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第634話 圧倒的実力差
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緩やかな風も骨の壁に阻まれた空間。退路の断たれたオーガたちが、どうするのかは想像に難くない。
会話……と呼べるのかも怪しいが、魔王を出せと仕切りに叫んでいた男の影が静かに揺らぐと、踏み出した脚が徐々に速度を上げ、俺へと一直線に向かってくる。
両手持ちの巨大な戦斧を持って尚その速度。その迫力は相当なものだが、数々の強敵を前にした今となっては、赤子の手を捻るのも同然だ。
上げられた咆哮と同時に、2メートルはあろう身長から振り下ろされる戦斧。その一撃が直撃すれば、真っ二つは間違いない。
しかし、そんなわかりやすい直線的な攻撃を躱せないはずがなく、俺からしてみれば、ただ間合いを詰めてくれて助かったというだけだ。
「ご苦労さん……」
突進するオーガの動きに合わせ一瞬で側面へと回り込むと、金剛杵を持つ手にほんの少しだけ力を込め、踏み込むオーガの膝を弾く。
骨の砕ける鈍い音。それと同時に痛々しい悲鳴が轟き、崩れ落ちた巨体に容赦なくダメ押しの一撃をお見舞いする。
膝に次いで右腕の骨をも砕き、機動力と攻撃力を奪う。命まで奪わなかったのは、考え直す機会を与えようと思っただけ。
賢明であれば、実力差を思い知ったはずである。
「うーん……。このまま人質にしてもいいんだが、またシャーリーとミアに悪人ムーブとか言われそうだなぁ……」
呻き声を上げ、地に伏せるオーガを見下ろしながらもどうしようかと思案する。
「……いい声で鳴くぜ……とか、言っといたほうがそれっぽいか?」
魔王と知ってもらうには、その方が効率的な気もするのだが……。
そんなことを悠長に考えていると、他のオーガたちは仲間の悲劇に反応し、一斉に怒声を上げた。その吼え声は、無風の空を裂いて周囲に響き渡る。
そして、各々獲物を突き出すように前に出し、怒涛の如く押し寄せるのだが、そんなもの俺にとっては何の脅威にもなりはしない。
「【呪縛】」
「――ッ!?」
5人のオーガのうち、4人が突如現れた黒い鎖に巻き付かれ、その場に拘束。それを見た1人は慌てて足を止めた。
「あのさぁ、俺をいつでも殺せると豪語したんだったら、サシで勝負しろよ。1人じゃ敵わないとわかったら集団でって……。お前等にプライドはねぇのか……?」
やろうと思えば、まとめて相手にすることはできる。勿論、それは油断ではない。
ギルドの魔物図鑑は一通り目を通している。それは、冒険者が長年培ってきた経験であり知識だ。
ギルドは信用ならないが、冒険者は違う。そこに書かれていることは、純然たる事実。
オーガは、正直言って強い部類の魔物に属する。接近戦闘に限定するなら、ゴールドの冒険者に近い実力を持っていると言っても過言ではない。
人間よりも強靭な肉体。棍棒や斧などの巨大な武器を好む傾向があり、圧倒的な体格を活かした力任せの戦い方が一般的だが、脳筋というわけではない。
人語を操る程度の知能。魔力もそれなりに有してはいるが、恵まれた身体能力の所為か、魔法を主体とした戦闘スタイルは存在しない。
厄介なのは、それだけの強さを誇りながらも単独での行動は好まず、複数体で群れをなし、部族的な社会を形成するという点である。
人語を解するという点で、過去に何度か和平を目的とした対話が試みられたが、オーガ側にその気はなく、すべてが破談となっている。
「どうした? かかってこいよ」
動けるオーガは1体だけ。オーガにしては小柄な女性。手にしている獲物はシミター。当然人間が扱うサイズではない。
しかし、返事はなかった。恐怖など微塵もなかったであろうオーガたちにも、何かしらの警戒心が芽生えたかのようで、迷っているようにも見える。
「九条! 別の魔物が迫って来てる! 数は……10くらい!」
城壁の上から声を上げたのは、シャーリー。
どうやら、オーガたちの怒声が、待機していた仲間達に聞こえてしまったらしい。
死骸壁が行く手を阻んでいるとはいえ、このままでは合流は必至。
流石にこれ以上の数を呪縛で拘束するのは難しい。
「そうか……。残念だが、遊びは終わりだ」
今の台詞は、中々魔王っぽかったんじゃなかろうか? そんな自画自賛をしながらも、呪縛と死骸壁、2つの魔法を解除する。
といっても、手を緩めた訳じゃない。個別に対応するより、まとめて屠った方が効率的だと考えたまで。
「【不死の王】」
魔法書を開き、懇願する――。王による慈悲を賜る為に。
地面に浮かび上がる巨大な魔法陣。膨大な魔力がその中へと吸い込まれ、繋がった深淵から這い出てきたのは巨大な1体のスケルトン。その大きさは、コット村の城壁にも迫るほど。
頭には歪みくすんだ金の王冠。白い法衣に天鵞絨で出来た血のような赤い外套を纏うその姿は、見る者すべてに死の恐怖を刻み込む。
昼間だと言うのに周囲には濃密な瘴気が立ち込め、世界が薄墨色に染まってしまったかと錯覚してしまうほどだ。
「――ッ!?」
それを見上げるオーガたち。合流してきた者達も含め、一切の動きを封じられたかのように佇んでいた。
冷たく重い何かが心臓を掴み、全身を貫く。恐怖という名の見えない鎖が身体を縛り付け、その姿はまるで地面に杭を打たれたかのよう。
意識は逃げろと命じるが、筋肉はそれに応えない。手の先から生命が引き抜かれていくような感覚に、ただ立ち尽くすことしかできないのだろう。
後は、死の王が錫杖を少し振るうだけで、コット村にはいつも通りの平和な日常がやってくる……はずだった。
「待てッ!」
そう声を発したのは、馬車を引き、合流してきたオーガの1人。
「魔王様への捧げ物が、どうなってもいいのかッ!」
その手に握られていたのは、数本のロープ。そのうちの1本を強引に手繰り寄せると、馬車の中から飛び出てきたのは人間の女性。
首元に突きつけられる刃物を見て、その呼吸は浅く早まり、汗が額から滴り落ちる。
人質……と、捉えるべきだろう。その女性には見覚えがあった。
つい数時間前、不躾な視線をこれでもかと浴びせられたロバートの娘のクリスだ。
その瞬間の空間全てが、まるで引き裂かれる寸前の糸のように緊張で張り詰めていたが、俺から出たのは巨大な溜息だけだった。
「……なんで、そんなところにいるんだよ……」
会話……と呼べるのかも怪しいが、魔王を出せと仕切りに叫んでいた男の影が静かに揺らぐと、踏み出した脚が徐々に速度を上げ、俺へと一直線に向かってくる。
両手持ちの巨大な戦斧を持って尚その速度。その迫力は相当なものだが、数々の強敵を前にした今となっては、赤子の手を捻るのも同然だ。
上げられた咆哮と同時に、2メートルはあろう身長から振り下ろされる戦斧。その一撃が直撃すれば、真っ二つは間違いない。
しかし、そんなわかりやすい直線的な攻撃を躱せないはずがなく、俺からしてみれば、ただ間合いを詰めてくれて助かったというだけだ。
「ご苦労さん……」
突進するオーガの動きに合わせ一瞬で側面へと回り込むと、金剛杵を持つ手にほんの少しだけ力を込め、踏み込むオーガの膝を弾く。
骨の砕ける鈍い音。それと同時に痛々しい悲鳴が轟き、崩れ落ちた巨体に容赦なくダメ押しの一撃をお見舞いする。
膝に次いで右腕の骨をも砕き、機動力と攻撃力を奪う。命まで奪わなかったのは、考え直す機会を与えようと思っただけ。
賢明であれば、実力差を思い知ったはずである。
「うーん……。このまま人質にしてもいいんだが、またシャーリーとミアに悪人ムーブとか言われそうだなぁ……」
呻き声を上げ、地に伏せるオーガを見下ろしながらもどうしようかと思案する。
「……いい声で鳴くぜ……とか、言っといたほうがそれっぽいか?」
魔王と知ってもらうには、その方が効率的な気もするのだが……。
そんなことを悠長に考えていると、他のオーガたちは仲間の悲劇に反応し、一斉に怒声を上げた。その吼え声は、無風の空を裂いて周囲に響き渡る。
そして、各々獲物を突き出すように前に出し、怒涛の如く押し寄せるのだが、そんなもの俺にとっては何の脅威にもなりはしない。
「【呪縛】」
「――ッ!?」
5人のオーガのうち、4人が突如現れた黒い鎖に巻き付かれ、その場に拘束。それを見た1人は慌てて足を止めた。
「あのさぁ、俺をいつでも殺せると豪語したんだったら、サシで勝負しろよ。1人じゃ敵わないとわかったら集団でって……。お前等にプライドはねぇのか……?」
やろうと思えば、まとめて相手にすることはできる。勿論、それは油断ではない。
ギルドの魔物図鑑は一通り目を通している。それは、冒険者が長年培ってきた経験であり知識だ。
ギルドは信用ならないが、冒険者は違う。そこに書かれていることは、純然たる事実。
オーガは、正直言って強い部類の魔物に属する。接近戦闘に限定するなら、ゴールドの冒険者に近い実力を持っていると言っても過言ではない。
人間よりも強靭な肉体。棍棒や斧などの巨大な武器を好む傾向があり、圧倒的な体格を活かした力任せの戦い方が一般的だが、脳筋というわけではない。
人語を操る程度の知能。魔力もそれなりに有してはいるが、恵まれた身体能力の所為か、魔法を主体とした戦闘スタイルは存在しない。
厄介なのは、それだけの強さを誇りながらも単独での行動は好まず、複数体で群れをなし、部族的な社会を形成するという点である。
人語を解するという点で、過去に何度か和平を目的とした対話が試みられたが、オーガ側にその気はなく、すべてが破談となっている。
「どうした? かかってこいよ」
動けるオーガは1体だけ。オーガにしては小柄な女性。手にしている獲物はシミター。当然人間が扱うサイズではない。
しかし、返事はなかった。恐怖など微塵もなかったであろうオーガたちにも、何かしらの警戒心が芽生えたかのようで、迷っているようにも見える。
「九条! 別の魔物が迫って来てる! 数は……10くらい!」
城壁の上から声を上げたのは、シャーリー。
どうやら、オーガたちの怒声が、待機していた仲間達に聞こえてしまったらしい。
死骸壁が行く手を阻んでいるとはいえ、このままでは合流は必至。
流石にこれ以上の数を呪縛で拘束するのは難しい。
「そうか……。残念だが、遊びは終わりだ」
今の台詞は、中々魔王っぽかったんじゃなかろうか? そんな自画自賛をしながらも、呪縛と死骸壁、2つの魔法を解除する。
といっても、手を緩めた訳じゃない。個別に対応するより、まとめて屠った方が効率的だと考えたまで。
「【不死の王】」
魔法書を開き、懇願する――。王による慈悲を賜る為に。
地面に浮かび上がる巨大な魔法陣。膨大な魔力がその中へと吸い込まれ、繋がった深淵から這い出てきたのは巨大な1体のスケルトン。その大きさは、コット村の城壁にも迫るほど。
頭には歪みくすんだ金の王冠。白い法衣に天鵞絨で出来た血のような赤い外套を纏うその姿は、見る者すべてに死の恐怖を刻み込む。
昼間だと言うのに周囲には濃密な瘴気が立ち込め、世界が薄墨色に染まってしまったかと錯覚してしまうほどだ。
「――ッ!?」
それを見上げるオーガたち。合流してきた者達も含め、一切の動きを封じられたかのように佇んでいた。
冷たく重い何かが心臓を掴み、全身を貫く。恐怖という名の見えない鎖が身体を縛り付け、その姿はまるで地面に杭を打たれたかのよう。
意識は逃げろと命じるが、筋肉はそれに応えない。手の先から生命が引き抜かれていくような感覚に、ただ立ち尽くすことしかできないのだろう。
後は、死の王が錫杖を少し振るうだけで、コット村にはいつも通りの平和な日常がやってくる……はずだった。
「待てッ!」
そう声を発したのは、馬車を引き、合流してきたオーガの1人。
「魔王様への捧げ物が、どうなってもいいのかッ!」
その手に握られていたのは、数本のロープ。そのうちの1本を強引に手繰り寄せると、馬車の中から飛び出てきたのは人間の女性。
首元に突きつけられる刃物を見て、その呼吸は浅く早まり、汗が額から滴り落ちる。
人質……と、捉えるべきだろう。その女性には見覚えがあった。
つい数時間前、不躾な視線をこれでもかと浴びせられたロバートの娘のクリスだ。
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