生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
522 / 722

第522話 魔王復活の兆し

しおりを挟む
 膝を折り、まるで土下座でもしているかのような格好で身体を震わせる盲目。
 その世界は白く覆われ、最早方向感覚すら皆無なのだが、九条がそれを知る由もない。
 九条はそれを一瞥し、呆れたように呟いた。

「……なんだ、まだ生きてたのか」

 それはただの独り言だ。盲目に呼び掛けた訳ではない為、その返事を待たずして九条はすぐに金の鬣を見上げた。

「俺の時は本気で殺しにかかってきたクセに、トラちゃんは随分と手加減したんだな……」

「我々をその名で呼ぶな。それは魔王様に許された者のみの特権……」

 獅子の口から発せられたドスの効いた低い声に、目を丸くした九条であったが、それを途中で遮ったのは狂った様な盲目の声。

「九条!? 私に何をしたぁぁぁぁッ!!」

 まさに興奮状態。髪を振り乱し血涙を流すその姿は、異様ではあるが恐怖はない。
 それ以上の恐怖を意のままに出来るのだから、九条にとっては多少の嫌悪感を覚える程度だ。

「うるさい。黙れ」

 そんな盲目を、容赦なく前足で払いのけた金の鬣。
 軽く叩いたように見えるそれも、体格差故にその威力は凄まじい。
 不意の一撃に成す術もなく、またしても壁面へと打ち付けられた盲目は、地に横たわり微動だにしなくなった。

「殺せとは言われていない。守れと言われただけだ」

 眼下の九条を睨みつける金の鬣。その眼光は鋭く、本当に九条が使役しているのかと疑うほどだが、当の九条は飄々としていた。

「ミアは?」

「無論、無事だ」

 金の鬣の竜の口がガバっと開くと、そこから勢いよく飛び出してきたミア。
 九条はそれを上手く抱き止め、勢いを殺す為クルリとその場で1回転。
 まるでダンスのターンを思わせるも、2人の恰好はみすぼらしく、お世辞にも華麗と呼べるものではない。

「大丈夫だったか?」

「うん。ちょっと臭かったけど平気!」

 素直な感想を漏らしたミアに苦笑しながらも、九条は竜の首を見上げた。

「よくやった……ファフ……トラ……。お前達の事、なんて呼べばいい?」

 すると、その言葉に全ての首が反応を示したのだ。

「ファフニールで構わない」「レグルスと呼べ」「ウロボロスだ」

「……バラバラじゃねーか。統一しろ。このままだと、金の鬣でキンちゃんだぞ?」

 それを聞いて顔を歪めた3つの首は、急遽あーだこーだと相談を始め、九条はその様子を見ながらも、なんとかやっていけそうだと安堵した。

 金の鬣は、魔王が作り出した合成魔獣。それは、ケシュアがグランスロードで語ってくれた三大厄災列強伝に登場する3匹の魔獣の王のこと。
 漆黒の竜王ファフニール、黄金の獅子王レグルス、そして蛇の王ウロボロスが世界を滅亡の寸前まで陥れたその罰として、魔王の手により各々の魂を1つの身体に封じられてしまったのだ。
 九条が金の鬣をよみがえらせる時、その頭蓋骨から記憶を読み取り、最も強靭な肉体を再生した。
 それは、まだ3つの魂が身体に馴染んでいない時期であり、故に3匹全ての自我が存在する結果となってしまったのだ。
 1つの身体に3つの魂が存在しているという状況。当然不安定であることは言うまでもないのだが、それが自壊せず保てているという事実に、九条は驚きを隠せなかった。

(恐らくは、複数の魂を入れることを前提に作られている肉体……。魔王とやらも大概だな……)

 見た目だけのツギハギではない。魂レベルで肉体を作り変えているのだから、それこそ神の所業と言えよう。
 とは言え、人語を解し意思疎通が可能となったのは、嬉しい誤算であった。

 ミアを抱きながらもテクテクと無造作に歩き出した九条は、コロシアムの中心でその足を止め、これでもかと声を張り上げる。

「諸君。ゲームをしようじゃないか。このまま全員殺したって構わないが、一方的な虐殺は味気ない。だから、お前達にチャンスをやろう。好きなだけ逃げてくれ。金の鬣の新たな名前が決まった時がタイムリミットだ。一番遅い奴から殺していく。……どうだ? 面白そうだろ?」

 コロシアムを囲む大勢の兵士達は、未だ逃げ出しもせずに突っ立っていた。
 九条は、そんな彼等の震えて動かない足にきっかけを与えたのである。

「じゃぁ、ミアの合図と同時にスタートだ」

「いきまーす。ヨーイ……どん!」

「「う……うわぁぁぁぁぁぁッ!」」

 若干の戸惑いを見せていた兵士達も、1人が踵を返すと、皆が一目散に逃げていく。
 ある意味、統率の取れたその動きは、訓練の成果が出ていると言っても過言ではない。

「おにーちゃん。トラちゃんの名前が決まったら、本当にみんな殺しちゃうの?」

「まさか。ただの人払いだよ。……それとも、ミアはそうした方が良かったか?」

「ううん。そんなことどうでもいいよ。早く帰ろう?」

「ああ。もちろんだ」

 現状、九条がここに留まる理由は何もない。
 当然、来賓は既に避難していて探しようがなく、アルバートにはお灸を据えておきたいところではあるが、魔法書がない以上出来る事は多くない。
 アドウェールの死因にしたってそうだ。九条は、その真相を知っている。
 本人を呼び出さなくとも、それを知る霊から聞けば済む話。しかし、それを今更告発したところで、信じる者はいないのだ。

「ファフニール、誰も近づけないよう辺りを火の海にしてくれ。恐らく周辺の住民は避難しているだろうが、出来るだけ人のいないところで頼む」

「おい! まだ名前は決まって……」

「わかってるよ。でも、火を吹くのはファフニールの首だろう?」

 これは九条なりの警告だ。口で言ってもわからなければ、力を見せつけるしかないのである。
 次はどうなるかを理解させるだけでいい。それでも尚向かって来るのなら、それは覚悟をしたうえでのことなのだろう。

「おにーちゃん。魔法書は?」

「それは後でも回収できる。ひとまずはここから離れよう。逃げ道は確保してあるから大丈夫だ」

 九条はその場を金の鬣に任せ、燃え盛る炎の中、礼拝堂へと姿を消した。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月中旬出棺です!! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...