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2 ルージュ、離婚の理由を語る
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「ルージュ、俺はそんなこと聞いていないぞ!」
夫であるティムスはオレンジの百合と白いジャスミンの大きな花台ごしに妻をにらんだ。
「当然です。今日初めてこのことは公表するのですから。
そしてここで皆様にこれから私の説明と、様々な証拠に対する証人となっていただきたいのです」
はあ、と突然のルージュの告白に軽く腰を浮かせかけた者も、もう一度しっかり椅子に腰を掛けた。
「少々内々のことも申しますが、ご不快になられたら失礼致します」
「そんな、水くさいわ。私達の仲でしょう?」
外に最も近い見晴らしのいい場所に置かれた席から、タメリクス侯爵夫人のサムウェラが扇で半分口を隠しながら語りかける。
「ええ、結婚前からの親友の貴女にも隠していたのはとても心苦しいことだけど、今日ではっきりさせてしまおうと思ったの」
そしてルージュは夫の方を向き、微かに笑った。
「な、何だ、俺が何かしたと言うのか?」
「そうですね。まず我が家の事情を皆様にご説明しなくては」
そしてちら、と自身の右側のやや他より大きめのテーブルに視線をやる。そこには弁護士のロンダース夫妻のみが着席していた。
「まずきっかけは、私達の間に夫婦の営みが無くなって、二年近くなってしまったということです。そしてこのひとの外泊が増えたということも」
「お前がそれを望まなかったからだろう!」
「ええ。そう、ちょうど二年前、私が流産した後、しばらく体調を崩した時に、貴方のことを拒みましたね。
でもそれは仕方が無いことでしょう?
私は実際その頃ベッドから起き上がれませんでしたし、起き上がることができてからも、結構子宮の辺りを傷めたようで、夫婦の営みはすることができませんでしたから」
「ああそうだ。だから外で欲求不満を晴らしてくることくらい、世の男は皆していることじゃないか。
俺ばかり責めるな。だいたいお前はいつまで経ってもめそめそめそめそ。
辛気くさいったらありゃしない。
家に居たくなくなるのも当然じゃないか」
「私もそれは判っておりますわ。
ただそれが玄人の方だったら私も何も言いません。
それでしたら私も自分の身体がこうだから、と仕方ないと思うこともできますわ。
実際それで生活している方もいらっしゃるのだし。私はそれに対しては文句はつけませんことよ。
ただ貴方はそうではなかったでしょう?」
「仕事のことも多かったさ。
それにお前だって、身体が治ってからは、やれ領地の管理だ、ほら、ワイター家と共同経営している病院の経営だ、とか仕事に駆け回っていたじゃないか。
俺一人をそれで責める気か?」
「ええ、それは私の不注意でしたわ。
実際子供のことを忘れたくて、毎日毎日一生懸命働いていましたのよ。
それに病院の方では、医療だけでなく、親に恵まれない子供達の養育にも手を広げだしましたから。
だから貴方の外泊が仕事以外のことで多くなって、しかもそれが玄人の方相手でなかったことに、なかなか気付けなかったのですよ。それは私のミスでした」
立て板に水がごとく語るルージュに、皆その合間を縫う様にメイドが茶を淹れていくにも関わらず、それに手をつけることもできなかった。
「ああそう、そう言えば、今日はそちちらのお席に、もう一組の方をお招きしておりますの」
ルージュはそう言うと、ベランダにつながる窓の方に立つメイドに合図をした。
「……え、父上母上…… それに、兄上達まで…… お前が呼んだのか?」
「ええ。この際きちんと見届けていただきたく思いまして。
お久しぶりでございます。お義父様、お義母様、それに義兄様方」
「久しぶりだなルージュどの。其方の仕事ぶりはよく耳に入ってくるぞ」
「貴女はまた働き出すと止まらないひとだから、身体を壊さないか、はらはらしていたのだけど、元気なようね」
「おかげさまで、私は元気です。
今日はわざわざご足労ありがとうございます。
様々なことが明らかになったら、その時にはお手数をおかけ致しますが」
「うむ、それは仕方がないことだ。存分にやるがいい」
「ありがとうございます」
そして四人は弁護士の居るテーブルについた。
ガーベラと小手毬が飾られたその席には、新たに席とお茶の用意がされる。
「ではまず、ワイター侯爵夫人マリエ様」
さっ、とマリエの顔色が変わった。
夫であるティムスはオレンジの百合と白いジャスミンの大きな花台ごしに妻をにらんだ。
「当然です。今日初めてこのことは公表するのですから。
そしてここで皆様にこれから私の説明と、様々な証拠に対する証人となっていただきたいのです」
はあ、と突然のルージュの告白に軽く腰を浮かせかけた者も、もう一度しっかり椅子に腰を掛けた。
「少々内々のことも申しますが、ご不快になられたら失礼致します」
「そんな、水くさいわ。私達の仲でしょう?」
外に最も近い見晴らしのいい場所に置かれた席から、タメリクス侯爵夫人のサムウェラが扇で半分口を隠しながら語りかける。
「ええ、結婚前からの親友の貴女にも隠していたのはとても心苦しいことだけど、今日ではっきりさせてしまおうと思ったの」
そしてルージュは夫の方を向き、微かに笑った。
「な、何だ、俺が何かしたと言うのか?」
「そうですね。まず我が家の事情を皆様にご説明しなくては」
そしてちら、と自身の右側のやや他より大きめのテーブルに視線をやる。そこには弁護士のロンダース夫妻のみが着席していた。
「まずきっかけは、私達の間に夫婦の営みが無くなって、二年近くなってしまったということです。そしてこのひとの外泊が増えたということも」
「お前がそれを望まなかったからだろう!」
「ええ。そう、ちょうど二年前、私が流産した後、しばらく体調を崩した時に、貴方のことを拒みましたね。
でもそれは仕方が無いことでしょう?
私は実際その頃ベッドから起き上がれませんでしたし、起き上がることができてからも、結構子宮の辺りを傷めたようで、夫婦の営みはすることができませんでしたから」
「ああそうだ。だから外で欲求不満を晴らしてくることくらい、世の男は皆していることじゃないか。
俺ばかり責めるな。だいたいお前はいつまで経ってもめそめそめそめそ。
辛気くさいったらありゃしない。
家に居たくなくなるのも当然じゃないか」
「私もそれは判っておりますわ。
ただそれが玄人の方だったら私も何も言いません。
それでしたら私も自分の身体がこうだから、と仕方ないと思うこともできますわ。
実際それで生活している方もいらっしゃるのだし。私はそれに対しては文句はつけませんことよ。
ただ貴方はそうではなかったでしょう?」
「仕事のことも多かったさ。
それにお前だって、身体が治ってからは、やれ領地の管理だ、ほら、ワイター家と共同経営している病院の経営だ、とか仕事に駆け回っていたじゃないか。
俺一人をそれで責める気か?」
「ええ、それは私の不注意でしたわ。
実際子供のことを忘れたくて、毎日毎日一生懸命働いていましたのよ。
それに病院の方では、医療だけでなく、親に恵まれない子供達の養育にも手を広げだしましたから。
だから貴方の外泊が仕事以外のことで多くなって、しかもそれが玄人の方相手でなかったことに、なかなか気付けなかったのですよ。それは私のミスでした」
立て板に水がごとく語るルージュに、皆その合間を縫う様にメイドが茶を淹れていくにも関わらず、それに手をつけることもできなかった。
「ああそう、そう言えば、今日はそちちらのお席に、もう一組の方をお招きしておりますの」
ルージュはそう言うと、ベランダにつながる窓の方に立つメイドに合図をした。
「……え、父上母上…… それに、兄上達まで…… お前が呼んだのか?」
「ええ。この際きちんと見届けていただきたく思いまして。
お久しぶりでございます。お義父様、お義母様、それに義兄様方」
「久しぶりだなルージュどの。其方の仕事ぶりはよく耳に入ってくるぞ」
「貴女はまた働き出すと止まらないひとだから、身体を壊さないか、はらはらしていたのだけど、元気なようね」
「おかげさまで、私は元気です。
今日はわざわざご足労ありがとうございます。
様々なことが明らかになったら、その時にはお手数をおかけ致しますが」
「うむ、それは仕方がないことだ。存分にやるがいい」
「ありがとうございます」
そして四人は弁護士の居るテーブルについた。
ガーベラと小手毬が飾られたその席には、新たに席とお茶の用意がされる。
「ではまず、ワイター侯爵夫人マリエ様」
さっ、とマリエの顔色が変わった。
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