ワルモノ

亜衣藍

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「おい、あのウワサ、聞いたか? 」

 兄貴分の男達が、何やらヒソヒソと話している。

 気になって、近藤こんどういかりは事務所の掃除をする手は止めずに、聞き耳だけを立てた。

 その様子に気付かず、男達はタバコをふかしながら、噂話に興じる。

「あん? ウワサって何だよ」

「親分の所に、半年くらい前にどえらい別嬪が転がり込んだんだとよ。んで、すっかり親分は骨抜きになっちまって、そいつを片時も離さないんだと」

「へぇ!? マジかい? でもまぁ、親分もあねさんが亡くなってからやもめが長いんだし、結構な事じゃないか」

「いやいや、それがまだ、十五歳の美少年なんだとよ」

「うへぇ! それこそビックリだ!! 親分に、そんな趣味があったのかよ? 」

 事務所で油を売っていた連中は、ちょうど退屈していたところだ。

 そこに、こんな話が舞い込んだのだから、その場にいたほとんどの連中は、その噂話に飛びついた。

 ネタを持ち込んだ男は、周りに注目されるのが心地いいのか、何故か自慢げに胸を張って続ける。

「それでな、上野の本家では、そいつをどこに置くかで揉めているらしいぜ」

「は? 組長の愛人イロだったら、そりゃあどこか適当に店でも持たせて――」

「いや、だから。相手は十五の男だって言っただろうが」

「もしかして養子にすんのか? じゃあ、親分は行く行くはそいつを跡目にする気なのかよ」

「それじゃあ、現在跡目と見做されている、竜真の兄貴の立場がねぇじゃねーか!? 」

 それからも、面白半分真剣半分、男達は喧々諤々と言い合う。

 その様子を、碇はタバコの灰皿を換える振りをしながら、注意深く見守る。

(十五の、男だって? )

 碇と、同い年ではないか。

 それなのに、その『どえらい別嬪』というヤツは、ちゃっかりと本家に居座って、親分に取り入っているのか。

(なんだよ、そいつは! )

 ツラが良いだけで、色で組長に取り入ったのか? 

 最低な男娼オカマ野郎じゃないか。

 ムカムカと怒りが湧き、碇は持っていた灰皿を壁に叩きつけたくなった。

――――碇の両親は、元々この組の構成員だ。

 ガラの悪い両親の元、当然のように、碇もそのように育った。

 子供の頃から体が大きく、また気性の激しかった碇は、近所でも有名な悪童だった。

 ケンカをすれば、相手が泣いても絶対に手を止めない。何人相手でも殴り倒す。

 先生だろうと教師だろうと、平気で殴り掛かる。

 逆に『かかって来い』と、相手を半ば脅すようにして己へ向かわせ、正当防衛だと言いながら殴るという、血なまぐさい遊びもしていた。

 碇にとって学校とは、何かを学ぶ場ではなく、ただただ己の力を振るうに適した格好の闘技場のようだった。デスゲームと名付けた碇お気に入りの遊びは、彼が卒業するまで続いた。

 碇を指して、狂犬だと、誰もが恐れ怖がった。

 しかし、両親が組の不始末を被り、揃って長い懲役刑を喰らうことになり、中学を卒業したばかりだった碇の身の上は大きく変化する。

 行く当てもなかった彼のことを、不憫に感じた父親の兄貴分の計らいにより、碇はこの事務所の見習いとして住みこむ事を許された。

 時々、気前のいい兄貴分たちが、碇に小遣いをくれたりして面倒をみている。

 碇も、それまで傍若無人に育ってきたが、さすがに玄人ばかりの中ではそうはいかない。

(一度、命令に従わず悪態をついて反抗した事があったが、その時は本当にロクに抵抗も出来ずに、ボコボコにされて泣きを入れたのだ)

 今では、見習いらしく、積極的に事務所の掃除をしたりして働いている。

 だが、己と同い年の男が、ちゃっかりと本家でうまい汁を啜っていると聞いては黙っていられない。

 碇は、キッと兄貴分たちを睥睨した。

「――――それ、本当なんですか? 」

「ん? 」

 不意に口を開いた碇に、男達は振り向いた。

 碇は、彼らの視線を薙ぎながら再び問う。


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