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01 闇オークション
しおりを挟む初めて、働いたのは15歳の頃。
近所のお祭りの際、人手が足りないからと、
屋台で焼きそばや焼き鳥を売る、売り子になったのが、全てのきっかけだった。
お小遣いなんて貰ったことのない学生が、
汗水を垂らして働いたバイト代である5000円を、
受け取った瞬間。
どれだけ嬉しいことか。
何を買おうか、何を食べようか。
そんな事を想像しながら家に帰り、
母親に初めて働いて得たお金を、
自慢気に見せた。
" すごく売れてね!バイト代貰ったんだ! "
よく頑張ったね、偉いね。
そんな言葉は、何一つ期待はしていなかったけど、母はきつい臭いのする煙草を深く吸い、
紫煙を吐き出しては、手に持っていた茶封筒を抜き取った。
" そう、もう…貴女、働ける歳になったのよね "
" え…… "
" これっぽっち……はぁ、その歳まで育ててあげたんだから、もっと私の為に稼いで頂戴。出来るわよね?だって…綺麗に育てて上げたんだから "
一生懸命に働いたお金。
それを母に取られ、告げられた言葉に、背後で落雷が落ちたような感覚がした。
目の前が真っ暗になるような、そんな気持ち。
それ以降、朝は郵便配達をして、昼間は学校に通い、夜は21時まで居酒屋やファミレス等で毎日働いた。
それでも、母に褒められるどころか…
寧ろ、機嫌を損ねていたんだ。
" この程度しか稼げないなんて!貴女を大事に育てた私に、親孝行も出来ないの!?顔だけはマシなんだから、キャバクラでも、何でも行って働きなさいよ!!このっ……役立たず!! "
髪を掴まれたり、頬を叩かれたり、物を投げつけられたり…。
そんな事は、大したことでは無いと思っていた。
きっと、世間で働いてる子達も、こうやって暮らして生きてるんだ…。
その仕事があるってことは、そうやって働く子がいるからなんだ…。
そう思って、母の言われた通りにキャバクラで面接して、直ぐに受かったけれど、私にはその世界が向かなかった。
" 君さ、愛想笑いが下手なんだね。話していて詰まらないや "
" 顔がいいだけじゃ、この業界はやっていけないよ "
" 触ろうとしたら怯えるよね。なんか、こっちが悪者みたいじゃん "
綺麗な子だから、顔がいい、若いから、
そう言った理由でお客さんは指名してくれるけど、直ぐに他に楽しそうに笑って、上手く媚を売れるキャバ嬢の方へと、移り変わって行った。
売り上げは、なんとか新規のお客さんが試しに払ってくれる程度のもので、良いとも言える程では無かった。
アフターやまくら業務で、固定客が捕まらないのなら、その店にいらないと言われる始末。
働き口を無くした頃、学校に未成年が夜の店で働いていた事がバレて、退学となった。
自分が如何したらいいのか、何をしたらいいのか、
そんな事を考えては、表向きの仕事をしては、
母親に給料のほぼ全額を渡していた。
賄いが出るお店が、
私の唯一食事が出来る場所だった。
そんな日々の中、ある夏は…
私にとって一番の思い出になった事がある。
とある高級リゾートホテルの裏方としてのバイトが受かり、一時的だけど給料がいいから働くことになった。
清掃員だったから、朝から晩まで掃除をしていた時、一人のお客とぶつかりかけた。
" っ…!すみません… "
" …構わないが、大丈夫か? "
昨夜から何も食べず、生理日と重なって、
貧血も酷く調子も悪かった。
前方不注意で、お客様と対面するのは良くないと、直ぐに身を動かそうとすれば、視線は揺れ、意識は其処で途切れてしまったんだ。
" なっ…!? "
そのお客様は、驚いた様子だったけれど、
気付いた時には高級感あるベッドに寝かせられていた。
" はっ!?っ…… "
" 無理に動く必要はない。疲労が祟っていたのだろう。ホテルの者には、話相手として借りてる事にしたから安心して休めばいい "
その男性は、黒いワイシャツにスラッとした長い黒ズボンを履いた程度なのに、雰囲気から育ちの良さが滲み出て、容姿端麗な顔立ちを含め、モデルや俳優の様に綺麗な人だと思った。
" え、あっ…そんな、お客様のお布団をお借りするなんて…。それも私……汚いですし "
清掃員の者が、こんな高級品が使われてるベットで寝るなんて、ましてはお客様をソファに座らせて、烏滸がましいにも程がある。
急いで下りようとすると、若い男は本を読んでいた手を止め、ベッドへと近寄って来た。
" 俺は午後には去る。その後の片付けをするのは、お前では無いか? "
" !!…そう、ですね… "
" なら、自分が汚したものを自分で片付けると思って、ゆっくりするといい。それに俺は…こんな磨き甲斐のある原石を見た事がない "
" へ……? "
お金持ちの言葉の言い回しは、よく分からないからこそ、気が抜けた声が漏れた。
その意味を理解しようと、止まっていた思考より先に、本能が忠実だった。
グーーと、盛大に鳴り響く腹の虫に…。
恥じらいに気を取られ、その意味を本気で理解することは出来なかったんだ。
" す、すみません… "
" 腹が減る元気はあるようだな。適当に注文しておいたから食えばいい "
" そんな… "
" 一人じゃ食い切れない量だ。残すのは、勿体無いと思わないか? "
" そう、ですね…… "
彼は、私に高級なビュッフェまでご馳走してくれた。
部屋に届いた、数十種類の料理の数々は、どれも食べたことの無いものばかりで、其れを男性は適当に皿に乗せ、ベッドに座っている私の元に運んでくれた。
" んっ……!美味しいです!すごく……おいしい… "
空腹と言うのもあるが、
他人から優しくされた事がなにより嬉しかった。
涙を流して食事をしていると、男は何も言わず、私をじっと見詰めていた。
" 俺がもう少し…自立していれば… "
" ん? "
" 何でもない。沢山食え "
" はい!いただきます "
流石に、数十人で食べ切るレベルの量を、
たった二人で食べるのは無理があって、
結局大半を残すことになってしまったけれど、
彼は、ビュッフェとはそういうものだと言って終えた。
" 少しは元気になったか? "
" はい!お陰様で、この通り。ありがとうございました "
" ならいい "
彼に沢山の御礼を告げると、部屋を出る去り際に、あるものが差し出される。
" これは? "
" チップだ。受け取れ。個人的に楽しませてもらったから、お前に渡す "
" へっ!?いえ、受け取れません!私の方が色々してもらったので!! "
分厚い白封筒に驚いて、中身を確認する前に彼に押し付けるように否定しては、何度も頭を下げた。
" 本当に大丈夫です!お気持ちだけで、十分です!ありがとうございました!!良い夏をお過ごしください!! "
" …………… "
受け取っても、母にバレたら取られるし、ホテルの従業員や上司に黙っていても気が引ける。
受け取らない方が、私にとっては都合が良かったんだ。
名前も知らず、もう少しちゃんとした御礼を伝えたかったけれど、私はその場を逃げ出してしまった。
この優しさに甘えてはだめだ…。
現実に戻れなくなってしまう。
まるで夢の様な、数時間を経験させてもらって、それだけで…私は生きていける…。
" え、三千万の借金…が、ある? "
" 投資の話があって、乗ったら真っ赤な嘘だったの。私って素直だから騙されやすいのよねー。可哀想っ。だからさ、貴女が払ってちょうだい。
出来るよね?だって私が育てて上げたんだから "
彼の顔はすっかり忘れてしまったけれど…。
昔の思い出を噛み締めて生きてきた私には、
母の為に頑張る気力が、湧けなかった。
" もう……無理だよ……… "
そんなお金、如何足掻いても働い切れない。
自分が食べる、今日の食事すら考えなければならないのに…。
どう、働けばいいのか…。
綺麗に着飾った母は、私の頬に触れては赤い口紅を着けた口元に円を描く。
「 聞いたことあるの。大富豪の使用人とかになれる求人があるんだって。その知り合いに宛があるから…行ってみない?紹介して上げるわ 」
「 …大富豪の使用人?それなら、借金も…返せるかな 」
「 返せるわよ。だって、給料は今よりずっと良いものよ。ねっ、私の為だと思って 」
「 分かったよ。その面接、受けるよ 」
「 流石、私が大事に育てた子ね。ありがとう 」
小さな希望を感じた。
母の借金を返して、生活が安定するなら…
それだけでよかった。
そう信じていた。
「 闇オークションへの出品をご希望のことですが、此方で受け取り次第…返品不可となりますが、宜しいですか? 」
「 闇…オークション……? 」
「 えぇ、もちろんよ。バラバラにして売ってもいいから、お金にして頂戴。もううんざりなのよ……。逃げた男の連れ子を育てるのは。顔も見たくないわ 」
「 !!! 」
仮面を着けたスーツ姿の男性に引き渡され、
私は母に告げられた言葉に、息が詰まった。
「 そう…だったんだ……。私が、本当の…子供、じゃないから…。一度も、愛してるとか…抱きしめても…くれなかったの!?お母さん!! 」
「 もう止めて…あいつの女に似た顔で、呼ばないで。気持ち悪いのよ 」
「 ッ!!! 」
男性に手首を掴まれた私は、それを振り払う力も無く、母…だった人に声を掛けるも、女性は嫌そうに顔を背け、他の案内人と共にその場を離れた。
「 そんな…ッ… 」
「 どんな理由であろうと、貴女は、前金を渡して、此方が買い取った商品です。逃げる事は出来ません。ですが、もし…心優しい者に買われた時には、良い暮らしが待ってるでしょう 」
「 ……良い暮らしって…なに?おじさん相手に性処理でもされて暮らせと…?それが嫌だから、そう言った仕事だけは…しなかったのに… 」
「 性病や感性病を持ち合わせてはいけないので、まずは此方で検査いたします。スリーサイズ、膣内の長さや処女である確認等も調べますので、全て脱いで下さい 」
心無く淡々と話す男に、私は生きる希望を無くした。
母に愛されたかった…必要とされたかった。
あの人が笑って暮らせるなら、私はなんだっていい。
「( そう、あの人が笑って暮らせるなら…私はもう、死んでもいい…。だって、私は…いらない子だから… )」
プライドなんて元々無いけれど、それすらも完全に失われるような精密検査を行われた。
女性では無く、複数の男性による、男の為に売られる商品だから、"そう言った事 "がされる。
あの人は、それを知って私を渡したのだろう。
逃げた男の連れ子で、嫌いな女の娘だから…。
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