公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎

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二章 士官学校

魔力循環②

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先日までの冬の寒さが嘘のような、早い春の日差しが心地よい朝である。
士官学校の生徒たちは、それぞれ足早に校舎を目指しているところだ。

そんな中、1人の女生徒が見知った顔を見つけて声をかける。

「おはようございます。セオドア様」

にっこりと完璧な微笑みで、マーゴット・パウエルは先日知り合ったばかりの上級生を呼び止めた。今朝、念入りにブラシで梳いた彼女の赤毛が、肩を滑り落ちるようにさらりと揺れる。

マーゴットの声に、前を歩いていたセオドアが振り返った。
最近知り合ったばかりの後輩だが、無下にすることはできない相手である。

「ジェイデン様、足をお止めしてもよろしいですか?」

「ああ、構わない」

「ありがとうございます。…おはよう、マーゴット」

セオドアは、一緒に登校していたジェイデンに声をかけて挨拶を返した。

「セオドア、彼女は?」

見覚えのない女生徒を前に、ジェイデンは知り合いか?と続ける。

「マーゴット・パウエル嬢です。私の候補者のひとりですよ」

先日ようやくルイスから魔力操作の合格点をもらい、セオドアは魔力循環の候補者と顔合わせをしたばかりだ。
その際に初めて会っただけなので、もちろんお互いをよく知らない同士である。

ジェイデンの候補者は大物ばかりなので、対面は叶わなかった。しかし、ジェイデンのことを知ったザラート部長とキリム卿からは、機会があれば是非紹介をとルイスのもとへ伝言があったらしい。
それぞれこれまで魔力循環の候補者が現れておらず、この機会を好機と考えているようだった。

「はじめまして、ロンデナート様」

マーゴットが笑顔で差し出した手を、紳士の作法で握り、ジェイデンも簡単な挨拶を返した。

「ジェイデンでいい。こちらこそよろしく」

間近で目にしたジェイデンの美貌に一瞬驚いた様子のマーゴットだったが、淑女らしく弁えた様子で、すぐにセオドアに視線を戻した。

「セオドア様。先生からいつ合わせを始めるかお聞きになりました?」

「いや、まだだ。君の都合もあるだろう?」

「あら、私のことなんて。構いませんのに」

マーゴットはそう言って、セオドアを見上げて頬を桃色に染める。
そして、「急ぎの用事はありませんし、いつでも」と控えめに申し出た。

その初々しい反応は、思春期の少女らしい微笑ましい様子だった。わかりやすいその態度に、いつも周囲から鈍いと言われ慣れているジェイデンですら、ピンとくるものがあった。

セオドアはすぐには答えなかったが、珍しく気を利かせたジェイデンが先に口を開いた。

「彼女の言葉に甘えたらどうだ?」

そう水を向けたジェイデンに、セオドアの眉が少し動く。

確かに彼は2学年で課題が多く、放課後もジェイデンの従者の役目で多忙を極めている。
マーゴットの申し出は、有難い提案だった。

彼は一瞬浮かんだ表情を打ち消すように、笑顔を浮かべてマーゴットに向き直った。

「では、お言葉に甘えて。ルイス先生とはこちらが調整をしてまた連絡しよう」

「はい。お待ちしておりますわ」

「君との魔力循環でセオドアの魔力量が増えてくれたら、私も心強い」

「まぁ、恐れ多いことですわ」

ジェイデンにそう返しながらも、マーゴットはセオドアに熱い視線を注いだままだ。

「ジェイデン様は私を買いかぶり過ぎですよ」

「それだけセオドア様を信頼していらっしゃるんでしょう?素晴らしいことですわ」

「それなら、早く君と魔力合わせができるよう努力しないといけないかな」

彼女の好意に気がついていないのか、知らぬふりをしているのか、セオドアは愛想良く言葉を返している。

「うふふ。嬉しいお言葉ですわ。楽しみにしておりますね」


そう言ってマーゴット嬢が立ち去ってから、ジェイデンはセオドアへ呆れた顔を向けた。

「相変わらず、女にもてるなお前は」

「…あなたは相変わらず、他人の事には敏感ですね」

「どういう意味だっ」

言外に、自身については鈍いくせにと言われたようで、ジェイデンはセオドアを睨んだが、鼻で笑われるような表情を返されてぐっと黙った。

セオドアは喉の奥で小さく笑う。

「…まぁ、あなたはそれくらいじゃないと周囲が苦労しますからね」

続けざまに貶されているのか、褒められたのかよく分からない言葉をかけられ、ジェイデンははぁとため息を吐いて、歩く脚を早める。


寮の外では、セオドアは丁寧な言葉遣いを崩さない。
それが余計に自分を苛立たせることを、彼は最近自覚していた。

「お前の話し方、外で聞くと余計腹が立つな」

セオドアは、すました顔で「それはそれは」と返した。

話しながら歩いていると、ちょうど校舎に到着する。

「早く慣れて頂かないと、私が困ります」

完璧な従者の顔で、にこやかに言いながら、セオドアは主人のために恭しく扉を開けた。










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