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第643話 九条の恩返し
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「で?」
「で? ……ってなんだよ……」
エルザから向けられる意味深な視線。言いたいことはわかるのだが、期待されても困る。
「オーガたちに手を貸せって言うなら、お断りだ。俺はオーガたちの侵略行為を許しただけで、助けるとは言っていない。どうしてもと言うなら、お前の方で手伝ってやればいいだろ?」
オーガたちの境遇には同情はするし、ギルドに不信感もある。だが、オーガたちと交流がある訳でも、ギルドが俺に対し強硬な姿勢を取っている訳でもない。
オーガたちを助けるという事は、ギルドと争う事と同義。今の俺は、エクアレイス王国の栄誉騎士。コット村の領主だ。
反社会的勢力に属しているならまだしも、立場上無理な相談である。
「ワシ等は当然、助力する。じゃが、ギルド相手となると一筋縄ではいかんのぉ……」
そりゃそうだろう。ギルド……というより、それに雇われた冒険者たちとの正面切ってのガチンコ勝負。
ネクロガルドの戦力を侮っている訳ではないが、オーガの集団を殲滅するだけの戦力を相手にするのが、どれだけ大変か……。
問題はそれだけではない。下手をすれば、オーガに味方する人間がいる……という事実が周知され、芋づる式にネクロガルドの存在が明らかになる可能性すらある。
それだけのリスクを背負いながらも手を貸すというのだから、どれだけオーガに入れ込んでいるのか……。
「俺が動く理由がないだろう? 人助けにメリットを求めちゃいないが、デメリットがデカすぎる」
人助け……とは言ったが、オーガは魔物だ。魔物を助けるという行為が、人間社会で認められるわけがない。
まぁ、魔獣や魔族、ゴブリンと暮らしている時点で、ズレていることは重々承知の上ではあるが、正義はギルドにあるということ。
俺に出来る事と言ったら、影ながら無事を祈ってやることくらいだ。
「ゴブリンと同じようなもんじゃろ。魔王などと呼ばれておるクセに、肝っ玉が小さいのぉ」
「うるせーな。ただ保護するのとは訳が違う。そもそも、お前に頼まれる義理はない」
「そうか? もふアニ建国の為、サザンゲイアに口利きしてやったじゃろ? その恩を今返す……という選択肢もあると思うが?」
「ぐっ……」
恩着せがましいにもほどがある……と、言いたいところではあるが、事実ではあるので強くは言い返せないのが正直なところ。
「ほら、あれだ。お前はやる気かもしれんが、オルガナは人間なんかに助けてほしくないだろ?」
それに、ハッとしたオルガナは、思い出したかのように勢いよく頭を下げた。
「助けてもらえるなら誰だって構わない! 我々を……いや、我々はどうでもいい。アミーだけでも……頼むッ!」
人間なんぞとバカにしていたクセに、今更になって手のひらをコロコロと返すんじゃない……と、言いたいところではあるが、アミーだけ……という妥協点の提示は評価できる。
自分達はどうなってもいいという覚悟は、どうやら嘘ではないようだ。
「九条……。ワシからも頼む……」
そう言って、深々と頭を下げたのはフードル。
オルガナの話を聞いた時点で、そうなるかもなぁとは、薄々感じていた。
ベリトは因果応報とも言えるが、子供のアミーに罪はない。
仮にギルドがアミーの身柄を確保したとしても、内部に魔族の……それも子供に対する知識がなければ、封印どころか永眠は必至。
今のギルドに、アミーが自立するまでの魔力を用意できるとは思えない。
「おにーちゃん……」
言葉にせずとも伝わる思い、とでも言おうか……。ミアの瞳が小さな湖のように揺れ動く。
言いたいことがあるけれど、言葉にはできない。けれど、黙っているにはあまりに切実な視線だ……。
「はぁ……、わかったよ。助けてやればいいんだろ……」
大きな溜息と共に、肩を落とす。
フードルに加え、ミアにまでお願いされては仕方ない。根負けである。
「エルザ、今まで色々と便宜を図ってもらったが、今回の件ですべてチャラだ。いいな?」
「よかろう。恩に着るぞ、九条……」
引き笑いで怪しい笑みを浮かべ、己の本心を表に出そうとしないエルザが、深々と頭を下げた。
それが余りにも予想外過ぎて、暫く呆然としてしまう。
「やり方は、任せよう。人材、経費、隠れ家、必要な物はなんでも用意する」
「あ、あぁ……」
その真剣な眼差しに嘘はないのだろうが、今までの弱々しいババァの演技は何処へ行ったのかと思うほどに、急にやる気を出し過ぎだ。
「そんなに指輪が欲しいのか?」
「当然……と、言いたいところじゃが、そっちはついでじゃ」
まるでオーガを助ける方が主眼だとでも言いたげだが、カガリからの反応はない。
本当に、読めない婆さんである……。
「それで、オルガナ。アミーの封印は、どれくらい持ちそうなんだ?」
そこが、ひとまずのタイムリミットになるだろう。
パッと思いつくだけで、アミー救出作戦として考えられる手段は幾つかあるが、それも残り時間次第。
「具体的にはわからないが、恐らくはあと1月ほど……。ダンジョンハートに小さな亀裂が見つかったのが3か月ほど前。それが少しずつ数を増やし、我々が旅立つ前には全体の3分の一程度まで広がっていた」
修繕の魔具とやらも、完璧な物ではないのだろう。
壊れた物を元の形には戻せるが、それを維持しておくのには魔力が必要なのだ。それが尽きればダンジョンハートは瓦解、封印も解けてしまう……。
「急ぐに越したことはないか……」
アミーの延命を最優先に考えるなら、方法は2つ。
1つは封印を維持し続けること。そして、もう1つは……。
「アストラ……だっけか? フードルの魔力を、アミーに譲渡することって出来る?」
「もちろんじゃ。この角に触れさせるだけで良いからな」
ならば、やることは1つ。封印は諦め、アミーを連れ出してしまった方が手っ取り早く、確実だ。
オーガたちの住むダンジョンに、フードルを転移させれば済む話。場所の特定は、108番に聞けばおおよその見当はつくだろう。
これで、ギルドには俺の仕業だとバレずに、エルザの恩を帳消しに出来るのだから、なんとも楽な仕事である。
「で? ……ってなんだよ……」
エルザから向けられる意味深な視線。言いたいことはわかるのだが、期待されても困る。
「オーガたちに手を貸せって言うなら、お断りだ。俺はオーガたちの侵略行為を許しただけで、助けるとは言っていない。どうしてもと言うなら、お前の方で手伝ってやればいいだろ?」
オーガたちの境遇には同情はするし、ギルドに不信感もある。だが、オーガたちと交流がある訳でも、ギルドが俺に対し強硬な姿勢を取っている訳でもない。
オーガたちを助けるという事は、ギルドと争う事と同義。今の俺は、エクアレイス王国の栄誉騎士。コット村の領主だ。
反社会的勢力に属しているならまだしも、立場上無理な相談である。
「ワシ等は当然、助力する。じゃが、ギルド相手となると一筋縄ではいかんのぉ……」
そりゃそうだろう。ギルド……というより、それに雇われた冒険者たちとの正面切ってのガチンコ勝負。
ネクロガルドの戦力を侮っている訳ではないが、オーガの集団を殲滅するだけの戦力を相手にするのが、どれだけ大変か……。
問題はそれだけではない。下手をすれば、オーガに味方する人間がいる……という事実が周知され、芋づる式にネクロガルドの存在が明らかになる可能性すらある。
それだけのリスクを背負いながらも手を貸すというのだから、どれだけオーガに入れ込んでいるのか……。
「俺が動く理由がないだろう? 人助けにメリットを求めちゃいないが、デメリットがデカすぎる」
人助け……とは言ったが、オーガは魔物だ。魔物を助けるという行為が、人間社会で認められるわけがない。
まぁ、魔獣や魔族、ゴブリンと暮らしている時点で、ズレていることは重々承知の上ではあるが、正義はギルドにあるということ。
俺に出来る事と言ったら、影ながら無事を祈ってやることくらいだ。
「ゴブリンと同じようなもんじゃろ。魔王などと呼ばれておるクセに、肝っ玉が小さいのぉ」
「うるせーな。ただ保護するのとは訳が違う。そもそも、お前に頼まれる義理はない」
「そうか? もふアニ建国の為、サザンゲイアに口利きしてやったじゃろ? その恩を今返す……という選択肢もあると思うが?」
「ぐっ……」
恩着せがましいにもほどがある……と、言いたいところではあるが、事実ではあるので強くは言い返せないのが正直なところ。
「ほら、あれだ。お前はやる気かもしれんが、オルガナは人間なんかに助けてほしくないだろ?」
それに、ハッとしたオルガナは、思い出したかのように勢いよく頭を下げた。
「助けてもらえるなら誰だって構わない! 我々を……いや、我々はどうでもいい。アミーだけでも……頼むッ!」
人間なんぞとバカにしていたクセに、今更になって手のひらをコロコロと返すんじゃない……と、言いたいところではあるが、アミーだけ……という妥協点の提示は評価できる。
自分達はどうなってもいいという覚悟は、どうやら嘘ではないようだ。
「九条……。ワシからも頼む……」
そう言って、深々と頭を下げたのはフードル。
オルガナの話を聞いた時点で、そうなるかもなぁとは、薄々感じていた。
ベリトは因果応報とも言えるが、子供のアミーに罪はない。
仮にギルドがアミーの身柄を確保したとしても、内部に魔族の……それも子供に対する知識がなければ、封印どころか永眠は必至。
今のギルドに、アミーが自立するまでの魔力を用意できるとは思えない。
「おにーちゃん……」
言葉にせずとも伝わる思い、とでも言おうか……。ミアの瞳が小さな湖のように揺れ動く。
言いたいことがあるけれど、言葉にはできない。けれど、黙っているにはあまりに切実な視線だ……。
「はぁ……、わかったよ。助けてやればいいんだろ……」
大きな溜息と共に、肩を落とす。
フードルに加え、ミアにまでお願いされては仕方ない。根負けである。
「エルザ、今まで色々と便宜を図ってもらったが、今回の件ですべてチャラだ。いいな?」
「よかろう。恩に着るぞ、九条……」
引き笑いで怪しい笑みを浮かべ、己の本心を表に出そうとしないエルザが、深々と頭を下げた。
それが余りにも予想外過ぎて、暫く呆然としてしまう。
「やり方は、任せよう。人材、経費、隠れ家、必要な物はなんでも用意する」
「あ、あぁ……」
その真剣な眼差しに嘘はないのだろうが、今までの弱々しいババァの演技は何処へ行ったのかと思うほどに、急にやる気を出し過ぎだ。
「そんなに指輪が欲しいのか?」
「当然……と、言いたいところじゃが、そっちはついでじゃ」
まるでオーガを助ける方が主眼だとでも言いたげだが、カガリからの反応はない。
本当に、読めない婆さんである……。
「それで、オルガナ。アミーの封印は、どれくらい持ちそうなんだ?」
そこが、ひとまずのタイムリミットになるだろう。
パッと思いつくだけで、アミー救出作戦として考えられる手段は幾つかあるが、それも残り時間次第。
「具体的にはわからないが、恐らくはあと1月ほど……。ダンジョンハートに小さな亀裂が見つかったのが3か月ほど前。それが少しずつ数を増やし、我々が旅立つ前には全体の3分の一程度まで広がっていた」
修繕の魔具とやらも、完璧な物ではないのだろう。
壊れた物を元の形には戻せるが、それを維持しておくのには魔力が必要なのだ。それが尽きればダンジョンハートは瓦解、封印も解けてしまう……。
「急ぐに越したことはないか……」
アミーの延命を最優先に考えるなら、方法は2つ。
1つは封印を維持し続けること。そして、もう1つは……。
「アストラ……だっけか? フードルの魔力を、アミーに譲渡することって出来る?」
「もちろんじゃ。この角に触れさせるだけで良いからな」
ならば、やることは1つ。封印は諦め、アミーを連れ出してしまった方が手っ取り早く、確実だ。
オーガたちの住むダンジョンに、フードルを転移させれば済む話。場所の特定は、108番に聞けばおおよその見当はつくだろう。
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