生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第622話 目指せ!解脱マスター!

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 結局、死霊術の魔法書は諦め、お金の代わりに支払うつもりだった宝飾品を回収。
 エルザに皮肉を言われながらも、疑ってしまった事を軽く謝罪し、俺達は帰路に就いた。
 少々狭いが、俺の自宅にシルビアとソーニャ、グラーゼンを招き入れ、聞き取り調査の開始。
 貴族のお嬢様にとっては粗末な部屋に見えるかもしれないが、清潔にはしているつもりだ。
 なにせ、従魔達の抜け毛が半端じゃない。気付くと無意識に箒を持っているくらいには気を使っている。
 それでもシルビアがそわそわと落ち着かないのは、テーブルの上の木箱が気になっているからだろう。
 それはレストール卿から預かった物。お察しの通り、その中身はペライスの頭蓋である。

「で? それは何時頃から聞こえ始めた?」

「はっきりとは覚えていないのですが、丁度私が教会に愛想を尽かした頃でしょうか……。聞いてください九条様! 私が幾ら教会に寄付したと思います!? それでも言う事はいつも一緒。神は、あなたの善行を見てくださっています。あなたの願いもいずれは叶うでしょう……って! いずれって何時ですの!? 具体的に後おいくら必要なんですの!?」

 俺にキレられても困るのだが……。
 とはいえ、いきなりのヒートアップも理解はできる。実際の額は知らないが、シルビアのことだ。相当な額をお布施したに違いない。
 騙されるのが悪い……とまでは言わないが、俺から言わせてもらえば、それは宗教ではなく最早詐欺だ。

「教会に対する怒りは尤もだが、今はひとまず置いておけ。それよりも、聞こえる声は本当にペライスのものなのか?」

「間違いありません……と、言いたいところではありますが、最近はよくわからなくて……。お父様とセレナには、白昼夢だとか幻聴だと言われ続け、そう言われればそんな気にもなってしまい……。聞こえる声も明瞭ではありませんし、正直自信が……」

「うーん……」

 仲良くお茶の用意しているミアとソーニャ。そんな光景を微笑ましく眺めながらも、正体不明の声について考える。
 エルザ曰く、おかしなところはないとのこと。敢えて言うなら、ヴィルザール教信者のクセに、死霊術を神の業などと都合よく解釈しているところが滑稽だと言っていたくらい。
 勿論、それは本人の前で言うなとは言っておいたが、ネクロガルドの最高顧問たる者がお手上げとなれば、最早白旗も同然だ。

「それは、ブラムエストにいる時にだけなのか?」

「いえ、そんなことはありません。なんなら王都に居た時も聞こえていました。……コット村に来てからはまだですが……」

「具体的には何と? 名前を呼ばれるだけか?」

「いえ、孤独を嘆くようなことも……。なのでお兄様が寂しくないようにと、慰霊碑に寝泊まりしたりしていましたわ」

 墓に寝泊まりとは、ブラコンここに極まれりといったところだが、聞けば聞く程その内容は悪霊に取り憑かれた者のソレである。
 しかし、背後にそのような魂は見当たらず、やはり幻聴か幻覚を疑う以外に他はない。

「まぁ、少なくともペライスの声でない事は確かだ」

「そうなのですか!? その根拠は!?」

 今更だが、そんなものは本人から聞いた方が手っ取り早く、既にペライスはそれを否定していた。
 俺の隣で、何度もシルビアに声を掛けているペライスだが、その声は届いていないのだ。

「根拠って言われてもな……。ここにペライスがいるんだが、その反応だと当然見えていないだろうし、声も聞こえてないだろ?」

「お兄様がそこにおられるのですか!? そう言われると、何処か懐かしい感覚も……」

 勢いよく立ち上がり、俺が指差した方をジッと見つめるシルビア。
 しかし、残念。逆である。

「ああ、すまん。こっちだったわ」

「くッ……ズルイですわよ……」

 恥ずかしそうに俯くシルビアに、込み上げてくる笑いを必死に抑える。
 まぁ今の反応で、見えていないどころか、気配すら察していないことは明白だ。

「では、私に語り掛ける声は、一体誰の物なのですか!?」

 それがわからないから、頭を悩ませているのである。
 別に、犯人はペライスではありませんでした――で、帰ってもらっても構わないのだが、流石にそれは不誠実。
 出来れば原因究明まで付き合ってやりたいが、幻聴で片付けていい問題なのかどうかも不明。
 ネクロガルドの知識を用いてもわからない。それこそ教会で神聖術を用いた治療を施した方がいいんじゃないかとも思うのだが、それで治るのなら最初からレストール卿がやっているはずである。

「うーん。体調不良もなさそうだし、精神的な問題かなぁ……」

「九条様は、私の精神が弱いと!?」

「うん。だって、ペライスに依存しまくってるじゃん」

「ぐっ……」

 精神科医ではない為、適当な事は言えないのだが、もうそれ以外に考えられない。
 精神論は好きではないが、病は気から……や、健全な精神は健全な肉体に宿る……とも言うように、気合とか根性が足りていないのだ。
 そういう意味では、シルビアがペライスの幻影に頼らずとも生きていけるようになれば、多少の改善は見込めるかもしれない。
 こうなったら、とことん付き合ってやろうではないか。

「グラーゼンさん。今日からシルビアは、ウチで預かります」

「もとより、そのつもりだが……」

「いえ、文字通り寝食をともにするという意味です。当然使用人の使用も禁止。ソーニャには暫く休暇を与えてやってください」

「ちょっと待って下さい! それってどういう……」

「シルビア。お前、出家しろ」

「……シュッケ……? とは、なんですの?」

 出家とは、俗世の生活を捨て仏教の修行に励むこと。……いや、今回の場合は、出家と在家のちょうど中間くらいだろうか。
 どちらも修行によって僧侶を目指すという意味は同じだが、家を出て修行をする出家に対し、在家は日常生活はそのままに、仏の道に帰依する者のことを言う。

「簡単に言うなら、精神を鍛える修行だな」

「嫌ですわ! 絶対厳しいに決まっています!」

 一口に修行と言ってもピンキリだが、確かに厳しいイメージはある。しかし、本気で僧侶を目指している訳ではない為、当然手心は加える予定だ。
 よくある、観光客向けお寺修行体験コース。それに毛が生えたような物である。

「そうか? だが、真面目にやれば死霊術の適性に目覚めるかもしれんぞ?」

 その一言で手のひらを返し、目を輝かせて俺の手を握り締めるシルビア。

「是非、やらせていただきますわッ!」

 こうして、シルビアの荒行生活が幕を開けた……。
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