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王都編
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しおりを挟む動かない繭のような状態に、サラは考える。
もしかして、中でドラゴンが成長するということだろうか。
「させない……!」
サラは何度も繭に向かって斬撃を打ち込んだが、強固な殻は破壊できなかった。
サラの攻撃は速く鋭い代わりに少しばかり軽い。
グライデンのように攻撃が重ければ確かに破壊できるかもしれないが、彼自身そう何度も打てる代物でもないだろう。
そう思い、サラはグライデンの方へ視線を向ける。
「う……」
呻いたグライデンの体がよろけた。
「おい! じいさん、大丈夫か?」
「気にするな」
グライデンは大剣を地面に突き立て、何とか体を支えていた。
よく見れば、彼の体は痛々しいほどの火傷を負っているではないか。
立っている方が不思議なほどだ。
防げていると思われた猛火は、着実にグライデンの体力を削っていた。
恐らくグライデンでなければ即死だっただろう。
「私のことはいい」
「よくないだろ。じいさんはもう下がってろ。後は私がやる」
「お前が下がれ。お前では敵わん」
はっきりとそう言われ、サラは頭にきた。
「は? 共に戦うという意識はないのか? 確かに力はあんたには及ばないだろうが、私だって騎士をやってきたんだ!」
「共に戦う? 笑わせるな。お前たちは守られる側。私は守る側の人間だ。私は王という立場で、自身に変えてもこのスカルを倒し、他の王族たちを守らねばならぬのだ。それがわからん小娘に、守られるわけにはいかない」
彼の瞳には強い光が宿っていた。
体にはかなりの火傷を負いながらもまだ闘志を燃やし、闇に屈するということなどありえないと、そう彼の姿勢が言っている。
サラはグライデンの意思の固さ、プライドの高さに、押し黙った。
王であるという誇りが、守らなければならぬという使命が、グライデンを支えているのだ。
頑固だが、彼はただそれだけではなかったのだ。
老体ながらも戦場に立ち続け、誰よりも誇り高く、誰よりも強靭な力で、闇から命をかけて人々を守る。
その意識はまるで高い高い山のようだ。少しだけ、その姿に感銘を覚え、同時に、自分もそうでありたいと願った。
だがそれで引き下がるサラではない。
「わからないよ。守られる側、守る側の立場なんて。それにあんたみたいなそんな崇高な誇りなんて私にはない。私は自分の意志で戦い、守る。……守られるだけは、もう嫌だからな」
沈黙したグライデンは「勝手にしろ」と突き放すように呟いた。
「言われなくても、そうするつもりだ」
すると不意に頭上から蔓が降ってきた。
吸い上げられるように視線を上げれば、目に飛び込んできたのは翼を広げる禍々しい気を纏まとったドラゴン。
先ほどとは殺気が格段に違う。
光沢を帯びた鱗が棘のようだ。
まるでドラゴン自身を守るように、硬く輝いている。
「本当二、嫌イ」
ゆらり、とドラゴンの姿が揺れたかと思えば、巨体がサラとグライデンの目の前に現れた。
「な……!」
剣で勢いを殺そうとしても、そんな程度では無理だった。
押し切られたサラは鱗で体全体を擦った後、腹に衝撃が走った。
「うぐ」
見てみれば、ドラゴンの爪が腹に食い込んでいたのだ。
と同時に体は捉えられて上空へ連れて行かれる。
「くそ……! 離せ!」
サラは思いっきり指の付け根へと刃を突き刺すが、硬い鱗に守られておりびくともしない。
抵抗しているサラに、ドラゴンがちらりと視線を向けた。
振り落とされるのかと思いきや、そのまま視線を前に戻し飛んでいこうとする。
「……!」
サラはこちらを向いた瞬間のドラゴンの口元を目にして、息を止めた。
ドラゴンが口にくわえていたのは、グライデンの片腕だったのだ。
「じいさん……!」
はっとして地面へ視線を向けたが、グライデンは片腕を抑えて痛みを堪えている。どうやら反応が遅れたらしい。
引きちぎられているのだ、かなり腕から出血しているだろう。
傷は治らないだろうが、出血を止めるためにこの戦場から一旦退出すればいいものの、鋭い眼光はドラゴンを見据えている。まだ戦うつもりらしい。
なんというじいさんだ。だが、このままではグライデンは確実に死ぬ。
サラは舌打ちする。
刺さらないのならば、鱗をなんとかして削げばいくらかでもダメージを与えられるかもしれない。
すぐにすぐは決着がつかないだろうが、これしかない。
サラはぐっと柄を握る手に力を込めた。
「フン!」
刺すというよりも鱗を削ぐイメージで、サラは力の限り振り下ろし、ドラゴンの手に激打を叩き込む。
鋭い刃がぶつかった瞬間、ズカッと鈍い音がしたかと思えば、思い通り鱗が割れた。
「ぎゃああああ!」
ドラゴンは痛みに耐えられないかのように体をくねらせる。
鱗が割れただけで、それほど痛みが走るのか。
はじめの状態の鱗と今の状態の鱗は何か違うのかもしれない。
鱗を削げばこのドラゴンを倒す糸口が見えてくるかもしれない。
この鱗は硬いが、割れない訳ではない。
そう思ったサラはもう一撃入れ込もうとしたが、ドラゴンが反撃するようにぐっと手に力を入れてきた。
「がは……!」
サラの体が圧迫され、腹に刺さった爪がぐぐぐとさらに食い込んでくる。
口からごぽっと血があふれ出たが、サラは歯を食いしばった。
ここで死ぬわけにはいかない。負けるわけにはいかない。
この状況を打破するためにはどんなことも諦めてはいけない。
ドラゴンはぐん、と空へ上昇したかと思ったが、すん、と急に止まった。
ゆっくりと息を吸い、腹に何かをため込んでいる。
それは相当の量の空気。
その光景に既視感があったサラはやばいと思った。
どうやら業火を吹くようで、全てを丸焼きにして終わりにしようとしている。
させない。
そう思ったサラはもう一度力の限り剣を振りかざした。
ガシン、と鱗が割れて思った以上に剣が深く突き刺さった。
痛みに驚いたドラゴンが手を離し、サラは手と爪から解放された。
「ゴホゴホ……。今だ!」
突き刺さった剣を利用して体に勢いをつけて、振り子の原理でドラゴンの背に乗り上げた。
突き刺さっている剣を抜き取り、今度は首に突き立てる。
ぎゃり、と鱗が砕け散る。
「ぎゃああああ!」
痛みに悶えたドラゴンは空気を吐き出して暴れる。
その空気は火となって地面に降り注いでいくがまるで火の粉。
地面にたどり着く前に掻き消えて行く。
ドラゴンは必死にサラを振り落とそうと暴れているが、サラは棘になっている鱗を掴んで堪えた。
ここで落ちるわけにはいかない。
このドラゴンに負けるわけにはいかないのだ。
命を張って戦った王や他の騎士。
捕らえられた祈祷師たち。
今落ちれば、確実にドラゴンは猛火で全てを丸焼きにするだろう。
私は絶対に諦めない。何か致命傷を与えられる攻撃を考えろ。
するとふと、ドラゴンの首ごしに下を見下ろせた。真下は広い中庭だ。
凄惨な戦いが繰り広げられているが、上空からはかなり距離がある。
それでサラは閃いた。
確実にこのドラゴンに致命傷を与える方法を。
「光脈ってどうやって使うんだろうな」
急に問うサラに、アルグランドはしばし考えて「感覚はいつも通りでいいんじゃないか?」と不思議そうに答えた。
アルグランドもわかっていない。
それもそうだろう。
けれどわからなくても、とにかくやってみるしかない。
ウィンテールが光脈を開いてくれた時の感覚を思い出せ。
それでできなければまた他の方法を考えればいい。
「……やってみるか」
サラは笑う。
王の姿に尊敬を。
亡き母に感謝を。
彼等のその誇りと、意地にかけて。
この身に宿る血を使う。
力を解放するように、サラは咆哮した。
「瞬刻の煌!!」
ぱあああああ、と剣が眩しすぎるほど光を発し、サラの体の周囲を光が奔る。
血液の流れが一層速くなったような気がする。
そして何か柔らかいものがサラを包んでくれているような気がした。
体が暖かいのだ。
それは母の影か、それともウィンテールか。
はたまた誰かの想い、か。
「ありがとう」
そう呟けば、一気に光が噴射した。
ぐん、とドラゴンの背中が抗えない圧力に押し切られてゆく。
ドラゴンの背に剣は突き刺さったまま、それは止まることを知らない。
どんどんスピードが上がってゆく。
「いっけえええええええええええ!」
このまま真下へ一直線。
そう。
ドラゴンを待っているのは硬い硬い地上だ。
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