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一章 旅路
東寮②
しおりを挟むコンコン。
部屋のドアを叩く音に気付いて、ジェイデンは荷ほどきをしていた手を止めた。
「一息つこう、出てこいよ」
「・・・ああ、待っててくれ」
扉の向こうからセオドアに呼ばれて、ジェイデンは洗面台で手を洗い、散らかった部屋から出る。
応接間には茶と小菓子の準備が整えられていた。
セオドアはミアから従者が主人の世話を行うための必要事項や色々な場所を教えてもらい、帰り際に茶の用意をして部屋へ戻っていた。
「珍しい茶葉をミアさんからもらった。座れよ」
そう促されて長椅子へと腰をおろす。ルーが素早く足元にすり寄ってきた。
ルーは犬の姿に変化してからたまに貰う人間の食べ物に味をしめたのか、菓子や干し肉などをねだってくるようになった。
ギートは正反対に、興味なさげに部屋の端で丸くなっている。
「どうだ、今日中に片付きそうか?」
「いや、寝床が確保できるくらい片付けたらもう寝たい」
セオドアが煎れてくれた茶に口をつけながら、ジェイデンは憮然と言った。
椅子の下から期待に満ちた目で見上げてくるルーに、呆れながらも皿に載ったクッキーを一枚やる。
「入れた覚えのない荷物があるからな。思ったより時間がかかりそうだ」
ジェイデン自身は荷物の少ない男だが、それを知っている乳母や友人たちがあれこれと知らぬ間に荷物を増やしていたようだ。
荷ほどきをしていると覚えのない薬草や本、服などの生活品がどんどん出てきた。
「お前、物に頓着しないからなぁ。みんな心配なんだよ」
「そうか?昔に比べたら私物は増えていると思うけどな」
少年時代はろくな服さえなかった男である。
徐々に増えたとはいえ、清貧を貫いている彼には贅沢品は無用のものだった。
「お前ね・・・。ここじゃ、まともな服を着てくれよ」
「大丈夫だ。学校には制服がある」
きっぱり言い切るジェイデンに、セオドアは苦笑いだ。
北では街の平民が着るような普段着を愛用していたが、ここではそうはいかない。
ロンデナート公爵家の次男という看板は重く、常に外見を見られている立場である。
セオドアは王都へ来る前、父親とジェイデンの乳母から『王都貴族の心得』について口酸っぱく教えこまれた。
乳母いわく「舐められたら終わり!」の世界である。
王都貴族について熱弁を振るう乳母に、セオドアは王都行きを決めた事を少し後悔したほどだ。
「落ち着いたら、休み中に買い物に行こう。時間はたっぷりあるんだ」
そう言うセオドアに、少し面倒そうな顔でジェイデンが了承する。
「その前に、自分の荷物の片付けを済ませろよ。俺よりよっぽど多いくせに」
指摘されて、今度はセオドアがばつが悪そうに目を背ける。
北でも主人より従者の方が荷物が多いと揶揄われたセオドアの荷物である。
「これでも厳選したんだ。悪いか」
生活用品は多くないが、セオドアの荷物の大半は本と魔物の素材である。
大量に保存していた中からどうしても譲れないものだけをまとめたはずが、思ったよりも大荷物になってしまったことは否めない。
これでも泣く泣く諦めた素材もあったのだ。
「納戸は俺に譲ってくれ。部屋に入りきりそうにない」
「お前な・・・どっちが主人だかわかったもんじゃないな」
開き直るセオドアに、ジェイデンが笑って答える。
「お互い、早く荷物を片付けような」
「ああ」
窓の外から夕陽が差し込んでいる。
バルコニーは広く、一面の窓からは南の塔がよく見えた。
王都での新生活が始まる。
散らかった部屋で、2人は茶の入ったカップを持ち上げて乾杯した。
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