生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第638話 青空会議

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「やはり、魔王様は御健在であったッ!」
「嘘をついていたな、人間め!」
「自分が魔王などと……。万死に値するぞ!」
「……あっ! 人間! 逃げるなッ!」
「魔王様を何処へ連れて行くッ!?」

 フードルを認識するや否や、ぎゃーぎゃーと騒ぎ始めたオーガたち。
 そんな中では、落ち着いて話すことなどできやしない。フードルに手招きをしつつ、一旦見えない所まで下がり身を潜める。

「もう、フードルが魔王でよくね? 適当に話を合わせて帰しちゃってよ」

 嘘つき呼ばわりは気にくわないが、オーガたちの反応を見れば、エルザの言いたいことも理解出来る。
 魔族であるフードルを魔王だと勘違いしているなら、フードルに説得させちゃえばいいじゃん――って事なのだろう。
 魔王という単語だけを聞いて、それを連想するならば、まず始めに魔族が出てくるのは自然な流れ。
 魔王が魔族であるのなら、人を食うのは道理。魔王への捧げ物と言っていた人質たちは、どうやらそのままの意味だったらしい。

「ワシは構わんが、本当にそれでよいのか? 根本的な解決になっていないような気がするのじゃが……」

「別にいいよ……。魔王の言う事なら何でも聞くだろ、アイツ等……」

「いや、そうではなくてじゃな……。奴等は魔王に何かしらの用事があって訪ねてきたのだろう? それを聞いてやらぬ限り、しつこく訪問してきたり、居座ったりするんじゃないか?」

「うーん……」

 フードルの言う事にも一理ある。追い払うことは可能だろうが、頻繁に顔を出されるのも面倒だ。
 村の出入口で座り込みなどされようものなら、迷惑千万。一般人の往来の邪魔になるどころか、危険極まりない。
 だったら強制排除といきたいところではあるが、それはエルザが許さず、こちらとしてもネクロガルドとは事を構えたくないので、出来れば穏便に済ませたい。

「このまま、無期懲役って訳にはいかんかな?」

「他に仲間がいなければいいがの……」

「いるよなぁ……」

 今回のオーガたちは、どちらかと言えば武闘派タイプ。活力に溢れた若者たち――といった風貌である。
 当然、彼等にも家族がいるはずだ。人間に見つからないよう何処かでひっそりと暮らし、旅立ったオーガたちの帰還を待ちわびる家族が……。
 それが何時まで経っても帰ってこないとなれば、不審に思うのは当然であり、目的地がコット村だという事を知っているなら、第2陣が捜索に来る可能性は極めて高い。
 追い返すのは簡単なのだ。問題なのは、コット村を利用している人々に被害が及ばないかどうか。

 八方塞がり……とまでは言わないが、これなら最初から『魔王様いない説』を押し通しておけばよかったと、ちょっぴり後悔する。

「何を嘆いておる。それなら、その用事とやらを聞いてやれば良かろう?」

 そこにやって来たエルザ。待ちくたびれたのか、早くしろとでも言わんばかりの仏頂面だ。

「……なんでお前は、そこまでオーガどもの肩を持つんだよ……。人間を滅ぼしてくれ――なんて言われたらどーすんだ?」

 実はただ魔王様に会いたかっただけで、サインと握手で帰ってくれる……なんてことはないだろう。
 魔王しか頼れないのか。それとも、魔王だから頼るのか……。どちらにせよ、自分達では解決できない問題を抱えているのだろう。
 絶対に面倒なことになるに決まっている。

「なぁに。オーガどもも、そこまで馬鹿ではあるまい。ひとまず話だけでも聞いてみてはどうじゃ? 今回はワシ等も全面的に協力しようではないか」

 断る前提だとしても、話を聞いてやるのはアリか……。悩みを吐き出させることで、スッキリするかもしれない。
 何も聞かずにただ追い返すよりは、それを聞いたうえで断った方が、諦めもつくだろう。

「エルザ……その言葉。忘れるなよ?」

 すべての責任を押し付けてやる――と言わんばかりに睨みつけるも、当の本人は涼しい顔で頷くのみであった。


 エルザの言葉を信じ独房へと戻ると、あーでもないこーでもないと騒ぎ出すオーガたち。
 その中から一人。比較的軽傷で弱そうな女性のオーガを1人だけ見繕い、それをダンジョンから連れ出した。
 そして、アンデッドたちにテーブルと椅子を用意させると、村の広場での青空会議が幕を開ける。

「……ちょっと待ってくれ……。理解が追い付かない……。ここの人間は、家畜として魔王様に飼われているんじゃないのか?」

 忙しなく辺りを見渡すオーガの姿は、実に滑稽。落とし穴からダンジョンへ直行しているので、村の中を見るのは初めて。目の前に広がる景色は、一部を除き平凡な人間の村そのものだ。
 オーガたちの間では、コット村の住人は魔力補給用の餌――程度の解釈だったのだろう。
 村の中には人間が捕らえられている檻があり、たくさんの魔族が暮らしている……そんな想像をしていたのかもしれない。
 俺は差し詰め、魔王に気に入られた人間の1人……と、いったところか……。

「おにーちゃーん!」

 そこにやって来たのは、カガリに乗ったミア。
 ダンジョンから出てきた俺の匂いに気付いたのだろう。村に攻めてきたオーガたちがどうなったのかを聞きに来たのだ。

「一緒にいるってことは、問題は解決したの?」

「いいや、まさにこれからだよ……」

 正直言って、全くと言っていいほど進展していないが、目の前のオーガの反応を見るに、少しは誤解が解けそうだ。

「人間は、魔族を許したのか!?」

「この村が、特別なだけじゃ。この男……九条が魔王と呼ばれている理由が、少しは理解出来ると思うがの」

 フードルが視線を向けたのは、村のメインストリート。石畳の道を行き交う商人たちの馬車に加え、村人たちの姿は忙しそうだが、どこかのんびりしたような雰囲気が漂っている。
 果物を積んだ籠を抱えた農夫の娘が笑いながら友人と話し、子供達はキツネたちとじゃれ合いながら走り回る。
 その殆どの者達が、こちらに気付いているにもかかわらず、気にも留めない。むしろ、笑顔で手を振ってくる者さえいる始末。
 魔族や魔獣、オーガまでもがいるのに、恐れや不安を覚えていないのである。

「確かにワシは魔族じゃが、魔王ではない。勘違いをしているのはお主達の方で、まずはそれを受け入れることが大前提だと心得よ」

 フードルが魔王であると偽ることは可能だが、そうしなかったのは、余計な希望を持たれない為だ。
 魔王が本当にいないとわかれば、その時点で諦める可能性もある。

「それともう1つ。これは最後のチャンスだと思え。お主等は、そこのババァにギリギリ生かされているだけに過ぎぬ。この場を設けたのも、ババァの慈悲によるもの。その意味をよく考えて発言することじゃな。ここにいる3人の内、1人でもこれ以上は無駄だと判断すれば、その時点で出て行ってもらう。死にたくなければ、今後一切村には近づかぬ事じゃ」

 それに口を開こうとしたオーガだったが、それを待たずにフードルは新たな釘をさす。

「……ワシは、九条のように甘くはない。ババァの言う事を聞かねばならぬ立場も、面倒なしがらみもないからな……」

 オーガに向けられた、鋭く突き刺さるような視線。それは、静かでありながらも確固たる警告の意味が込められていた。
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