生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第582話 建国宣言

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「お? やっと来たか……」

 ファフナーが飛び立ってから30分程。戻って来たファフナーが足の爪で鷲掴みにしていたのは1台の馬車。
 落ちないようにと必死に馬車にしがみつく甲冑を着た御者。ハーネスで結ばれた2匹の馬は、成す術なく宙ぶらりんだ。
 そのシュールな絵面に失笑を禁じ得ないが、馬車に施された装飾は豪華で、そこそこ有力な貴族が乗っているだろう事は一目瞭然。
 ただ一点、何故かそれに既視感を覚えたことが気掛かりではあった。

「持って来たぞ」

 コット村の西門前にドスンと置かれたそれを、アンデッドと従魔達が取り囲むと、御者は怯えた様子を隠さない。

「ようこそ、もふもふアニマルキングダムへ。少々お時間が迫っておりましたので、手荒なお迎え失礼致しました」

 皆が城壁を下り、出迎える。丁寧な言い回しを心掛けたつもりだが、口調は強気を崩さない。
 馬車の扉が開き、最初に出てきたのは執事風の男。そして次に下りて来たのは、他でもないレイヴン公爵である。
 その表情は引き締まり、何者にも屈しないと言わんばかりの態度にも見えるが、僅かな緊張も混じっていた。

「久方ぶりだな九条。……いや、九条殿。まずは、礼を言わせてくれ……」

「……は?」

 何故、礼を言われる必要があるのかと思案する。
 ファフナーを迎えに行かせたとはいえ、憤りを覚える程度には雑な扱いであったはず。
 それとも、本当に間に合わなくなりそうなほど遅れていたのか……。

「相棒! コイツラ途中デ襲ワレテタンダ!」

 ファフナーの角にちょこんととまっていたのは、斥候に出していたピーちゃん。
 無意識に視線をファフナーに向けると、小さな溜息と共に頷いた。

「間違いない。それを我が蹴散らし、馬車だけ持って来た。他は知らん」

 他とは、恐らく護衛の騎士の事だろう。
 公式の招待ではあるが、相手は魔王。公爵であるレイヴンが護衛もなしにのこのこやってくるとは思えない。
 ネストから聞いたことがある。王国内でレイヴン公の財力に敵う者はいないと……。
 幾つかの金山を領内に有しているとかなんとか……。それが知れ渡っているのなら、ならず者に狙われてもおかしな話ではない。

「それは災難でしたね」

「ああ。九条殿が放った刺客かとも思ったが、どうやらそうではなかったようだ」

 なんだろう……。ケンカを売られているのだろうか……。
 冗談を言い合う仲ではないのだが……。
 俺が、その辺のゴロツキを雇ってまでレイヴン公を襲う必要がどこにある?
 やるならそんな面倒な事はせずに、適当なアンデッドを召喚したほうが、融通も利いて何倍も楽だ。

「仕方あるまい。相手はオーガであったからな」

 ボソリと呟いたファフナーに、俺は意外にも腑に落ちる。

「あぁ、そういうこと……」

 オーガ。鬼種とも呼ばれる亜人の総称だったか……。知識として知っているのは、ギルドの魔物図鑑に掲載されていた情報のみ。
 見た目は人だが、体格は人よりも一回りほど大きく、頭に角が生えている。と言っても、魔族と比べれば小さな物だ。
 亜人とは言え、魔物図鑑に載っているのだ。それがどういう扱いなのかは、想像に難くない。
 魔王なら……という、固定観念のようなものだろう。恐らくレイヴンは、そのオーガたちが俺の手先だと考えたのだ。
 それをファフナーが一掃したことで、疑いが晴れた――ということか……。

「九条、そろそろ……」

 そう言いながら、俺の背中を突っついたのはシャーリー。
 確かに、呑気に話している場合ではない。

「では、レイヴン公。ご案内しますので、こちらへ……」

 恐らく後から来るであろう護衛の騎士たちの対応はシャーリーに任せ、レイヴン公を乗せた馬車はコット村の西門を潜る。
 まさかレイヴン公が来ようとは夢にも思わなかったが、今後果たしてどういう反応を見せるのか……。
 俺は、にやけそうになる口元を必死に抑えながらも、特設ステージへと案内した。


 老若男女を問わず、そこには既に大勢の人が集まっていた。
 村人はもちろん、商人に冒険者。更には海を渡りサザンゲイアからの来客も多数。
 皆が全ての手を止め、新たな女王陛下のお言葉を賜ろうと、期待に胸を膨らませていたのだ。
 そんな広場を一望できる場所に櫓を設け、招待客はそこで観覧できるよう配慮した。
 ステージ同様みすぼらしく見えないようにと、全面を白い布で覆い、最低限の装飾だけは施している。

 俺がステージ裏に顔を出すと、ドレス姿のリリーが椅子に腰かけ、自分の出番を待っていた。
 その凛とした雰囲気に、少々近寄りがたいオーラを感じつつも、俺に気付いたリリーは柔らかに微笑む。

「レイヴン公が、お見えになられたのですね……」

「ええ、正直想定外ですね。結構な影響力があるとは思いますが、これが吉と出るか凶と出るか……。まぁなるようになるでしょう」

「彼が帰った後、王都がどうなるかは少し見ものですね。私達がお兄様に手を下すまでもないかもしれません」

「それは困りますね。折角建国までしたんですから、アルバートへの裁きはこちらに任せてほしいものです」

「……九条……ひょっとして、怒ってます?」

「今更ですか? 勿論ですよ」

 こう見えて結構腹を立ててはいるのだが、外見からそうは見えない――と、言いたいのだろう。
 苛立っているからと、周囲に当たり散らしたりはしない。子供ではないのだから、それくらいは弁えている。
 怒りに身を任せ行動しても、結果がついて来るとは限らない。そういう時こそ心の中で念仏を唱え、冷静になるのだ。
 心を鎮め、考え抜いた先での失敗であれば諦めもつく。そして、それは必ず次への糧となる。

「そろそろ頃合いですかね……」

 ステージの端からそっと顔を覗かせると、広場の様子が窺える。
 人々の顔には期待と不安が入り混じった表情が浮かび、ざわめきが鳴り止むことはない。
 招待客用の櫓では、丁度全員が着席を完了した様子。
 グランスロードからは、おなじみのキャロ。そして、サザンゲイアの使者としてエルザ。スタッグ王国からは公爵のレイヴン。
 アンカース領、領主の娘ネストに、バルク領のバイス。歌姫のイレースに、マイルズ商会からはアントニオとバラエティに富んではいるが、この中でアウェイなのはレイヴンだけだ。

「では、お願いします女王陛下」

 まるで執事のような身振りで丁寧に頭を下げると、リリーははにかみながらもステージへと登壇した。
 着ているドレスは、1度はミアに譲ったおさがりの物だが、それは太陽の光を受け金色に輝く。
 ただゆっくりと歩いているだけなのに、誰もが心を奪われたかのように静まり返る。
 やがてステージの中央へと到達したリリーが、真っ直ぐ前を見据えると、高らかに声を上げた。
 それは強く、しかし優雅に響き渡る。

「尊き我が民たちよ、今ここに新しき時代を迎える時が来たのです。
 我々は知っている。この地に根付いた英雄を地に落とし、あまつさえ命を奪おうとしている者達がいることを。
 我々は知っている。専制的な国王による圧制と腐敗。先代の王アドウェールを殺害し、国を牛耳る愚王のことを。
 そのような不正義を、いつまでも容認している我々ではありません。
 黙して屈することなく真の統治を取り戻す。今こそ自由と正義の為に立ち上がる時なのです。
 勿論困難もあるでしょう。ですが、幸いにも考えを同じくする盟友がいる。何より我等には加護がある。魔王と呼ばれる英雄の加護が。
 我が愛する民たちよ。共に新しき未来を切り拓こうではありませんか。
 今日という日を境に新たな国が誕生し、同時に歴史が刻まれる。皆がその証人となるのです」

 僅かな沈黙の後、リリーは大きく息を吸い込んだ。

「今こそ王族としての責務を果たす時が来たッ! 私、リリー・エリアルド・グリフィン・スタッグが深い決意と希望を込め、ここにもふもふアニマルキングダムの建国を宣言するッ!」

 清聴していた民衆が一斉に歓声を上げる。子供たちはその場で飛び跳ねながら両手を振り、老人たちは涙を流しながら喜びの声をあげた。
 新しい時代の幕開けとも言える今日を迎え、広場には喜びと感動が満ち溢れていたのだ。

 振り返りステージを去るリリーの顔は満足気。やり切ったと言わんばかりのドヤ顔を披露し、それに俺は笑顔を返した。
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