生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第508話 初手土下座

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 ベルモントでレイヴン公と合流した後、多少遅れはしたものの、無事王都に辿り着いた。
 遅れた理由は誰の所為でもなく、道中俺の迎えと称する騎士達に遭遇したからだ。
 なんでも、レイヴン公が俺を連れてこれなかった時の為の予備部隊であるとのこと。
 ネストの父親であるアンカース卿が発行した面会許可証を携えていたのだ。少なくとも俺に対する理解は、レイヴン公より上だった。
 ただ、それを聞いたレイヴン公は大激怒。暗に信用していないと言われているようなものである。
 まぁ、あの態度だ。内情を知らなければ、確かにお断りする寸前ではあった為、あながち間違ってはいない。
 迎えを寄こした者は、俺だけではなくレイヴンという人物をも熟知しているのだろう。
 そんなわけでレイヴン公の怒りが静まるまで待たされ、1日ほど時間を無駄にしたわけだ。

 久しぶりの王都はまさに厳戒態勢。賑わいを見せていた大通りは人の往来も疎らで、町全体が喪に服しているといった様子は不謹慎ながらもどこか懐かしさすら感じさせる。
 それでも仕事は仕事。まずは到着の報告をとギルドに足を向けようとしたのだが、レイヴン公にその必要はないと一蹴され王宮へと一直線。
 国からの呼び出しだ。問答無用とでも言わんばかりに圧力をかけられるその権力は、若干だが羨ましい。

 王宮に用意されたのは、見覚えのある一室。来賓用の部屋だろう受勲の時と同じ部屋。
 あらゆるものがキラキラと輝いていて、やはり慣れはしないのだが、ミアは少し嬉しそう。
 そこへ、2人の使用人が荷物を運び入れてくれた。
 到着からお茶の準備までをテキパキとこなしてくれるのはいいのだが、全てを終えても一向に部屋から出て行こうとしない。

「何かあれば、遠慮なくお申し付けください」

「ありがとうございます。ですが、後の事は自分達で出来ますので……」

 扉の前に立つ2人の女性はそれを聞き、その場で恭しく頭を下げた。
 だが、そうではない。遠回しに出て行ってくれと言っているのだが、どうやら通じてはいない様子。
 使用人がそういうものであることは知っている。ネストやバイスからは、いない者として扱えと言われているが、見張られているような気がして落ち着かないのだ。

「従魔の皆がいれば、追い出せたのにね」

 そんな俺に、こそっと耳打ちをするミア。
 魔獣を見てビビり散らす使用人達を思い浮かべ、言い得て妙だと苦笑する。

 そこへ突然の来訪者。部屋に響くノックの音に、ミアと二人で首を傾げる。
 俺が呼ばれるのは、まだ先であったはず。暫くは用事もないので、今日はゆっくり旅の疲れを癒せ――と言ったのは、他でもないレイヴン公だ。
 とは言え、居留守という選択肢は用意されていない。使用人達から向けられる視線は、早く返事をしろとの催促のよう。

「どうぞ」

 俺の声に、待ってましたと扉を開けた使用人。
 そこに立っていたのは、ふくよかな体つきの中年男性。
 偉そう……と言えば聞こえは悪いが、レイヴン公に負けず劣らずの大貴族を思わせる貫禄である。

「失礼する」

 一歩二歩と歩みを進め、礼儀正しく一礼する貴族の男。
 その意外さのあまり反応が遅れてしまったが、こちらも慌てて立ち上がり頭を下げた。

「はじめまして。九条……と、ギルドで担当をしてもらっているミアです」

 出された右手で握手を交わす。その手はミアにも平等に向けられた。

「はじめまして。私はバイアス。公爵という立場ではあるが、そう畏まらずともよい。二人とも楽にしてくれたまえ」

 柔らかい表情を浮かべるバイアス公。こうやって言葉を交わすのは初めてだが、バルザック勲章の授与式で見かけた顔だ。
 ニールセン、レイヴンと並ぶ公爵の一人。呼び出されることはあっても、自らが足を運んでくることはない。それほど厳格である……と、ネストにはそう教わったのだが、一体何の用なのか……。

「お前達は下がりなさい」

 バイアス公が静かに片手を上げると、使用人達が部屋を出て行く。
 その足音が聞こえなくなるほど小さくなると、バイアス公からは笑顔が消え失せ真剣な面持ちへと早変わり。
 その深刻さは、ただ挨拶に来ただけという訳ではなさそうだ。

「まずは九条殿。今日、私がここを訪れたことは内密にしていただきたい」

「はぁ……。それは構いませんが……」

 そこまで言いかけ、察しがついた。
 消去法である。第4王女派閥の貴族とは面会謝絶。ニールセン公は第2王女を支持していた。そしてレイヴン公が王派閥であるならば、バイアス公は第1王子の派閥に属しているのではないだろうか?
 人払いに加えお忍びでの訪問となると、答えは1つ。レイヴン公の予想は当たっていたのだ。
 アルバートが陛下を殺め、バイアス公がその尻ぬぐいに追われている。
 恐らくバイアス公は、俺を買収しに来たのだろう。
 降霊の儀式に失敗する。又は、成功してもアルバートに不利な言動は避けろ……といったところか……。
 不正に加担するつもりはないが、相手がどれだけの条件を提示してくるのかは気にかかる。

 すると、バイアス公はその場に膝を付き正座した。そしてそのまま頭を地面に付けたのだ。

「――ッ!?」

 完璧な土下座である。断腸の思いであるに違いない。公爵という立場を顧みず、恥辱を晒してまでアルバートを庇護したいのだろう。
 騎士道精神とでも言うべきか、主に対する忠誠心は賞賛に値する。
 だが、そうではなかった。バイアス公は、俺も予想だにしなかった言葉を口にしたのだ。

「九条殿! 何も言わず、国の為に死んでくれッ!」

「…………はぁ?」

 直球すぎて、暫く頭が回らなかった。
 口封じをするにしても、いきなり死ねとは色々と端折り過ぎである。
 礼儀を弁えているミアでさえ、何言ってんだコイツ……みたいな顔でバイアス公の土下座を眺めている。

「えーっと……。普通に嫌ですけど……」

 そりゃそうだろう。居酒屋の店員じゃあるまいし、ハイよろこんでぇ! と、なるわけがない。
 公爵という立場の者が、土下座までしたのだ。それがこの世界でどれだけの意味を持つのかは、理解しているつもりだ。
 それに免じて、アルバートに手心を……と言われるならまだしも、死ねとは一体どういう了見なのか……。

「ひ……ひとまず、落ち着いて話し合いませんか? 俺の説得が難しいと考えているのも理解出来ますが、こちらも譲歩できる部分があるかもしれませんし……」

「……そんなものはない……」

 いきなりの決めつけに多少の苛立ちを覚え、つい言葉が強くなる。

「俺の機嫌を損ねても、良い結果にはならないと思いますが……?」

「九条殿の機嫌など気にしている場合ではない。九条殿には、禁呪使用の疑いが掛けられているのだ……」

「――ッ!?」

 予想外……いや、いずれはと予想はしていたが、まさかこのタイミングでとは思わなかった。
 とは言え、慌てて否定などしようものなら怪しまれかねない為、慎重を期す。

「そうですか……。正直疑われるようなことは何もしていないつもりですが、それはどういった状況でのことです? 自分が禁呪を使ったのを誰かが目撃していたとでも?」

 するとバイアス公はゆっくりと立ち上がり、俺達に着席を促すと、これまでの事を話し始めた。
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