公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎

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二章 士官学校

アマーリエとソフィア①

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放課後。

慌ただしく教室を飛び出したジェイデンを見送ったアマーリエとソフィアは、冬季休み明けの近況報告をしようと学校近くの菓子店に入った。

「ソフィアとゆっくり話すのも久しぶりよね。冬季休みはどうだった? 」

馴染みの店主に季節の果物を使ったタルトと紅茶を頼み、アマーリエは首元のリボンを緩める。彼女は首元を締め付けられることが嫌いで、制服のこの紐も好きではない。

「待って頂戴。アマーリエはいつも決めるのが早いわね」

メニューを眺めながら、ソフィアはフゥと息を吐く。
アマーリエが頼んだタルトも、木の実が入った焼き菓子も、クリームがたっぷりかかった柑橘のケーキも美味しそうで選びきれない。
ここの店主は王宮の厨房に菓子職人として長年勤めたこともある優秀な人物で、王都でも人気の店だ。いつ来ても繁盛している。

「ああもう! 選ぶのが難しすぎるわ」

メニュー片手に悩んでいるソフィアの様子に気づいた店主が、笑顔で彼女に近づいてきた。

「よろしければ、人気の菓子を少しずつ盛り付けることもできますよ」

にっこりと微笑みながらそう告げる店主に、ソフィアはぱぁっと顔を輝かせる。

「じゃあ、それをお願いします。あとは彼女と同じお茶をポットでいただけるかしら」

「もちろんです」

気になっていた菓子をいくつも味見できるとあって、ソフィアは上機嫌でアマーリエに向き直った。
注文した品が運ばれてくるまで、休み中のお互いの近況報告に花が咲く。

「この休みは北の実家に帰らなかったの? 」

「そうよ、ずっと仕事をしてたわ。ほとんどが護衛任務ね。何回王都とキヴェを往復したか」

士官学校には生徒に日雇いや短期の仕事を紹介する組合がある。担当の職員が、生徒の能力や適性を判断して依頼任務を割り振るのだ。アマーリエとディア、メイソンの3人はバランスの良い3人組だが、まだ一年生ということもあり土地勘のある王都北側の依頼しか回ってこなかった。

「次の休みには貴族の護衛任務も受けられるようになりたいわね」

貴族の護衛は依頼料が高く、士官学校の生徒の中でも行儀作法を心得ている貴族出身者が選ばれることが多い。その点ではアマーリエたちは適任といえた。

「仕事熱心なのはいいけど、貴族の付き合いにも顔を出しなさいよ。色々なお茶会で貴女は来ないのかしらって聞かれるのよ、私」
「それが面倒だから、仕事をしてるんじゃないの」

しれっと言い切るアマーリエに、ソフィアは呆れ顔だ。

「そういえば、冬季休み中のお茶会はロンデナートのご令嬢の話題で持ちきりだったわよ」

元のカップの中が空になり、ポットの紅茶を継ぎ足しながらソフィアは続けた。

「話題に登る婚約者候補が王都でも人気の殿方ばかりだからか、一体誰とってみんな興味津々」

「ロンデナート夫人が熱心に探してらっしゃるって本当なの? 」

「そうみたいね。リルバ叔父様のところにもお話が来たみたい」

「ええ? 大丈夫なの、だいぶ歳が離れてらっしゃるんじゃない? 」

リルバ35歳、かたやジェイデンの異母妹は13歳である。

ソフィアのカップを持つ細い指に、ぐっと力が入る。
憎々しげにその時のことを思い出すソフィアの様子に少し腰が引けながらも、アマーリエは恐るおそる続きを促した。

「もちろん、叔父様はすぐにお断りしたわよ。ルイス先生のところにもお話があったみたいだけど、本当に見境ないったら」

敬愛するリルバのことになると、途端に了見が狭くなるソフィアである。
噂になるのも腹立たしいと、知らぬ間に眉が寄る。そんな彼女をまぁまぁとなだめながら、アマーリエもお茶を追加した。




ソフィアは運ばれてきた皿の上の菓子の中から、蜂蜜がたっぷり入った焼き菓子を口に入れる。
まろやかな甘みに、茶会を思い出して苛立っていた気持ちが徐々に落ち着いてくる。お茶を飲んで口の中をさっぱりさせた後、次に口にする菓子を選びながら、ソフィアは気になっていたことを切り出した。

「ねぇ、ジェイデン様がお兄様によそよそしいのって、やっぱりあの噂は本当なのかしら」

ご令嬢の話から、お茶会ではロンデナート家のお家事情についてもずいぶん噂されていたらしい。
公爵家としては新興のロンデナート家は敵も多いのだ。

「ロンデナートといえば、有名なのがあれでしょう? 20年前の戦争の話」

「ダブレス帝国との戦争のこと? 」

「そうよ。あの戦争で私たちのテルーズ王国が侵略してきた帝国に勝利して、領土を広げたのは知ってるわよね」

「それくらい常識でしょう、みんな知っているわよ」

「そうよね…」

そこで一度言葉を切って、アマーリエはお茶を口にした。

「王都には北の事情があんまり正しく伝わってなさそうだから説明するけど、私も父様から聞いた話だから細かい所はわからないわよ」



そう前置いて、アマーリエは長い話を始めた。




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