ワルモノ

亜衣藍

文字の大きさ
19 / 47
6

6-1

しおりを挟む

「言っときますが、私はカネだけじゃあ動きませんよ」

 そう言うと、男は注がれた酒をクッと呷った。

 ここは、東京屈指の歓楽街、新宿歌舞伎町。

 煌びやかな店が軒を連ねる街であるが、そこでも、ひときわゴージャスな店に、ホステス十人以上を侍らせて豪遊している一団があった。

 世の中の自粛ムードも何のその、店内は大変に華やかに彩られていた。

 客のメンツは、男衆が五人のみ。

 だが、店内にはピーンと張りつめた空気が満ちており、ホステスたちの笑顔もどこか引き攣っている。

 それもそのハズ、この一団は全員がヤクザだ。

 この店は、天黄組跡目である肥後竜真がオーナーの高級クラブであり、今日は、特別の客の為に貸し切りにしてあった。

 その、特別の客とは、関西系のヤクザ、橋本会の幹部、東堂とうどう三郎さぶろうだ。

 最初に、口を開いた人物である。

 東堂は、中肉中背の三十代後半の痩身の男で、一見すると貧弱なインテリのようであったが、その眼は蛇のように得体のしれない色を湛え、どこか不気味な雰囲気の男だった。

 ホステスたちも微笑んではいるが、皆一様に怯えたような表情をしている。

 それらを一瞥しながら、東堂は二ッと笑った。

「おやおや、綺麗どころが随分と大人しいじゃあないですか? 私の相手は、気が進まないようですねぇ」

 その言葉に、クラブのママは慌てて愛想を振りまく。

「ほほほ、嫌ですねぇ! そんなワケないじゃないですか? 関西の方なのに、お言葉にちっとも訛りがないものだから、皆で不思議に思ってたんですよぉ」

「そりゃあね、私は組から関東こちらの方を任されたもんですから、当然それに合わせるようにしてるんですよ。どうです、東京人みたいでしょう? 」

「ええ、完璧ですわ。ねぇ、みんな? 」

 ママの言葉に従うように、ホステスたちも一様に頷いた。

 満足そうにソファーにかける東堂へ、対面に座った竜真は、すっとグラスを掲げる。

「じゃあ、我々の出会いに、とりあえず乾杯しましょうや」

「そうですね。今日は、お招きありがとう」

 竜真に合わせ、東堂もグラスを掲げる。

 それに合わせて、周りの人間たちも一斉にグラスを掲げた。

「お互いの益々の発展を願って、乾杯! 」

――――チンッ

 グラスが触れ合い、それぞれがアルコールを口にする。

 上機嫌の様子で、東堂は両脇のホステスとも乾杯をした。

 そして東堂は、自分では極上の笑みだと思っているらしき表情になる。

 本人はとびきりの笑顔のつもりらしいが、その笑みはアルカイック・スマイルそのもので、とても不気味だ。

 その不気味な表情のまま、東堂は饒舌に喋りだす。

「いやね、こちらの前の親分さんの時は、冷たく相手にもされませんでしたからね。でも、こうして次期組長さんが我々と共闘しようってんなら、話は別ですよ。それなりに、話を持ち帰ってからにはなりますが――まぁ、ウチんとこの幹部に、場合によっては口を利いてもいいだろう、と」

「そうしてもらえると、助かりますよ」

 竜真は、ニコリと笑って答えた。

 インテリ風で痩身の東堂に対して、こちらは、さも極道と言った風体をしている。

 濃い眉とスッと通った鼻筋は、精悍で、女性にモテるような好ましい容貌だが、右頬には大きい切り傷が刻まれていて、それが否応なしに目を引く。

 着ているものは仕立てのいい濃紺のスーツだが、それも余計に極道っぽさを増している。

 付き従う男達も似たようなもので、どう見てもスジ者だ。

 笑っていても、その眼光が鋭すぎる。

「――ところで、東堂さん。カネだけじゃあ動かないと仰いましたよね? それに、場合によっては、と」

 竜真がそう水を向けると、東堂はまたアルカイック・スマイルを浮かべた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために

ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話 ※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

先生と俺

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 ある夏の朝に出会った2人の想いの行方は。 二度と会えないと諦めていた2人が再会して…。 Rには※つけます(7章)。

処理中です...