生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第451話 ババァ、謝罪する

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「関係者で入れろや……」

 ネクロエンタープライズに到着すると、関係者通用口から入って行くケシュアとキャロに対し、俺達は当たり前のように入場列に並ばされる。
 そんなに入場料が欲しいのだろうか? セコイにもほどがあるぞ。

「なによ。銀貨の数枚くらい払いなさいよ。それとも九条はそれすら払いたくないほどのドケチなの?」

 確かに入場料を支払う事にも疑問を感じてはいる。
 遊びに来たというのなら喜んでお支払いするのだが、俺はエルザとの話し合いの為に来ているのである。
 例えば、遊園地に置いてある自動販売機の飲料を補充している配達員が、毎回入園料を払っているのか? という話だ。

「九条様、ここは私がお支払いを……」

「あぁいや、そういう事ではなく……」

 ケシュアの所為でローゼスが勘違いをしてしまったではないか。
 入場料は百歩譲って払うとしても、どちらかと言えば入場列に並ぶのが億劫なのだ。他の客が並んでいる状況下で並びたくねぇ――とは、言い辛い。


 結局入場するだけで30分。もう疲れた……。しかし、まだまだ先は長い。

「ひょっとして、会談を前に俺を疲弊させて主導権を握ろうって魂胆なんじゃ……」

「考えすぎじゃない?」

 もちろん冗談のつもりだったのだが、あどけない表情から繰り出されるミアからのツッコミは今日も好調な様子。

 目指すはネクプラスタッフエリア。ファームステーションと呼ばれる建物まではおおよそ1キロ。
 ミアはというと、動物ふれあい広場に気を取られているようだが、遊ぶのは話し合いが終わってからだ。
 ミアだけを遊ばせておくのも心配だし、だからと言って従魔を護衛に付ければ、前回のように子供達に囲まれかねない。
 子供達を振り払えとは言えないし、そうなっては守れる者も守れまい……。

 そんなことを考えながら歩いていると、見えてきたのはメリルとその手を握るキャロ。
 どうやらキャロは、既にメリルとの再会を果たしてしまった様子。その瞬間を見られなかったのは残念だが、満面の笑みを浮かべながらも俺達へと向け手を振るその姿は、入場時の疲れが吹き飛んでしまうくらいには幸せそうであった。

「よう、メリル。もう体の方は大丈夫なのか?」

「まだ本調子ではないが、おかげさまでな。……いや、あたいの事はどうでもいいんだ。九条……キャロの事、本当に感謝する……」

 神妙な面持ちで頭を下げるメリル。キャロもそれを隣で真似る。

「別にお前の為にキャロを助けた訳じゃない。聞いているとは思うが、キャロは俺ではなくお前を選んだんだ。その意味は――わかるだろ?」

 メリルを疑うわけじゃないが、そこはハッキリ聞いておかねばならぬこと。キャロに何かあってからでは遅いのだ。
 ファフナーからどやされるのは御免である。

「ああ。この身に変えてもキャロの事は守ってみせる。九条の厚意を無駄にはしない」

 決意に満ちた表情で自分の胸を叩くメリル。そう真っ直ぐ見つめられると照れてしまうが、それだけの自信。これならキャロを任せても大丈夫だろう。

「ならいい。今回は一時的な外出だからまだキャロとは一緒に住めないが、そう遠くはないだろうとだけ言っておく。後の細かい事はケシュアから聞いてくれ」


 ひとまずキャロとローゼスはメリルに預け、エルザの元へと向かう。
 どうやらケシュアと共にメリルの部屋で待機しているらしいが、何を言われる事やら……。
 関係者以外立ち入り禁止と書いてある扉の先から毛色を変える辺りの様子。掃除道具や雪掻き用だろうスコップが並べられ、客用とは明らかに異なる殺風景な建物は、如何にも従業員用といった佇まい。
 そんなファームステーションにお邪魔すると、メリルの部屋の扉を叩く。

「どうぞ。開いてるわ」

 返って来たのはケシュアの声。部屋の中には静かに着席している老婆と、ケシュアが並び立っていた。
 そして、その影にはロープで身体を縛られている見知らぬ中年男性が1人。
 ほぼ治りかけてはいるものの、顔にはいくつかの痣と傷。俺と目が合うと、そいつは気まずそうに目を逸らした。

「ひさしぶりじゃのぉ。九条」

「ああ、そうだな」

 開口一番、ニヤリと気色の悪い笑みを浮かべるエルザ。
 正直、村ではちょくちょく顔を合わせるので、それほど懐かしいという感覚はなく、どちらかといえば鬱陶しい。

「こんな所まで遥々ご苦労な事だが、組織の秘密でも喋る気にでもなったか?」

 まずは挨拶ついでに、軽いジャブ。

「ワシ等の秘密を知りたいのならば教えよう。しかし、本題の前にお主には謝らなければならぬ事がある」

「謝る? 今まで俺につき纏っていた事をか?」

「いいや、違う」

 エルザの目配せにケシュアが無言で頷くと、後ろで縛られた男の襟元を掴みズルズルと引き摺る。
 そして、その男をワダツミの前に投げ出したのは、恐らくワザと。

「ひぃぃッ……!?」

 何もせず、ただ立っているだけのワダツミを見上げ、勝手に悲鳴を上げる男。

「こやつはモンド。組織の構成員として人材登用を任せているんじゃが、こやつはワシとお主との約束を破ったのじゃ」

「約束?」

「ほれ。シャーリーとシャロンには手を出さぬと約束したではないか。モンドはその取り決めを破り、シャーリーを組織に引き込もうと手を出したんじゃよ」

 確か、魔法学院の試験が一段落した後のことだったか……。シャーリーがネクロガルドの事を調べ、シャロンが助けを求めに来た時の話だ。
 エルザを家に呼び出し、シャーリーとシャロンには手を出すなと怒鳴った記憶が甦る。
 確かにあの時、エルザはそれを約束した。

「も……申し訳ございません九条様ッ! 知らなかったんですッ! なにせコット村の警備は厳重。エルザ様との連絡も碌に取れず……。ケシュアが定時連絡の時に教えてくれれば、こうはならなかったんだッ! お前が九条様を早く取り込めと急かすからッ!」

「仕事が遅いのは事実でしょ? 責任転嫁はやめてもらえる?」

 ケシュアと男が言い争いを始めると、エルザは溜息を溢しつつもわざとらしく咳払い。
 それだけで2人は静まった。流石は最高顧問なだけはある。コット村で見せる飄々とした老婆は何処へやらだ。

「何であれ約束を破ったのは事実じゃ。九条には謝罪をせねばなるまい。必要であれば、この男の処分もお主に任せるつもりで連れて来た」

「シャーリーがどうなったのかを話すのが筋だろう? 謝罪を受けるかどうかは、状況次第だ」

「そう怖い顔をするな。何も変わらんよ。とは言え、説明はさせてもらうがの」

 エルザはテーブルに置かれていた飲み物を口に運ぶと、小さな溜息をつく。

「お主がグランスロードへと発つ前、シャーリーとアーニャがギルドに呼び出されたじゃろう? あれがそもそもの原因じゃ。こやつがギルドに働きかけ、お主との分裂を謀ったんじゃ」

 エルザからギロリと睨まれたモンドは、ただでさえ肩身の狭い空間で更に身体を縮込めた。

「確か、シルバープレート冒険者の質を上げる為……だったか?」

「そうじゃ。指導役となる者の選定に携わり、その名目で2人を呼び出し勧誘しようと目論んでいたというわけじゃ」

 さらっと聞き流したが、それはネクロガルドがギルドをも裏から操作できるほどの力を持っているという事に他ならない。

「結果、2人を勧誘したはいいがあっさり断られたそうじゃ。そこで九条との約束をシャーリーから聞かされ、事実確認の為ワシに一報が入ったというわけじゃよ」

 エルザは、その場でゆっくりと立ち上がり、床に膝を突くと頭を下げた。

「本当にそれ以上の事はしていない。すぐに勧誘は中止させた。……とは言え、約束を破った事は事実じゃ。組織の長としての責任を取るつもりでここへ来た」

「エルザ婆!?」

 ガチの土下座である。その表情は見たことがないほどに真剣だった。何時まで経っても上がらない頭。
 正直困惑していた。カガリに反応がないのだから、偽りの謝罪ではないことはわかってはいるのだが……。
 今までの事は別と考え、今回の事は許すのか……。それとも、今までの迷惑行為を棚に上げるなと叱責するべきか……。
 少なくとも誠意は感じられる。失態を犯した部下の為に、上司がこんな所まで頭を下げに来たのだ。

 ふとミアに目を向けると、はにかんだような笑顔を浮かべながらも頷いた。
 俺がどうするのかを、ミアはわかっているのだろう。
 頭を下げ抵抗の意志を見せない者に、罰だと言って暴行を加える姿なぞミアに見せられるわけがない。
 簡単な話だ。迷った時は、ミアが悲しむような選択をしないのが俺の意思なのである。

「はぁ、わかったよ。頭を上げろ。シャーリーとアーニャに実害がないなら、そこまでする必要はない。そもそも謝るのは俺じゃなく、シャーリーとアーニャにだろう?」

「2人には謝罪済みじゃ。安心せい」

 頭を上げたエルザはその勢いで立ち上がり、何事もなかったかのように椅子に座る。

「お主なら、そう言ってくれると思っておったわい」

「……反省はしろよ?」

「もちろんじゃとも。部下の失態は上司の失態。じゃから頭を下げたじゃろう」

「もし、俺が許さなかったらどうするんだよ……」

「その時は、こやつの首を差し出すつもりじゃ。冗談などではないぞ? それがケジメというものじゃ。のぅ、カガリよ」

 見透かされたような視線を向けられ、逆にエルザを睨みつけるカガリ。にも拘らず、エルザは笑顔を見せていた。
 最初から嘘で誤魔化そうなどとは微塵も思っていないのだろう。カガリが同席しているのだ。言うなれば、この空間は法廷よりも厳しく監視されているのである。
 あの時と同じ……。エルザは敢えて自分を不利な状況に置く事で、俺達からの信用を得ようとしているのだ。
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