生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
587 / 722

第587話 ネクロレギオン

しおりを挟む
 コット村から西の街道を半日ほど進んだあたり。
 ちょうどベルモントとの中間に位置する森の中で、焚き火を囲むシャーリーとネスト。
 そこへ新たに姿を現したのは、沢山の薪を抱えたバイスだ。

「これだけありゃ足りるだろ」

 そう言って乱雑に薪を投げ捨てたバイスは、空いていた切り株に腰を下ろし、隣で丸くなっていたワダツミを撫で始めた。

「合図は、まだだよな?」

「ええ。そろそろかとは思うんだけど、そう急ぐこともないでしょう」

 バイスの問いに、ネストは空を見上げながら答える。
 青々とした葉の隙間から差し込む朝日は眩しく、目を細めずにはいられない。
 待っているのは、ピーちゃんからの合図だ。それを以て、ベルモントへと進軍する手筈となっている。

「レイヴン公も、案外役に立たないわね……」

 ボソリと呟いたのは、シャーリー。
 燃え盛る焚き火に手短な枝を突っ込み、火力の調節に勤しみながらも、その面持ちは何処か緊張した様相を呈していた。

「まぁ、そう言うなよ。レイヴン公だって寝返りがバレないよう慎重なんだ……多分……」

 建国宣言から2週間。現国王であるアルバートが、先代であるアドウェールを殺害したという噂は瞬く間に広がり、王都では物議を醸していた。
 それがただの噂であれば沈静化は容易だったのかもしれないが、同時に王族であるリリーが新たな国を興してまで宣戦を布告してきたのだ。
 その信憑性は高く、国民に動揺が走ったのは言うまでもない。
 王宮はそれを流言であると発表し、国を捨て魔王に付いた王女など信用に値しないと釈明。
 同時に、宣戦布告は事実であることを公表。その対策として、ベルモントには1000人規模の王国軍を派遣してきた。

 今からそれを相手にするかもしれないという状況。気が抜けないのは当然だ。

「まぁ、気楽にいこうぜ? 俺達がこうやって焚き火を囲めるのも最後かもしれねぇんだし」

「ちょっと、縁起の悪い事言わないでよ……」

 眉間にシワを寄せ不機嫌そうなネストに対し、バイスはどこ吹く風とばかりにフラグを気にもしていない様子。

「おいおい、飛躍しすぎだろ。俺は、もう冒険者ごっこも出来ねぇだろうな――ってことを言いたかっただけだよ」

 コット村からギルドが撤退した時点で、シャーリーは冒険者には戻れないだろうと確信していた。
 暫くギルドに顔を出していない為、自分の扱いがギルド内でどのようになっているのかは不明だが、魔王に与しているという時点で既に除名されていてもおかしくない。
 シャーリーは、その可能性をアーニャに言及したことがある。……が、帰ってきた答えはまるでノーダメージだとでも言わんばかり。

「私はお父さんと共に生きられればそれでいい。たとえ九条が本物の魔王だって、魂を売る覚悟がある――。あんたもそうなんじゃないの? 詳しくは知らないけど、何度か九条に助けられてるんでしょ?」

 そんなことは、言われずともわかっている。九条の傍にいようと、シャーリーは心に決めているのだ。
 ただ唐突過ぎた為、冒険者には多少の未練もあった。
 ひとまずの夢でもあるゴールドプレートに到達した。ひとえにそれは、努力の結晶であり成果である。
 名残惜しいと思うのも当然だろう。

「昔はこうやって焚き火を囲んでたっけ……」

 それは、九条に出会う前の話。思い出される冒険者時代……。といってもそれほど昔でもないのだが、懐かしさを覚え物思いに耽る。
 若干1名欠けてはいるが、誰もそれには言及しない。
 ネストは、御先祖様の魔法書を探し出す為に……。バイスは、見識を広めるために……。
 冒険者を目指した理由に個人差はあれど、目標へと向かって歩んでいた過去の自分を振り返り、お互いが顔を見合わせ照れくさそうに微笑んだ。

 そこに颯爽と現れたのは、インコのピーちゃん。
 バサバサと空中でホバリングをしてからの、シャーリーの頭上に見事な着地。

「しゃーりーノ姉御! 出番デスゼ!」

「……ってことは、予定通りってことね?」

「王国軍ノ大半ガ、街ヲ出タ! 今ガ、ちゃんすダ!」

「はぁ、結局九条は帰ってこなかったか……」

 相手は、こちらの想定通りに動いた様子。
 オルクス率いる海賊連合とイレース率いるサハギン達が、先行してハーヴェストに侵攻を始めている。
 海戦にて彼等の右に出る者はいないだろう。それが手に負えなければ、ベルモントに救援を求めるのは確実だ。
 ベルモントに駐屯している王国軍がそちらに向かえば、その分シャーリーたちの負担は減る。
 カガリと白狐を除いた魔獣達に加え、多数のアンデッド部隊。更にはファフナーも上空で待機中ともなれば、負ける要素は見当たらない。

「これ、私いらなくない? ファフナーと交渉役が1人いれば十分だと思うんだけど……」

「まぁ何事も経験だ。それに九条が出したアンデッドたちは、村人を守る以外シャーリーの言う事しか聞かないんだろ?」

「そうだけどさぁ……」

 大きな溜息と共に肩を落とすシャーリー。

「デビュー戦、頑張れよ? ネクロレギオン総司令殿」

「それなのよ……。国名はふざけてるのに、どうして私の部隊だけ真面目に命名したワケ!?」

 その理由は簡単だ。ミアがその場にいなかったからである。
 森の中でひっそりと身を潜めている者達は、コット村南進地区の土木工事を担当していたアンデッドの再利用が大半。
 それに命令を出せるのは、九条を除いて僅か2名。ミアとシャーリーだけである。
 標準的なスケルトンは最早数えるのも億劫なほどで、再召喚は面倒だからとシャーリーがその統括を任された。
 そこに新たにデスナイトが30体。加えてリッチが1体にデュラハンのガロンを配下に加え、その部隊をネクロレギオンと銘打つ事となったのだ。

「そりゃぁ、相手に舐められないようにする為だろ……」

 だったら先に国の名前をどうにかした方がいいと思ったシャーリーだったが、それをバイスやネストに愚痴ったところで仕方がない。

「それよりも、作戦は頭に入ってるか?」

「出来るだけ民間人を傷付けずに――でしょ? 九条も結構めんどくさい事言うわよね……」

「ああ。無理なら気にするなとも言ってたが……」

「まぁ、なんとかなるでしょ。これだけの戦力を前に歯向かおうって人がいるなら、逆に尊敬しちゃうわよ」

 それは、興味本位でトラッキングスキルに意識を集中させたシャーリーが後悔してしまうほどのもの。
 辺りは真っ赤に埋め尽くされ、最早それはレーダーとしての意味をなさなくなっていた。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月中旬出棺です!! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...