生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第569話 転移解禁

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 オルクス達との協議を終え、エルザを乗せた海賊船がサザンゲイアへと向け出港していく。
 それを見送った俺達も、同様に旅立ちの準備だ。

「リリー様。忘れ物はありませんか?」

「はい。バッチリです!」

 張り切るミアに、笑顔で答えるリリー。
 ミアの荷物はカガリ。リリーの荷物は白狐に括り付け、俺の荷物は自分で背負う。
 そして見送りに来たであろう少々不満気なシャーリーに近寄り、その両手を強く握りしめた。

「シャーリーしか頼れる奴がいないんだ! だから村の防衛を頼むッ! すぐ帰ってくるからッ!」

「し……しょうがないなぁ……。そこまで言うなら……」

 恥ずかしそうに目を逸らすシャーリーを、真っ直ぐ見据えて力説すること数秒……。
 一緒に行きたいとゴネていたシャーリーからなんとか留守番の合意を取り付けると、気が変わらぬうちにとコクセイに跨った。
 向かう先は、遥か北方に位置するグランスロード王国の王都メナブレア。
 獣人の女王ヴィクトリアが治める国。そして、黒龍を信仰する国でもある。

 ――――――――――

「あのぉ……」

「はい? なんでしょう?」

「グランスロードへ向かうのに、何故ダンジョンの下層へ? 封印の扉から外に出るのではないのですか?」

 白狐に揺られながらも、不思議そうに首を傾げるリリー。
 出発と同時に回れ右。俺達は、村からダンジョンへと通じるトンネルを突き進み、更に下層へと潜っていた。

「フードルから借りたい物がありまして」

「借り物……ですか?」

「近道の事だよ? リリー様」

「近道を……借りる? そうなのですか? 九条様」

 まぁ、当たらずとも遠からずと言ったところか……。
 ミアの余計な一言で、傾げていた首の角度が更に増したリリーではあったが、そんなことより重要な事がもう1つ。

「いい加減、様をつけるのはやめてください。勇者じゃないことは説明しましたし、何より他人に聞かれた困ります」

「確かに、そうかもしれませんが……」

 かもではない。100%そうなのだ。
 女王になる者が、従者を呼ぶのに敬称を付けていては不自然極まりないだろう。
 リリーにはドンと構えてもらわなくては……。

 その後リリーは、何故か得意気なミアとインコのピーちゃんから、グランスロードについてのレクチャーを受け、辿り着いたのはダンジョンハートの前。

「これがダンジョンのコア……」

 初めて見るそれに、リリーは目を奪われている様子。
 歪な形をした大きなガラス瓶。その透明度は低く、中には薄紫色に淡く輝く液体が並々と注がれている。

「待っておったぞ」

 そんなダンジョンハートの影から現れたのは、魔族のフードル。
 その手に握られているのは、古びた白い仮面だ。

「ありがとうフードル。助かるよ」

 左手で受け取ったそれを利き手に持ち替え、空いた左手でダンジョンハートにそっと触れる。
 すると、白紙にインクを垂らしたかのように、仮面が黒く染まっていく。

 それが染まり切る頃には、ダンジョンハートの2割ほどのエーテルが無くなっていた。

「随分と溜めておけるんだな……」

 ネロがダンジョン間の転移に使っていたと言われる仮面。通称デスマスク。
 絶対に使うまいと決心した物ではあるが、数か月の道程が一瞬である。時間も押しているこの状況で使わない手はない。
 俺は魔王なのだ。力を出し惜しむ必要が何処にあろうか……と自分に言い聞かせ、この度転移を解禁する運びとなった。

「随分と大人数ですねぇ。往復は無理ですけど大丈夫なんです?」

 当たり前のように、天から舞い降りてきたのはダンジョンの管理者108番。
 先程まで頭の中で会話していたのだ。特に驚く事もない。

「大丈夫だ。帰りはファフナーに頼むつもりだからな」

 ここに辿り着くまでに、転移のやり方は聞いている。
 魔力で満たした仮面を装着し、利き手ではない方の手でダンジョンハートに触れる。そして、望む転移先を思い浮かべればいいだけだ。
 物理的に繋がっていれば、基本的にはどんな物も転移は可能だが、消費魔力は質量と距離に比例する。
 今回の場合、俺にミアにリリー。そして魔獣2匹にインコが1匹。その他荷物諸々を含めると、仮面内の魔力の約8割を消費する計算だ。
 故にシャーリーを連れて行くと、ギリギリ過ぎて危ないとのこと。
 ならば燃費の悪い従魔をとも思うかもしれないが、リリーを歩かせる訳にもいかない。
 リリーには国の代表として交渉の席に着いてもらう。それ相応の威厳は必要だ。

「じゃぁ、行ってくる。フードル、コクセイ。村をよろしく頼む」

「九条殿、ご武運を……」

「……いや、別に戦いに行くわけじゃないから、普通に見送ってくれ……」

 コクセイからすれば、頑張ってこい程度のニュアンスなのかもしれないが、俺にとっては少々不吉。
 アポなしで飛び込み、いきなり女王との面会は難しいだろうから多少の時間は見ているが、話し合いさえ終わってしまえばすぐに帰還する予定だ。
 順調に行けばエルザよりも先に帰れる自信があるのだが、経験上俺が遠出すると、碌な事が起きていないのもまた事実。
 なので、妙なフラグは立てないでいただきたいというのが、正直なところだ。

 そんな希望的観測を胸に秘め、俺は持っていた仮面を顔にそっと押し当てた。
 引っ掛ける場所なんてない一枚板の仮面のはずが、手を離しても滑り落ちたりはしない。
 原理は不明だが、吸い付いて来るような……。硬かったはずの表面がゲル状に変化したかのような感触。
 例えるなら、シップや冷えピタを貼っている感覚に近いだろうか……。

「よし、じゃぁ皆俺に掴まってくれ」

 俺の腕に抱き着くように、しっかりと密着するミアに対し、そっと寄り添うカガリと白狐。
 そんな俺達に不思議そうな視線を送るリリーには、優しく手を差し伸べる。

「リリー様も、お手を……」

 戸惑いつつもリリーが俺の手を取ったのを確認すると目を瞑り、ファフナーの住処にあったダンジョンハートを思い浮かべる。

 それは一瞬だった――。
 突如、床が抜け落ちたようなヒヤッとした感覚に驚き目を開けると、目の前には思い浮かべた物と同じダンジョンハートが置かれていたのだ。

「便利すぎんだろコレ……。運送業で大儲けが出来そうだぞ……」

 仮面を外し見てみると、半分程が白く変色していた。
 といっても、上下にキッチリ分かれている訳ではないので大雑把に見てである。

「すごーい! これならいつでもキャロちゃんに会えるね!」

 ミアは無邪気にはしゃぎ、従魔達も驚いた様子。
 ただ1人。リリーだけが状況を把握できていなそうだ。

「急に身体が小さくなった!? いや……コアの方が大きく……?」

 それもそのはず、フードルとコクセイがいなくなっていることに気付かなければ、ダンジョンハートの大きさ以外に変わったところは見当たらない。
 その分部屋も比例して大きくなってはいるが、同じような岩盤剥き出しの洞穴のような場所である。何も知らなければ、尺度が変化したようにも見えるのだろう。

「大丈夫だよリリー様。身体も小さくなってないし、ダンジョンハートも巨大化してない。だってここはグランスロードだから!」

「……は?」

 その説明なら、そりゃそうなる。
 王女らしからぬ間抜け面。普段とのギャップには愛らしさすら感じてしまうが、ここはわかりやすく簡潔に……。

「コット村のダンジョンから、グランスロードのダンジョンに転移したんです」

「……は?」

 純粋に、ただ理解が追い付いていないだけといった様子。
 転移の事を黙っていたから憤慨している――と言う訳ではなさそうで、ひとまずはホッとした。

 転移の魔法は存在する。だが、人間の使うそれは魔族の転移とは違い、完全と言えるだけの成功例は確認されていない。
 魔力量と転移先のイメージが正確でなくてはならない為、それに失敗すれば当然不安定なものとなり、無作為な場所に飛ばされてしまう。
 エルザ曰く、再び地上に降り立てれば儲けもの。行方不明は当たり前。水中や空中もしくは地中に転移し、命を落とす者が殆どだそう。
 その危険性故に、魔法学者達は転移の研究に見切りをつけ、高速飛行というテーマに鞍替えをしたとのことのようだ。

 魔法を齧っているリリーであれば、転移の難しさは当然理解しているだろう。
 グランスロードには転移で向かう……そう言って、果たして理解を得る事が出来るのか……。
 その成功率が限りなくゼロに近い事は、歴史が証明している。
 不安視されるのは当然。リリーの性格上、駄々をこねたりはしないだろうが、相当な覚悟が必要だ。
 例えるなら、今にも千切れそうな紐でバンジージャンプをしろと言っているようなもの。
 だから、敢えて説明しなかった。
 誠意に欠けるだろう行為なのは承知の上。その結果リリーに嫌悪されようとも構わない。
 ネストやバイスの救出に間に合わなかった……などという結果になるよりは、マシなのだから。
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