生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第656話 ゴーレムもどき

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 喉に詰まったパンを水で流し込み、安堵の溜息。

「もしかしたら、奇抜なアイデアが――とも思ったが、現実は厳しいな……」

 藁にも縋る思いではあったが、別にレベッカを攻めている訳じゃない。……なのだが、落胆したと捉えられたのか、レベッカはムッとしながらも眉間にシワを寄せ考え込む。

魔獣使いビーストマスターの能力を生かして、現地で獣を手懐けるってのはどうだい?」

 ここで死霊術ではなく、魔獣使いビーストマスターが出てくるのは盲点ではあったが、それも人としてどうなのか……。
 獣側からしてみれば、急に知らない人間がやってきて、冒険者と戦ってこいと言われるのだ。正直言って、悪魔の所業。
 確かに魔王と呼ばれてはいるが、無関係の獣達をぶつけちゃおう――と考えるほど、鬼畜ではない。

「ちょっと、可哀想すぎないか?」

「じゃぁ、カガリやワダツミみたいな魔獣を探すとか……」

「サザンゲイアのあたりに出没する魔獣の噂とかは?」

「さぁ」

「知らんのかい……」

 魔獣と言われるほどの実力があり、しっかりと話し合ったうえで協力してくれると言うなら願ったり叶ったりだが、そもそも存在するかもわからないものを探し出す時間は残されていない。

「だったら、原点に返って死霊術……動く鎧はどうだい? 遠くでも自在に操れるんだろ? こっそり王宮に忍ばせてたって話だし……」

「それも、考えてはみたんだけどな……」

 ダンジョンの奥深く。命を落とした兵士や冒険者たちの残した鎧が、怨念や彷徨える霊の宿り木となり、そうして生まれたのがリビングアーマーと呼ばれる動く鎧の魔物だ。
 この存在に意志はない。ただ戦場での記憶の断片に導かれるよう剣を振るい、侵入者に襲いかかる。
 死霊術は、それを人工的に作り出す事ができ、更に言うなら思い通りに操ることもできる。
 休眠状態にしておけば、狩人レンジャーの眼からも逃れられ奇襲には最適……なのだが、問題はそれをどう仕込むかだ。
 キャラバンに申し込んだ冒険者を探し出し、いきなり鎧をプレゼントすると言って、受け取る輩はそういない。なにより怪しすぎる。
 仮にそれが上手くいったとして、リビングアーマーと化した鎧を装備した冒険者がオーガたちと交戦、そのドサクサに紛れて狩人レンジャーをどうにか出来れば完璧……。なのだが、集まるのは手練れだろう冒険者たち。
 リビングアーマーの1体や2体で対処しきれるかと言われると、正直言って疑問が残る。

「やっぱ、妥協案でいくしかないか……」

 暇つぶしに……いや、俺の為にと色々案を出してくれるレベッカには感謝しているが、最早お手上げである。
 何度も頭を捻り、あらゆる可能性を探った。しかし、そのどれもが決定打に欠ける。
 まともな案は底を尽き、代わりに頭に浮かんでくるのは、馬鹿げた考えばかりだ。

狩人レンジャーだけ、お腹が痛くなる魔法とかないよね?」

「あるわけないでしょ……。なんで狩人レンジャー限定なのよ。それなら全員お腹痛くすればいいでしょーが」

 それはそう。シャーリーの言う通りではあるのだが、今回ばかりは狩人レンジャーが一番の天敵だ。
 トラッキングのスキルさえ封じれば、取れる手段が増え、どうにかなりそうなものなのだが……。

「ん? トラッキングで思い出したが、ガストンのゴーレムにも反応してたよな?」

「ええ、もちろん。魔力反応しかない生物なんて、どう考えても人じゃないし」

「シャーリーから見て、リビングアーマーはどう見えてるんだ?」

 俺のその一言に、シャーリーもピンときたらしい。

「あー……。そう言われると、似たような反応かも……」

 体温は人のそれではなく、鼓動も皆無。それは、アンデッドもゴーレムも同じ。だとすれば、問題は魔法的反応の違いだけなのではないだろうか?

「例えば、目の前のリビングアーマーをゴーレムだと偽って、バレると思うか?」

「目の前にいるなら、そりゃわかるでしょ……」

「じゃぁ、見た目がゴーレムっぽいリビングアーマーだったらどうだ? ゴーレムと誤認させることは出来そうか?」

 しばしの沈黙。悩む素振りを見せていたシャーリーだったが、一度小さく頷くと、真剣な表情で顔を上げた。

「……なるほど……多分できるよ、それ……。同じゴーレムを10体並べて、その中の1体だけがリビングアーマーとかだったら、流石に気が付くとは思うけど、単体だったら多分わかんない……」

 既存のプレートアーマーを加工、もしくは新規で作成し、見た目がゴーレムっぽい鎧を作れば冒険者達を欺ける。
 妥協案に手を加え、俺のアリバイ作りはそのままに、ゴーレムに扮したリビングアーマーをキャラバン内部に忍ばせてしまう作戦だ。
 なかなかトリッキーな方法ではあるが、今のところ最も現実的な策なのではないだろうか?

「でも、それってキャラバンに潜り込む錬金術師の冒険者が必要よね? しかも、現状を共有しても問題ない人で、九条との関係が希薄な人なんて……」

「それが、いるんだよ。……なぁ、ロバート?」

 ロバートに視線を移し、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
 そこまで言えば、どれだけ鈍くても理解するだろう。

「まさか、クリスを……ですか!?」

 これ以上ない逸材である。錬金術師としての適性を有し、まだ冒険者登録はしていない。
 故に俺との関係は薄く、世間一般には知られていないはず。
 ゴーレム風リビングアーマーを、クリスが作成したことにして、キャラバンに送り込めばいいのだ。完璧である。

「今回の旅に同行させてほしいって言ってたし、丁度いいよな?」

「え、えぇ……」

 確かに同行を求めたが、そんな理由で連れていかれるとは思いもよらず、流石のロバートも困惑気味。

「大丈夫だ。安全は保障する!」

 なんて言ってはみたが、ぶっちゃけ根拠などない。もちろん、守らないと言っている訳じゃなく、出来る限り全力は尽くす。
 ただ、錬金術師であれば戦場の前線に狩り出されることもないだろうというのが、俺の読みだ。

「まぁ、本人がいいと言うのなら……」

「決まりだな」
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