生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
574 / 722

第574話 アンカース領ノーピークスにて

しおりを挟む
 王都スタッグの西に位置する街ノーピークス。ネストの御先祖様であるバルザックが当時の国王を助けた事で賜った領地。
 その立地は王都の西側防衛の要とも言える場所でもあり、そのアクセスの良さから王都と共に発展してきた街でもある。

(動きが速いわね……。バイアス公なら、もう少し慎重になると思ったのに……)

 ノーピークスの東門。その城壁の上から辺りに布陣されている王国軍を睨みつけているのは、アンカース家の令嬢ネストである。
 斥候からの情報では、相手の数は合わせて5000。対してノーピークス側は、多く見積もっても2000弱である。
 当然籠城を余儀なくされ、睨み合いが続いているといった予断を許さない状況だ。

「ご報告します。敵軍の詳細が判明致しました」

 ネストの前に躍り出て、跪いた1人の騎士。

「西側にはファルランケス伯爵の兵がおよそ1000。南側はセルギウス侯爵の軍が2000ほどで、本陣は東側。総指揮は……」

「オーレスト卿でしょ?」

「その通りでございます」

 遠見の魔法、千里眼オールシーイングアイ
 ネストには、軍馬に跨りノーピークスの街を眺めるオーレスト侯爵の姿がハッキリと見えていたのだ。
 宮廷魔法師団までもが駆り出されているのは、ネスト対策だろう。それは余裕のなさとも受け取れる。

「シグルド。ここを任せたわ。暫くは何もないとは思うけど、警戒は怠らないように」

「はっ!」


 ネストが急ぎ邸宅へ戻ると、そこは軍議の真っただ中。
 プレートアーマーに身を包んだ大人達が、一様に険しい表情を浮かべている。
 各部隊の代表が数人集まっただけの規模ではあるが、その雰囲気は決して良いとは言えない。

「戻りました。お父様」

「外の様子は?」

「特に動きはありません……」

「そうか……」

 溜息まじりの返答と同時に視線を落とすネストの父、ロウエル。
 半日ほど前。相手方の伝令から、ネストを出頭させれば兵を退く――との通達があった。
 当然、逆らえば武力行使も辞さないとの文言も付け加えられているが、ロウエルはそれを拒否。
 出頭の意思はないと通知した上で、領民を避難させるための時間的猶予を求めたのだが、その返事はまだ来ていない。

「私は比較的手薄な西側からの脱出を提案いたします。そのまま西へと進めばローンデル領。ガルフォード家と親密なレストール卿であれば、匿ってくれる可能性は……」

「私に街を捨てて逃げろ……と?」

「断腸の思いであることは、重々承知しております。しかし、旦那様とお嬢様を守るのが我々の務め。今が選択の時であるかと……」

 悔しさに拳を握り締める老騎士。ロウエルとは旧知の仲。長きに渡りアンカース家とノーピークスを支えてきた者である。

「しかし……」

 取れる選択肢が、そう多くない事はわかっている。
 民を犠牲にしながらも徹底抗戦を続けるか、街を明け渡し逃亡を図るか……。
 ノーピークスに軍が派遣されたということは、リリーの作戦は功を奏し、王都には帰還していないのだ。
 それを連れ戻す為、ネストの身柄を確保しようという企みであることは明白。
 ただ、ネストが想定していたよりも、アルバートの動きが早かった。
 リリーが王族を辞する事が、まだアルバートの耳に入っていないのか、それとも知った上での判断か……。
 どちらにせよ碌な対策を講じる事もままならず、迎え撃つ形となってしまったのである。

「ごめん皆……私の見込みが甘かったわ……。でも、大丈夫。最悪自らの命を絶つことも考えているから……」

 ネストには、自分がリリーの枷になってしまっているという自覚があった。
 逆に自分がいなければ、リリーに迷惑はかからない。
 当然悲しませてしまうことは理解している。だが、少なくとも自分の所為でリリーが王都に戻ることはなくなる。

「お嬢様、それはなりませんッ! それなら徹底抗戦の方がマシです!」

「そうだッ! 奴等を街の中に入れなければ良いだけのこと。この日の為に我等がいるのだ! 軟弱な王都の兵などに遅れはとらぬッ!」

 自らを鼓舞するかのような覇気は、流石のネストもその勢いに呑まれ気圧されてしまうほど。
 不屈の精神は、騎士道にも準ずる。今こそ戦果を上げる時だと、彼等の士気も最高潮。
 それも当然。ここにいる全ての者が、ネストが小さな頃から家に仕えてきた将兵たち。
 最早、家族も同然だ。アンカース家の為ならば、命を賭すのも厭わない。
 無論、その想いを同じくする者は、彼等だけではなかった。

「おじょぉぉぉぅさまぁぁぁぁッ!!」

 忙しない革靴の音を響かせながらも廊下を駆け抜ける初老の男は、重要な軍議の真っ最中だというのにノックもなしにその扉を勢いよく開け放つ。

「一大事で御座いますぅぅ!」

「セバスッ!」

 何事かと一同が視線を集める中、セバスの顔は汗に塗れ息も絶え絶え。
 それが急いで来たからなのか、次に口を開くであろう報告に焦燥してのことなのかは、まだ誰にもわからない。

「あぁッ! 少々眩暈がするので、暫しの休息を……」

 このタイミングで話の腰を折るかのような発言に、誰もが呆れた表情を浮かべるのも日常茶飯事。
 セバスがそういう者であると熟知しているからに他ならない。

「休憩なら後にして! 今は一刻を争うの!」

「そうでした! 実は残念なお知らせが……」

 皆の表情が一様に強張るのは、思い当たる節があるからだ。
 遂に相手が侵攻を始めたのか、それとも領民避難を認めないとする書状でも送られて来たのか……。
 だが、それはどちらでもなかった。

「リリー様が……」

 ネストは少しだけホッとした。その後に続くセバスの言葉が、すぐに連想出来たからだ。
 恐らくは王族を脱する宣言をしたのだろうと……。

「……お見えになられました」

「……は?」

 ネストが思っていた結果とは違う答え。
 すると、セバスの後ろから顔を出したのは、暑苦しい防寒着を着たままのリリー。

「大儀でありました、ネスト」

「王女様ッ!」

 慌ててその場に跪く一同。ネストは訳も分からずその場に立ち尽くし、リリーの後ろからは予想外の面々がぞろぞろと整列する。
 同じような黒い毛皮のマントを羽織ったミアに、似た背丈の獣人の娘。そして九条に加えて、カガリと白狐の魔獣コンビ。
 しかし、感動の再会とはならず、我に返ったネストは九条に向かって声を荒げた。

「九条! どうしてあなたが付いていながら、こんな場所にリリー様をッ!」

 当然だ。これから戦争が起きるかもしれない危険な街に、わざわざ連れてくるなど言語道断。
 セバスが、残念な……と表現した意味を理解し憤慨するネストに対し、九条は素直に頭を下げる。

「すいません。まさかこんな切迫した状況だったとは……」

 ネストは、少し言い過ぎたかと内心反省したものの、九条の言葉に僅かな違和感を覚えた。

(九条が、ノーピークスの現状を知らずに訪ねて来たのなら、私達を助けに来たわけじゃない……?)

 では、何故ここにいるのか……。

「あれ? ってか、アンタらどっから入って来たの?」

 ノーピークスの出入口は、北を除いた3カ所。その全てが王国軍に包囲され、城門は厳重に封鎖されている。
 この非常時だ。たとえリリーと言えど、許可がなければ門が開かれることはないのだが……。

「えーっと……。空ぁ……ですかねぇ……」

 何やら言い辛そうな九条に対し、眉間にシワを寄せ首を傾げるネスト。
 そのやり取りに、リリーだけがクスクスと笑顔を溢していた。
 リリーも同じ道を辿ったのだ。今のネストの気持ちが理解出来るからこその反応。それは何処か得意気でもあった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ
ファンタジー
小説家になろうで先行投稿してます。 異世界から飛ばされてきた美しいエルフのセレナ=ミッフィール。彼女がその先で出会った人物は、石の力を見分けることが出来る宝石職人。 宝石職人でありながら法具店の店主の役職に就いている彼の力を借りて、一緒に故郷へ帰還できた彼女は彼と一緒に自分の店を思いつく。 セレナや冒険者である客達に振り回されながらも、その力を大いに発揮して宝石職人として活躍していく物語。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

処理中です...