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第563話 亀の甲より年の功
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「モーニングセット2丁、おまちぃ!」
暫くしてレベッカが運んできたのは、2人が注文していた食事。
拳大の焼きたてパンが2つに温かいスープ。炙った燻製肉にスクランブルエッグ。そして、さっぱりとした果実水。
片方がバスケットに入って包まれていたのは、テイクアウトの為である。
「どうしたんだい? 2人とも……」
リリーとフードルが向き合うテーブル。その雰囲気は、正直言って食事を楽しむものではなかった。
視線を落とし思い悩むリリーに対し、フードルもまた何かを思案している様子で、難しい顔を見せていたのだ。
「フードルさん……。いくら王女様が新入りだからって、いじめるのは良くないと思うけどねぇ」
「違う。バカを言うな。王女様が真剣に悩まれているというのに……」
恐らくはギャップの所為……或いは、フードルが聞き上手だったからなのかもしれない。
恐怖の象徴とも言うべき魔族が、関係の薄い人間の話を親身になって聞いてくれているのだ。
リリーがフードルに対し、親しみを覚えてしまっても仕方のない事だろう。
2人の会話は、いつしかリリーのお悩み相談へと姿を変えていた。
相手は魔族。人とは違った価値観で生きる者。客観的な視点からの意見は貴重であり、興味がないわけがない。
「私は、このままでもいいのでしょうか……」
九条のおかげで一命を取り留め、コット村での受け入れを許可された。
それはリリーにとって、十分すぎるほどの成功と言えるのだが、それ以上を望んでもいいのかという葛藤もあったのだ。
エルザとの会話から九条が勇者であることを知り、建国を目指すことになった。
ネストやバイスを守れるのは渡りに船ではあるのだが、その分九条には余計な負担をかけてしまう。
それを少しでも和らげようと一度は王となる決意はしたが、エルザは九条を推したのだ。
(確かに勇者である九条なら、私達を導いてくれる……。足りない知識は、私がサポートすればいい……)
とはいえ、九条の性格から、自らが指導者として立ち上がるようなタイプではない事も熟知している。
無理矢理押し付けるような形になってしまうのは、心苦しくもあった。
「別に、いいんじゃないかの?」
「……」
それは、リリーの欲していた答えではなかった。
面倒な話を聞かされた挙句、好きにしろとでも言わんばかりの適当な回答。
リリーにはそう聞こえたのだが、それには続きがあった。
「子供が大人を頼って何が悪い? アーニャも昔はそうじゃった……。親の仇を討つためとはいえ、人ではなく魔族のワシを頼ったんじゃぞ?」
リリーだって、それくらいはわかっている。心配なのは、その度合いだ。
折角受け入れてもらえたにも拘らず、我が儘ばかりでは嫌われてしまうかもしれないという不安。
王族だからと擦り寄って来る者は多かったが、九条だけはそうじゃない事を知っている。
だからこそ、どこまで許されるのかがわからない。
「その不安そうな顔……。ワシにもよくわかるぞ。何と言っても魔族じゃからの。他人の……しかも人族の価値観などわかるはずもない。……だからこそ、アーニャとの生活から学ぶことも多かったがな……」
アーニャとの生活を始めた初期の頃を思い出していたフードル。
その中でも一番酷かったのは、食事に対する考え方の違いだ。
魔族の食事といえば、魔力。故に人間の食事などわかるはずもなかった。
主食は野生の動物。流石に肉を生では食べない事くらい知っていたが、調理という工程は、焼くか煮るかの2つだけ。
アーニャの為にと別の村を遠くから観察し、栽培している作物から食べられる野菜を覚えたりもした。
そんな事を繰り返し、フードルは少しづつ人間の生活への理解を深めていったのだ。
「同じ考えを持つ者同士で徒党を組み、助け合うのは自然なこと。それが組織となり、やがては国となるんじゃろう? 人は無力じゃ。一人では生きてゆけぬ者も多い。子供なら尚更……。勿論、悩むなとは言わん。じゃが、恐らくそこに正解はない。最適解は見つかるやもしれぬが、結局は自己満足。じゃからと言って九条に答えを聞いたとしても、それが本音なのかは本人しかわかるまい。ならば、答えを追う事ばかりに囚われず、お主が九条にしてやれる事を考えたほうが建設的ではないかの?」
「……今の私に……できること……」
「まぁ、そう真剣に考えずともよかろう。九条が受け入れたんじゃ。途中で投げ出すような事だけはするまいて。そんなことより腹を満たせ。折角のスープが冷めてしまうぞ?」
最後にリリーの頭を撫で、フードルは朝食の入ったバスケットを手に取ると、そのまま食堂を去って行った。
「流石はフードルさんだ。いいこと言うねぇ」
隣で黙っていたレベッカも満足した様子で、うんうんと頷くと同時に、リリーには自分なりの励ましを送る。
「大丈夫だよ王女様。九条はそんなことで王女様を嫌ったりはしないさ。こんな小さな村ですら見捨てないんだから」
リリーの中のモヤモヤがすべて晴れたという訳ではないが、少なくともレベッカに向けた笑顔はすっきりとしたもの。
それは感謝を込めたものであったが、レベッカが我に返るには十分な衝撃。
王女相手に偉そうな口を利いてしまったと内心反省をしたレベッカは、その恥ずかしさ故に一刻も早くこの場を離れようとスープのお皿を持ち去った。
「す……スープ、温め直してきますからッ!」
そこは流石のプロである。
一目散にキッチンへと引っ込んだにも拘らず、レベッカはスープを一滴たりとも溢してはいなかった。
――――――――――
予想外のフードルとの邂逅により、リリーの予定は大幅にずれ込んでしまったが、王都での公務と違い大した問題ではない。
そもそも予定と言っても、村で挨拶をして回るだけ。早いに越した事はないが、別に日を跨いだって構わないのだ。
加えて言うなら、幾つかある懸念事項の1つであるフードルとの顔合わせが早々に済んだのは嬉しい誤算。
残りは、消化試合のようなものである。……ある1点を除いて……。
パンを千切り、それを温め直されたスープに浸してから頬張る。
王宮では絶対に許されなかった食べ方に、多少の罪悪感と感動を覚えたリリーではあったが、客は次々とやってくる。
人材派遣協会の開店準備にと訪れた職員の面々が、次のお相手。
ソフィアはまだしも、その殆どが初対面。その対応が終わる頃には、リリーの周りは人だらけ。
冒険者や商人までもがゾロゾロと集まり、食堂からの脱出は絶望的となってしまった。
「えぇ!? なんでリリー様がここに!?」
「護衛の方々はどうなされたのですか?」
「魔法学院の行事か何かで?」
王族が一人でいるというだけで、ある意味スキャンダルである。
事情を知らない者からすれば、疑問を覚えて当然であり、絶えず飛び交う質問は記者会見も顔負けの騒ぎ。
とはいえ、決まっていないことまでを無責任に語るわけにもいかないというのが、正直なところ。
王族を辞めるつもりではあったが、国を興すならそうもいかなくなるだろうし、かといって適当に誤魔化すのも忍びない。
そこへ運よくやって来たのは、ある意味最強の助け船だ。
「せーしゅくにッ!」
その声を聞けば、泣く子も黙るコット村の裏番長。
勿論本人にその自覚はないが、扉の前で腰に手を当て頬を膨らませていたのは、カガリに乗ったミアであった。
暫くしてレベッカが運んできたのは、2人が注文していた食事。
拳大の焼きたてパンが2つに温かいスープ。炙った燻製肉にスクランブルエッグ。そして、さっぱりとした果実水。
片方がバスケットに入って包まれていたのは、テイクアウトの為である。
「どうしたんだい? 2人とも……」
リリーとフードルが向き合うテーブル。その雰囲気は、正直言って食事を楽しむものではなかった。
視線を落とし思い悩むリリーに対し、フードルもまた何かを思案している様子で、難しい顔を見せていたのだ。
「フードルさん……。いくら王女様が新入りだからって、いじめるのは良くないと思うけどねぇ」
「違う。バカを言うな。王女様が真剣に悩まれているというのに……」
恐らくはギャップの所為……或いは、フードルが聞き上手だったからなのかもしれない。
恐怖の象徴とも言うべき魔族が、関係の薄い人間の話を親身になって聞いてくれているのだ。
リリーがフードルに対し、親しみを覚えてしまっても仕方のない事だろう。
2人の会話は、いつしかリリーのお悩み相談へと姿を変えていた。
相手は魔族。人とは違った価値観で生きる者。客観的な視点からの意見は貴重であり、興味がないわけがない。
「私は、このままでもいいのでしょうか……」
九条のおかげで一命を取り留め、コット村での受け入れを許可された。
それはリリーにとって、十分すぎるほどの成功と言えるのだが、それ以上を望んでもいいのかという葛藤もあったのだ。
エルザとの会話から九条が勇者であることを知り、建国を目指すことになった。
ネストやバイスを守れるのは渡りに船ではあるのだが、その分九条には余計な負担をかけてしまう。
それを少しでも和らげようと一度は王となる決意はしたが、エルザは九条を推したのだ。
(確かに勇者である九条なら、私達を導いてくれる……。足りない知識は、私がサポートすればいい……)
とはいえ、九条の性格から、自らが指導者として立ち上がるようなタイプではない事も熟知している。
無理矢理押し付けるような形になってしまうのは、心苦しくもあった。
「別に、いいんじゃないかの?」
「……」
それは、リリーの欲していた答えではなかった。
面倒な話を聞かされた挙句、好きにしろとでも言わんばかりの適当な回答。
リリーにはそう聞こえたのだが、それには続きがあった。
「子供が大人を頼って何が悪い? アーニャも昔はそうじゃった……。親の仇を討つためとはいえ、人ではなく魔族のワシを頼ったんじゃぞ?」
リリーだって、それくらいはわかっている。心配なのは、その度合いだ。
折角受け入れてもらえたにも拘らず、我が儘ばかりでは嫌われてしまうかもしれないという不安。
王族だからと擦り寄って来る者は多かったが、九条だけはそうじゃない事を知っている。
だからこそ、どこまで許されるのかがわからない。
「その不安そうな顔……。ワシにもよくわかるぞ。何と言っても魔族じゃからの。他人の……しかも人族の価値観などわかるはずもない。……だからこそ、アーニャとの生活から学ぶことも多かったがな……」
アーニャとの生活を始めた初期の頃を思い出していたフードル。
その中でも一番酷かったのは、食事に対する考え方の違いだ。
魔族の食事といえば、魔力。故に人間の食事などわかるはずもなかった。
主食は野生の動物。流石に肉を生では食べない事くらい知っていたが、調理という工程は、焼くか煮るかの2つだけ。
アーニャの為にと別の村を遠くから観察し、栽培している作物から食べられる野菜を覚えたりもした。
そんな事を繰り返し、フードルは少しづつ人間の生活への理解を深めていったのだ。
「同じ考えを持つ者同士で徒党を組み、助け合うのは自然なこと。それが組織となり、やがては国となるんじゃろう? 人は無力じゃ。一人では生きてゆけぬ者も多い。子供なら尚更……。勿論、悩むなとは言わん。じゃが、恐らくそこに正解はない。最適解は見つかるやもしれぬが、結局は自己満足。じゃからと言って九条に答えを聞いたとしても、それが本音なのかは本人しかわかるまい。ならば、答えを追う事ばかりに囚われず、お主が九条にしてやれる事を考えたほうが建設的ではないかの?」
「……今の私に……できること……」
「まぁ、そう真剣に考えずともよかろう。九条が受け入れたんじゃ。途中で投げ出すような事だけはするまいて。そんなことより腹を満たせ。折角のスープが冷めてしまうぞ?」
最後にリリーの頭を撫で、フードルは朝食の入ったバスケットを手に取ると、そのまま食堂を去って行った。
「流石はフードルさんだ。いいこと言うねぇ」
隣で黙っていたレベッカも満足した様子で、うんうんと頷くと同時に、リリーには自分なりの励ましを送る。
「大丈夫だよ王女様。九条はそんなことで王女様を嫌ったりはしないさ。こんな小さな村ですら見捨てないんだから」
リリーの中のモヤモヤがすべて晴れたという訳ではないが、少なくともレベッカに向けた笑顔はすっきりとしたもの。
それは感謝を込めたものであったが、レベッカが我に返るには十分な衝撃。
王女相手に偉そうな口を利いてしまったと内心反省をしたレベッカは、その恥ずかしさ故に一刻も早くこの場を離れようとスープのお皿を持ち去った。
「す……スープ、温め直してきますからッ!」
そこは流石のプロである。
一目散にキッチンへと引っ込んだにも拘らず、レベッカはスープを一滴たりとも溢してはいなかった。
――――――――――
予想外のフードルとの邂逅により、リリーの予定は大幅にずれ込んでしまったが、王都での公務と違い大した問題ではない。
そもそも予定と言っても、村で挨拶をして回るだけ。早いに越した事はないが、別に日を跨いだって構わないのだ。
加えて言うなら、幾つかある懸念事項の1つであるフードルとの顔合わせが早々に済んだのは嬉しい誤算。
残りは、消化試合のようなものである。……ある1点を除いて……。
パンを千切り、それを温め直されたスープに浸してから頬張る。
王宮では絶対に許されなかった食べ方に、多少の罪悪感と感動を覚えたリリーではあったが、客は次々とやってくる。
人材派遣協会の開店準備にと訪れた職員の面々が、次のお相手。
ソフィアはまだしも、その殆どが初対面。その対応が終わる頃には、リリーの周りは人だらけ。
冒険者や商人までもがゾロゾロと集まり、食堂からの脱出は絶望的となってしまった。
「えぇ!? なんでリリー様がここに!?」
「護衛の方々はどうなされたのですか?」
「魔法学院の行事か何かで?」
王族が一人でいるというだけで、ある意味スキャンダルである。
事情を知らない者からすれば、疑問を覚えて当然であり、絶えず飛び交う質問は記者会見も顔負けの騒ぎ。
とはいえ、決まっていないことまでを無責任に語るわけにもいかないというのが、正直なところ。
王族を辞めるつもりではあったが、国を興すならそうもいかなくなるだろうし、かといって適当に誤魔化すのも忍びない。
そこへ運よくやって来たのは、ある意味最強の助け船だ。
「せーしゅくにッ!」
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本当に、ありがとうございます。
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