ワルモノ

亜衣藍

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 昭和最後の年となる、冬。

 このところ昭和天皇の容態がかんばしくなく、通常なら、年末に向けてやれクリスマスだ正月だ、忘年会だ何だと、一年で最も浮かれ上がって、お祭り騒ぎに沸き立つハズの日本であるが、この年ばかりは違った。

 どこもかしこも、やれ世情を鑑みて慎むべきだ何だと、すっかり国中が卑屈なほどの自粛ムードに陥り、年末商戦で閉店時間を遅らせるハズのデパートも、早々にシャッターを下ろした。

 飲食業界には、総じて閑古鳥が鳴いた。

 テレビでは、バラエティー番組や歌番組が自粛ムードの煽りを喰らい、放送延期になったり中止になったりした。

 プロ野球の優勝パレードも、もちろん中止。

 優勝祝賀会での、恒例だったビール掛けさえも中止になった。

 バブル景気で浮かれていた日本であったが、この年の冬ばかりは、かなり様子が違ったのである。

   ◇

「――と、まぁ、こんな状況じゃあ、目出度いはずの盃事はムリだぁな。気の毒だとは思うが、もう少しばかり待ってなよ」

 そう言うと、正弘はホウッと溜め息をついた。

 中庭の辻で、聖へ盃の約束をしてから、三ヶ月が経っていた。

 その時は、庭木に植えてある金木犀の花が咲いていて、庭中に馨しい香りが満ちていたが、今はもう終わっている。

 花は、いつの間にか椿に替わっていた。

――――今の聖は、もうこの離れの屋敷には住んでいない。

 聖の身柄は、組の跡目である、肥後ひご竜真たつまの構える巣鴨の事務所へと移っていた。

 正弘と聖が、こうして合うのは、三ヶ月ぶりだ。

 実に、久しぶりの対面である。 

 極道は上下の規律が厳しく、一たび竜真の下っ端に就いた聖には、この屋敷にいたように、そうそう自由な時間などない。

 組の跡目である肥後竜真をかしらと敬い、兄貴分には常に頭を下げ、一から十まで命令に従い、意に添わぬことにも、目を瞑らなければならない。

 泣き叫ぶ女子供も無視して借金の取り立てをするのは当たり前。

 先祖代々の土地は絶対に手放さないと言い張る老人の家へ、事故に見せかけて車を突っ込ませるのも普通。

 暴力沙汰は日常茶飯事。

 それらに、いちいち付いて回らねばならない。

 それは、ある意味、今まで常に自由であった聖にとって、非常に耐えがたく辛い事の連続であった。

 ましてや、まだ聖の身分は見習いのままだ。

 これでは、街のチンピラと何ら変わらない。

 しかも、盃事を執り行うには相当なカネが必要だと匂わされ、聖は組の雑事の他にも、どこかでカネの算段まで考えねばならず、鬱々としていた。

 正弘を頼ればいいだけの話だが、それでは本当に虎の威を借る狐のようで気が進まない。

 ましてや、組に移ってからも、聖の事を大親分の色子ではないかと、色眼鏡で見る者が多く、その状況で正弘を頼っては、ほら見た事か、本当ではないかと卑下されそうで、イヤだった。

 自由のない事務所詰めの毎日でも、カネを稼ぐ方法ならあるにはあるが――――……それだけはイヤだと言い張り、グズグズと時間だけを稼いでいる状況だ。

 聖は、この三ヶ月で、徐々に追い込まれていた。

 たった一言、お前が『分かった』と頷きさえすれば、全て丸く収まるのだと圧力をかけられ続け……精神的に疲弊していた。

 そんな折、たまには顔を出させろと、正弘が直接竜真の事務所へ連絡を入れてくれたので、こうして久しぶりの対面が叶ったのである。



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