生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
612 / 722

第612話 新たな国の導き手

しおりを挟む
「ですが、九条は何故このタイミングでこれを明かしたのです?」

 当然の疑問だろう。そのティアラの存在は、もふもふアニマルキングダムにとって都合が悪い。
 近い内に明かすつもりではいたのだが、このタイミングになってしまったのは、既に議題が国の行く末になってしまっていたからだ。
 第1王子に与していた貴族達への制裁を決議する場であると聞いていたのだが、話が進み過ぎてしまったのか、流れでそうなってしまったのか……。
 どちらにせよ、今は会議に顔を出しておいて正解だったと内心安堵している。

「なんというか、フェアじゃないと思ったんですよ。仮にリリー様が俺達を選んだとして、その後にこのティアラを渡されたら、自分の選択を後悔するかもしれないでしょう?」

 元々は王族の血を捨てるつもりだった。それだけの覚悟をもって、俺の元へと身を寄せたのだ。
 しかし、アドウェールの言葉に、迷いが生まれてしまっていてもおかしくはない。玉座に座り、被る王冠の重みを知った。
 その意思を継ぎ、スタッグの王として人生を歩むか……。それとも、俺への恩に報いる為、もふもふアニマルキングダムの王として君臨し続けるべきか……。
 誰が何と言おうと、その最終的な決断を下すのはリリーである。

「九条は……私がスタッグに身を置く選択をしても、許してくれるのですか?」

「許すもなにも、それがリリー様の選択なら、反対はしません」

「……本当にそれだけですか?」

「そうですよ? まぁ、こんな事を言うのもなんですが、これを機に俺とは距離を置くのもアリだとは思いますね。父への復讐を果たす為、魔王の力を借りただけ。心までは売ってはいない。魔王にはその礼に、コット村の領地を与える約束をしていた――。どうです? 腑に落ちると思いませんか?」

 俺とリリーとの関係が、ビジネスライクなものであったと周知されれば、国民もある程度は納得してくれるだろう。
 逆にある程度魔王との友好関係を築けていれば、侵略される可能性は低く、怯える心配もなくなるという意味では、歓迎する者も出てくるかもしれない。

「九条は、魔王のままでもいいと?」

「他人が何と言おうと、俺は俺です。冒険者に付けられる二つ名だって、似たようなもんでしょう? そこに本人の意向など存在せず、否定したところで変わりはしません」

「もふもふアニマルキングダムは、どうなるのです?」

「そうですねぇ。王様がいなくなるので、キングダム改め共和国……が、妥当ですかねぇ。まぁ同盟国の説得も含め、なんとかしてみせますよ」

 リリーが憂慮しないようにと、明るく振舞ったつもりではあったが、その表情は納得しているとは言い難い。
 眉をひそめ、唇をきつく結びながらも俺をじっと見つめていた。

「つまり、九条にとって私は不要ということですか?」

 言うに事欠いて不要とは……。当然そんなこと微塵も思っていない。
 俺はただ、もふもふアニマルキングダムがリリーを束縛することはないと言いたかっただけだ。

「いやいや、そんなこと言ってませんて……。俺はただ、悔いのないようにと……」

「私は真の仲間ではなかったと……。そういうことなのですね?」

「違いますって。表向きは交流を控えた方が、今後の治世が円滑になると思って言っただけで……」

 何やら怪しい雲行きだが、おかしな方向に話が進んでいるのは、気のせいだと思いたい……。

「では、必要ということですか?」

「いや、必要とか不要とかではなく……。ここで必要だと言ったら、引き留めてるみたいになるじゃないですか! それがフェアではないと……」

「引き留めればいいじゃないですか! そもそも、九条の死霊術がなければ、この場所も! このティアラも! 知る術がなかったんですよ? どう考えてもそっちの方がアンフェアですよね!? 私には、九条がレイヴン公の味方をしているようにしか見えないのですが!?」

「……うーん……そうかな……?」

 なんか、そう言われるとそんな気もしてきた。白狐も無言で頷いてるし……。
 アドウェールの無念を思うがあまり、意図せず心情が偏っていたのかもしれない。
 しかし、頼まれた手前、隠しておくのもポリシーに反するというか……。

「絶対にそうです! ですので、釣り合いを取る為には、九条が私を引き留めるくらいで丁度良いのです」

「えぇ? じ、じゃぁ……リリー様は変わらず俺達の王として君臨し続けるべきで――」

「ハイっ! 任せてください!」

 狙いすましていたかのように繰り出された、食い気味な返事。
 その所為で、語尾に来るはずだった「――とでも言えばいいんですか?」の部分はバッサリカットされてしまった。

 当のリリーは、言えなかった気持ちをようやく吐き出せたと言わんばかりの安堵と、幸福感を覚えているかのような満面の笑み。
 なんというか、上手く誘導されてしまった感は否めないが、その笑顔を見ていると、なんでも許してしまいそうになるのが不思議である。

「もしかして、俺ハメられました?」

「さぁ? 何の事でしょう?」

 俺の盛大な溜息に、不敵な笑みを浮かべるリリー。

「本当にいいんですね?」

「もう。九条ってば、くどいですよ?」

 ならば、何も言うまい。それがリリーの選択なら、全力で支援する。男に二言はないのだ。

「それで? これから、どうするんです?」

「残念ながら、全てを公平にというのは難しいです。しかし、平等を目指す事は出来ます」

 アドウェールから送られたティアラを箱に戻し、大事そうに抱えたリリー。
 その顔に迷いはなく、憑き物が落ちたかのような清々しさだ。

「では、一足先に戻っていますね。皆が揃い次第、会議を再開しましょう」

 俺の返事も聞かず、リリーは足早にアドウェールの寝室を後にする。
 ……と、思ったのだが、扉の隙間からちょこんと顔だけを覗かせた。

「お父様! ティアラありがとうございます。形見として大切にしますね。それと、私は私の信じた道を歩みます! もう振り返らないと決めましたから!」

 リリーは少し恥ずかしそうに頬を染め、それだけを言うと、バタバタと忙しない足音を立て去って行く。
 白狐がそれを急いで追いかけると、寝室は元の静寂を取り戻した。

「……だそうですが……?」

「まさか、リリーに死霊術の適性が!?」

「んなわけないでしょ……」

 残されたのは俺の他にもう1人。アドウェールの魂だ。
 まぁ、少し考えればわかる事である。
 父親からの最後の贈り物。それにリリーがどんな反応を見せるのか。贈る側が気にならないはずがない。
 加えて、そこには俺がいる。見えずとも共にいるだろうくらいの予想はでき、いなくともそれは、俺を通じて伝える事が出来る。
 俺の意見がアドウェール側に偏り過ぎていたのも、原因の1つだったのかもしれないが……。

「王位に後ろ向きだったリリーが、立ち上がることを選んだのだ。私も死んだ甲斐があったというもの」

「結果、王国がなくなりそうなんですけど、いいんですか?」

「無念ではあるが、仕方あるまい。リリーなら大丈夫。言っただろう? あの子は強い。最早、未練などありはしないさ」

 国を導く存在として王に君臨していながらも、やはりその本質は父なのだ。
 強がりを言いつつも、その瞳には薄っすらと涙を溜めていた。

「そうだ、九条。私はここでもう少しリリーを見守ってやりたいのだが、どうにかならんか?」

「未練ありまくりじゃないですか……」
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月中旬出棺です!! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...