生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
556 / 722

第556話 元鞘

しおりを挟む
「これはこれは、王女様。お初お目にかかります」

 リリーの前で僅かに頭を下げた、白髪の老婆。
 ピーちゃんが超特急で連れてきたのは、ネクロガルドの最高顧問を務めるエルザだ。
 腰の曲がり具合は、杖をつかねば歩行も困難なほどではあるが、ダンジョンの最下層まで降りてくるのにそう時間が掛からなかったのは、エルザが猫を被っているから。
 逆に、見えないところで超ダッシュしてくれていると思うとありがたくはあるのだが、それを想像すると中々に滑稽である。

 エルザが来るまでの間、リリーには衣服の着用を許可した。
 俺がリリーに欲情しそうだからとか、そう言う訳じゃない。女児の裸は、ミアで見慣れている。
 後からエルザに、ロリコンだのなんだのと弄られるのが面倒なだけだ。

「あなたは……」

 リリーからすれば、見知らぬ老婆。何の為に呼ばれたのかもわかるまい。

「エルザ、答えてやる必要はない。それよりも、お前の見解を聞かせてくれ」

「イッヒッヒッ……匂いますよぉ。王女様からへったくそな呪詛の匂いがプンプンとねぇ……」

「えッ……!?」

 その言葉に、驚きを隠せないのはリリー。
 今だからわかる事もある。恐らくはカガリを使って、自分が呪われていることを伝えたかったのだろう。
 ケシュアと同じだ。それを口にするだけで、制約が破られたと見なされ死に至る。
 呪術師シャーマンの常套手段らしいが、逆を言うなら術者本人以外でも、解呪する方法が存在しているということ……。
 それが、みすぼらしくも見える老婆によって、瞬時に看破されたのだ。
 リリーもまた魔法を使う者として、エルザが闇魔法のプロフェッショナルだと言う事くらいは安易に想像ができただろう。

「やはりか……」

 呪いで縛っているのなら、魔法書の持ち出しが許可された事にも頷ける。
 いくら裏切りを防止する為とは言え、やっていることはネクロガルドと一緒。王族が聞いて呆れる……。
 それは最早犯罪者とも同等の扱いではあるが、そのおかげ――と言っては何だが、解決のための糸口は掴めた。

「解呪までに、どれくらい掛かる?」

「ワシだけとなると、すぐにとはいかんのぉ。早くても2週間といったところか……」

 俺に呪術の知識はない。専門家がそう言うのならそうなのだろうが、いくらなんでも長すぎる。

「どうにか短縮できないか?」

「そうじゃのう……。お抱えの呪術師を2人ほど呼ぶことが出来れば、数日中には何とかなるが……。サザンゲイアからとなると、そう変わらんのう」

 港に埠頭が出来ていれば、もう少し短縮できたかもしれないが、それでも厳しいと言わざるを得ない。
 長時間の拘束は、疑いしか生まないだろう。リリーには、帰還までの制限時間が設けられているはずだ。

「そこを何とか、もう一声!」

「簡単に言うがの……。他人のかけた呪詛を解くのは、そう簡単な事ではないんじゃぞ? それに失敗し発動すれば最後、王女様は命を落とす」

「命を落とすほどの呪いが、ヘタクソなのか?」

「呪詛の強さで言えば、申し分ない。ただ、全体的に荒いと言うか……雑なんじゃよ。術の隠ぺいも稚拙。強引であるが故に、身体の中で2つの魔力が反発し合っておる」

 そう言いながらも、リリーの身体をまさぐるエルザ。
 腕を捲らせ、まるで脈拍でも計っているかのように手首を両手で握り締める。
 更には、毛穴でもチェックしているのかと思うほどに顔を近づけ凝視していた。

「死霊術と同じじゃ。1つの身体に2つの魂を共存させるのが難しいように、魔力もまた然り。それが身体に害を及ぼすものであるなら尚更じゃな。今はまだ身体に影響は出ていないようじゃが、制約を抜きにしても王女様の命はあと1月といったところか……」

「それは、解除されなければの話だろう? 王宮に帰れば当然……」

「イッヒッヒッ……。本当にそう思うか? これほど強力な呪詛。恐らくは術者以外にもう一人。王女に強い恨みを持つ者が、力を貸しておるはずじゃ。そんな者が折角の呪詛を解くとでも?」

 不敵な笑みを浮かべるエルザに、俺は静かに押し黙る。
 王女相手に呪いをかけようと提案できるだけの身分の者。そしてリリーに恨みを持つ者といったら、俺は一人しか知らない。

「俺は……、どうすればいい?」

 俺がリリーを受け入れても、呪詛により命を落とし、かといって放っておいても結果は同じ……。

「何を白々しい。お主だって気付いておるじゃろ? もっとも簡単な解呪方法があるではないか」

 恐らくは、誰もが最初に思いつく呪いの解除方法。
 それは、術者を殺すこと――。

 単純明快ではあるが、それが如何に難しい事であるかは言わずもがな。
 当然相手も対策はしている。故に表に出てくる事はなく、術者はリリーの帰還まで王宮にて匿われていることだろう。
 だが、俺にはその状態でも術者をどうにかできる手段があった。
 王宮に潜む、2体のリビングアーマー。
 1体はノルディックの。そしてもう1体がグラハムの鎧。
 だが、その使い道は決まっていた。

 ――国王であるアルバートの暗殺。

 正直、迷いはなかった。コット村への襲撃を止めさせるには、元凶をどうにかするしかない。
 話し合いは無意味。アドウェールの殺害を知り得るだけの力が俺にはある。それは俺を消そうとする理由としては十分。
 それだけならまだいいが、ミアやシャーリーの命まで奪おうとしたのだ。それが俺の怨みを買うことくらい、わかっていたはず。
 その報いだ。当然ケジメはつけさせる。

 重要なのは、確実にアルバートを葬れるタイミングだ。
 当然アルバートは、常時誰かに守られている。必要なのは、警備の手薄な時間帯の情報。
 それを調べるのが、グラハムの役目でもあった。
 グラハムは既に協力者の1人。アンデッドになりたくないという恐怖心もあったのだろうが、村では比較的自由にさせていたからか、信用を得るのは容易かった。
 まずはアルバートがどういう人間なのかを、懇切丁寧に聴かせてやった。
 自分が王になる為とは言え、実の父親を殺害している。当然そんな者に尽くす忠義はないと怒り心頭。アルバートを見限るには、十分な要素だ。
 そもそもグラハムには蟠りがあった。コット村でのことは信じてもらえず、アルバートの親衛隊を除籍されている事に加え、救助には誰も来ていない。
 見捨てられたと考えても、おかしなことではないだろう。

「はぁ……。どうせ協力者ってのは、第2王女のグリンダだろ?」

 溜息と共に、玉座の背もたれに体重を預ける。
 歓喜が溢れんばかりのリリーの顔は、最早答えを聞く必要すらない。
 正直、それはアルバートの暗殺よりも安易だろう。グリンダは常にノルディックの鎧と供にいるのだ。
 それは処刑の為にと幽閉された地下牢で、俺自身が確認している。
 恐らくだが、術者もグリンダの目の届く範囲にいるはずだ。
 しかし、リリーの呪いを解く為にリビングアーマーを使ってしまえば、アルバートの暗殺は絶望的。
 1度切りのオペレーション。手の内がバレれば、当然2度目はないだろう。

「背に腹は代えられないか……」

 正直言うと、リリーには王宮で大人しくしていてほしかった。
 アルバートの暗殺に成功すれば、ほぼ間違いなくリリーが次の国王として就任するからだ。
 俺は、その後で魔法書の返還を申し出るつもりだった。
 リリーとであれば、建設的な話し合いができる。
 だからこそ無作法を装い、悪役に徹してまで突き放したというのに、どうしてこうなってしまったのか……。

 難しく考えがちではあるが、恐らく答えは単純だ。
 俺にはリリーの真意が読めておらず、またリリーも俺の真意が読めなかっただけの話。
 お互いを信頼しているからこそ、起こってしまった擦れ違いだ。
 とはいえ、リリーはそれに命を懸け俺の元へとやって来た。ならば当然、俺もその期待に応えよう。

 もちろん王族である前に、リリーもまた大切な仲間の1人であるからだ。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月中旬出棺です!! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...