生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第570話 三大厄災列強伝(人間編)

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「近道ってそういうことですか!? 私はてっきり地下トンネルでも掘っていて、フードル様が管理しているのかと……。それよりも九条! これは快挙ですよ! まさか空間転移をこの身で体験できるなんて……」

 ようやく理解が追い付いたのか、我に返ったリリーの剣幕と言ったら……。

「魔法学会を震撼させること間違いなしです!」

 鼻息も荒く、興奮冷めやらぬところ非常に申し訳ないのだが、それは俺の力ではない。

「残念ですが、俺が転移魔法を使ったわけではなく、これのおかげなので……」

「この仮面……ですか?」

「ええ。ちょっとややこしいんですが、これは借り物で……」

 曰く付きの仮面。過去の魔族がネロの為にと作った物だが、現在の所有者はエルザということになるのだろうか。
 俺は、ただ預かっているだけ。それを理解してもらうには、俺達がリブレスへと赴いた時の話をせねばならないのだが……。

「その経緯については、メナブレアまでの道中でお話しますよ。まずは着替えてください。外は極寒の地ですからね。俺は階段の先で待ってますので」

「わかりました」

 カガリに括られた荷物をゴソゴソと漁り始めるミアを横目に、俺は仮面を自分の荷物に突っ込み、階段を上る。

 その終着点には、巨大な黒竜が寝そべっていた。

「よくぞ来られた、マスター殿。……と言っても、我の感覚では感傷に浸るほどの歳月でもないがな」

 僅かに首をずらしただけで、天から降ってくる埃や塵。
 大きなコバルトブルーの瞳が俺を捉えると、口元に微笑を漂わせる。

「俺から見れば、久しぶりだよファフナー。また少し世話になりそうだから、よろしく頼む」

「うむ」

 人間達には、黒き厄災とも呼ばれていたファフナー。
 魔王に仕え、恐れられてきた存在ではあったが、俺からの印象は真逆。
 確かに見た目は恐ろしいが、礼を尽くせば話の分かるドラゴンだ。

 相変わらずの雑多な空間。
 ファフナーの足元には、金銀財宝が無造作に転がっていて、整理などまるでしていない。
 幾つかが汚れたり凹んだりしているのは、乱雑に扱った為だろう。
 ミアがお風呂の浴槽として使った石棺がそのまま残っていたのにはクスリときたが、腰を下ろすには丁度いい。
 旅の疲れなど全くないが、2人が着替えを終えるまでここで待つことにする。

「こっちの様子はどうなんだ?」

「平和そのものだな。獣人達も礼儀を弁えているのか、無暗に干渉してこない。暇すぎて、こちらからキャロの様子を覗きに行ってしまうくらいだ」

 ファフナーが空からキャロを観察している……という一見シュールな状況を想像し、吹き出しそうになるものの、ひとまずは上手くやれている様で安心した。
 それに比べて俺ときたら……。

「俺が魔王と呼ばれていることについては、知ってるのか?」

「あぁ。キャロからな。こちらの王宮でも、色々とあったらしいぞ?」

「だろうなぁ……」

 俺が首ちょんぱされた時、エドワードもグランスロードの代表としてあの場にいたのを覚えている。
 エドワードに限った話ではないが、俺が手を貸した事によって、魔王の力を借りた――などと、不名誉なレッテルを張られているかもしれないのだ。
 その辺りが、若干の気掛かりではあった。

「なんか、すまんな。俺なんかが魔王なんて呼ばれて……」

 ファフナーは当時の魔王を知っている。本物に比べれば、俺なんか足元にも及ばないだろう。

「そうか? 意外と似ている所もあると思うがな」

「魔王と俺が?」

「あぁ。力があるくせにそれを鼻に掛けず、弱き者を助けようとするその気立ての良さとか特にな……」

 弱き者を助けるのが魔王? なんて聞き返したら、憤慨されそうで言葉に詰まる。

「ふん。何か言いたそうな顔だが、人間の敵である魔王が優しいはずがない――などと考えておるのだろう?」

「いやいや、そんなことはないぞ? ファフナーや魔族には良き指導者だった……ってことだろう?」

 何処の国の王様だって、自分の国を第一に考えている。身内には優しくて当然だ。

「それは違う。魔王様は、どんな種族にも分け隔てなく慈愛の心を持っていた……。そうだな……マスター殿は、三大厄災を魔王様が滅したことを知っているのだろう?」

「ああ」

 ケシュアが、俺に語ってくれた三大厄災列強伝。
 確か、獅子王レグルスに迫害されていた獣人達が、竜王ファフニールに助けを求めた事で争いになったと聞いていたが……。

「その討滅を願ったのが人種。つまりは人間だ。魔王様は、その言葉を聞き届けたに過ぎぬ」

「ちょっと待て。それってどういう……」

「厄災と呼ばれる魔獣同士の争いは長きに渡り、その災禍は獣人だけではなく人間にも多大な被害をもたらした。そこで人間達は、魔王様に厄災の怒りを鎮めるようにと願ったのだ」

 魔王がその争いに参戦したのは、倒した後の世界を牛耳る為だと思っていたが、人間達を助ける為であったのなら、その印象は180度変わる。
 勇者もいない時代だ。魔王の力であれば厄災を止められるだろうと考えるのは道理。あり得ない話ではない。
 何より、ファフナーが嘘をつくとは思えない。
 そうなると、気になるのは人間と魔王が争うことになってしまった経緯だが……。

「人間達は助けてもらっておいて、魔王に牙を剥いたのか? それとも、魔王が人間達を見限った?」

「微妙な問題だが、どちらも……と言った方が正しいか……。良かれと思ってやったことが、裏目に出ることもあろう」

 何処となく寂しげな瞳のファフナー。
 すれ違いなんてよくあること。だが、それが戦争にまで発展したともなれば、思うところもあるのだろう。
 俺であれば中立な立場で話を聞けたのかもしれないが、過去は過去。そこにどんな思いがあろうと、やり直す事は出来ない。
 出来る事と言えば慰めの言葉を掛けてやることくらいだが、俺ごときがそこへ足を踏み入れていいものかと憚れるのも事実。
 何も知らぬクセに……などと言われればそれまで。返す言葉も見当たらない。

 その時だ。幸か不幸か、絶妙なタイミングで姿を現したミアとリリー。

「ド……ドラゴンッ――ッ!?」

 白狐の上で緊張を奔らせるリリーに対し、ミアはというとマイペース。

「あ! ファフナーさん、こんにちは!」

 立ち止まった白狐を横目に颯爽と前に出たカガリとミアは、ぐるりと向きを変えたファフナーの顔の前まで来ると、その大きな顎を遠慮なくバシバシと叩く。
 人間の一般常識で言うなら最早それは打撃と言って差し支えない威力だが、ファフナー相手ならただの挨拶。

「良く参ったな、小さき者よ。歓迎しよう。……それよりも、後ろの者は……平気か?」

 ファフナーの視線がリリーに向くも、当の本人は白狐に乗ったまま器用に意識を失っていた……。
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