生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第580話 建国宣言前夜

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 村の空は夕焼けに染まり、暖かいオレンジ色の光が木々の間を抜けて、家々の壁を柔らかく照らす。
 村のメインストリートには、数えきれないほどの篝火台が列を成すも、まだそれには火が灯されていなかった。

「まさか、こんな事になるなんてなぁ。俺ぁ夢でも見てんのかね?」

 コット村にある魔法学院宿舎。その3階の一室にある窓から身を乗り出しているのは、バイス・ガルフォード。
 その後ろで席に着き、優雅なティータイムを嗜んでいたネストは、何故か俺を睨みつける。

「同感ね。もう何が起こっても、驚かない自信があるわ」

「それは良かった。まだ話していない事があったんで、いつ打ち明けようかと迷っていたんですよ」

「ちょっと待って! まだ何か隠してるの!?」

 今、驚かないと言ったばかりでコレである……。

「……冗談ですよ。もう何も出ませんから……」

 ノーピークスでの争いに勝利した俺たちは、その後の処理をネストの父親であるロウエル卿に任せ、ファフナーと共にバイスの元へと飛んだ。
 同様に軍が派遣されている可能性を憂慮しての事だが、結果は杞憂。
 ただ迎え撃つ準備はしていたようで、ファフナーでの来訪が、必要以上に警戒心を煽ってしまった事は言うまでもない。
 その弁解の後、リリーとネストが全てを説明し、ガルフォード家の治めるバルク領も晴れてもふもふアニマルキングダムの仲間入りを果たしたのだ。

「で? 九条は、こんなところで油を売ってていいのかよ」

「ええ。俺の仕事は終わりました」

 明日はリリーが建国を宣言する重要な日。村の広場には特設のステージが設けられ、何時でも壇上に立てる状態。
 それを作り上げるのが俺の仕事だった。所謂、単純な力仕事だ。
 南進地区の開拓で大量に伐採された木材を使い、アンデッドと従魔達に協力してもらって完成した野外ステージ。
 その見た目は、野外音楽フェスのステージに瓜二つ。参考資料は当然、俺の脳内だ。
 見様見真似で作ったにしては、そこそこ立派な物が出来たのではないかと自負している。

「ホントか? 外は結構忙しそうだぞ?」

「俺は、皆の自主性を尊重しているんです」

「自主性ねぇ……。便利な言葉で誤魔化しかぁ?」

 呆れたような口調のバイスではあるが、何処か楽しそうにも見えるのは、その口元が綻んでいたからだ。
 別にサボっている訳じゃない。俺の仕事は本当に終わっているのだ。
 今、村人達が忙しなく準備を進めているのは、別のイベント。
 建国宣言に加えて、建国記念のお祭りも同時に執り行おうというのである。
 俺達が帰還すると、そういう話になっていたのだ。
 発案者はカイルで、それにシーサーペント海賊団のオルクスが乗っかったらしいが、恐らく奴等は酒が飲みたいだけだろう……。
 とはいえ、村長も了承しており、特に俺が止めなければならない理由もない。好きなようにやってくれというのが、本音である。
 敢えて何か口を出すなら、招待客には失礼のないように――とお願いするくらいだ。

「祭りが終われば、嫌でも忙しくなりますからね。魔王には休息も必要なんです」

「随分と都合の良い魔王様だな」

 それも招待状を受け取ったアルバートが、誰を送り込んでくるかにもよるが、こちらとしては国家として体裁を整えられれば、それでいい。
 相手の選択肢としては、俺の暗殺か、リリーの説得か……。まさかの謝罪……ということはないとは思うが、もちろん受け入れるつもりはない。

 そこに、突然響いた扉のノック。隔てた扉の裏から聞こえてきたのは、シャーリーの声。

「ねぇ、九条を探してるんだけど、ここにいない?」

 ネストとバイスから向けられた視線に、俺は小さく首を横に振る。

「どうしたシャーリー。何か問題か?」

 咄嗟に返事をしたのはバイス。いるともいないとも言わない絶妙な返しは、ナイスな判断である。

「明日の警備スケジュールを話し合いたいって言っておいたんだけど、ワダツミに匂いを辿ってもらったらここだって……」

「……だそうだ九条。諦めな」

「ぐっ……」

 バイスは肩をすくめ、ネストはクスクスと笑みを溢す。

「自分の従魔を敵に回すことが、これほどに恐ろしい事だったとは……」

「九条より、従魔の方がしっかりしてるわね」

 満面の笑みでひらひらと手を振るネストに、非難を込めた視線を向けるも、重い腰を上げる。

「……今いくよ……」

 シャーリーに連行され、村の西門へと歩みを進める。
 もうすぐ日暮れだというのに、村はまだまだ騒がしい。その雰囲気は、メナブレアでの祖霊還御大祭を思い出す。
 村の中心にある広場には、木製の屋台がずらりと並び、グランスロードとサザンゲイアの紋章を描いた旗が掲げられていた。

「皆、楽しそうだね」

「あぁ、そうだな……」

 シャーリー顔から見え隠れする翳りは、流石の俺でも理解出来る。
 警備に駆り出される為、素直に祭りを楽しめないのが残念だ――と言いたいのだろう。
 だが、こればっかりは仕方ない。女王となるリリーの安全は絶対。
 これは、建国の宣言と同時に、軍事力を誇示する為の催しでもあるのだ。
 もふもふアニマルキングダムは、出来立てほやほやの弱小国家。領地は疎らで、何時攻め込まれてもおかしくない。
 それを阻止するという意味でも、必要な措置。
 従魔達を始めとする魔獣達。更にはファフナーと金の鬣に加え、アンデッドを使役出来るという事実を世に知らしめなければならない。

 俺を……。もふもふアニマルキングダムを怒らせたらどうなるのか……。
 アルバートには、その良き見本となってもらうのだ……。
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