節穴どころか腐っている。

「皆様のご期待に応え、来ていただきました! ……そんなに恐れなくても大丈夫。私がしっかり目を光らせてますから」

 平然としているのは、キャロとカガリくらいなもの。大まかな段取りを知っていたケシュアでさえ動けずにいたのだ。それをハイそうですかと、能天気に受け入れられたら苦労はしない。

 そんな中、額に汗をにじませつつもなんとか立ち上がった巨猪種オークのバモス。
 その足でほんの少しだけ前へ出ると、すぐさまその場に跪き黒き厄災へと首を垂れる。

「黒……いや、ディメンションウィング様。我等はあなた様の忠実なる僕に御座います。今までの無礼をどうかお許しいただきたく……」

「無駄だ」

 その声にハッとして顔を上げたバモスが見たものは、朱色の袴から飛び出たモコモコの尻尾を振りながら黒き厄災の頭をよじ登っていくキャロの姿。
 暫くしてその天辺に到達したキャロが角を支えにゆっくり立ち上がると、その口から出た言葉のギャップに誰もが驚きを隠せない。

「我が眠りを妨げ、あまつさえ巫女の命をも奪おうとした貴様らの願いを、何故聞かねばならぬ」

 子供特有の無駄に高い声……にも拘らず、まるで子供とは思えない言葉遣い。
 蔑むような目で見下ろされる感覚は異様でしかなく、その雰囲気はここにいる誰もが知っているであろうキャロのものではなかったのだ。

「願いなぞ滅相もない。ただ、謝罪をと……」

「それは傲慢故か? それとも強欲か? 巫女の許しを得ずして我に許しを請おうなぞ笑止千万。巫女の言葉のみが聞き届けられると心得よ」

「……巫女様が謝罪を受け入れて下されば、それは聞き届けられると?」

「然り。……だが、巫女の願いは既に聞き届けられた」

「巫女様の……願い?」

「我が巫女は、巫女としての責務からの解放を望んでいる。我が再び眠りにつく事で、その願いは成就されるであろう」

 それこそが九条の狙いであった。キャロの安全を確保するには、キャロの利用価値を無くせばいい。キャロが巫女でなくなってしまえばよいのだ。
 黒き厄災の再封印は獣人達も望むところであり、本来の仕事も達成できる。
 同時に巫女としての力を見せつけ黒き厄災の目の前で宣言すれば、それを疑う者なぞいない。

 半樹木の1名を除き、八氏族の代表達が顔面蒼白で首を垂れる中、キャロは天高く飛び去って行く黒き厄災に笑顔で手を振っていた。

「ばいばーい」
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ
ファンタジー
小説家になろうで先行投稿してます。 異世界から飛ばされてきた美しいエルフのセレナ=ミッフィール。彼女がその先で出会った人物は、石の力を見分けることが出来る宝石職人。 宝石職人でありながら法具店の店主の役職に就いている彼の力を借りて、一緒に故郷へ帰還できた彼女は彼と一緒に自分の店を思いつく。 セレナや冒険者である客達に振り回されながらも、その力を大いに発揮して宝石職人として活躍していく物語。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

処理中です...