生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第539話 作戦開始

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「それで? 斥候は?」

「……残念ながら連絡がない……。恐らくはもう……」

 コット村から数キロ離れた森の中、焚き火を囲み集まっていたのは9人の冒険者達だ。
 深夜の作戦決行に備えての最後の打ち合わせ――なのだが、斥候として村への偵察を試みた仲間の1人は、ついぞ帰っては来なかった。

「なんでだ! コット村に出入りしている奴は他にもいるじゃねぇか! 商人だって何食わぬ顔で通っているのに……」

「恐らくは、許可された者しか通れないんじゃないか? 合言葉とか……」

「だからって、殺すほどの事か!? まだ何もしてねぇじゃねぇか! バルドもそう思うだろ!?」

「落ち着けよ。まだ、死んだと決まった訳じゃないだろう?」

「無駄だよ。相手は仮にも魔王って呼ばれてんだぞ? 慈悲なんかあるわけねぇだろ。今頃は騎士団もお空の上だろうよ」

「ガロン……。そんな言い方はないだろ……」

 バルドからガロンと呼ばれたのは、筋骨隆々の大男。
 次期プラチナ候補とも名高いゴールドプレートの冒険者で、巨大な両手剣を背負い、その風貌だけでなく戦闘スタイルも似ていることから、影では残念な方のノルディックなどと呼ばれている。
 一見強面で、性格に難がありそうに見えるからこその表面的な評価。
 性根は温厚で人情深い……のだが、冒険者として周りから舐められないようにと野蛮で粗暴な振る舞いをしていたら、何時の間にかそれが定着してしまい、戻そうにも戻せなくなってしまっていたのだ。

「コット村だと思うから油断しちゃうんじゃない? 魔王城……いや、城はないから魔王村と思えば……。なんかダサイけど……」

「村が魔王に支配されているなら、そこは魔界とも呼べるんじゃないか?」

「なるほど、魔界村か……。案外アリだな……」

 少しでも雰囲気を良くしようと話題を変えるエレノアに対し、その思惑に気付いたバルドとロドリゲスは、わざとらしくも頷いた。

「村の呼び方なんてどうだっていいだろ! こっちは仲間が死んでるかもしれないんだぞ!?」

 尤もである。故に誰もそれには言い返さず、俯き静まり返る面々。

 結局、魔王の討伐に志願したのは、25名の冒険者達。
 うち、15名をダンジョンに。残りの10名をコット村へと割り振る計画だったのだが、既に1人の脱落者を出し残りは9名。
 バルド率いるフラグメントの3名。ガロン率いるハイス・フィアンマの4名。そして、1名が欠けたエスペランサの2名である。
 彼等の最終的な目標は、魔王である九条の討伐であるが、その中には先に派遣された騎士団の状況調査も含まれていた。
 残念ながら、コット村の中で何が起こっているのかはわからず仕舞い。
 出入りしている商人からは、騎士団の存在を否定されているのだが、その証言も信用に足り得るとは思えない。
 全滅も視野に入れてはいるが、人質は立派な交渉材料。捕虜として囚われている可能性も否めなかった。

「送る奴を間違えたんじゃねぇか? 斥候もまともにできねぇ無能なんて、いたところで役に立たねぇだろ」

「なんだと、テメェ!?」

 ガロンに向け、拳を振り上げたエスペランサのミック。
 斥候として行方知れずとなってしまったリーダー、フォボスとは旧知の仲。
 その怒りも当然だが、バルドはそれをなだめながらも大きく溜息をついた。

「……ガロン。少なくとも今は仲間だろう?」

「仲間なんぞになった覚えはない。俺達は俺達のやりたいようにやらせてもらう。そういう話だっただろ?」

「わかっている。別にお前達の邪魔をする気はないが、これから相手にするのは仮にも魔王。いざという時の後方支援は必要だろ?」

「いらねぇな。村の門番っつったって、たかだかデスナイトが2体だろ? 俺の剣なら1撃で屠れる。むしろ警戒が必要なのは魔獣の方だが、狩人レンジャーがいれば、不意打ちの心配はねぇ」

「そうかよ……。ならエスペランサは、こっちと合流でいいんだな?」

「好きにしろ。別パーティとの連携なんて、調子が狂うだけだ。俺達が門を制圧したら合図を出す。お前等はそれまで隠れてりゃいいんだよ」

 鼻で笑いながらも立ち上がるガロン。それに続くようハイス・フィアンマの3人も立ち上がると、準備を整え村へと向かって森の中を歩き出した。

 ――――――――――

「ウチのリーダーも、素直じゃないねぇ」

「……ウェイク、何の話だ?」

「フラグメントに神聖術師がいないから、エスペランサとくっつけたんだろ? 直接そう言えばいいじゃねぇか」

「ち……違う! 連携が狂うからだと言っただろ!?」

 顔を赤くして否定するガロンに、3人のパーティメンバーはくすくすと静かに笑みをこぼす。

「あぁ、そうだな。そういうことにしといてやるよ」

 長きに渡りパーティを組んでいるのだ。ガロンの本性を知り、冗談を言い合うのにも慣れたもの。
 それが彼等の日常だ。適度に緊張を解し、常にベストな状態を保つ事こそ良い結果を出す為のテクニック。

「そんなことより、そろそろだぞ? トラッキングの方はどうだ? ウェイク」

「……ちょっと待ってくれ……。何かおかしい……。ここからなら村の門番は射程内のはずだが、何の反応もない……」

「はぁ? まさかノーガードって事か? 魔獣の反応は?」

「いや、見当たらない……。もう少し前進するか?」

 先程までの笑みは消え、真剣な表情のウェイクに、ガロンはそっと頷いた。
 言われた通り、一行は森の中を慎重に進むも、ウェイクの表情は険しくなるばかりだ。

「ダメだ……。魔物の類は何も確認できない……」

 そこから導き出される可能性は2つ。本当にノーガードなのか、それとも人間を警備に立たせているのか……。

「仕方ねぇ。視認できる距離まで近づくしかねぇか……」

 狩人レンジャーのトラッキングを有効に使う為、深夜という時間帯を選択したが、それが裏目に出たと言っても過言ではない。
 月明かりがあるとはいえ門を視界に収めるには、村に相当近づく必要がある。

「フロイト。獣達に気付かれないよう、風向きを変えろ」

「【風変コントロールウィンド】!」

 念には念をと、フロイトが杖を振るった瞬間だった。

「――ッ!? 反応が出た! 門の裏側、数は5だ!」

 ウェイクの突然の声に、その場に伏せると息を潜めるハイス・フィアンマの面々。
 暫くすると、コット村の門が静かに開かれた。

「……誰か、出てくるぞ……」

 ようやく門番のお出ましかと目を凝らし、出てきた者達を分析する。

「あれは……騎士団……か……?」

 暗くて良くは見えないが、暫く手入れがされていないであろう汚れた鎧は、王国正規軍に支給されている物で間違いない。
 しかし、彼等はウェイクのトラッキングに引っ掛かった。
 その答えは、1つである。

「流石は魔王。随分と残酷な事をするじゃねぇか……」

 所謂ゾンビ。ネクロマンサーの十八番と言われる、死者を操る術である。

「いや、待て! アイツら本当にただのゾンビか!? ランクでいえばBに近い反応だぞ……」

「何ッ!?」

 ゾンビは、スケルトンと並ぶアンデッドの代表格。
 ダンジョンや戦場などの不浄な地では、自然発生する事もあるが、その強さは最弱な部類と言っていい。
 腐りかけの肉体。その動きは緩慢で、知能も乏しく力もそれほど強くない。とはいえ生命力だけは強く、手足を切り落とされた程度では動きを止めることすら叶わない。しつこさだけならピカイチだ。
 しかし、目の前の騎士団らしきゾンビ達はそうじゃなかった。
 しっかりとした足取りで門を閉じると、何かを探すかのようにキョロキョロと辺りを見回していたのだ。

「徘徊に出てきたってわけじゃなさそうだが……。ガロン、どうする?」

 たとえランクBの魔物と遜色ない強さでも、ハイス・フィアンマであれば瞬殺とは言わずとも殲滅は容易。しかし、それには条件がある。
 騎士は100名ほどいたはずだ。最悪を考えれば、同じ強さのゾンビが複数いてもおかしくはない。

「増えねぇうちに叩くしかねぇだろ……。アレを速攻で叩きのめし門を陣取る。ウェイクは、魔獣の出現にだけ警戒しておけ」

 彼等の第一目標は、西門の制圧。といってもそれは所謂、陽動である。
 ハイス・フィアンマが耐えている間に、フラグメントが村へこっそり忍び込む。
 魔王が従えているであろう魔獣の全てが相手となれば、分が悪いのは当然だ。
 だからこそダンジョンと村の同時攻略。防衛力の分散を狙っての策でもある。
 ガロンたちは勝てずとも、負けなければいいのだ。
 防御に集中すれば、時間を稼ぐくらいは出来る――というのが、彼等の見立てであった。
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