四代目は身代わりの皇后④十年後~皇后アリカの計画と皇太子ラテの不満

江戸川ばた散歩

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第6話 配膳方の後続事情と、闇に光る糸

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「若様本当に会うごとに大きくなられて」
「食べ盛り、動き盛りですからね。食事を幾ら作っても作っても二人して平らげてしまって」
「美味しいんだもの仕方ないじゃない」

 ラテは自分の前に出された乳茶に口を付けつつ言葉をこぼす。

「だけどエガナさんがそんなに料理も達人だとは結構長い付き合いだとは思ってたけど、知らなかったな」
「そりゃあまあ…… 向こうでお勤めしてた頃は、お食事が用意されていたし。そう、あそこでずいぶんと料理のヒントを貰った気がするわ」

 懐かしそうにエガナは微笑む。

「そうよね。私達の食事にしても、豪華ではなくとも美味しかったもの。あれはもう筆頭のタボーさんのおかげよね」
「あの方は本当に達人でしたね」
「タボーが作ってくれるお菓子は本当に美味しかったよ。エガナとは違う味で」
「まあ」

 ちょい、とエガナはラテの頬をつつく。

「まあ実際、タボーさんは本当に大鍋料理から繊細なお菓子まで何でもあれ、だったから」
「レレンネイ女官長と同年代とはとても思えない力持ちでしたしね」

 その言葉にカリョンはぷっと吹き出す。

「そうなのよね。あの方前の女官長と殆ど同期ってことは、……」

 女性達は言葉を濁した。聞いている少年は何のことだろう、と二人を交互に見る。

「でもタボーさんがあまりに身体も心も丈夫だから、下の者がなかなか育たないということがあったみたいね」
「そうだったの?」

 エガナは驚く。
 育児の方に追われていた彼女はその様な動静にはさして興味がなかった。
 現在横に座っている少年は、怪我も健康も心配しないで良い体質だったが―――それ故に、実にあちこち良く走り回った。一番身近な「親」であり「遊び相手」であったのがエガナしか居なかったというのもあるだろう。
 実の母親のアリカは一日に一度顔を合わせるくらいだったし、その側近のサボンやフヨウも同様だった。
 サボンは常にアリカについて忙しかったし、フヨウは何かというと彼の視界からは消えていた。
 無論この時点の彼はフヨウが隠密の宮中内筆頭であることなど知らなかったから、その動きが奇妙なものであることなど判る訳もない。
 ただ同じ最側近なのに、サボンとフヨウはどうして見る回数が違うのだろう、と思ったことがある程度だ。

「……で、配膳方の上級女官がまた入れ替わったんですって。この間納品に行った時に、縁談がまとまったと言って抜けていったって。タボーさんも目をかけていたのに残念そうだったって言ってたわ」

 配膳方はタボーが筆頭であることは十年変わらない。
 レレンネイは自分が去る時、身体に気をつける様に彼女に対してしっかり言い聞かせたという。

「大丈夫さあ。食べることは健康にもつながってる。あたしがそう簡単にそこを見失うことはないさ」

 実際未だにそれは実現されている。
 だがそれだけに、タボーと代替わりした上級女官との腕の差がずいぶんと開いてしまっていることも確かだった。
 そして問題はそれだけではないらしい。

「まあ…… でもそれは前から良くあることでしょ?」
「ところがその上級女官、どうも郷里の藩候様のところにで調理人として誘われた様なのよ」
「え、そういうこともあるの?」
「何だかんだ言って、陛下が色々ここ十年でお食事に彩りのヒントを下さったでしょう? で、茶会やら祝賀会の時のちょっとした料理にずいぶん感動した藩候の夫人やら令息令嬢高官とかが、あれを作ったのは誰だと結構詰め寄るらしいの」
「うーん…… それはいいのかしらね。陛下はあちこちに技術が渡るのは悪くない、というお考えの様だけど」
「そうなのよ。実際私が最初に編み飾りの問いかけを理解したけど、その手法はどんどん広める様に、というのが陛下のお考えだったのよね。実際それで、貴女もそうやって糸を買い足しに来てる訳だし」
「小物を仕立てる仕事が、外に出られないひとにもできたってのは良かったと思うわ。器用なひとだったらいい仕事になると思うし。……ただそれと藩候様のところに引き抜かれるというのは何か違うような……」
「あ!」

 思い出した、とばかりにカリョンは手を叩く。

「そうそう、これ見て見て」
 
 不意にそう言って立ち上がると、部屋の引き出しから同じ柄を編み込んだ二つの袖飾りをテーブルに広げた。

「こっちはいつもの絹糸。さてこれは何でしょう」
「何でしょう…… って、違うの?」

 エガナは手に取って比べる。確かに微かな手触りが違う。だがほんの微かなものだ。

「判らないわ。何が違うの?」
「糸蛾の種類」
「糸蛾?」
「こっちは普通に蚕から取ったものね。とこがこっちは西のとある地方の糸蛾から取れたものなのよ」
「……美しさはそう変わらないと思うけど」
「それがね」

 今度は窓を閉じ、部屋を暗くする。するとぼうっとテーブルの上にほんのり微かに青紫に光るものがあった。

「光ってる?」
「そうなの。ちょっとこれ、面白いと思わない?」
「手触りはあまり良くないけど……」
「だからあまり手に触れない場所に使うのよ」 

 だが。
 エガナは何となくその色を禍々しいものに感じた。

「若様はどう思います?」
「僕はあまりそういうの興味ないもの」

 そう言って彼は乳茶をゆっくり飲む。
 実際彼は衣服には頓着が無かった。尤もそれはエガナが彼に似合うものをきちんと用意してやっているからなのだが。
 だが、乳母の不安げな表情は妙に気になった。
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