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第521話 後光
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盲目の目が眩んでしまうほどの魔力の閃光。
それに耐えきれず、少し目を背けただけなのに、次の瞬間には状況が一変していた。
「アルバート様をお守りしろぉぉッ!」
後方から響くバイアスの怒号。盲目にはそんな声すら届いてはいない。
眼前に現れたのは巨大な魔力反応。その大きさは最早規格外という他なく、それ故に盲目は九条の魔力を見失ってしまったのだ。
(九条が魔獣になった!? いや、違う。人の魔力は微塵も感じられない……)
見える魔力は混じりっ気なしの魔獣の反応。
九条よりも小さいミアの魔力は見えている。それは巨大な魔獣をよじ登り、鬣の中に隠れるよう息をひそめていた。
ならば、見失ったのではなく、消えたのだ。それは死を意味する。
残された魔力の全てを使い魔獣を呼び出したと考えれば、辻褄は合う。
(まずいですねぇ……)
魔力など見えずともわかる力の差。と言っても、盲目が弱い訳じゃない。
冒険者ではない為プレートは持っていないが、その実力はゴールドに近いと噂されるほど。
相手がアンデッドであれば、その評価は更に増すのだが、それを踏まえても目の前の敵は強大すぎた。
「バルザックといい、九条といい……。なんでこう死霊術師ってのは、自己犠牲が好きなんですかねぇ!?」
迫りくる巨大な前足からの攻撃を、ギリギリのところで躱し続ける盲目。
魔力の流れが読めるからこそ何とかなってはいるが、止まれば危うい自転車操業。
鋭利な爪で次々と抉られていく石畳は、数秒前まで盲目が立っていた場所である。
その威力は言わずもがな。飛散した破片が辺りに突き刺さり、逃げ遅れた貴族達からはうるさいほどの悲鳴が上がる。
当然王国の兵士風情が敵うはずもなく、積極的に相手をしようなどと思う者など一人もいない。
とは言え逃げるわけにもいかず、ただ自分が狙われませんようにと祈りながら構えているだけだった。
「"セイクリッド・フラジェラム"!」
逃げ回りながらも、隙を見つけては荒波のような鎖の束を金の鬣に浴びせる盲目。
低位のアンデッドであれば、拘束は愚か消滅してしまうほどの威力を誇るが、雀の涙。
その手ごたえは石柱を叩いたかのように硬く、まるで微動だにしていない。
魔力反応は透き通るほど澄んでいて、それは感情を揺さぶるほどのダメージにはなっていない事と同義であった。
(もぉぉぉッ! こんなデカブツ、私の鎖じゃ拘束しきれませんて!)
当然、盲目は大型の魔獣を相手にした経験など無い。それは冒険者の領分である。
(チッ……逃げるべきか、援軍を待つべきか……)
魔獣を呼び出した本当の目的は、ミアを安全に逃がす為。その為には、追手になり得る盲目の無力化は最低限必要だ。
九条は、その過程で魔力を全て使い果たし死亡した。ならば、盲目が戦う理由はないのだが、九条の持つ魔法書は控えめに言っても魅力的。
それを持ち帰ることが出来れば、神への貢献度は当然増す。
(逆にこの魔獣を倒す事が出来れば、魔法書は愚か、王国を影からコントロールできるだけの発言権を得ることも可能……)
焦点は、それが自分の命を懸けるに値するのかどうかである。
この状況において盲目に勝機があるとするなら、その可能性は2つだけ。
1つは、この事態に気付いたギルドが冒険者を派遣すること。
時は夕暮れ。冒険者たちも依頼を終え、報告へと帰還してくる時間帯。問題は、ゴールドクラスの冒険者が相当数必要な事で、そう考えると期待値は低い。
もう1つは、エルメロードの護衛であり、プラチナ冒険者でもあるイーミアルとの共闘なのだが……。
「あまり気乗りはしませんが、そんなこと言ってる場合でもなさそうですねぇ……」
ヴィルザール教には、大きく分けて2つの派閥が存在する。
1つはシルトフリューゲルに本拠地を構える教皇派。もう1つは、エルフ達が崇拝する神樹派だ。
その違いは、それぞれが崇める御神体にある。
神樹派は、世界樹を崇めているのに対し、教皇派は、勇者と共にもたらされたと言われている聖剣を崇めている。
その為、同じ神を信仰してはいるのだが、どちらも良くは思っていないというのが現状だ。
「背に腹は代えられませんねぇ。ここは1つ、協力を仰ぎますか……」
金の鬣にとっては狭いコロシアムの中。速度の乗らない突進を横へと飛び込みギリギリ躱した盲目が地面をゴロゴロと転がり、タイミングよく南側の貴賓室を見上げるも、既にそこはもぬけの殻。
「いないじゃないですかぁ!」
その隙を突かれ、盲目の身体を薙いだのは金の鬣の尻尾。
まるで鞭のようにしなる蛇の頭は、巨大な岩石の飛来に等しい威力を誇る。
「ぎゃッ……!」
そのまま吹き飛ばされ、宙を舞う盲目。
コロシアムの壁面へと打ち付けられるも、その身体は咄嗟に巻いたであろう鎖に守られ、一命は取り留めていた。
ゆっくりと振り返った金の鬣。その先にいる獲物が動く様子を見て、ニタリと口角を上げる。
「――ッ!?」
その魔力からようやく読み取れた感情に、盲目は絶望を覚えた。
欲望を満たす事によって起こる喜びの色。快楽である。
盲目は、生かされているだけに過ぎないのだ。金の鬣は、与えられたおもちゃが壊れないようにと加減して遊んでいるだけだった。
(ちょっとヤバいですねぇ……。これじゃぁ逃げようにも……)
あくまで狙いは盲目のみ。それがブレることはなく、故に逃げ出す隙すら見出せない。
唯一その可能性があるとすれば、金の鬣の後方。先程の突撃で大きく瓦解した壁面から覗く外の景色。
金の鬣の注意を少しでも逸らす事が出来れば、その可能性は飛躍的に向上するのだが、そう都合よく事が起こるはずもない。
(まずはこちら側に誘導して、出口から離さないと……。大丈夫……私には神の御加護が……)
盲目が最後まで諦めなかったからか、それとも神を信じていたからか……。奇跡とも思えるタイミングで、それは起きた。
頭上から多数飛来する魔力反応。飛翔魔導船から降り注ぐ魔法の矢に、金の鬣の意識が盲目から逸れたのである。
「ガァァァァッ!」
咆哮と同時に周囲が白い閃光に包まれると、頭上から聞こえる轟音。
まるで夕日がもう1つ出来てしまったかのような赤い光に周囲が照らされるも、盲目はそれに見向きもせず一目散に駆け出した。
「やはり神は、私を見捨ててはいなかったッ!」
天へと向いた金の鬣の視線が、再び盲目の下へと戻るまでの間は僅か数秒。
その視界から外れる事さえ出来れば、盲目には逃げ切れる自信があった。
相手は巨体。それは、散らかった部屋の中で小さなネズミを探し出すのに等しい行為。
(いけるッ!)
音を鳴らさないよう鎖をピンと張り、姿勢を低くして駆け抜ける。
足を前へと出すのが少しでも遅れれば、転倒は必至。それは死を意味するのだが、何故か盲目はその足を緩めてしまった。
目の前の瓦礫を飛び越えてしまえばいいだけだ。逃げるべき先は見えている。にも拘らず、近づくにつれ大きくなっていく違和感。
光を感じる事のない盲目の目が、眩しさを覚えたのである。
(なに……? 太陽……?)
それは、長いトンネルの出口を示すかのような一条の光。
まるで、そこがゴールだとでも言わんばかりの輝きであったが、それは盲目にとって希望の光とはならなかった。
「アァァァァァァッ! 目がァァァァッ!!」
突如足を止め、自分の顔を両手で覆い俯く盲目。
目指していた瓦礫。その先には、死んだはずの九条が立っていたのだ。
その魔力の輝きは、金の鬣などとは比べ物にならない。それは盲目の瞼を優に貫通し、脳内に直接突き刺さるほど激痛であった。
それに耐えきれず、少し目を背けただけなのに、次の瞬間には状況が一変していた。
「アルバート様をお守りしろぉぉッ!」
後方から響くバイアスの怒号。盲目にはそんな声すら届いてはいない。
眼前に現れたのは巨大な魔力反応。その大きさは最早規格外という他なく、それ故に盲目は九条の魔力を見失ってしまったのだ。
(九条が魔獣になった!? いや、違う。人の魔力は微塵も感じられない……)
見える魔力は混じりっ気なしの魔獣の反応。
九条よりも小さいミアの魔力は見えている。それは巨大な魔獣をよじ登り、鬣の中に隠れるよう息をひそめていた。
ならば、見失ったのではなく、消えたのだ。それは死を意味する。
残された魔力の全てを使い魔獣を呼び出したと考えれば、辻褄は合う。
(まずいですねぇ……)
魔力など見えずともわかる力の差。と言っても、盲目が弱い訳じゃない。
冒険者ではない為プレートは持っていないが、その実力はゴールドに近いと噂されるほど。
相手がアンデッドであれば、その評価は更に増すのだが、それを踏まえても目の前の敵は強大すぎた。
「バルザックといい、九条といい……。なんでこう死霊術師ってのは、自己犠牲が好きなんですかねぇ!?」
迫りくる巨大な前足からの攻撃を、ギリギリのところで躱し続ける盲目。
魔力の流れが読めるからこそ何とかなってはいるが、止まれば危うい自転車操業。
鋭利な爪で次々と抉られていく石畳は、数秒前まで盲目が立っていた場所である。
その威力は言わずもがな。飛散した破片が辺りに突き刺さり、逃げ遅れた貴族達からはうるさいほどの悲鳴が上がる。
当然王国の兵士風情が敵うはずもなく、積極的に相手をしようなどと思う者など一人もいない。
とは言え逃げるわけにもいかず、ただ自分が狙われませんようにと祈りながら構えているだけだった。
「"セイクリッド・フラジェラム"!」
逃げ回りながらも、隙を見つけては荒波のような鎖の束を金の鬣に浴びせる盲目。
低位のアンデッドであれば、拘束は愚か消滅してしまうほどの威力を誇るが、雀の涙。
その手ごたえは石柱を叩いたかのように硬く、まるで微動だにしていない。
魔力反応は透き通るほど澄んでいて、それは感情を揺さぶるほどのダメージにはなっていない事と同義であった。
(もぉぉぉッ! こんなデカブツ、私の鎖じゃ拘束しきれませんて!)
当然、盲目は大型の魔獣を相手にした経験など無い。それは冒険者の領分である。
(チッ……逃げるべきか、援軍を待つべきか……)
魔獣を呼び出した本当の目的は、ミアを安全に逃がす為。その為には、追手になり得る盲目の無力化は最低限必要だ。
九条は、その過程で魔力を全て使い果たし死亡した。ならば、盲目が戦う理由はないのだが、九条の持つ魔法書は控えめに言っても魅力的。
それを持ち帰ることが出来れば、神への貢献度は当然増す。
(逆にこの魔獣を倒す事が出来れば、魔法書は愚か、王国を影からコントロールできるだけの発言権を得ることも可能……)
焦点は、それが自分の命を懸けるに値するのかどうかである。
この状況において盲目に勝機があるとするなら、その可能性は2つだけ。
1つは、この事態に気付いたギルドが冒険者を派遣すること。
時は夕暮れ。冒険者たちも依頼を終え、報告へと帰還してくる時間帯。問題は、ゴールドクラスの冒険者が相当数必要な事で、そう考えると期待値は低い。
もう1つは、エルメロードの護衛であり、プラチナ冒険者でもあるイーミアルとの共闘なのだが……。
「あまり気乗りはしませんが、そんなこと言ってる場合でもなさそうですねぇ……」
ヴィルザール教には、大きく分けて2つの派閥が存在する。
1つはシルトフリューゲルに本拠地を構える教皇派。もう1つは、エルフ達が崇拝する神樹派だ。
その違いは、それぞれが崇める御神体にある。
神樹派は、世界樹を崇めているのに対し、教皇派は、勇者と共にもたらされたと言われている聖剣を崇めている。
その為、同じ神を信仰してはいるのだが、どちらも良くは思っていないというのが現状だ。
「背に腹は代えられませんねぇ。ここは1つ、協力を仰ぎますか……」
金の鬣にとっては狭いコロシアムの中。速度の乗らない突進を横へと飛び込みギリギリ躱した盲目が地面をゴロゴロと転がり、タイミングよく南側の貴賓室を見上げるも、既にそこはもぬけの殻。
「いないじゃないですかぁ!」
その隙を突かれ、盲目の身体を薙いだのは金の鬣の尻尾。
まるで鞭のようにしなる蛇の頭は、巨大な岩石の飛来に等しい威力を誇る。
「ぎゃッ……!」
そのまま吹き飛ばされ、宙を舞う盲目。
コロシアムの壁面へと打ち付けられるも、その身体は咄嗟に巻いたであろう鎖に守られ、一命は取り留めていた。
ゆっくりと振り返った金の鬣。その先にいる獲物が動く様子を見て、ニタリと口角を上げる。
「――ッ!?」
その魔力からようやく読み取れた感情に、盲目は絶望を覚えた。
欲望を満たす事によって起こる喜びの色。快楽である。
盲目は、生かされているだけに過ぎないのだ。金の鬣は、与えられたおもちゃが壊れないようにと加減して遊んでいるだけだった。
(ちょっとヤバいですねぇ……。これじゃぁ逃げようにも……)
あくまで狙いは盲目のみ。それがブレることはなく、故に逃げ出す隙すら見出せない。
唯一その可能性があるとすれば、金の鬣の後方。先程の突撃で大きく瓦解した壁面から覗く外の景色。
金の鬣の注意を少しでも逸らす事が出来れば、その可能性は飛躍的に向上するのだが、そう都合よく事が起こるはずもない。
(まずはこちら側に誘導して、出口から離さないと……。大丈夫……私には神の御加護が……)
盲目が最後まで諦めなかったからか、それとも神を信じていたからか……。奇跡とも思えるタイミングで、それは起きた。
頭上から多数飛来する魔力反応。飛翔魔導船から降り注ぐ魔法の矢に、金の鬣の意識が盲目から逸れたのである。
「ガァァァァッ!」
咆哮と同時に周囲が白い閃光に包まれると、頭上から聞こえる轟音。
まるで夕日がもう1つ出来てしまったかのような赤い光に周囲が照らされるも、盲目はそれに見向きもせず一目散に駆け出した。
「やはり神は、私を見捨ててはいなかったッ!」
天へと向いた金の鬣の視線が、再び盲目の下へと戻るまでの間は僅か数秒。
その視界から外れる事さえ出来れば、盲目には逃げ切れる自信があった。
相手は巨体。それは、散らかった部屋の中で小さなネズミを探し出すのに等しい行為。
(いけるッ!)
音を鳴らさないよう鎖をピンと張り、姿勢を低くして駆け抜ける。
足を前へと出すのが少しでも遅れれば、転倒は必至。それは死を意味するのだが、何故か盲目はその足を緩めてしまった。
目の前の瓦礫を飛び越えてしまえばいいだけだ。逃げるべき先は見えている。にも拘らず、近づくにつれ大きくなっていく違和感。
光を感じる事のない盲目の目が、眩しさを覚えたのである。
(なに……? 太陽……?)
それは、長いトンネルの出口を示すかのような一条の光。
まるで、そこがゴールだとでも言わんばかりの輝きであったが、それは盲目にとって希望の光とはならなかった。
「アァァァァァァッ! 目がァァァァッ!!」
突如足を止め、自分の顔を両手で覆い俯く盲目。
目指していた瓦礫。その先には、死んだはずの九条が立っていたのだ。
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