ワルモノ

亜衣藍

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 聖はあえて、1円の価値しかないようなクズ株を狙って、投資した。

 その数字だけ見れば、一気に株価が上昇した、利益を見込める好条件の優良株と捉えられる。数字に引き寄せられ、どんどん値が吊り上り、株価は一日で鰻登りに上がった。

 だが、聖は欲をかかずに、利益が見込める段階で売り抜けた。

 毎日、これを繰り返す。

 そして、一か月後。

 聖は見事、100万円を1000万円に増やしていた。

   ◇

「でも、このやり方は今回限りにした方がいい」

 聖の裁量にひたすら感心する正弘へ、聖本人は、そう忠告した。

「海外の動きも怪しいし、国内の動きも怪しいんだ。どこもかしこも景気のいい話ばかりしやがるが、実際この好景気は、もってあと二年が限界じゃないかと思う。あんたの手下が、地上げ屋に精を出して土地を買い占めているようだが、もう止めた方がいいぜ」

「ほぉ? 」

「オレが買ったのは、本当にクズ株だった。それでも、数字につられたバカ共が後先考えずに投資してきた。実がないのにカネを使うなんざ、正気じゃねぇよ。こんな状態が、長く続くと思う方がどうかしている。土地だってそうさ。地価の異常な高騰を考えると、このまま上の連中が野放しにしておくはずがない」

「おめぇは、ウチに通っている先生と、真逆の事ばかり言うなぁ」

 苦笑して、正弘は聖の頭をくしゃりと撫でた。

 この時は、聖の事を、少しばかり小賢しいだけの少年だと、誰もが思っていた。

 本当にこの二年後、バブル経済の大崩壊が待ち構えているのだが、当然、この時は誰もそんな事は考えない。

 税テクという言葉が流行り、街は好景気に沸いていたのだから。

「あのな、オレは――」

「ああ、分かった分かった。おめぇは良く出来た頭をしているよ。本当に、オレのカネを増やしたんだしな」

 聖は正弘の口座を使って取引をしたのであって、聖本人が儲けたワケではない。

 しかし、それについては聖は何も言わず、代わりに違うことをねだった。

「約束だろ? オレを、正式にこの組に迎え入れてくれ」

「……」

「どうせ、根無し草さ。このままここを出ても、死ぬまでロクな人生じゃないだろう。あんた、オレが及第点に達したと判断したら、身の振り方を考えてやるって言ってたよな? それなら、オレに盃をくれよ」

 キュッと眉根を寄せ、取り縋る。

 それを、困ったように正弘は見た。

「しかし、本当に極道になっちまったら――いつか、後悔するかもしれねぇぜ? 何せ、おめぇは滅多に見ねぇような別嬪だ。オレぁは芸能事務所も持っているんだし、おめぇがもしそっちに興味あるんなら、幾らでも口を利いてやるぞ? 」

「ハッ! そんなの興味ねーよ」

 鼻で笑い、聖は正弘の袖を握り締める。

 そして、その胸に顔を寄せ、本当に聞こえるか聞こえないか、ギリギリの声音で囁いた。

「……なぁ、頼むよ。オレに、居場所を作ってくれ。オレの親父に――――なって、くれよ……」

 帰る家も、家族もいない。故郷は、追われるようにして飛び出した。

 そして彷徨って、ここへ行きついた。

 これまで気丈に振る舞ってはいたが、さすがに疲れた。

――――神経は、もう限界に近い。

 聖とて、まだ十五の少年なのだ。

 安心できる場所が、どうしても欲しかった。

 正弘の背中を流し、その父性に触れてしまった聖が、本当の父親がほしいと願って何が悪いというのだ? 

 聖が初めて見せる、素の純真な面に、正弘の心が揺れた。

「分かったよ」

 フゥと、嘆息しながら降参する。

 そして、己の胸に顔をうずめたままの、聖の身体をギュッと抱き締め、困ったように笑う。

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