生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第652話 クセが強すぎる錬金術師

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「これ、九条。さっさと起きんか」

 頭に響く鈍痛により目を覚まし、重い瞼を半分だけ開ける。

「いってぇ……」

 コット村の市庁舎の一室。自分の部屋のベッドで目を覚ますと、隣に立っていたのはエルザのババァ。
 恐らくは、持っている杖で頭を小突かれたのだろうが、目覚ましを頼んだ覚えはない。

「なんなんだよ朝っぱらから……」

 どうやって俺の部屋に入ったのかという疑問よりも、何故起こされたのか……の方に思考が働いてしまったのは、寝不足の所為だろう。
 しわくちゃの顔を更にしわくちゃにしたような表情を向けられるも、何を考えているのかさっぱりわからん。

「何を言うておる。もう昼はとっくに過ぎたわ」

「えぇ? ……いや、だからなんだよ……」

 一瞬ヤバイと肝を冷やすも、これといった急ぎの用事は何もない。
 現在の時刻などどうでもいい。今が昼なら夕方まで寝るだけだ。

「折角、ワシが起こしに来てやったというのに……」

 正直言って余計なお世話なのだが、別に怠けている訳じゃない。
 俺がコット村に帰ってきたのは、今朝である。リブレスに返却予定の魔導船は、予定通りコット村の港から少し離れた海上へと着水した。
 魔導船を停泊したのが午前5時頃。その後、焦げた気嚢を取り外し、ガストンに外出の許可を出したのが7時頃。最低限ではあるが、村での過ごし方もレクチャーした。
 リリーとニールセン公に部屋を宛がい、それらの事をシャーリーとソフィアに説明。それが終わったのが9時頃で、ベッドに入ったのが10時頃。
 現在が昼過ぎだとすれば、まだ3時間しか寝ていないということだ。

「陛下は、もう起きておるぞ?」

「えぇ……」

 リリーだって、寝ている時間は俺と大して変わらないはずなのだが……。
 若さ故か、王としての自覚か……。俺の為にもう少し寝ていてほしかったのだが、どうやらそうもいかない様子。
 国王が起きているのに、お前は呑気にお昼寝か……。なんて言われては、領主としての示しがつかない。
 二度寝は、諦めるしかなさそうだ……と、俺は大きな溜息をつき、起き上がる。

「はぁ……。じゃぁ、着替えるから出て言ってくれ……」

 手をひらひらと振り、虫でも払うかのように退出を促すと、突如起こった大歓声。
 窓の外から聞こえてくるそれは、少々度を超えている。
 平日の昼間だ。多少の騒がしさには目を瞑るが、寝不足気味も相まって舌打ちをしてしまうくらいには気分を害した。

「うるせぇな……。一体、なんなんだよ……」

 阿呆がケンカでも始めたのかと立ち上がった瞬間、強烈な既視感に襲われる。

「……まさかな……」

 嫌な予感を覚えながらも、ひとまず着替えは後回し。部屋の窓から外の様子を覗き見る。

「はぁ……。またかよ……」

 案の定と言うべきか……。目の前の広場には人々が群がり、異常な盛り上がりを見せていたのだ。

「やっちゃいなさい! デスナイトッ!」

「なんのこれしき! 攻撃とは当たらなければ意味がないのだッ!」

 片方は言わずもがな、狩人レンジャーのシャーリー。活力に溢れ、戦意を剥き出しにしながらも、デスナイトに指示を飛ばす。
 対する相手は、グラーゼン……ではなく、なんとエルフの老錬金術師、ガストンである。
 両手を前に出し、手のひらを向けている先には、人型のゴーレム……。といっても、そのサイズはデスナイトよりも一回り小さく、ゴーレムにしては小柄。
 ただの土くれではない。綺麗に象られたブロックを結合させたような姿で、更にはそれに金属のプレートをツギハギしている為、不格好ではあるが、強度はそこそこありそうだ。

「何してんだ、アイツら……」

 先に動いたのは、デスナイト。声なき咆哮を上げ、力強い踏み込みからの鋭い剣閃。
 それを、ゴーレムは上半身だけを折りたたみ躱すと、元に戻る反動を利用し両の拳を繰り出した。
 その速度たるや、鈍重と言われるゴーレムとは思えない速度。
 しかし、それもデスナイトの巨大な盾に弾かれ、激しい金属音が辺りに響く。

「どうやら始まってしまったようじゃの……。折角起こしに来てやったというのに、意味がなかったわい」

「先に言えよ……」

 ここでエルザに苦情を言うのもお門違いか……。むしろ感謝するべきなのだろうが、時既に遅し。
 欲を言うなら、もう少し早く教えて欲しかった……。

 デスナイトの盾に押し返され、バランスを崩したゴーレムが後ろへと倒れる瞬間、両手を地面に付きブリッジのような体勢になるも、そのまま逆立ち。足だった部位が、腕の位置に組み変わる。

「アレ……。なんか、動きがキモイな……」

 人型ではあるが、人と同じ動きをするとは限らない。関節が逆に曲がったりするのは、ゴーレムなればこそだろう。
 ……って、そんなことを悠長に考えている暇はない。

「なにやってんだッ! 今行くから、そこで待ってろッ!」

 突然の怒号に見物客が一斉に振り向き、俺を確認するや否や蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
 それも前回と同じだ。最早溜息しか出ないが、着替えた後に外に出ると、ガストンは地面に膝をつき頭を抱えていた。

 深刻化と言うべきか、沈静化と言うべきか……。どうやら、この短時間で決着がついてしまったらしい。
 腰に手を当て、得意気にふんぞり返るシャーリー。デスナイトの錆びた剣が、地に伏せるゴーレムの胸……だと思われる部分を貫いていた。
 動かなくなったゴーレムから剣を引き抜いたデスナイトは、シャーリーの隣で控えるよう待機する。
 ガストンはゴーレムに駆け寄り、その頭の部分だろう場所に抱き着いた。

「うわぁぁッ! アリスぅぅぅぅ!」

 泣き崩れるガストンを横目に、ひとまずシャーリーに説明を求める。

「えーっと……。どうしてこうなった?」

 どうせ、数日もしない内にサザンゲイアへと発つのだからと、村の説明を軽く済ませたのがまずかったのだろうか。まさか初日から問題勃発とは……。
 先程から僅かに覚える頭痛は、できれば寝不足の所為であってほしい。

「いつも通り見回りをしてたら、トラッキングに見慣れない反応があったからさ、港にいったらガストンさんと、このゴーレムがいて……。そんなのいなくても村は安全だって言ったんだけど、自分の身は自分で守るの一点張りで……」

 まぁアンデッドや獣達に守られている村なんて、そうないだろうから信用出来ないのはわからなくもないのだが、それなら船から出てくるな――というのは暴論だろうか……。
 食事や必要な物は、届けさせるとは言っておいたのだが……。

「アンデッド達がゴーレムを排除対象と認識するかもしれないでしょ? だから、せめて九条の許可が出るまでは待ってって言ったんだけど……」

「それで、口論に?」

「うん。デスナイトを見掛け倒しだって言うのよ? だから、冒険者時代ダンジョンを専門としてた私に言わせれば、十分脅威のレベルだって言ったんだけど、自分のゴーレムの方が強いって張り合ってきて……。言っておくけど、先に勝負を挑んできたのはあっちだからね!?」

 ガストンを、ビシッと指差すシャーリー。
 問題がないかと問われれば疑問は残るが、まぁお互い同意の上での手合わせなら、ギリセーフだろうか?
 ガストンには申し訳ないが、今回ばかりはシャーリーに軍配が上がる。
 勿論、デスナイトが勝利した――ということではなく、シャーリーの言う事を聞かなかったガストンに非がある――という意味だ。
 郷に入っては郷に従え――という言葉を知らないのだろうかと、ガストンに視線を送るも……。

「おぉ、可哀想なアリス……。すぐに治してやるからな……」

 動かなくなったゴーレムに頬ずりしているガストンに、俺とシャーリーはドン引きである。
 よく見るとゴーレムの頭部には、何かの染料で顔が描かれている。それがまた独創的とでも言うべきか、印象派というよりはキュビズム寄り……。
 ぶっちゃけてしまうとヘタクソなのだが、その無機質な表情は、なんというか逆に怖い。

「兵器というより、ホラーだな……」

 他人の趣味趣向に口を出すつもりはないが、ガストンとは少し距離を置こう――。そう決意した瞬間でもあった。
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