生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第464話 モフモフ仮面

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 観客席の塀の上から両手を伸ばすエルザ。それを仕方なく受け止める俺。
 正直こんなジュリエットはこちらからお断りだが、言い争っている場合ではない。
 マスクの中では顔を歪めながらも、エルザをしっかりキャッチする。その軽さは、本当に戦闘なんか出来るのかと疑ってしまうほど。
 同時に耳元で囁かれた言葉にゾクゾクしながらも、マスクのおかげで精神的ダメージは大分軽減された。

「油断するなよ……」

「何年生きとると思うておる?」

 確かに人生においても、この世界においても大先輩ではあるのだが、既にピークは過ぎているであろう年齢だ。
 正直、不安しかない。

「3人で平気か? もっと応援を呼んでもいいぞ?」

 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるベヒモス。明らかにおちょくっているのだろうが、今更その程度で腹を立ててはいられない。
 別に煽り方が下手くそだとかそういうことではなく、いまから命のやり取りをするのだから真剣にもなるというもの。

「どうしても歯が立たなかったら、救援を呼ばせてもらおうかな」

「ハハハ……。構わんぞ? それまで生きていられたらの話だがな!」

 その一言の後、明らかに気配が変わった。
 恐らくは先程の一撃を避けた所為で、多少なりとも俺に対する評価を変えたのだろう。
 そのまま油断してくれていればいいものを……。
 まるで深呼吸でもするかのように、大きく息を吐き出すベヒモス。

「我に歯向かう者達よ。名を名乗れ。貴様らの勇気を称え、その名を覚えておいてやろうではないか」

 それに真っ先に答えたのはケシュア。

「確かに何も知らずに倒されちゃうのも可哀想だから、冥途の土産に教えてあげる。私はケシュア。対峙する者の実力もわからないようじゃ言っても無駄だと思うけど、今逃げ出すなら見逃してくれると思うわよ?」

 余計な刺激を与えてほしくはないのだが、ケシュアのその自信は一体何処から来るのか……。
 成長か、それとも慣れか……。デュラハンを前にちびっていた当時の面影は、最早ないに等しい。

「命を張って獣人に媚びを売るとは殊勝な心掛けだが、この時代のエルフは随分と衰退したのだな」

 ケシュアの言葉を軽く受け流し、何事もなかったかのように、その視線をエルザへと向けるベヒモス。

「次はワシか? ワシはエルザ。メリルの知り合いなんじゃが、友人とはちと違うかの。まぁ見た通りの老婆故、お手柔らかに頼むよ?」

 それを聞きながらも、俺はどちらを名乗るべきなのかとギリギリまで悩んでいた。
 メリルと戦い、盛大に負けるという当初の目的は既に破綻している。俺がモフモフ仮面でいる必要性はなくなったと言っていい。
 俺が正体を明かして戦えば、獣人達の人間に対するイメージが変わるかもしれないのだ。キャロが俺達に心を開いてくれたように……。
 とは言え、モフモフ仮面でのメリットがないわけでもない。
 俺の正体を知る者は極僅か。ネヴィアの口さえ封じてしまえば、死霊術の禁呪をも行使出来るのは魅力的だ。
 その他全ての責任をネヴィアに丸投げ出来るのも、大きいと言えば大きい。

 その時だ。会場内に響き渡った子供の声。

「がんばれぇ! モフモフかめぇーん!」

 そこに集まる周囲の視線。見上げたVIP席から顔を覗かせていたのはミアである。

「ベヒモスなんて、ぶっとばせぇぇ!」

 その声援で思い起こされるのは、休日のショッピングセンター。まるでヒーローショーでも見ているかのような緊張感のなさは、マスクの中で頬を緩めてしまっても仕方ない。
 それがネヴィアの意思なのか、それともミアが単独暴走しただけなのかは不明だが、悩む俺には十分すぎる決定打。

「俺の名は、モフモフ仮面! この世の全ての獣を愛し! 全ての獣に愛される男ッ!!」

「うわ、ダッサ……」

 微かに聞こえたケシュアの呟きに文句の1つも言ってやろうかと思ったその時、観客席からは聞いた事もないような大歓声が上がったのだ。

「うぉぉぉぉ! がんばれモフモフ仮面ッ!!」

「メリルの仇を取ってくれぇぇッ!!」

 まさかの盛り上がりに、ビクッと身体が跳ねてしまったほど。
 先程のお通夜のような雰囲気から一変。観客達は立ち上がり、思いの丈をぶつけるかの如く声を張り上げる。
 その内容は、声援に始まりベヒモスを罵倒する者まで様々だが、会場の気持ちがまるで1つにまとまったかのような高揚感は、流石の俺でもやる気が出るというものだ。

「ふん。無駄な事を……。あの子供も貴様の関係者か? 随分と威勢が良いじゃないか。これは楽しみが増えたな」

「……どういう意味だ?」

「お前達を殺した後、巫女の前であの子供を喰らってやるのもまた一興……。巫女は自分の存在を呪い、我の前で命乞いをするのだ!」

 それに大きな溜息をついたのはケシュア。目を細め、呆れたような口調で肩を竦めた。

「あーあ。痛い目を見るだけですんだかもしれないのに……。あんた死んだわ……」

 それをケシュアに代弁されてしまうのは、俺が見透かされてしまうほどに単純だからだろう。
 とはいえ、間違ってはいない。当然ミアに危害を加えるというなら排除するまでである。
 そろそろ時間稼ぎも十分だ。

「もうお前と話すことは何もない。抵抗しなけりゃ楽に殺してやる……」

 その台詞回しは、どちらが悪なのかと悩んでしまうが、更生の余地がなければ手加減なぞ無意味。
 金剛杵を手に、ゆっくりとベヒモスへと向かって歩き出す。武術の心得なぞあるはずもなく、構えもまるでなってはいない自然体。
 そのまま速度を上げ続け遂には全速力へと至ると、ベヒモスの顔面目掛けて金剛杵を一気に振り抜いた。

「ふんッ!」

 当然、正面からの素直な攻撃が当たるはずもなく、ベヒモスは後方へと飛び、金剛杵は虚しく空を切る。
 すぐに反撃に出ると思ったのだが、ベヒモスにその気はない様子。

「貴様! 従魔はどうした!?」

 獣使いビーストテイマーなら、従魔を使役して戦うのは当たり前。
 直に武器を持ち、自ら突撃してくる獣使いビーストテイマーが異様に見えるのだろう。

「俺は従魔を大切にしてるんだ。お前みたいなのに傷物にされちゃ困るんでね。必要になったら参戦してもらうから心配はいらん」

「そうか! ならば死んで後悔するがいいッ!」
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