生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第489話 教育的指導

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 俺達のやり取りを無言で聞いていた白狐とコクセイは、カガリとワダツミ同様に特別驚いた様子もなく、むしろ期待外れとでも言うべき不満そうな表情を浮かべていた。

「な? だから期待するなと言っただろ?」

 わかってはいたのだ。ワダツミもカガリも俺の出自を聞いた時、まるで意に介していなかった。
 獣である彼等は、決して群れの長を裏切らない。恐らく考え方はそれと同じ。
 俺の従魔だから――ではなく、自分が選んだ主人だからこそ、何があろうとも一生ついて行くと決めている。
 それが、彼等の揺るぎない信念なのだろう。
 そんな白狐とコクセイを、全身を使ってこれでもかと撫で回す。
 勿論、俺を異世界人と知りながらも受け入れてくれる気前の良さと、精一杯の感謝を込めてだ。

「……シャーリー、あんたが言いなさいよ……」

「……ここはアーニャが言うべきでしょ? 誰の所為でこうなったと思ってんのよ……」

 ミアと一緒になって従魔たちと戯れていると、僅かに聞こえたヒソヒソ話。
 見れば、シャーリーとアーニャがお互いを肘で突っつき合っているのだが、何をそんなに遠慮しているのか……。

「どうした? まだ何か質問があるなら答えるが……」

「いや、そうじゃなくて……」

 何やら気まずそうな表情のシャーリー。ならばアーニャはどうかと視線を移すも、それは露骨に避けられる。

「聴き辛いことなら、後で部屋に来てくれれば個人的に……」

「違うの。九条の事じゃなくて……」

 俯き加減で要領の得ない解答。俺の事ではないなら、なんなのか?
 エルザやソフィアの目が気になるという感じでもなさそうだ。
 そんなシャーリーを見かね、手を差し伸べたのはソフィアである。

「……よろしければ、私の方からお伝えしましょうか?」

「えっ!? ……いや……うーん……」

 一瞬だけ見せたシャーリーの笑顔も、すぐに難色を示す。
 どうやらソフィアは知っているらしい。ということは、ギルド関連か村のこと……。
 どちらにしろ、ソフィアを問いただした方が早そうだ。

「村で、何かあったんですか?」

「いえ、村は至って順調です。強いて言うなら、東門の関所の管理に関して領主様にいくつか聞きたいことがあるくらいで……。今回の件は……」

「待ってソフィアさん。私からちゃんと言うから!」

 ――――――――――

 こちらも隠し事をしていた手前、早く言え――と急かすわけにもいかず、シャーリーがソフィアを制止してから約10分。
 ようやく口を開いたかと思ったら、その事実に困惑の表情を隠せない。

「はぁ? 冒険者活動停止処分2ヵ月ぅ!?」

「シィーッ! 声が大きいッ!」

 身を乗り出し、俺の口を塞ごうと手を伸ばしたシャーリーであったが、流石にそれは届かない。
 冒険者活動停止処分とは、その名の通り冒険者としての活動が出来なくなることである。
 元の世界で言うところの、運転免許停止。所謂免停と同じようなものだ。
 言われてみれば、シャーリーもアーニャも首からプレートを下げていない。

「ちょっと待て。さっきは門番として仕事してたじゃないか」

「あれは村民としてのボランティア。ギルドからの依頼じゃないもん」

 その心がけは立派なのだが、一体何をやらかしたのか……。

「ご愁傷様……と言いたいところではあるが、別にそれを俺に報告しなくても……」

 そんな俺の言葉を遮り、声を荒げたのは他でもないソフィアだ。

「ダメです! シャーリーさんもアーニャさんもモフモフ団のパーティメンバーなんですから、そこはしっかりしないといけません! 仮にそれを知らずに九条さんがパーティ必須の依頼を受けたら、契約不履行で違約金を支払うことになるんですよ!?」

「そ……そうですね……」

 なるほど。ギルド……というより、ソフィアの意向ということか。
 確かに、そんなことで違約金を払うような状況になるのは避けたいが、俺が進んで依頼を受けるとでも思っているのだろうか?
 ……まぁ、そういった忠告もギルド職員としての務めなのだろう。仕事にキッチリしているのは、ソフィアらしいと言えよう。

「それで? 一体何をすれば活動停止処分になんてなるんだよ」

 それを聞き、シャーリーとアーニャが顔を見合わせ無言で頷くと、俺達がグランスロードへと旅立ってからのことを話し始めた。

 冒険者強化月間。その指導役として、ベルモントのギルドに呼び出されたシャーリーとアーニャ。
 まずは指導プランをと話し合いをしていたギルド職員が、ネクロガルドの諜報員。
 2人の勧誘がタブーであると知らずに話を切り出し、後日エルザから謝罪を受けたというわけだ。
 そこまでは俺もエルザから聞いて知っている。問題はここからだ。
 2人のゴールドプレート冒険者から指導を受けられるとあって、スタッグ全土から集まって来たシルバープレート冒険者。その数なんと60人。
 それを今更中止にする――という訳にもいかず、シャーリーとアーニャが監修する冒険者への特訓が幕を開けた。
 しかし、その訓練方針に異を唱える者達が現れたのだ。
 シャーリー曰く、楽して強くなれると思ってた者達。座学や筋トレのような地道な努力ではなく、手っ取り早くスキルや魔法を教えてもらえると思っていたらしい。
 実力に見合わないスキルを覚えたところで、使いこなせるわけがない。
 例えるなら5㎏の物しか持ち上げられない筋力の者に、10㎏の剣を与えるようなもの。
 そもそも、適性もバラバラの60人にもなる集団に、懇切丁寧な個人指導など出来るはずがないのである。
 それを何度も説明したにもかかわらず、聞く耳を持たなかった冒険者達。そんなことだからシルバー止まりなんだ――とアーニャが煽った事によって、冒険者たちは怒り心頭。
 60対2というかつてない規模の模擬戦に発展し、それを2人は完膚なきまでに叩きのめしたというのだ。

「流石に60人相手はキツくてさ。模擬戦の舞台をコット村とベルモントの間にある森の中にしたのよ。そこで地の利を生かしたってわけ」

 途中から自慢話のように聞こえてくるのは、気のせいだろうか?
 生き生きと喋るシャーリーは、何故か得意気だ。

「シャーリーの土地勘と私の魔法が合わされば、あんな奴等ちょちょいのちょいよ」

「「ねー?」」

 同様に胸を張るアーニャは、シャーリーと顔を見合わせ意気投合。
 いつの間に、こんなに仲が良くなったのか……。

「まぁ、やり過ぎたとは思うけど、手加減できる数じゃないしさ」

 舌をちょろっと出し、やっちゃった――みたいな顔をされても、こちらとしては判断に困ってしまうのだが、少なくとも反省の色はなさそうだ。
 60人の冒険者が負傷。その治療にはそこそこの時間が掛かるはず。
 喧嘩両成敗とでも言おうか、その間は仕事が出来ない事を考えると、2人の活動停止は妥当なのかもしれない。
 個人的には処分など必要ないとは思うが、負傷した60人の心情を汲み取り仕方なく……といったところだろう。

「……そこに至るまでの経緯は、俺が口を出すことじゃないが、ひとまずは2人が無事でよかったよ」

「ほらね? 九条ならそう言ってくれると思った!」

 何が、そう言ってくれると思った――だ。ならば最初からもったいぶらずに言えただろうに……。
 まぁシャーリーとアーニャなら、たとえ無職になったところで困ることもないだろう。
 2人のサバイバル能力は、俺なんかとは比べ物にならないほど卓越しているのだから。

「でね? 今回の件で、私たちって意外と人にものを教える才能があるってわかったの! 最後はみんな素直になったし!」

「へぇ……。なら良かったじゃないか」

「うん! だからソフィアさん。後輩の教育が必要になったら、また何時でも声をかけて! 今度こそ絶対上手くいくわ!」

 ウキウキのシャーリーに、ソフィアは笑顔の欠片すら見せない仏頂面で返事を返す。

「いえ、その必要はありません」

「……え?」

「残念ですが、お二方はベルモントギルドを出禁となりました」

「……」

 暫く続いた無言の時間。理解が追い付かないのか、シャーリーとアーニャは固まったまま動かない。

「え? 今なんと?」

「先程連絡があり、シャーリーさんとアーニャさんはベルモントギルドに出入り禁止となりました」

 どうやら2人は、向かってきた冒険者達にトラウマを植え付けてしまったらしい。
 シャーリーとアーニャにやられた者達の約半分が、プレートを返却し冒険者を引退したとのこと。
 先程までの自信に満ち溢れていたシャーリーは見る影もなく、今や顔を真っ赤にしてプルプルと小刻みに震えながら俯くだけ。

「……で……出禁て……」

 手を叩きながらの大爆笑。目頭に涙を浮かべてしまうほど笑うのはいつ以来だろうか……。
 2人には申し訳ないと思いながらも、流石の俺でもその結末には我慢ができなかった。
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