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第616話 名誉騎士
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リリーの戴冠式を終え、その場で国家統合の調印も終了。
国の名前は変わったが、街の名前は変わらない。スタッグはエクアレイス王国の王都として名を残し、新たな1日が幕を開けた。
「おにーちゃん。朝だよ?」
「うーん、まだ眠い……。次の日の朝になったら起こしてくれ……」
貴賓室の巨大なベッドで目を覚ますと、俺の上でマウントポジションを取っていたのは、他でもないミアである。
それを気にせず寝返りを打つと、次に目が合ったのはキャロだ。
「えへへ……」
照れくさそうな笑顔は可愛らしいのだが、今はまだかまってやれるほどの気力はない。
「ワダツミかコクセイでも相手にしててくれ……」
戴冠式の前、書類の整理に追われながらも、それを予定より早く終わらせ、コット村までミアやキャロを迎えに行った。
その足でグランスロードのメナブレアまで出向き、エドワードに事情を説明。急であった為、女王であるヴィクトリアはスケジュールの調整が難航、代打としてネヴィアとエドワードが戴冠式へ赴く事になった。
その間は、ファフナーでひとっ飛びという事もあり、楽と言えば楽だったのだが、帰って来れば今度は戴冠式と調印式の打ち合わせ……。
万が一を考えて、パレードが通る大通りには骨を。騎士の隊列の中にはリビングアーマーを忍ばせておき、本番では上空からファフナーと共に監視の目を光らせていた。
更にパレード後は、すぐさま礼拝堂でアドウェールの召喚。そして夜な夜な王宮を抜け出しては、王都の外で経を読みながらの魂回収。
これは野良アンデッドを生まない為の後始末ではあるのだが、この世界に労働基準法があるとするなら、違反しているのは確実。
そんなわけで、俺は疲れているのだ。日曜日は寝ていたいという全国のお父さんの気持ちがよくわかる。
「でも……」
「いざとなったら、俺が土下座して頼むから……」
「ホントに!? やったぁ!」
寝転びながらもミアと一緒に喜ぶキャロ。俺の土下座にそれほどの効力があるのかは疑問だが、睡眠時間のためである。
キャロの望みは、王都スタッグの観光――なのだが、恐らくエドワードとネヴィアが帰還するタイミングで一緒に帰国――という話になるはずだ。
メナブレアから出る事のない生活から一変。俺達との交流により、その世界は広がったと言っても過言ではないだろう。
見る物全てが初めて――とまでは言わないが、他国の文化に触れてみたいと思うその好奇心は、至極当たり前の事である。
折角の機会だ。その望みを叶えてあげたいところだが、状況が状況だけに、1人での外出は推奨できない。子供と言えど、その扱いは同盟国からの来賓だ。
幸い戦争による街中の被害は少なく、市民の生活状況にはあまり変化はないらしいとは聞いている。
今必要なのは、外側ではなく内側。心のケアと言ったところか……。
「だから、もう少し寝かせてくれ……」
俺の悲痛な叫びに、素直な返事が返ってくるのかと思いきや、返ってきたのは辛辣な言葉。
「いやぁ、それは無理じゃない?」
反対側に寝返りを打つと、形の整った臀部が目の前に聳えていた。
その肉付きの良さには、見覚えがある。
「シャーリー……。お前どこから……」
「なんか、女王陛下が来るって言ってたわよ?」
「えぇ……。何しに?」
「さぁ?」
シャーリーが何故ここにいるのかは、ミアが扉を開けたのだろうと推測できるが、今はそれどころではない。
リリーが来るまで寝溜めするか、今すぐ起きてお迎えの準備をしておくか……。
考えるまでもなく後者なのだが、めんどくさいとは口が裂けても言えやしない。
「なら、起きないとな……」
まぁ、ゆっくり話したいこともあるにはある。国の名前の事とか、国の名前の事とか……。後は、そう、国の名前の事とか!
俺が口を出す事ではないので、事前には聞かなかったのだが、まさか俺がもふもふアニマルキングダムに付ける予定だった名前を、そのまま使い回すとは……。
別に怒っている訳ではないのだが、戴冠式のスピーチ中に、ちょっと待てぇぇい! などとツッコミを入れるわけにもいかず、真相は今日まで闇のままだ。
暫くすると、シャーリーの言う通り白狐を連れたリリーが、レイヴンと共に訪ねてきた。
「ごきげんよう九条。昨日は良く眠れましたか?」
「ええ。おかげさまで」
素直にまだ寝ていたいです――と言ってもいいのだが、魂の回収は自主的に行っているだけなので、リリーに当たるのは筋違い。
ここは早めに用件を聞き出し、2度寝しようと思う。
「えーっと、俺に何か用ですか?」
「はい。新たに設ける階級についてお話しておこうかと。九条にはまだ詳しくは言っていなかったと思うので」
「階級……ですか?」
詳しくもなにも初耳である。そもそも階級と言われてもピンとはこない。
俺の知っているところで言えば、貴族に騎士に侍従、侍女。あとは、近衛兵くらいだろうか……。
他にも色々とあるのだろうが、そもそも興味などないし、出来れば俺に聞かず、貴族同士で話し合った方が良いのではなかろうか?
「まぁ聞くのは一向に構いませんが、俺の意見など聞いたところで参考になるかどうか……」
「何を言っているのです? 九条に与える階級の話ですよ?」
「え?」
「え?」
何も聞いていないという事を暗に訴える俺に対し、リリーもまた、なんで知らないのかという困り顔。
そんな状況に、レイヴンは大きく咳払い。
「知らぬわけがあるまい。これには署名の上、調印までされているではないか」
そう言って、レイヴンが机に広げたのは1枚の合意書。見覚えはないが、確かに自分の署名と共にワダツミの肉球スタンプが捺印されていた。
それが何を意味するのか……。わからない俺ではない。
書類の数が尋常ではなく、面倒だからと途中から適当に読み飛ばしていた所為である。
「アハハ……確かに、そんなのもあったような気が……」
おそらく誤魔化し切れてはいないだろうが、十中八九俺の落ち度だ。
俺はその合意書を手に取り、今度こそしっかり目を通す。
そこにはしっかりと、俺を名誉騎士に任ずると記載されていたのだ。
「名誉騎士……ですか……」
「はい。私直属の騎士に……と言いたいところではありますが、それではあまりにも制限が多すぎます。当然、貴族位も受け取らないでしょうから、新たな階級を作ったのです。我が国に対し、多大なる貢献が認められた者に送られる特別騎士階級。貴族で言うなら伯爵と同等の権利を持ち、それでいてある程度の自由を保障します」
それに就ける者は、過去にバルザック勲章を授与された者に限り、且つ国王及び、3人以上の上級貴族の推薦が必要との記載もあった。
「伯爵と同等であれば、領地の下賜も可能と言う事だ」
「なるほど。そういうことでしたか……」
レイヴンの言葉で、全てを察した。
流石はリリーと言うべきか。国民だけではなく、俺に対してもアフターケアは完璧らしい。
「グランスロードでは、巫女という役職が出来ましたよね? それに着想を得て、しがらみの少ない階級として名誉騎士を設けました。コット村は九条のおかげで、最早村とは呼べないほどに発展していますし、私がコット村に滞在していた期間は僅かでしたが、村人達の九条への信頼は揺るぎのないものでした。ですので、コット村の事は九条に一任しようと決めたのです。平等を掲げるなら、それが一番でしょう?」
俺はその場に立ち上がると、リリーの前で跪く。
「名誉騎士の任。喜んでお受けいたします。陛下の温情と深き信頼の賜物と、心よりの感謝を申し上げます」
合意書にサインをしている手前、断る選択肢はないのだが、そこに仕方なくという諦めの感情はなく、言葉通りの感謝しかなかった。
俺に、コット村を管理させようとする意図は恐らく2つ。
1つはリリーの言う通り、村人たちからの信頼度。そしてもう1つが、フードルへの配慮だろう。
平等を謳ってはいるが、いきなり王国全土での魔族との共存は敷居が高い。しかし、コット村だけであればそれも可能だ。
限定的ではあるが、それは国公認という後ろ盾を得た事と同義である。
「ただ、領地の運営となると、正直自信はありませんね……」
治安と防衛に関しては俺でもなんとかなりそうだが、事務関係はさっぱりだ。
住民の管理や税の徴収など、せめてお手本となる指導を受けられれば……。
「大丈夫です。領主としての仕事をサポートするのに、ピッタリの人材を用意していますから」
その時だ。貴賓室の扉が勢いよく開かれると、そこに立っていたのは予想外の人物。
「おーっほっほっほ! 神……じゃなかった……九条様! 領地の運営は、全てこの私にお任せくださいまし! 手取り足取り教えて差し上げますわ!」
部屋の入口で女性らしからぬ仁王立ち。左手は腰に、右手は口元を隠すようにして、豪快な高笑いを披露したのは、他でもないシルビアである。
俺は、そんなシルビアに冷やかな視線を向けつつも、次の言葉に全てを込めた。
「……チェンジ」
国の名前は変わったが、街の名前は変わらない。スタッグはエクアレイス王国の王都として名を残し、新たな1日が幕を開けた。
「おにーちゃん。朝だよ?」
「うーん、まだ眠い……。次の日の朝になったら起こしてくれ……」
貴賓室の巨大なベッドで目を覚ますと、俺の上でマウントポジションを取っていたのは、他でもないミアである。
それを気にせず寝返りを打つと、次に目が合ったのはキャロだ。
「えへへ……」
照れくさそうな笑顔は可愛らしいのだが、今はまだかまってやれるほどの気力はない。
「ワダツミかコクセイでも相手にしててくれ……」
戴冠式の前、書類の整理に追われながらも、それを予定より早く終わらせ、コット村までミアやキャロを迎えに行った。
その足でグランスロードのメナブレアまで出向き、エドワードに事情を説明。急であった為、女王であるヴィクトリアはスケジュールの調整が難航、代打としてネヴィアとエドワードが戴冠式へ赴く事になった。
その間は、ファフナーでひとっ飛びという事もあり、楽と言えば楽だったのだが、帰って来れば今度は戴冠式と調印式の打ち合わせ……。
万が一を考えて、パレードが通る大通りには骨を。騎士の隊列の中にはリビングアーマーを忍ばせておき、本番では上空からファフナーと共に監視の目を光らせていた。
更にパレード後は、すぐさま礼拝堂でアドウェールの召喚。そして夜な夜な王宮を抜け出しては、王都の外で経を読みながらの魂回収。
これは野良アンデッドを生まない為の後始末ではあるのだが、この世界に労働基準法があるとするなら、違反しているのは確実。
そんなわけで、俺は疲れているのだ。日曜日は寝ていたいという全国のお父さんの気持ちがよくわかる。
「でも……」
「いざとなったら、俺が土下座して頼むから……」
「ホントに!? やったぁ!」
寝転びながらもミアと一緒に喜ぶキャロ。俺の土下座にそれほどの効力があるのかは疑問だが、睡眠時間のためである。
キャロの望みは、王都スタッグの観光――なのだが、恐らくエドワードとネヴィアが帰還するタイミングで一緒に帰国――という話になるはずだ。
メナブレアから出る事のない生活から一変。俺達との交流により、その世界は広がったと言っても過言ではないだろう。
見る物全てが初めて――とまでは言わないが、他国の文化に触れてみたいと思うその好奇心は、至極当たり前の事である。
折角の機会だ。その望みを叶えてあげたいところだが、状況が状況だけに、1人での外出は推奨できない。子供と言えど、その扱いは同盟国からの来賓だ。
幸い戦争による街中の被害は少なく、市民の生活状況にはあまり変化はないらしいとは聞いている。
今必要なのは、外側ではなく内側。心のケアと言ったところか……。
「だから、もう少し寝かせてくれ……」
俺の悲痛な叫びに、素直な返事が返ってくるのかと思いきや、返ってきたのは辛辣な言葉。
「いやぁ、それは無理じゃない?」
反対側に寝返りを打つと、形の整った臀部が目の前に聳えていた。
その肉付きの良さには、見覚えがある。
「シャーリー……。お前どこから……」
「なんか、女王陛下が来るって言ってたわよ?」
「えぇ……。何しに?」
「さぁ?」
シャーリーが何故ここにいるのかは、ミアが扉を開けたのだろうと推測できるが、今はそれどころではない。
リリーが来るまで寝溜めするか、今すぐ起きてお迎えの準備をしておくか……。
考えるまでもなく後者なのだが、めんどくさいとは口が裂けても言えやしない。
「なら、起きないとな……」
まぁ、ゆっくり話したいこともあるにはある。国の名前の事とか、国の名前の事とか……。後は、そう、国の名前の事とか!
俺が口を出す事ではないので、事前には聞かなかったのだが、まさか俺がもふもふアニマルキングダムに付ける予定だった名前を、そのまま使い回すとは……。
別に怒っている訳ではないのだが、戴冠式のスピーチ中に、ちょっと待てぇぇい! などとツッコミを入れるわけにもいかず、真相は今日まで闇のままだ。
暫くすると、シャーリーの言う通り白狐を連れたリリーが、レイヴンと共に訪ねてきた。
「ごきげんよう九条。昨日は良く眠れましたか?」
「ええ。おかげさまで」
素直にまだ寝ていたいです――と言ってもいいのだが、魂の回収は自主的に行っているだけなので、リリーに当たるのは筋違い。
ここは早めに用件を聞き出し、2度寝しようと思う。
「えーっと、俺に何か用ですか?」
「はい。新たに設ける階級についてお話しておこうかと。九条にはまだ詳しくは言っていなかったと思うので」
「階級……ですか?」
詳しくもなにも初耳である。そもそも階級と言われてもピンとはこない。
俺の知っているところで言えば、貴族に騎士に侍従、侍女。あとは、近衛兵くらいだろうか……。
他にも色々とあるのだろうが、そもそも興味などないし、出来れば俺に聞かず、貴族同士で話し合った方が良いのではなかろうか?
「まぁ聞くのは一向に構いませんが、俺の意見など聞いたところで参考になるかどうか……」
「何を言っているのです? 九条に与える階級の話ですよ?」
「え?」
「え?」
何も聞いていないという事を暗に訴える俺に対し、リリーもまた、なんで知らないのかという困り顔。
そんな状況に、レイヴンは大きく咳払い。
「知らぬわけがあるまい。これには署名の上、調印までされているではないか」
そう言って、レイヴンが机に広げたのは1枚の合意書。見覚えはないが、確かに自分の署名と共にワダツミの肉球スタンプが捺印されていた。
それが何を意味するのか……。わからない俺ではない。
書類の数が尋常ではなく、面倒だからと途中から適当に読み飛ばしていた所為である。
「アハハ……確かに、そんなのもあったような気が……」
おそらく誤魔化し切れてはいないだろうが、十中八九俺の落ち度だ。
俺はその合意書を手に取り、今度こそしっかり目を通す。
そこにはしっかりと、俺を名誉騎士に任ずると記載されていたのだ。
「名誉騎士……ですか……」
「はい。私直属の騎士に……と言いたいところではありますが、それではあまりにも制限が多すぎます。当然、貴族位も受け取らないでしょうから、新たな階級を作ったのです。我が国に対し、多大なる貢献が認められた者に送られる特別騎士階級。貴族で言うなら伯爵と同等の権利を持ち、それでいてある程度の自由を保障します」
それに就ける者は、過去にバルザック勲章を授与された者に限り、且つ国王及び、3人以上の上級貴族の推薦が必要との記載もあった。
「伯爵と同等であれば、領地の下賜も可能と言う事だ」
「なるほど。そういうことでしたか……」
レイヴンの言葉で、全てを察した。
流石はリリーと言うべきか。国民だけではなく、俺に対してもアフターケアは完璧らしい。
「グランスロードでは、巫女という役職が出来ましたよね? それに着想を得て、しがらみの少ない階級として名誉騎士を設けました。コット村は九条のおかげで、最早村とは呼べないほどに発展していますし、私がコット村に滞在していた期間は僅かでしたが、村人達の九条への信頼は揺るぎのないものでした。ですので、コット村の事は九条に一任しようと決めたのです。平等を掲げるなら、それが一番でしょう?」
俺はその場に立ち上がると、リリーの前で跪く。
「名誉騎士の任。喜んでお受けいたします。陛下の温情と深き信頼の賜物と、心よりの感謝を申し上げます」
合意書にサインをしている手前、断る選択肢はないのだが、そこに仕方なくという諦めの感情はなく、言葉通りの感謝しかなかった。
俺に、コット村を管理させようとする意図は恐らく2つ。
1つはリリーの言う通り、村人たちからの信頼度。そしてもう1つが、フードルへの配慮だろう。
平等を謳ってはいるが、いきなり王国全土での魔族との共存は敷居が高い。しかし、コット村だけであればそれも可能だ。
限定的ではあるが、それは国公認という後ろ盾を得た事と同義である。
「ただ、領地の運営となると、正直自信はありませんね……」
治安と防衛に関しては俺でもなんとかなりそうだが、事務関係はさっぱりだ。
住民の管理や税の徴収など、せめてお手本となる指導を受けられれば……。
「大丈夫です。領主としての仕事をサポートするのに、ピッタリの人材を用意していますから」
その時だ。貴賓室の扉が勢いよく開かれると、そこに立っていたのは予想外の人物。
「おーっほっほっほ! 神……じゃなかった……九条様! 領地の運営は、全てこの私にお任せくださいまし! 手取り足取り教えて差し上げますわ!」
部屋の入口で女性らしからぬ仁王立ち。左手は腰に、右手は口元を隠すようにして、豪快な高笑いを披露したのは、他でもないシルビアである。
俺は、そんなシルビアに冷やかな視線を向けつつも、次の言葉に全てを込めた。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
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