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第495話 非公式記念日
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「なんだこれ? 邪神像か?」
眉間にシワを寄せながら、よくわからない金のオブジェを注意深く観察するおにーちゃん。
悪趣味……とまでは言わないが、その形容し難い不思議な置物は、63番アントニオさんからのプレゼントだ。
誕生日のパーティーを無事終えると、私達は自宅へと戻り、プレゼントの開封に励んでいた。
「えーっと……。90番のラスタさんは……指輪!」
小さなテーブルに、山のように積み上げられていた未開封のプレゼント。
それも時間の経過とともに大分減り、ようやく終わりが見えてきた頃、口から出たのは盛大な溜息。
「はぁ……。ホントにこんな物、貰っちゃってもいいのかなぁ……」
ベッドの上に並べられたプレゼントの数々。そこは最早ジュエリーショップの見本市だ。
ランプの灯りに照らされて、その輝きを主張する宝石たち。
もちろんそれだけではないのだが、量的にも質的にも貰いすぎ感は否めない。
「今まで溜まっていた分が一気に来たと思えばいいじゃないか」
「確かにそうかもしれないけど……」
溜まった分どころか一生分……いや、生まれ変わって次の人生の分も考えたって絶対におつりがくるレベル。
そもそも、庶民の誕生日プレゼントとは言い難い。
「ドレスは一級品なんだ。それに見合った物だと思うが……」
「でも、着る機会なんて滅多にないでしょ?」
「それはどうかな? 残念な事に、貴族の知り合いは確実に増えてる。ほら、レストール家のシルビアとセレナなんて丁度いいお年頃じゃないか。浮ついた話の1つや2つ、あるかもしれないぞ?」
確かにレストール様の御息女が婚約――なんて話になったら、お呼ばれするとは思うけど、それを受けるかどうかはおにーちゃん次第。
経験上、絶対行きたくないってゴネるに決まっているのに、おにーちゃんときたら自分の事を棚に上げてずるい!
「むぅ……」
ほんの少しだけ口を尖らせる。
別に不満があるわけじゃない。パーティーは楽しかったし、ケーキや料理も美味しかった。
プレゼントは高価で非常に魅力的な物ばかりだが、その本質が私宛ではないことくらいお見通し。
普段のおにーちゃんは面会謝絶。村民以外の人は、ネストさんのお許しがないと相手にすらしてもらえない。
もちろん贈り物なんて受け取らないし、だからと言ってギルドにお金を積んだところで、橋渡しなどしないのだ。
そんなガードの堅いおにーちゃんを崩すとするなら、考えられる可能性はただ1つ。
本丸を落とすには外堀から……。つまるところは、私である。
表向きは私宛のプレゼント。もちろん感謝はしているし、それに価値がないと言いたい訳ではない。
ただ、それよりも価値のある物が、私の中に存在しているだけの話。
それに気付いてほしいだけなのに、自分からは言い出せない。
「おにーちゃん。これを見て?」
そう言って手を添えたのは、首に掛けたネックレス。
「セイレーンの涙がどうかしたか?」
「おにーちゃんが私にこれを託した時、なんて言ったか覚えてる? 贈り物の価値は自分で決めるものだ――って言ったんだよ? もちろん貰ったプレゼントに価値がないって言いたい訳じゃなくて……」
遠回し過ぎて、クイズのようになってしまったが、仕方ない。
おにーちゃんには期待するなと言われたのだ。直接催促なんて、できるわけがないのである。
「確かに言ったが……」
悩ませる事には成功したが、もどかしい。
おにーちゃんの視線の先は、テーブルの上の未開封のプレゼント。
しかし、見るべき所はそこではなく、その下の椅子にさりげなく置かれた見慣れぬ箱の方である。
「……」
「……あぁ、そう言う事か……。すまんな。プレゼントの開封を全て終えたら、最後に渡すつもりだったんだ」
手をポンっと叩くと、おにーちゃんは椅子を引き、その箱を両手で包み込むように抱え私の前に跪いた。
「誕生日おめでとう。ミア」
待ちに待った瞬間だ。差し出された箱は、今までの物とは違う飾りっ気のない簡素な物。
それを開けると、中から出てきたのは少し深めな長方形の箱である。夜の帳のような漆黒と金の縁取りは高級感に溢れ、その雰囲気はおにーちゃんがバイスさんから貰ったローブと少し似ている。
「箱の中に……箱?」
艶はなく手触りはサラサラ。木箱ほど重くはなく、かといって革のような弾力もない不思議な素材。
それを膝の上に乗せ、ゆっくりと上蓋を開けた。
「わぁ……」
箱の内側は真っ赤に染められたスウェード生地。それは、小さな羽根ペンを優しく包み込んでいた。
晴れた日の青空のような色をした羽根は、一般的な物より大分小さい。グリップの部分には獣毛が巻かれ、見ただけでも握り心地は良さそうだ。
肝心のペン先は、羽根の先をそのまま使用した物ではなく別素材。インクに浸した訳でもないのに最初から真っ黒で、重さから金属ではなさそう。
無数の細かい縦溝が特徴的で、渦を巻いた独特な形状をしている。
「ありがとう、おにーちゃん!」
「いや、それは俺からじゃなく、従魔達からだ。その素材はみんながミアの為にと提供してくれたもの。だから、お礼は従魔達に言ってあげるといい」
「ソウダゼ! アリガタク使エヨ。相棒ノ相棒ゥ!」
その瞬間、おにーちゃんの胸元から飛び出してきたのは、インコのピーちゃん。
パタパタと羽ばたきながらもカガリの上に着地すると、カガリは私を無言で見つめながらも頷いた。
「ありがとう。カガリ! あとピーちゃんも!」
羽根ペンを手に取ってみる。
グリップに巻かれた色とりどりの獣毛は、雨上がりにチラリと覗いた虹のよう。
下から順に黒はコクセイ、青はワダツミ、白が白狐でカガリが朱色だ。
羽根はもちろんピーちゃんの物で、肝心のペン先は……なんだろう?
「芯はカイエンの爪だ。デカい割には金属より柔らかくて、加工するには最適だと雑貨屋のオヤジが言ってたよ」
「あぁ、そっかぁ……」
言われてみれば、確かに色合いは似ている。
「後で、みんなにもお礼を言わなくちゃ!」
「そうだな」
「……あれ?」
そこで、ふと気が付いた。この羽根ペンが従魔のみんなからの贈り物だとすれば、おにーちゃんのは?
……しかし、辺りを見渡してみてもそれっぽい物は何もなく、隠している風にも見えない。
「どうした? キョロキョロと……」
「ううん。なんでもない」
きっと、私の為に開いてくれたパーティーこそが、おにーちゃんからのプレゼントなのだ。
危うく、催促しておにーちゃんを困らせてしまうところだったと、半ば諦めかけていたその時だった。
「俺からのプレゼントを探しているのか? それなら、そこにあるじゃないか」
「えっ!?」
にやりと不敵な笑みを浮かべるおにーちゃん。その指が差す場所は、私の膝に置かれた黒い箱である。
「ええっ!? もしかして、この箱のことォ!?」
「ああ。それは、ベヒモスの角を削り出して作ったんだ」
すごいなんてもんじゃない。唯一無二と言って良いほどの素材なのに、何故箱なのか……。
確かに、大事な羽根ペンを仕舞っておくには申し分ないが、それにしては少々大きすぎるサイズ感。
「この箱は、こうするんだ」
そう言うと、おにーちゃんはベッドに並べられたアクセサリーをかき集め、ジャラジャラと箱の中へと放り込んだ。
そしてランプの灯りを消すと、辺りには静寂が訪れる。
すると、窓から差し込む月の光が集められた宝石たちを優しく照らし、乱反射した光が部屋一面に広がったのだ。
その輝きは、まるで星空。思わず声が漏れ出てしまうほどの美しさ。
「わぁ……」
「これだけの贈り物だ。仕舞っておく入れ物も必要だろう?」
羽根ペン用だと思っていたそれは、ジュエリーボックスを想定して作られた物だったのだ。
流石は私のおにーちゃん。意味もなく、ただの箱を贈るわけがないとは思っていた。
「ほら、普通の冒険者は魔物を狩ったり、ダンジョンでお宝を見つけては一喜一憂するもんじゃないか。だが、俺はというと冒険者らしい冒険はしていない。だから、少しだけでもその雰囲気を味わせてはやれないかと思って、それを作ってみたんだが……」
険しいダンジョンを踏破し目指すもの。それは、冒険者たちの夢でもありロマンでもある。
私の膝の上で輝くジュエリーボックスは、小さいながらもまさにそれ。目を瞑れば、理想の冒険が幕を開ける。
登場人物は私の他に、おにーちゃんに従魔達。バイスさんにネストさんにシャーリーさんにアーニャさんだ。
石造りの地下ダンジョン。強大な魔物を打ち倒すと、隠された部屋への扉が開かれる。
その中央の祭壇に安置されている宝箱は、もちろんこのジュエリーボックス。
皆が息を呑みそれを開けると、目を奪われるほどの宝石たちを前に各々を称賛し、喜びを分かち合うのだ。
確かに、おにーちゃんがお仕事に前向きだったのなら、そんな未来もあったのかもしれない。
依頼を受けない冒険者ランキングがあるとすれば、当然首位確定のおにーちゃんだが、そんなこと全然気にしてない。
むしろ、おにーちゃんの担当だからこそ貴重な経験も沢山できた。
王女様とはお友達になれたし、勲章もそう。サザンゲイア王国にグランスロード王国。更にはリブレス連合国にだって行けたのだ。
おにーちゃんは、仕事のついでの旅行――くらいに思ってるみたいだけど、私にとっては大冒険。
まさか魔族やドラゴンの知り合いができるとは思わなかったけど、どれも忘れられない思い出だ。
「俺が冒険をしない代わり――にはならないかもしれないが、受け取ってくれると嬉しい」
「もちろんだよ! ありがとう、おにーちゃん! すっごく嬉しい!」
膝の上の宝箱をそっとベッドに置き直し、おにーちゃんの胸に向かって飛び込んだ。
「ミア。やるなとは言わないが、いきなりは……」
「えぇ……。従魔の皆はいいのに、私はダメなのぉ?」
「ぐっ……」
出会った頃より少しだけ引き締まった身体。その抱き心地はちょっぴり悪くなっちゃったけど、なんだかんだ文句は言ってもしっかり受け止めてくれる。
これが、今の自分にできる最大の感謝。ホントはもっとありがとうって言いたいんだけど、言い過ぎちゃうとありがたみがなくなっちゃう気がして、ちょっと控えめ。
でも、その分スキンシップを多めにすれば大丈夫。おにーちゃん相手にしか出来ない感謝法。
ちゃんと私の気持ち、伝わってるはずだよね?
今日は私の誕生日。……厳密にはちょっと……いや、大分ズレてるんだけど、私だけの特別な記念日には変わらない。
まるで夢でも見ているんじゃないかと疑ってしまうほどの幸せの中で、私は今日この日の事を決して忘れはしないと、心に誓った。
大好きだよ、おにーちゃん!
眉間にシワを寄せながら、よくわからない金のオブジェを注意深く観察するおにーちゃん。
悪趣味……とまでは言わないが、その形容し難い不思議な置物は、63番アントニオさんからのプレゼントだ。
誕生日のパーティーを無事終えると、私達は自宅へと戻り、プレゼントの開封に励んでいた。
「えーっと……。90番のラスタさんは……指輪!」
小さなテーブルに、山のように積み上げられていた未開封のプレゼント。
それも時間の経過とともに大分減り、ようやく終わりが見えてきた頃、口から出たのは盛大な溜息。
「はぁ……。ホントにこんな物、貰っちゃってもいいのかなぁ……」
ベッドの上に並べられたプレゼントの数々。そこは最早ジュエリーショップの見本市だ。
ランプの灯りに照らされて、その輝きを主張する宝石たち。
もちろんそれだけではないのだが、量的にも質的にも貰いすぎ感は否めない。
「今まで溜まっていた分が一気に来たと思えばいいじゃないか」
「確かにそうかもしれないけど……」
溜まった分どころか一生分……いや、生まれ変わって次の人生の分も考えたって絶対におつりがくるレベル。
そもそも、庶民の誕生日プレゼントとは言い難い。
「ドレスは一級品なんだ。それに見合った物だと思うが……」
「でも、着る機会なんて滅多にないでしょ?」
「それはどうかな? 残念な事に、貴族の知り合いは確実に増えてる。ほら、レストール家のシルビアとセレナなんて丁度いいお年頃じゃないか。浮ついた話の1つや2つ、あるかもしれないぞ?」
確かにレストール様の御息女が婚約――なんて話になったら、お呼ばれするとは思うけど、それを受けるかどうかはおにーちゃん次第。
経験上、絶対行きたくないってゴネるに決まっているのに、おにーちゃんときたら自分の事を棚に上げてずるい!
「むぅ……」
ほんの少しだけ口を尖らせる。
別に不満があるわけじゃない。パーティーは楽しかったし、ケーキや料理も美味しかった。
プレゼントは高価で非常に魅力的な物ばかりだが、その本質が私宛ではないことくらいお見通し。
普段のおにーちゃんは面会謝絶。村民以外の人は、ネストさんのお許しがないと相手にすらしてもらえない。
もちろん贈り物なんて受け取らないし、だからと言ってギルドにお金を積んだところで、橋渡しなどしないのだ。
そんなガードの堅いおにーちゃんを崩すとするなら、考えられる可能性はただ1つ。
本丸を落とすには外堀から……。つまるところは、私である。
表向きは私宛のプレゼント。もちろん感謝はしているし、それに価値がないと言いたい訳ではない。
ただ、それよりも価値のある物が、私の中に存在しているだけの話。
それに気付いてほしいだけなのに、自分からは言い出せない。
「おにーちゃん。これを見て?」
そう言って手を添えたのは、首に掛けたネックレス。
「セイレーンの涙がどうかしたか?」
「おにーちゃんが私にこれを託した時、なんて言ったか覚えてる? 贈り物の価値は自分で決めるものだ――って言ったんだよ? もちろん貰ったプレゼントに価値がないって言いたい訳じゃなくて……」
遠回し過ぎて、クイズのようになってしまったが、仕方ない。
おにーちゃんには期待するなと言われたのだ。直接催促なんて、できるわけがないのである。
「確かに言ったが……」
悩ませる事には成功したが、もどかしい。
おにーちゃんの視線の先は、テーブルの上の未開封のプレゼント。
しかし、見るべき所はそこではなく、その下の椅子にさりげなく置かれた見慣れぬ箱の方である。
「……」
「……あぁ、そう言う事か……。すまんな。プレゼントの開封を全て終えたら、最後に渡すつもりだったんだ」
手をポンっと叩くと、おにーちゃんは椅子を引き、その箱を両手で包み込むように抱え私の前に跪いた。
「誕生日おめでとう。ミア」
待ちに待った瞬間だ。差し出された箱は、今までの物とは違う飾りっ気のない簡素な物。
それを開けると、中から出てきたのは少し深めな長方形の箱である。夜の帳のような漆黒と金の縁取りは高級感に溢れ、その雰囲気はおにーちゃんがバイスさんから貰ったローブと少し似ている。
「箱の中に……箱?」
艶はなく手触りはサラサラ。木箱ほど重くはなく、かといって革のような弾力もない不思議な素材。
それを膝の上に乗せ、ゆっくりと上蓋を開けた。
「わぁ……」
箱の内側は真っ赤に染められたスウェード生地。それは、小さな羽根ペンを優しく包み込んでいた。
晴れた日の青空のような色をした羽根は、一般的な物より大分小さい。グリップの部分には獣毛が巻かれ、見ただけでも握り心地は良さそうだ。
肝心のペン先は、羽根の先をそのまま使用した物ではなく別素材。インクに浸した訳でもないのに最初から真っ黒で、重さから金属ではなさそう。
無数の細かい縦溝が特徴的で、渦を巻いた独特な形状をしている。
「ありがとう、おにーちゃん!」
「いや、それは俺からじゃなく、従魔達からだ。その素材はみんながミアの為にと提供してくれたもの。だから、お礼は従魔達に言ってあげるといい」
「ソウダゼ! アリガタク使エヨ。相棒ノ相棒ゥ!」
その瞬間、おにーちゃんの胸元から飛び出してきたのは、インコのピーちゃん。
パタパタと羽ばたきながらもカガリの上に着地すると、カガリは私を無言で見つめながらも頷いた。
「ありがとう。カガリ! あとピーちゃんも!」
羽根ペンを手に取ってみる。
グリップに巻かれた色とりどりの獣毛は、雨上がりにチラリと覗いた虹のよう。
下から順に黒はコクセイ、青はワダツミ、白が白狐でカガリが朱色だ。
羽根はもちろんピーちゃんの物で、肝心のペン先は……なんだろう?
「芯はカイエンの爪だ。デカい割には金属より柔らかくて、加工するには最適だと雑貨屋のオヤジが言ってたよ」
「あぁ、そっかぁ……」
言われてみれば、確かに色合いは似ている。
「後で、みんなにもお礼を言わなくちゃ!」
「そうだな」
「……あれ?」
そこで、ふと気が付いた。この羽根ペンが従魔のみんなからの贈り物だとすれば、おにーちゃんのは?
……しかし、辺りを見渡してみてもそれっぽい物は何もなく、隠している風にも見えない。
「どうした? キョロキョロと……」
「ううん。なんでもない」
きっと、私の為に開いてくれたパーティーこそが、おにーちゃんからのプレゼントなのだ。
危うく、催促しておにーちゃんを困らせてしまうところだったと、半ば諦めかけていたその時だった。
「俺からのプレゼントを探しているのか? それなら、そこにあるじゃないか」
「えっ!?」
にやりと不敵な笑みを浮かべるおにーちゃん。その指が差す場所は、私の膝に置かれた黒い箱である。
「ええっ!? もしかして、この箱のことォ!?」
「ああ。それは、ベヒモスの角を削り出して作ったんだ」
すごいなんてもんじゃない。唯一無二と言って良いほどの素材なのに、何故箱なのか……。
確かに、大事な羽根ペンを仕舞っておくには申し分ないが、それにしては少々大きすぎるサイズ感。
「この箱は、こうするんだ」
そう言うと、おにーちゃんはベッドに並べられたアクセサリーをかき集め、ジャラジャラと箱の中へと放り込んだ。
そしてランプの灯りを消すと、辺りには静寂が訪れる。
すると、窓から差し込む月の光が集められた宝石たちを優しく照らし、乱反射した光が部屋一面に広がったのだ。
その輝きは、まるで星空。思わず声が漏れ出てしまうほどの美しさ。
「わぁ……」
「これだけの贈り物だ。仕舞っておく入れ物も必要だろう?」
羽根ペン用だと思っていたそれは、ジュエリーボックスを想定して作られた物だったのだ。
流石は私のおにーちゃん。意味もなく、ただの箱を贈るわけがないとは思っていた。
「ほら、普通の冒険者は魔物を狩ったり、ダンジョンでお宝を見つけては一喜一憂するもんじゃないか。だが、俺はというと冒険者らしい冒険はしていない。だから、少しだけでもその雰囲気を味わせてはやれないかと思って、それを作ってみたんだが……」
険しいダンジョンを踏破し目指すもの。それは、冒険者たちの夢でもありロマンでもある。
私の膝の上で輝くジュエリーボックスは、小さいながらもまさにそれ。目を瞑れば、理想の冒険が幕を開ける。
登場人物は私の他に、おにーちゃんに従魔達。バイスさんにネストさんにシャーリーさんにアーニャさんだ。
石造りの地下ダンジョン。強大な魔物を打ち倒すと、隠された部屋への扉が開かれる。
その中央の祭壇に安置されている宝箱は、もちろんこのジュエリーボックス。
皆が息を呑みそれを開けると、目を奪われるほどの宝石たちを前に各々を称賛し、喜びを分かち合うのだ。
確かに、おにーちゃんがお仕事に前向きだったのなら、そんな未来もあったのかもしれない。
依頼を受けない冒険者ランキングがあるとすれば、当然首位確定のおにーちゃんだが、そんなこと全然気にしてない。
むしろ、おにーちゃんの担当だからこそ貴重な経験も沢山できた。
王女様とはお友達になれたし、勲章もそう。サザンゲイア王国にグランスロード王国。更にはリブレス連合国にだって行けたのだ。
おにーちゃんは、仕事のついでの旅行――くらいに思ってるみたいだけど、私にとっては大冒険。
まさか魔族やドラゴンの知り合いができるとは思わなかったけど、どれも忘れられない思い出だ。
「俺が冒険をしない代わり――にはならないかもしれないが、受け取ってくれると嬉しい」
「もちろんだよ! ありがとう、おにーちゃん! すっごく嬉しい!」
膝の上の宝箱をそっとベッドに置き直し、おにーちゃんの胸に向かって飛び込んだ。
「ミア。やるなとは言わないが、いきなりは……」
「えぇ……。従魔の皆はいいのに、私はダメなのぉ?」
「ぐっ……」
出会った頃より少しだけ引き締まった身体。その抱き心地はちょっぴり悪くなっちゃったけど、なんだかんだ文句は言ってもしっかり受け止めてくれる。
これが、今の自分にできる最大の感謝。ホントはもっとありがとうって言いたいんだけど、言い過ぎちゃうとありがたみがなくなっちゃう気がして、ちょっと控えめ。
でも、その分スキンシップを多めにすれば大丈夫。おにーちゃん相手にしか出来ない感謝法。
ちゃんと私の気持ち、伝わってるはずだよね?
今日は私の誕生日。……厳密にはちょっと……いや、大分ズレてるんだけど、私だけの特別な記念日には変わらない。
まるで夢でも見ているんじゃないかと疑ってしまうほどの幸せの中で、私は今日この日の事を決して忘れはしないと、心に誓った。
大好きだよ、おにーちゃん!
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そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
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しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
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