生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
506 / 722

第506話 誤審

しおりを挟む
 王宮の長い廊下を無言で歩く2人は、窓から差し込む陽光が嘘のような陰気を漂わせていた。
 バイアスの表情は険しい一方、アルバートは顔面蒼白。その足取りは重く、まるで覇気は感じられない。
 ほどなくして元居た寝室に辿り着くと、アルバートはおぼつかない足取りで近くの椅子へと腰を下ろした。
 ダラリと伸ばした手足は事切れてしまったかのような脱力感。
 見慣れた天井を見上げながらも溜息をつく。

「……九条は諦めるしかない。そうだろう? バイアス公」

 弱々しく訊ねるアルバートに対し、バイアスは何処か上の空。

「うーむ……。何か打つ手はないものか……」

「何を迷う必要があるのだバイアス公! アイツは感情が読めるんだぞ!? 言う通りにしなければ、僕もバイアス公も全てが終わりだ!」

「確かに仰る通りですが、プラチナの冒険者が不在となりますと、国にとっては大きな痛手に……」

「だからなんだというんだ! 九条の替えは効く。他の冒険者で補えばいいだけだろ!」

 アルバートの言い分も一理ある。
 結局は九条も一介の冒険者。質では劣るが量だけで言えば、アルバート派閥の冒険者も負けてはいない。
 しかし、九条の働きは少ないながらも偉業と言って差し支えはなく、過去に類を見ないほど。それは、無視できるレベルを超えている。

「恐らくは……いや、確実に九条を差し出す事にはなるでしょうが、何か起死回生の一手がないものかと……。与えられた貴重な3日間を有効に……」

「無駄だ! 九条を渡さない限り、この国の未来はない! 先程、バイアス公も言っていたではないか!」

 ヴィルザール教の影響力は絶大だ。教会と敵対することになれば、シルトフリューゲルは愚か世界を敵に回す事になる。
 軍事力の強化に舵を切り始めたスタッグ王国ではあるが、一朝一夕で世界と戦えるほどの戦力を整えられる訳がなく、頼みの綱であるグランスロードからも見捨てられる可能性は高い。

「確かに……。ですが、今すぐにという訳ではありません。当面の心配はシルトフリューゲルだけでしょう」

「何故、そう言い切れる?」

「最悪、世界が我が国を敵と見做した場合の話です。グランスロードの同盟破棄はあり得ますが、かといって元々仲の悪いシルトフリューゲルに付き従うことはないでしょう。サザンゲイアもリブレスとの関係悪化が長引いている関係上、こちらを気にするほどの余裕はないと見ています」

「それには同意するが、シルトフリューゲルに教会勢力が加わるんだぞ? 九条の戒律違反を大義名分に、奴等は確実に停戦協定を破るだろう。百戦錬磨のニールセン公と言えど、押さえ込むには限界が……」

「そこは賭けでしょうな……。今こそ王国の危機であるとアルバート様が皆を奮い立たせれば、フェルス砦の防衛は必ず叶うでしょう」

 ニールセンとノースウェッジが手を組んだように、派閥の垣根を超え全ての貴族達が一丸となる……。
 とは言え、それは理想の話。利益のない出兵ともなれば、ほとんどの貴族が消極的な回答を示す。
 バイアスは、そんな状況に憂いを抱いていた。

(我が国は、決して弱い国ではないはず……)

 不毛な派閥争いに、終止符を打つ。
 バイアスにとって、アドウェールの死はまたとない機会だった。改革を進めるタイミングは、今をおいて他にない。
 その為にも、アルバートには泰然自若を貫いてほしかった。
 曲がりなりにも国王を殺し、自分がそれに取って代わろうとしているのだ。
 経験は人を成長させる。バイアスはアルバートに期待していたのだ。保守的な思考から、一皮剥けるだろうことを……。

「お父様にだって無理なんだ。僕に出来るわけがないだろう!?」

「何を弱気になっているのです……。アルバート様は王になるのですよ? 陛下……御父上を超えてみせると豪語するくらいの気概を持っていただかなねば……」

「わかっている! だから、九条を諦めるんだ! お父様の国葬を成功させ僕の戴冠式をやるには、上辺だけでも教会に従うしかない! 国葬に教皇が派遣されなかったらどうする? その理由を、皆にどう説明するつもりなんだ!?」

 自国だけの問題ではない。国葬には他国からも多くの要人が招かれる。
 教皇不在の国葬となれば、不信感を抱かれるのは当然であり、その場で各国の来賓から糾弾される可能性もあり得る話だ。

「その答えは、3日後になれば自ずとわかることでしょう。結果はわかり切っていますが……」

 残り時間は3日。その間に集められるだけの貴族を招集し、結論を出す必要がある。
 客観的に見れば、九条は切り捨てられるだろう。ほとんどの貴族は保身を優先するはずだ。
 プラチナとは言え所詮は人間。他国への抑止力には違いないが、彼等は本当の九条を知らない。
 反対派に回るのは、第4王女派閥のほんの一握りだけである。

「はぁ……。リリー様にはどうお伝えすればいいものやら……。陛下の崩御に次いで、九条の事までも伝えねばならぬかと思うと……。今から気が重いですな……」

 バイアスの脳裏に浮かんできたのは、九条の事をアドウェールに報告するリリーの姿。
 玉座に座るアドウェールの膝の上で、嬉しそうに話すその表情は、グリンダに嫌がらせを受けていた時の悲壮感漂う作り笑いではない。
 心の底から沸き上がる感情を抑えきれず、無意識に出てしまっているとびっきりの笑顔だ。
 それは、王族であることを忘れていると言っても過言ではなく、絵に描いたような仲睦まじい親子であった。

「……いや、伝える必要はない」

「アルバート様。確かにリリー様の悲しむお顔を見たくはないでしょうが、いずれは知ることに……」

「違う! リリーが九条を庇う可能性もある。国外へ逃げられると厄介だ。どんな手を使ってでもいい。リリーは暫く足止めしておけ。理由は何だっていい。それと、九条に迎えもだ」

「――ッ!? ……御意……」
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ
ファンタジー
小説家になろうで先行投稿してます。 異世界から飛ばされてきた美しいエルフのセレナ=ミッフィール。彼女がその先で出会った人物は、石の力を見分けることが出来る宝石職人。 宝石職人でありながら法具店の店主の役職に就いている彼の力を借りて、一緒に故郷へ帰還できた彼女は彼と一緒に自分の店を思いつく。 セレナや冒険者である客達に振り回されながらも、その力を大いに発揮して宝石職人として活躍していく物語。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

処理中です...