5 / 64
一章 旅路
セオドアとジェイデンの出会い③
しおりを挟む夢中で手紙を読んでいる子供の傍。
手持ち無沙汰になったセオドアは薔薇の生垣を乗り越え、柔らかな芝生へ足を踏み入れた。そのまま躊躇いもなく先程子供が寝ていたその場所に寝転ぶ。
思った通り、芝生は抜群の寝心地だ。
そのまま空を見上げると、ぐるりと周りに咲いている薔薇がアーチのように視界に入る。
「気持ちいい場所だな」
そう呟き、心地よさに目蓋を落としかけたその時、誰かの呼ぶ声が聞こえてきた。
「…坊っちゃま、どちらにおいでですか?」
次第に声が近づくと、子供が生垣を越えてきた。勢いよく飛び込んできた子供を受け止めてやりながら、視界の奥に白髪の老人が近づいてきているのが見えた。
「なんだ、呼んでるんじゃないのか」
やっぱり、この子供が坊っちゃまなのかと妙に納得した気分でいるセオドアとは対照的に、険しい顔で子供ーージェイデンは表情を引き締める。
「きて!」
いきなり身を翻したジェイデンに驚くセオドアの腕を引き、さらに奥の樹の影まで引っ張っていく。
「いいから、ついてきて」
「おい!ちょっと待てよ。…ついていくから、腕を離せ!」
庭園を突っ切り、近い低木が生い茂る横を通り抜けたあたりで、セオドアは我慢できずにその腕を振り払った。その周囲は森との境目に近付いたせいか、薔薇園よりも薄暗い。
「悪いな」
乱暴に外した腕をさすりながら、大人気なかったかとセオドアは謝った。
振り払われた腕をじっと見下ろしてから、ジェイデンはセオドアを見つめた。
海の色のような碧い眼だ。
金色の巻き毛は、薔薇園をかき分けた時にぼさぼさに乱れている。よく見ると、毛先は素人がハサミで切ったようにギザギザとしている。
「お前、公爵家のお坊ちゃんなんだろ?どうしてそんな格好してるんだ」
奇妙なのは服だけではなかった。
なまじ元の顔立ちが整っている分目立たないが、手足は汚れ、先ほど自分の腕を掴んだ手のひらは硬かった。
「髪もそれ、もしかして自分でやったのか?」
見下ろす目線を避けるように、金色の頭が俯いた。ギュッと服の端を握り、振り絞るように声を出す。
「さっきの。代官の手紙は本物なのか?」
真剣な眼差しに、セオドアはどういうことだと首を傾げた。
「代官は、12になったら予備学校の寄宿舎に入れると書いていた。父上にも確認して、俺の意思を尊重するようにと言われたと」
「ああ、そう聞いている。ここでは、12になると予備学校に入ることは義務だ。北は魔物が多い。騎士にならない奴でも、貴族なら予備学校で基礎を習う。有事の際に使える駒は一つでも多い方がいいからな」
北の常識である。
貴族でなくても、一定量以上の魔力のある平民にも課されている義務だ。
「予備学校は、義務だからな。学費は誰からも取らない。平民も、貴族からもだ」
その言葉に、ジェイデンがはっと顔を上げる。
「それは本当か?」
「こんな嘘言って何になる。家が遠方のやつとか、家庭の事情がある奴には寄宿舎も用意されてるぞ」
当たり前のように言うセオドアと対照的に、ジェイデンの顔が紅潮する。声は怒りに震えている。
「執事は、俺には学校に入る資格がないと言った。伝書鳩も入学届けを運んでこないから、そうなんだと信じていた…」
「そんなはずあるか。むしろ貴族なんだから、入学は絶対だ。俺の同級生には病弱すぎて主治医付きで寄宿舎に住んでたやつもいるぞ。体が弱くても、入学は逃れられない」
そう続けたセオドアの言葉に、眼を見張ったジェイデンの苛ついた唸り声が周囲に響いた。
581
あなたにおすすめの小説
無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる
蒼井梨音
BL
箱入り公爵令息のエリアスは王太子妃候補に選ばれる。
キラキラの王太子に初めての恋をするが、王太子にはすでに想い人がいた・・・
僕は当て馬にされたの?
初恋相手とその相手のいる国にはいられないと留学を決意したエリアス。
そして、エリアスは隣国の王太子に見初められる♡
(第一部・完)
第二部・完
『当て馬にされた公爵令息は、今も隣国の王太子に愛されている』
・・・
エリアスとマクシミリアンが結ばれたことで揺らぐ魔獣の封印。再び封印を施すために北へ発つ二人。
しかし迫りくる瘴気に体調を崩してしまうエリアス……
番外編
『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子の胸に抱かれる』
・・・
エリアスを当て馬にした、アンドリューとジュリアンの話です。
『淡き春の夢』の章の裏側あたりです。
第三部
『当て馬にされた公爵令息は、隣国の王太子と精霊の導きのままに旅をします』
・・・
精霊界の入り口を偶然見つけてしまったエリアスとマクシミリアン。今度は旅に出ます。
第四部
『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子といばらの初恋を貫きます』
・・・
ジュリアンとアンドリューの贖罪の旅。
第五部(完)
『当て馬にした僕が、当て馬にされた御子さまに救われ続けている件』
・・・
ジュリアンとアンドリューがついに結婚!
そして、新たな事件が起きる。
ジュリアンとエリアスの物語が一緒になります。
S S
不定期でマクシミとエリアスの話をあげてます。
この2人はきっといつまでもこんな感じなんだと思います。
エリアス・アーデント(公爵令息→王太子妃)
マクシミリアン・ドラヴァール(ドラヴァール王国の王太子)
♢
アンドリュー・リシェル(ルヴァニエール王国の王太子→国王)
ジュリアン・ハートレイ(伯爵令息→補佐官→王妃)
※扉絵のエリアスを描いてもらいました
※本編はしばらくお休みで、今は不定期に短い話をあげてます。
悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る
桜城 寧
BL
処刑された記憶とともに、BLゲームに登場する悪役会計に転生したことに気付く。処刑されないために、チャラ男としての仮面を被り、生徒会長に媚び売ったり、どうにか能力を駆使したりして生きてたら、色々な人に構われる話。
【第二章開始】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する
とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。
「隣国以外でお願いします!」
死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。
彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。
いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。
転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。
小説家になろう様にも掲載しております。
※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる