生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第655話 レベッカの暇つぶし

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 人材派遣組合の1階。午後の光が冷たく差し込む食堂は、静寂に包まれていた。
 昼食時を過ぎている所為もあるのだろうが、閑古鳥が鳴いているのも最近にしては珍しい。
 俺が、この村で世話になり始めた頃の雰囲気とでも言おうか、それは郷愁に近い感情を呼び起こさせる。
 そんな食堂の主、古びたエプロンをつけたレベッカは、テーブルに腰を下ろし暇そうに足をぶらぶらとさせていた。

「おっ? 九条の旦那、いらっしゃい」

 俺達に気付いたレベッカは、テーブルからピョンと飛び降り、笑顔を見せながらも厨房へと引っ込んだ。
 適当なテーブルを選び、ロバートと2人席に着く。そこにレベッカが水を運んでくると、豪快に椅子を引き、同じテーブルの席に着いた。

「ご注文は?」

 注文を取りに来たのか、それともダベりに来ただけか……。どう考えても店員の態度ではないのだが、親しき仲に礼儀なしを体現したかのような対応は、むしろ身内限定サービスとも言えるだろう。

「随分と暇そうじゃないか。イレースの店に客を盗られたのか?」

 村の南側に位置する歌姫イレースの酒場、サーペンタインガーデンは連日盛況な様子。
 滅多に聞く事の出来ないイレースの歌声を聞けるのだから、それも当然。俺とアルバートの問題に決着がつき、エクアレイス王国として国内情勢が安定してからは、客足も増えた。
 だからといって、ライバル店という位置づけではないのだが、そんな俺の冷やかしにもレベッカは全く動じない。
 どこ吹く風と、逆に手痛いカウンターを食らう。

「私は、別に儲けたくて食堂をやってる訳じゃないし、今までの忙しさが異常だっただけさ。誰かさんの所為でね」

 その何かを訴えかけるような視線は、俺に痛いほど突き刺さる。

「まぁこれでも、ついさっきまでは忙しかったんだよ?」

「昼時の忙しさは、俺の所為ではないだろ……」

「違う違う。ちょっと前まで女王陛下が来ててさ、大勢の客に囲まれて大変だったんだよ」

「ああ、それでか……」

 なるほど。ニールセン公の機嫌の悪さは、そこからきていたのだろうと腑に落ちながらも、その場面を想像して苦笑する。
 客がいないのは、追い出してしまった反動か。しばらくは、誰も来なそうだ。

「で、注文は?」

「あぁ、俺は軽く腹を満たせればいいから、まかない的な物があればそれで。ロバートは……」

「私も、九条様と同じ物を」

「あいよ。ちょっと待ってな」

 そういって厨房へと下がっていくレベッカ。それとほぼ同時、食堂の扉が開いたかと思ったら、そこに立っていたのはシャーリー。
 ガストンを魔導船まで送り届け、今にも溜息が漏れそうな疲れ切った表情だが、俺と目が合うとそれは一変。笑顔を咲かせ、小走りに駆け寄ってくる。

「ご苦労さん。どうだった?」

「なんとか落ち着いたけど、あの人ヤバくない? 自分のゴーレムに名前つけてる人なんて、初めてなんだけど……」

 シャーリーが、当たり前のように俺の隣に腰掛けると、顔を歪ませ毒を吐く。

「ま……まぁ、悪い人ではないと思うんだがな……」

 高名な鍛冶師だって、自分の作った武器には銘を彫る。それと同じような事だとはわかっていても、不快感を覚えてしまうのは、恐らくそこに別の感情が加味されているからだろう。
 人でない物に対し、人と同じように接する。その常識とかけ離れた行動が、理解出来ないから変人扱いされるのだ。
 そういう意味で言うのなら、死霊術も同じようなものだろう。
 一般人には見えない魂との会話も、周囲から見れば、何もない空間に話しかけるイタい奴だ。

「もしかしたらガストンには、ゴーレムの声が聞こえているのかもしれないぞ?」

「そんなわけないでしょ……頭大丈夫?」

 半分冗談のつもりだったのに、シャーリーから本気で心配されてしまった。

「ねぇ。そんなことより、アミーちゃんの救出作戦は決まったの? 私、必要じゃない? 一緒に行ってあげてもいいよ?」

 行きたいなら行きたいとハッキリ言えば……とも思うのだが、ギルドにバレない前提だということは、シャーリーだって知っている。
 ダメだと言われるのがわかっているから、敢えての控えめアピールなのだろう。

「すまんが、今のところ出番はないな。作戦も、正直完璧とは言えない。妥協案……といったところか……」

「ふぅん……」

 どんだけ行きたかったんだよ……。と、言いたくなるくらい目に見えて興味を無くす。
 シャーリーは、村の防衛を担う一柱だ。よっぽどの事がない限りは、村から出ないでほしいというのが本音でもある。

「へい! おまちぃ!」

 そこにやって来たのは、頼んでおいたまかない飯。辺りが芳醇な香りに包まれると、そこに視線を奪われる。
 目の前に置かれたものは、獣肉と香草を煮込んだシチューと、ただの黒パン。
 木杓子がついていないのは、パンをシチューに浸して食え……という事なのだろう。

「皆で、何の話をしてるんだい?」

 料理を置いて去っていくのかと思えば、レベッカはそのまま席に着く。
 いい暇つぶしが出来たとでも思っているのか、私も仲間に入れろと言わんばかりの笑顔だ。

 適当に誤魔化すか、嘘偽りなく現状を教えるか……。一瞬迷ったが、レベッカ相手なら隠す事もないだろう。
 もしかしたら、思いがけない妙案が出てくるかもしれないと思い、今までの事を話した。

「なるほど……。だったら、バルザックさんとかゲオルグさんに助けて貰ったらどうだい? なんとか騎士団って、実力は折り紙付きなんだろ?」

「それが出来たら、苦労しないんだがなぁ……」

「ダメなのかい?」

 頬張ったパンを飲み込めずにいると、代わりに答えてくれたのはシャーリー。

「見た目は完璧な人間なのに、中身はアンデッドなのよね……。私たち狩人レンジャーには、それがわかっちゃうのよ。仮に黒翼騎士団の皆が顔バレしてなくても、そんなこと出来るのは九条だけだしね」

 狩人レンジャーの持つ索敵スキルであるトラッキングは、獣や魔物を探知する広範囲のレーダーだ。
 それは匂いや音、体温や呼吸、心拍からの振動や魔力の質など、自分とは違う微妙な違いを感じ取る技術。故に、同種であったり人間に近い生き物は感知できない。
 例えは悪いが、自分の体臭が自分ではわからないのと同じような理屈だ。

「ダンジョンへ侵攻するなら、狩人レンジャーがいないってことは、まずないからね」

「面倒だねぇ……。じゃぁ、もう全員っちまうしかないね!」

 まさか、レベッカからそんな言葉が出るとは思わず、咳込む俺。
 エルザと同じ発想に、投げやりにも程がある……と、言いたいところではあるが、結局そこに行き着いてしまうのは、それが最も安易で確実な方法だからだろう。
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