生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第644話 眼前多忙

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 俺がいると、オーガたちの説得も上手くいかないかもしれないとのことで、ひとまずエルザに地下牢の鍵を渡し、オルガナとエルザは市庁舎からダンジョンへと戻っていった。
 村の広場に残されたのは、俺とフードル、そしてミアとカガリだけ。

「さて、フードルには少し仕事をしてもらうことになりそうだが……」

「うむ、わかっておる」

 もし、俺がアミーの救出を断っていたら、フードルは1人でオーガたちの住むダンジョンへと出向いていたかもしれない。
 当然ながらフードルは、ダンジョン転移がアミー救出の近道であることを理解している。
 確かに、合流だけなら簡単だろう。しかし、問題はその後だ。
 ギルドの冒険者達を躱し、上手いことダンジョンから脱出できたとしても、コット村まで帰るには相当な時間と労力、そして運も必要だ。
 俺が少し手伝うだけで、そのリスクを軽減できる。ならば、手を貸すのも吝かではないのである。

「おにーちゃん! 久しぶりのお出かけ!?」

 期待に胸を膨らませ、目を輝かせるミア。隣のカガリもソワソワと落ち着かない様子を見せているが、残念ながら期待には沿えない。

「いや、何処にも行くつもりはないが?」

「えぇ……。なんでぇ」

 本当は、アミーよりもおでかけがしたかっただけなんじゃないかと疑ってしまうほど、口を尖らせるミアであったが、俺の作戦が理想通りにいってくれれば、外出は必要ないのだ。
 そもそも、遠出ともなればリリーに報告が必要。
 一応、自由にしてもらって構わないというお墨付きを貰ってはいるが、碌な連絡手段もない世界。いざという時の為、外出の報告くらいは入れておくべきだろう。それが言伝であれ書簡であれ、最低限の礼儀であり社会人としてのマナーだ。

「まずは、状況の確認からだな……」

 オルガナがアミーの元を離れ、魔王の噂を頼りにコット村へと向かい始めたのが一月ほど前。
 現状、オーガたちの住むダンジョンがどうなっているかはわからない。
 そこに先行して転移し、オーガたちの状況を確認。一度帰還し、それを踏まえての作戦立案という流れがベストだ。
 それには人間の俺よりも、魔族であるフードルの方が適任だろう。

「その間に、エルザにはギルドの動向をチェックしてもらう」

 ネクロガルドの諜報員が、ギルドに潜り込んでいる。オーガの殲滅ともなれば、秘密裏にとはいかない規模だ。
 恐らく大都市に相当するギルドにも、討伐依頼が出されているはずである。最悪戦闘になる可能性を考慮すれば、冒険者たちの情報は必要不可欠。

「ダンジョンが陥落していなければ、話が早いんじゃがの」

「だな……」

 フードルが転移し、ベリト同様ダンジョンの一部を破壊、崩落させ時間を稼ぐ。
 その間に穴を掘り、別の場所に作った出口から脱出。それをまとめて回収する。時間がなければファフナーに。余裕があるならシーサーペント海賊団辺りに頼むのが妥当か……。
 しかし、それも冒険者たちの動向次第。既にダンジョンへと突入、オーガたちは殲滅され、アミーが奪われている可能性も十分あり得る。

「……すまんな、九条。領主になったばかりで、忙しいのはわかっておるんじゃが……」

「なんだよ急に改まって……。別に、気にするほどの事じゃない。俺とフードルの仲だろ? ……特別視が嫌なら、そうだな……。住民の頼みを聞くのも、領主の務めだからな!」

 キメ顔で右手の親指をグッっと立てると、曇っていたフードルの表情は和らぎ、口元がかすかに緩んだ。

 とは言ったものの、忙しいのは事実である。今回の件に加え、シルビアとペライスの件も同時進行ということに……。
 まぁ、そっちは積極的に何かをする訳でもなく、経過観察といったところだが、何故こうも忙しくなってしまうのか。
 村の仕事は、上手い事バルザックとロバートに丸投げできたはずなのだが……。

「さて、そろそろオーガたちの説得も出来ただろ。ミアには悪いが、おでかけはまた今度な」

 しょんぼりと肩を落とすミアの頭を、わしゃわしゃと撫で回してから立ち上がる。
 そのままミアとフードルを連れ、市庁舎へ足を向けると、遠くに見えてきたのはロバートとクリス。
 市庁舎の玄関先で、何やら言い合っている様子。

 そういえば、何故クリスは村の外にいたのだろうか?
 丁度いいから聞いてみようかと思った矢先、ロバートが手を振り上げると、鋭い一閃がクリスの頬を叩いた。

「――ッ!?」

「……うわ、痛そう……」

 思わずミアが、目を逸らしてしまうほどの見事な平手打ち。
 乾いた音が辺りに響き、驚きと痛みが入り混じった表情を浮かべたクリス。
 一瞬言葉を失いながらも父親であるロバートを睨みつけると、そのまま何処かへ走り去ってしまった。

 見られた方は羞恥を覚え、見ちゃったほうは気まずさを覚えるタイミング。

「まぁ親子なんだ、こういうこともあるだろ……。すまんがカガリ、クリスが村を出ないよう見張りを頼む」

「わかりました」

 カガリに乗ったミアを代わりに抱き抱えると、カガリはクリスを追いかけた。
 それに気付いたロバートは、俺達を見ると頭を掻くような仕草をしながらも、苦笑い。

「これはこれは九条様……。お見苦しいものをお見せしてしまったようで……」

「別に、見苦しいなんて……。むしろ立派ですよ」

 恐らくは、俺が聞きたかった事への答えが、ロバートの行動に詰まっていたのだろう。
 クリスが村を出ていた理由。そこに、正当性がなかった。あげく人質として迷惑を掛けたのだから、叱責は免れない。
 一歩間違えば死んでいてもおかしくない状況。無事であったことへの安堵も勿論だが、それよりも親に心配をかけた事と、間違った行動への戒めが表に出てしまった……と、いったところか……。
 それも、親から子への愛情だ。しかし、それが伝わるのかは別の話。クリスには、もう少し成長が必要なのかもしれない。

「九条様には感謝してもしきれません。仕事を与えてくださっただけでなく、娘まで救って頂いて……。クリスには、謝罪と礼をするようにと言ったのですが……」

「気にしないでください。多感な時期なのかもしれませんし、急に一変した生活に慣れない部分もあるでしょうから」

「ハァ……。クリスもミアのように、しっかりしてくれれば良いのですが……」

 俺に抱き抱えられているミアを見ては、大きなため息をつくロバート。
 ギルド職員としてのミアしか知らないロバートから見れば、しっかりしているのかもしれないが、俺からすればまだまだ子供らしい一面の方が多いような気もする。
 幼い頃、親に甘えられなかった分の反動なのかもしれないが、いずれはミアも、クリスのような反抗期に突入するのだろうか……。
「おにーちゃんの物と一緒に洗濯しないで!」……なんて言われたら、俺は泣いてしまうかもしれない……。

 そんなことを考えていると、ミアは何を勘違いしたのか、むくれながらも俺の頬を優しく抓る。

「しっかりしてるもん」

 そういう事を言いたかった訳ではないのだが、仮にそうなったとしても、それもミアであることに変わりない。
 ただ、手を引くのではなく、少し後ろから見守る時が来たと思えばいい……。
 そう気づいた時、俺の心は少しだけ軽くなった気がした。
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