生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第592話 慈悲と無慈悲

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「はい、ちゅうもーく」

 ベルモントの南門。その上でパンパンと手を叩いたのは、ネクロレギオン総司令のシャーリーだ。
 辺りに集まっているのは、王国軍の兵士達。既に武器と防具は没収され、その顔に覇気は見られない。
 シャーリー達がベルモントを占領した後、統治の方はネストとバイスに一任し、すぐに南下を開始。
 ハーヴェストへの援軍に追い付き一戦を交えた。
 結果、王国軍はハーヴェストへ逃げ延びようと試みたものの、既にそこは海賊とサハギンに支配される街に変貌しており、健闘虚しく白旗を振ったという訳だ。

「これからあなた達を捕虜として扱う事になりますが、全ての面倒はみきれないので間引きまーす」

 そうシャーリーが宣言した時の兵士達の動揺といったら酷いものだ。
 アンデッドと魔獣達に囲まれ、更にシャーリーの後ろではファフナーが目を光らせている。
 抵抗は愚か逃げ出す事すらままならず、自分が間引きの対象となるかもしれないという不安から、嘔吐する者も出る始末。

「……ですが、我等が女王リリー様の計らいで、抵抗せず逃げ出さないと誓うなら、比較的自由な生活を保障しても良いというお言葉を賜りました」

 それを聞き、ほんの少しの希望を見出す兵士達。
 条件としては破格である。捕虜は最低限いればいい。重要なのは、その数ではなく地位なのだ。
 人質としての価値。騎士であれば、そこそこの家柄。身代金を払える能力がある者は、ある程度の尊厳を持って扱われ、家族や所属する領主が身代金を支払えば解放されることもある。
 逆にそうでない者は、いるだけ無駄だ。脱走や反乱の可能性を鑑みれば、処刑するか奴隷として売ってしまった方が賢明だ。

「あなた達には、ベルモント組とハーヴェスト組に分かれて生活してもらいます。仮にベルモント側で脱走者が出れば、連帯責任としてハーヴェスト側の捕虜を処刑します。当然逃げ出した者にも同様の罰を与え、死体はアンデッドとして有効活用するので、そのつもりで」

 裏切りに対する対価は、仲間の命。統率が取れ、団結力があればあるほど機能する罰則。
 非人道的ではあるが、抑止力は十分だ。

「では、運命の選択です。リリー様の慈悲を賜り、人としての生活を望む者は街道を挟み右側へ。悪戯に抵抗し、魔王のおもちゃ……アンデッドとして新たな生を賜りたい者は左側へ集合して下さい」

 結果は一目瞭然。街道の左側に残る者など、いるはずもなかった。



 ベルモントの街は、すっかり変わってしまった。
 街の至る所にデスナイトが配備され、我が物顔で闊歩する魔獣たち……。
 町民たちもそれにはビビり散らしていたが、2週間も経ってしまえば慣れたもの。
 たまに見かけるアンデッドは置物同然。何もしなければ、当然何もしてこない。
 魔獣達だって町民なんぞに興味はない。しっかり餌も与えられているので、適当な屋台を襲って食材を平らげてしまう……なんてこともないのだ。
 そもそもの話、コット村から来る商人達はアンデッドや魔獣に対して一切ビビっていなかった。
 それを見れば、怖がるだけ無駄だということに気付くのも時間の問題。
 逆に横柄な冒険者や、チンピラのような厄介者が鳴りを潜めた事で、治安が良くなったとの声も出ている始末。
 皆の生活は、ほぼいつも通りに戻ったと言っても過言ではなかった。

「それも、ネストとバイスの手腕かなぁ……」

 ベルモントの北門。その上で見張りの任務をこなしているのは、やはりシャーリー。
 やっていることは、コット村と同じである。
 別にアンデッドや従魔達に見張りを任せてもいいのだが、残念ながら今のベルモントにシャーリーの居場所はなかった。
 元々はこの街で冒険者として活動していたシャーリー。昔馴染みの店やギルドに顔を出してはみたものの、その扱いはまるで別物。
 それもそのはず、シャーリーは敵軍の将である。機嫌を損ねれば、血を見る可能性もなくはない。
 避けられてしまうのも当然で、そんな奇異の目に耐えきれず、結局見張りに落ち着いてしまったというわけだ。

「私はアンデッドじゃないし、そんな怯えた目で見なくても良くない?」

 それは、無理な相談だ。ベルモントでシャーリーを知る者は多く、そこそこ前から九条とパーティを組んで活動していることは有名である。
 そんな魔王の右腕みたいな立ち位置にいて一般人扱いなど、今更出来るはずがない。

 シャーリーは、溜息をつきながらもワダツミに寄りかかり天を仰ぐ。
 空は快晴、お昼寝には丁度良い暖かさ。……にも拘らず、もふもふの背もたれは突如反旗を翻した。
 おかげで、シャーリーはそのまま地面に寝転び、ワダツミはそれを恨めしそうに覗き込む。

「あぁ、ごめんごめん。アンタ達も同じよね……」

 シャーリーに向けられたワダツミの視線は、抗議と言ってもいいだろう。
 魔獣という存在にとって、そんなことは日常茶飯事。
 贅沢な悩みだ――。シャーリーにはそう言っているように見え、それは遠からず当たっていた。

 それに満足したのかしないのか……。視線を逸らしたワダツミが、じっと見据えるその先には、北の街道を南下してくる1台の馬車。

「ん? あれって……」

 遠目からでもわかる豪華な馬車。御者を担っているのはガタイの良さげな騎士である。
 辺りにこれといった護衛は見られず不用心に見えなくもないが、貴族レベルの身分の者が乗車しているのは確実だ。

「ようやくのお出ましか……。まぁ、回れ右して帰ってもらいましょうか……」

 ゆっくりと立ち上がり、大きく背伸びをしたシャーリー。
 腕をグルグルと回し軽い準備運動を終えると、ミスリル製の弓を携え警戒レベルを引き上げる。

 恐らくは、王都から派遣されてきた交渉人。街の解放を求めるつもりなのだろうが、どんな条件を出されようとも交渉する気はゼロである。
 門番のデスナイトで少し脅してやれば、尻尾を巻いて帰還する。貴族など、所詮その程度の度胸しか持ち合わせていない。
 そう思って近寄ってくるのを待っていたシャーリーだったが、どうにも様子がおかしい。
 顔が確認できるかどうかの位置で足を止めた馬車。突如その扉が開き、出てきたのは黒いスーツの初老の男性。
 その手に持たれていたのは、降伏を意味する白旗だ。

「あれ? もしかして……セバスさん?」

 それは、アンカース家に雇われている執事長。
 まるで甲子園の応援団かと思うほどに、ばっさばっさと旗を振るその姿は威風堂々。
 本当に降伏するつもりがあるのかと疑いたくなるほどに力強い。

「なんだろ……。ネストに用事? 白旗なんかなくても普通に入れてあげるのに……」

 シャーリーがその意味を理解したのは、その後に降りて来た人物に見覚えがあったからである。

「え!? シルビア……様!?」

 出てきたのはローンデル領の領主、レストール伯爵家の御令嬢。ブラムエストの町長を務めるシルビアであった。
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