生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第637話 魔王降臨

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「九条。フードルを連れて来てはくれぬか?」

 そんなエルザからの頼みで、俺は1人フードルを探す。……と言っても、居場所は既に特定済み。
 その程度ならゴブリンの誰かに任せても良かったのだが、聞きたいこともあったので、自分の足で行く事にした。
 ダンジョン内は、108番の監視の目が行き届いている。エルザを放置しても、滅多なことはしないだろう。

 村とダンジョンを繋ぐ連絡通路。その途中に出来た横穴を進むと、見えてきたのは地下ダンジョンらしからぬ陽光。
 そこから伸びる2つの影の正体は、デュラハンのガロンと魔族のフードル。
 青々と広がる空を見上げ、眩しそうに目を細めていた。

「どうだ? フードル。直せそうか?」

「おぉ、九条か。また派手にやったのぉ」

 つい先程。アーニャに続いてフードルからも同じことを言われ、血は争えないと僅かに頬を緩ませる。

「罠が上手く機能して嬉しい反面、復旧を考えると……。頭が痛いのぉ」

 俺たちがいるところは、落とし穴の底から5メートルほどの高さにある横穴。天井を除けば、この落とし穴唯一の脱出経路だ。
 穴の底は見るも無残で、落ちてきた地表と石畳。それを支えていた木材が散乱している。
 周囲が崩れないようにと外壁に沿って補強されている坑木はそのままだが、これでよく生き残れたなぁと、オーガの生命力に驚きを隠せない反面、再整備を考えると今から頭が痛い。

「魔法でどうにか出来たりは……」

「難しいのぉ。出来なくはないが、この規模はな……。元々あった大地を、地表を残して横からくり抜くのとは訳が違う。同じ物を作ろうと思うなら、相当な時間が必要だろうな」

 仮に土台から作り始め、最後に地表を土で覆うとしても、そう簡単なことじゃない。
 馬車等が往来できるだけの積載荷重。降雨や積雪、地震に対する応力を考えねばならないのだ。
 ファフナーが乗っかっても落ちなきゃ大丈夫……という、フードルの基準を鵜呑みにして作られた罠だが、それだけの為にファフナーを呼ぶのも気が引ける。
 かといって専門家でもないので、構造計算なんてさっぱり。コット村の大工の知恵を借りたとしても、上手くいくかどうか……。
 仮にそれが上手くいったとしても、その土は質も色も違う物。青々と茂る草原も、規則正しく並べられた石畳も、ある場所を境に切り取られたかのように丸坊主。
 その境界線は不自然すぎて、ここに罠がありますよ――と、言っているようなものである。
 故に、本当の意味で元に戻そうとするのなら、自然の力に任せる他なく、それには長い年月が必要だ。

「落とし穴は保留するにしても、埋めるだけ埋めておかないとな……。間違って落下でもしようものなら、大惨事だ……」

 柵どころか街灯なども当然ない為、夜間は特に注意が必要。暫くは臨時で、見張りを立たせておく必要があるだろう。

「落とし穴としての活用は諦めて、橋でも建てた方が楽なんじゃないか?」

「橋かぁ……」

 工期の短縮と利便性を考えれば、選択肢としてはアリ。コット村の南進地区開拓により、木材は腐るほど余っている。
 しかし、現在でも迂回すれば馬車程度なら十分通れるスペースはあるので、急ぐ必要があるのかと問われれば……。

「ここを往来する者達に、アンケートでもとってみるか……」

 流石にそのままでいいという結論には至らないだろうが、橋か埋め戻しか……。実際通る者達の意見を聞いておくのも悪くない。

「まぁ、そのあたりは九条工務店に任せるとして、ワシへの用はそれだけか?」

「俺のアンデッドは、土木建築業者じゃねぇよ……」

 確かに、最近は土木工事くらいしか出番はないが、勝手に命名するのはやめていただきたい。

「エルザに、呼んで来いって言われたんだ。暇だったらついて来てくれ」

「あぁ、あの胡散臭い婆さんか……。ワシに何の用じゃ?」

「さぁ? 俺がエルザにオーガの説得を頼んだら、フードルを呼んでくるよう言われたんだ」

 間違ってはいないのだが、魔族にまで胡散臭いなどと言われるとは……。哀れと言うかなんというか……。

「そういや、魔族から見たオーガって、実際どんな感じなんだ?」

「ふむ……。これといって特別、何かを意識することはないな」

「だが、昔っから人間とは相容れない関係だったんだろ?」

 ファフナーの事を、ディメンションウィングと呼んだのだ。過去、魔王側に属していただろう事は推測できる。

「そうじゃな。自分等で生み出しておいて、思い通りにいかないからと捨てられた種族。魔王に与するのも理解出来よう」

 独房エリアへと向かいながら、暇つぶしの延長での雑談。その程度のつもりだったのに、フードルは表情は僅かに沈む。

「その昔、人間に魔法は扱えなかった。魔族と交わる事で、魔法の力を得られるとでも考えたのじゃろう。その過程で産まれたのが、オーガだと言われている」

「あぁ、そういう……」

 三大厄災とも呼ばれる魔獣王を屠るほどだ。その強大な力が、人間達の目には魅力的に映ったのだろう。
 恐怖を覚えるはずもない。それは、自分達を救った力だ。
 憧れ、理想、羨望の眼差しは、徐々に妬みへと変化し、やがてそれは欲望の炎を灯す。
 その結果が、功を奏したのかもしれない。現在は、人間も魔法を使えているのだから。
 もしかすると、魔王と争う事になったきっかけも、そのあたりにあるんじゃなかろうか?

「まぁ、ワシも聞いた話だから、本当のところは知らんがな。オーガたちには気の毒じゃが、ワシには関係のない話じゃ」

 エルザの言っていた事とほぼ同じだ。魔法への執着もあり得ない話ではなく、恐らくそう大きく間違ってはいないだろう。

「そうか。まぁ、その程度の認識で安心したよ」

 フードルもエルザ同様、大昔には共に人間と戦った戦友だから――などと、オーガの肩を持ち始めたらどうしようかと思ったが、そうはならなそうで、ホッとしたというのが正直なところだ。


 俺達が独房エリアに辿り着くと、エルザは大人しく待っていた。

「フードルを呼んで来たぞ。説得は出来たか?」

「いいや? 説得などしとらんよ?」

「はぁ? 約束が違うぞ」

「確かに説得はする。任せろとは言ったが、ワシがやるとは一言も言っておらん」

 そう言うエルザの視線の先にいたのは、俺の後ろをついてきたフードル。
 見られていることに嫌悪感を覚えたのか、浮かぶ表情はしかめっ面。それに対する反論か、フードルが口を開いた瞬間だった。
 鉄格子の中から、鼓膜が破れるんじゃないかと思うほどの声が、辺りに響いたのである。

「「魔王様ッ!?」」

「「……は?」」

 冷たい鉄格子を両手でガッシリと掴み、ケガのことなど忘れたかのように、限界ギリギリまで身を乗り出すオーガたち。
 彼等がフードルに送る熱い眼差しには希望が宿り、嬉々たるものであった。

「フードル……。お前、魔王だったの?」

「……そんなわけなかろう……」
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