48 / 64
二章 士官学校
授業のはじまり⑤
しおりを挟む机に置かれたカップに気付いて、ジェイデンは顔を上げた。
「蜂蜜湯だ。少し休憩したらどうだ?」
「…ああ、ありがとう」
湯気が立つカップの中には琥珀色の薬湯がたっぷりと入っていた。
ジェイデンは礼を言ってカップに口をつけた。
穏やかな薬草の香りと、蜂蜜の甘みを感じる。
柑橘の果汁も入っているのか、後味はすっきりとした飲み心地だ。
「何をそんな真剣に呼んでいたんだ?」
ジェイデンは帰宅してから、自室でずっと読み物をしていた。
セオドアが遅れて帰宅してきてからも無反応で没頭していた様子に、彼はさっさと先に入浴を済ませた所だ。
湯浴み着のままセオドアは髪を拭きながら、そう声を掛けた。
「ルイス先生の著書。『魔力循環の基礎』これから必要だと思って」
「俺も読めって言われてるな、それ」
魔法学一年生向けの課題図書である。
2年のセオドアはそれに加え『魔力循環とその応用』も読まなければならない。
机に向かって座っていたジェイデンの頭上を、背後から覆いかぶさるようにセオドアの手が伸びる。
今まで呼んでいた頁を覗き込んだ。
「相手がルイス先生だぞ。最低限、これくらいは理解していないと気まずいだろ」
「お前、そういうとこ真面目だよな。専門家なんだから、相手に委ねときゃ間違いないだろ?」
そうだけど、と口を尖らせる様子のジェイデンに、セオドアがくすりと笑う。
派手な見た目の割に、生真面目な所は昔から変わらない。
セオドアが身動きをしたことで、まだ濡れたままの黒髪から水滴がぽとりとジェイデンの首筋から背中の方へと流れ落ちた。
水滴はそのまま、着ていた服に染み込んでいく。
「セオ、水が落ちてる」
ジェイデンは濡れた首筋を片手で押さえながら、振り返って覆いかぶさっている身体を押しのけた。
「悪い、冷たかったか?」
セオドアは素直に謝り、肩にかけていた布で濡れた髪をさらに拭った。
「いや…気にするな」
そう言いながら、ジェイデンは開いていた本の頁を閉じる。
ちょうど集中力が切れてしまっていたし、腹も空いてきたところだ。
寮の一階の食堂からは、美味しそうな匂いが漂ってきている。
「そういえば、セオの相手とは会えたのか?」
机の上を片付けながら、シェイデンがそう聞いた。
「いや、まだだ。タオは前から知っているから問題ないが、もう1人の女生徒とは今日は予定が合わなかった」
タオの名前に、ジェイデンはぴくりと反応する。
セオドアと親しい相手というのは先日聞いたが、彼はまだ故郷へと帰省していて寮に戻ってきていない。
新学期が始まっているのに不味くはないかと思うのだが、彼の地元は特殊な保護区であるため事情を考慮されているとのことだった。
小耳に挟むタオの人物像は、どうも艶っぽい噂ばかりだ。
セオドアは親しい友人としか言わないが、ディアが『付き合っていたに違いない』と断言するので、つい邪推をしてしまうジェイデンである。
(誰と関係があってもいいが、秘密にするところが気に食わない)
ジェイデンは自身の独占欲を、兄を取られた子供のような嫉妬と思っており、余計に本人へと直接聞けずにモヤモヤとしていた。
「彼がいつ戻るか知らないが、魔力循環はどっちと組むんだ?」
セオドアの候補者は、タオと研究所の魔道具科職員、一年生のマーゴット・パウエルの三名である。
必然的に、相手はタオかマーゴットの二択だ。
「ダンパー先生からは、マーゴット嬢を推薦された。彼女の候補者が素行不良で謹慎中らしいから組んでみてはと言われたな」
「タオじゃなくてもいいのか?友達なんだろう?」
「あいつは忙しいからな。今も故郷に帰っていて、いつ学校に復帰するかわからん」
あっさりと言うセオドアに、ジェイデンは拍子抜けしたように脱力する。
これでは気にしている自分が馬鹿みたいではないか。
セオドアは濡れた髪を温風が出る魔道具で乾かしながら、横目でジェイデンを見た。
黙っている年下の親友に、不思議そうな顔を浮かべる。
「どうした?」
「…別に」
そう返しながら、子供っぽい自分に嫌気が差したが、ジェイデンは素直になれずに背を向けた。
髪を乾かし終わったセオドアが、普段着に袖を通しながら時計を見る。
「そろそろ夕食か」
ちょうど、夕食を知らせる鐘が寮内に響いた。
肉の焼けるいい匂いがする。
「食堂に行こうか」
「ああ、そうだな」
窓の外では夕陽がもう暗闇に落ちかけていた。
寮内にはお腹を空かせた生徒たちが、食堂へと向かう足音と声が響いている。
廊下のざわめきに誘われるように、彼らは部屋から出て行った。
322
あなたにおすすめの小説
無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる
蒼井梨音
BL
箱入り公爵令息のエリアスは王太子妃候補に選ばれる。
キラキラの王太子に初めての恋をするが、王太子にはすでに想い人がいた・・・
僕は当て馬にされたの?
初恋相手とその相手のいる国にはいられないと留学を決意したエリアス。
そして、エリアスは隣国の王太子に見初められる♡
(第一部・完)
第二部・完
『当て馬にされた公爵令息は、今も隣国の王太子に愛されている』
・・・
エリアスとマクシミリアンが結ばれたことで揺らぐ魔獣の封印。再び封印を施すために北へ発つ二人。
しかし迫りくる瘴気に体調を崩してしまうエリアス……
番外編
『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子の胸に抱かれる』
・・・
エリアスを当て馬にした、アンドリューとジュリアンの話です。
『淡き春の夢』の章の裏側あたりです。
第三部
『当て馬にされた公爵令息は、隣国の王太子と精霊の導きのままに旅をします』
・・・
精霊界の入り口を偶然見つけてしまったエリアスとマクシミリアン。今度は旅に出ます。
第四部
『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子といばらの初恋を貫きます』
・・・
ジュリアンとアンドリューの贖罪の旅。
第五部(完)
『当て馬にした僕が、当て馬にされた御子さまに救われ続けている件』
・・・
ジュリアンとアンドリューがついに結婚!
そして、新たな事件が起きる。
ジュリアンとエリアスの物語が一緒になります。
S S
不定期でマクシミとエリアスの話をあげてます。
この2人はきっといつまでもこんな感じなんだと思います。
エリアス・アーデント(公爵令息→王太子妃)
マクシミリアン・ドラヴァール(ドラヴァール王国の王太子)
♢
アンドリュー・リシェル(ルヴァニエール王国の王太子→国王)
ジュリアン・ハートレイ(伯爵令息→補佐官→王妃)
※扉絵のエリアスを描いてもらいました
※本編はしばらくお休みで、今は不定期に短い話をあげてます。
悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る
桜城 寧
BL
処刑された記憶とともに、BLゲームに登場する悪役会計に転生したことに気付く。処刑されないために、チャラ男としての仮面を被り、生徒会長に媚び売ったり、どうにか能力を駆使したりして生きてたら、色々な人に構われる話。
【第二章開始】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する
とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。
「隣国以外でお願いします!」
死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。
彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。
いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。
転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。
小説家になろう様にも掲載しております。
※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる